2025.02.19 参議院 外交・安全保障に関する調査会 参考人質疑
「ウクライナ戦争をめぐる現状と諸課題」について参考人質疑です。
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217-参-外交・安全保障に関する調査会-002号 2025年02月19日
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
今日は、参考人の皆様、本当にありがとうございます。
ロシアによるウクライナ侵略から間もなく三年、情勢が大きく動いています。
日本共産党は、この侵略を終わらせるために、国際社会に和平協議に道を開くあらゆる努力を求めてきました。その和平は、国連憲章、国際法、そしてロシアによる侵略を非難し即時撤退を求める国連総会決議に基づく公正な和平であるべきだということ、その実現という目的を曖昧にしてはならないということを重ねて強調をしてきました。
こうした下で、先日の日米首脳会談の共同声明ではロシアのウクライナ侵略について言及がなかったと。昨年四月のバイデン大統領と岸田当時の首相の共同声明では、残酷な侵略戦争だというふうに非難をして、断固とした反対というものを表明していました。日本政府の姿勢が問われているというふうにも考えています。
それで、初めに、酒井参考人に伺います。
事前にいただいていた資料で参考人が、国際法にのっとった、忍耐強く非難を続けることが重要だというふうに書いてあるものがあったんですね。その大国による侵略行為に対して、国連憲章、国際法、国連決議などに基づく解決を国際社会が連帯して取り組んでいく、このことの重要性について参考人の考えを教えていただけますでしょうか。
○参考人(酒井啓亘君) 御質問ありがとうございます。
その点はまさにおっしゃるとおりというか、国際法というものを動かしていくその国際社会の構成員がきちんとしたルールに従って行動していくということを常に想起させるということが重要だというふうに思っています。
国際法というのはよく破られるということが言われますし、実際それが多いわけですけれども、破られるときに非常に注目されるので国際法は常に破られているような印象を受けますけれども、実際には国際社会を動かしていくルールというのはそれほど破られているわけではない。しかし、究極的な状況において、やはり安全保障の面で破られる場合というのはどうしても今回のようにある。
しかし、それをそのままにしておくのではなくて、原則に立ち戻って、やはりこれはルールに反することだということを常に言い続けておくと。で、それをどこの場で言い続けるのかということがやはり重要であって、しかも、常に長いことこれを言い続けるということもやはり重要だろうというふうには思っています。
その意味で、国連というのはまさに重要なフォーラムでありますし、それから二国間なりほかの多数国間のフォーラムというものをできるだけ駆使して国際法の原則を強調していくということは決して無駄ではないというふうに思っています。
○岩渕友君 ありがとうございます。
次に、三人の参考人に同じことをお聞きしたいんですけれども、先ほどのお話で、広瀬参考人から、犠牲者が死者、負傷者合わせて百万人を突破したというふうにありました。非常に甚大な犠牲、被害になっていると思うんですね。
実は、昨年、海外への派遣でチェコに行ったときに、ウクライナから避難をしている子供たちなどの支援をしているユニセフの施設を視察したんです。そのときに、避難してきたときの経験であるとか、子供たちから、ウクライナにいたときはもうサイレンが頻繁に鳴って、本当に落ち着かなくて、いろいろ考えて眠ることもできないような状況だったと、でもここでは本当によく眠れるんだというような話なんかも聞いて、やっぱりこの侵略が子供たちにとってどれだけの被害をもたらしているのかという、その現実をすごく突き付けられたなというふうに思うんですね。
一刻も早い停戦、必要だというふうに思うんですけれども、ウクライナが参加をしない交渉はあり得ないというような批判の声も上がっています。当事者の頭越しの交渉はあり得ないのかなというふうに考えるんですけれども、参考人の考えを伺いたいというのが一つと、あと、公正な和平の実現、重要だと思うんですけれども、そのためにどんなことが必要でしょうか。それぞれのお考えをお聞かせください。
○会長(猪口邦子君) 広瀬参考人からですね。
○岩渕友君 はい、広瀬参考人から順番にお願いします。
○参考人(広瀬佳一君) この難民の問題も非常に大きな問題で、今御指摘になったチェコだけではなくて、ドイツとかポーランドはそれこそ百万人以上の難民を受け入れています。
その心を痛めるというのは非常に分かるんですけど、でも、少し冷徹なことを申し上げますと、難民に対する周辺国の感情は去年ぐらいから変わってきています。それはどういうことかというと、最初の一年目には、その難民は非常に同情すべきであり、もうあらゆることをしていきたいというふうな雰囲気で、世論調査やっても難民に対する支持率は非常に高かったんですけれども、去年の秋ぐらいから下がっています。やはりそろそろ、もうその難民のためのコストが、結局、本来国民の社会福祉に与えられるものであったはずだという意識から難民の施策に対する反発が起きていますし、実際ヨーロッパで御承知のようにポピュリズムが盛り上がっている、そのポピュリズムの一要因には、そうした排外主義的な、つまり難民も含めて、こんな問題は早く解決してもらいたいし、だから、その意味ではさっさと停戦してほしいというような、そういう世論につながっていくのかなと思いますけれども、そういうその流れというのもあるのも事実なんですね。
