党派を超えて、広く信頼され、尊敬されている国会議員は何人か知っているが、岩渕友さんはその一人だ。
国会での討論や質疑で、その理路整然とした、それでいて人の心に訴えかける話し方は、私が政府側だったら、「まさにおっしゃる通りですね」とあっさりと白旗をあげてしまいそうなほどの説得力に満ちている。
メディアで脚光があたることがないテーマであっても、それが選挙の票につながらなくても、そこに苦しんでいる人がいる限り、岩渕友さんはスルーしない。勝ち目がなかったとしても、最後まで弱者に寄り添い、理不尽な制度を変えることをあきらめない、そんな人だ。
福島第一原発事故後、「原発事故子ども・被災者支援法」という法律が全党派・全国会議員の賛成で成立した。被災者が「居住」「避難」「帰還」の選択を被災者が自らの意思で行うことができるよう、医療、移動、移動先における住宅の確保、就業、保養などを国が支援することを定めた法律だ。しかし、被災者の意見をきくことなく、スカスカの「基本方針」が策定され、残念ながら、この法律は骨抜きとなってしまった。
その後、この法律をなんとか機能させようとする市民グループは何度も集会を開いたり、議員グループと会合を重ねたりした。私が岩渕さんにお会いしたのはそのような会合の中でだったと思う。避難者の苦しい実情をじっくりきいてくれ、議員グループとしても政府をプッシュしてくれた。
その後、避難者への住宅支援は相次いで打ち切られたが、国会で避難者の側に立って支援継続を訴えてくださった。
2023年、原発の運転期間延長などを含む、問題だらけのGX脱炭素電源法案(原子力基本法、原子炉等規制法等5つの法律の改定案を束ねたもの)が国会で審議入りした。
2023年5月、議員会館前で。右からいわぶち友、満田夏花(みつたかんな)さん
私自身は、このとき、環境NGOという立場から、国会議員に法改正(というか改悪)の問題点を訴え、反対する市民グループともに国会の前で連日集会を開いていた。このとき、立憲、共産、社民、れいわの国会議員がかけつけてくださったが、もちろん岩渕さんも何度も来てくれ、マイクを握っては、国会の情勢について語ってくださった。
政府には、束ね法にすることにより、審議時間を短縮し、一つ一つの問題点がフォーカスされることなく、メディアも報じず、世論が盛り上がることもなく、一気に国会を通過させたいという思惑だったのだろう。その思惑は見事にあたり、心ある野党議員の奮闘もむなしく衆議院を通過し、5月、参議院にかかった。参議院でも、政府は空虚な答弁を繰り返し、岩渕さんらが求めた福島での公聴会を開催することもなく、委員会採決。本会議に送られた。
そのときの岩渕さんの反対討論は、それは見事なもので、強く記憶に残っている。
原発事故がいまだ収束していなこと、浪江町津島地区の避難者のやるせない想い、エネルギーの安定供給を口実に原発が推進していくことの危険性、今回の法改正が、大手電力や日本原子力産業協会などの原発利益共同体の要求を丸のみする形で行われていること、原発の停止期間を運転期間から除外すること(つまり運転期間に停止期間分を上積みできること)は原子力エネルギー協議会、ATENA(原子力エネルギー協議会)などが求めてきたこと、エネ庁と規制庁の癒着…。最後に、国民的な議論の必要性を訴え、原発や石炭火力からの撤回、徹底した省エネと再エネの導入を力強く訴えて反対討論を締めくくった。情理をつくした、感動的なスピーチだった。
多くの国民は、日々の生活に追われ、国会審議を見る機会はほとんどない。もちろん、それは無理からぬことで、私自身もたいていはそうだ。そうした中、岩渕さんは今日も、国会で多くの理不尽とたたかい、弱者のために声をあげているのだろう。そうした国会議員がもっと増えていけば、国会は、そして日本は変わることができるのだろう。