この公正な和平というものを進めるために重要なことは、今はそういう被害が大きくなっていて、これが、要するに国際社会がそれを認容できるかどうかという問題が大きいと思うんです。もし認容できるんだったら、いつまでも戦って、そして正義を目指せばいいわけですよ。でも、実際には、今申し上げましたように、最も身近な国で、本来ウクライナを応援している国までもが世論調査にするとやっぱり変化が起きていると。やっぱり潮目というのがあるわけですね。
それで、その人道支援にしても何にしてもやっぱりコストが掛かりますから、その周辺の、ウクライナ周辺の国ですら少しずつやっぱりちょっと態度に変化が生じている状態ですから、そうしますと、公正さを追求、一〇〇%追求するというだけでは解決にならないという雰囲気があって、それが例えば今回のトランプさんの、手法はともかく、停戦を求めるという声を言わば押し上げているんではないかなというふうに思います。その手法には、先ほど申し上げましたような大国主義的な、パワーポリティクスのような手法というのが目立っていて、それはそれでいろいろ問題はあるかもしれませんけど、でも、これが停戦ができれば、それは、今はそれが一番重要ではないかという流れというのがあります。
ウクライナの関与ですけれども、これはウクライナが関与しなければ解決しないと、私もそう思いますが、最初の枠組みにはもうウクライナは多分入ってこないと思いますので、恐らく米ロでつくった枠組みをウクライナに半ば強要するというスタイルになるんではないかと思います。歴史的にはそういう例は幾らでもあります。先ほど言いました第二次世界大戦の後にも、東ヨーロッパのほとんどの国は自らが関与しないところで運命が決められていくわけですし、あるいは一九三八年のチェコはヒトラーとそれからフランス、イタリアなどによって運命を決められてしまいました。
僅かな例外は、実はさっき申し上げたフィンランドなんですね。フィンランドは、完全にスターリンの支配の下でなされたわけではなく、フィンランドなりのステーツマンシップを生かして、非常に狭い自主的中立という道を選んで、その結果、政治的には部分的に屈辱的だったかもしれないし、領土も割譲したけれども、でも、生き延びるのに成功したし、幸福度、今世界で幸福度ナンバーワンかツーですよね、フィンランドって。そういう国になったという、そういう例もあるので、ここが難しいところで、やっぱり我々が認容できる犠牲というのは人道的にもそれは限りがあるわけですから、停戦の時期というのは近いと思います。
その停戦が今トランプさんがやっているような手法しかないとすれば、ヨーロッパがそれに代わるもっと公正な代案が出せないとすれば、少なくとも当面トランプさんの手法に一定の期待をするというのは決して不誠実ではないと思います。
○参考人(小泉悠君) 確かに、一つの冷徹なリアリズムとしてそういうことになってしまうというところもあると思いますが、さっき申し上げたように、ウクライナには受け入れないという選択肢もあるんですよね。アメリカから支援が来ない状態で抵抗を継続するということは、言われたらそういう戦略を作ると思います、ウクライナ軍は。
なので、仮にウクライナが、そのトランプのつくろうとしている平和、これは私は平和というよりウクライナへの降伏の強制だと思いますけど、ウクライナに対する降伏の強制にウクライナ自身が同意したんだったらしようがないと思いますけれども、そうでない場合というのは、やはり依然として戦場の中の現実がテーブルの上の議論に影響するというこれまで続いてきた光景がまた続くんだろうなと、それがウクライナ軍が著しく不利な形で継続していくんだろうなというふうに思っています。
今起きているのは、これまでは戦場の中の現実がテーブルの上に反映されていたのが、初めてテーブルの上から戦場の現実に影響を及ぼそうとしているわけですけれども、所詮テーブルの上のことなので、余りにもやはり当事者の意向を無視し過ぎれば、これは結局乗ってこないんじゃないかなという気もしますし、もう一個は、やはり、これがそういうリアリズムなのだという議論、本当に確かにそのとおりなんですよね。
他方で、トランプ政権は、インド太平洋は非常に重視しているから、ウクライナを早く終わらせてこっちに抑止リソースを持ってくるんだというのは全くもってそのとおりだと思うんですけど、思うんですけど、今はだから我々はたまたまアメリカが重視している側の正面に住んでいるにすぎないということでもあるんですよね。アメリカの政権がほんのちょっと、じゃ、気まぐれになったら、今度は我々がウクライナの立場に立つのかもしれないとかということを考えると、やはり根本的にどこかの大国に依存した安全保障というものに矛盾があるんじゃないかという感じも私はこの戦争の中で強く思うようになりました。
○会長(猪口邦子君) では、酒井参考人ですが、恐縮ですが、時間の関係もございますので、簡潔によろしくお願いします。
○参考人(酒井啓亘君) ありがとうございます。じゃ、簡潔に。
国際法の立場からすると、公正さというのは、まさにその違法な武力行使によって得られた果実というのはこれは無効だということにならざるを得ないと思います。
それから、ウクライナ市民、あるいは人民の意思を無視した形での和平合意というのは、あるいは停戦合意というのは、これもまた、自決権の否定というところまで言うかどうかはともかくとして、やはり真正な意思というものをないがしろにするものだというふうに言わざるを得ないというふうに思ってはいます。
○岩渕友君 ありがとうございました。
以上で終わります。
