2021年12月20日(月) 参議院 経済産業委員会
「5G促進法およびNEDO法改正案」および反対討論
「半導体 巨額補助より 中小支援を」
半導体工場の新設に巨額の税金投入を可能とする「5G促進等改正法案」が20日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決され、同法が成立しました。日本共産党は反対しました。
同日、本会議に先立って行われた参院経済産業委員会での質疑で、日本共産党の岩渕友議員は、台湾半導体受託製造会社の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本工場の建設に関して「日本政府から強力な支援を受ける前提」だと発表していると紹介し、交渉経過を明らかにすべきだと要求。萩生田光一経済産業相は「支援することを約束した事実はない」と答弁し、TSMC側との食い違いが浮き彫りになりました。
また、岩渕氏は日本の半導体シェアが1988年時点で世界トップの50.3%から2019年には10%に衰退したのは、日本市場での海外製品のシェア20%を目標に掲げるなどした対米従属の「日米半導体協定」(1986年)がきっかけではないのかとただしました。
萩生田氏は「日米半導体協定を契機に、政府として積極的な産業政策を後退させたことはその要因の一つであった」と認めました。
同日、質疑後に同経産委は同法案を与党など賛成多数で可決。採決に先立ち行われた反対討論に立った岩渕氏は、コロナ危機のもとでもIT・電機・自動車の多国籍企業には十分な体力があり、交渉経緯がまったく不明なまま、特定の外資・半導体メーカーに前代未聞の巨額の税金をつぎ込むことは国民の理解を得られないと批判。日本の半導体産業の「凋落(ちょうらく)」は、NEC、日立など半導体メーカーが設立したエルピーダメモリへの公的資金投入・破たんなど歴代自民党・経産省の政策失敗だと述べ、コロナ禍で深刻な打撃を受けた中小・小規模事業者支援を強く求めました。
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質問資料① 日米半導体協定と日本の半導体産業【PDF版】【画像版】
全編版(約15分間)
反対討論版(約3分間)
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○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
本法案は、経済安全保障の名で半導体企業の設備投資を支援するものです。特定の外資、特定半導体企業に四千億円もの補助金をつぎ込むといった説明がされていますけれども、今年度の当初予算で中小企業対策費が幾らかというと、千七百四十五億円しかないんですよね。こうしたことから見ても前代未聞のことであって、長引くコロナ禍で苦しんでいる中小企業の営業を守ることこそ最優先にするべきです。
資料を御覧ください。
半導体の需給逼迫というんですけれども、世界における日本の半導体シェアは、一九八八年時点では五〇・三%、もう世界の半分以上ですよね。世界トップで、コンピューターの記憶装置に使う半導体メモリーのDRAMでは世界の市場をリードしてきました。ところが、二〇一九年のシェアは一〇%にまで落ち込んでいます。実際、この資料を見ていただければ分かるように、日本の半導体産業は一九八八年をピークにして右肩下がりになっているんです。
じゃ、何でこうした状況になっているのかということで、日本の半導体産業が安い値段で半導体を輸出していることが米国の半導体産業に被害を与えているという米国の主張に従って一九八六年に日米半導体協定が締結をされて、これが十年間続きました。日本市場における海外製品のシェアを二〇%にするんだという目標が設定をされて、協定締結時は八%だった海外製品のシェアは、一九九六年には約二八%、三割にもなっています。さらに、協定によって価格監視制度に基づいて売値の設定が行われたことで日本のDRAM事業は打撃を受ける、その一方で、米国や韓国などがシェアを伸ばしていきました。
そこで大臣に伺うんですが、この米国が押し付けるままに日米半導体協定を締結をしたことが日本の半導体生産の衰退のきっかけとなったのではありませんか。
○国務大臣(萩生田光一君) 我が国の半導体産業は、一九八〇年代には世界一の売上高を誇っていたものの、その後、競争力を落としてまいりました。御指摘のとおり、日米半導体協定を契機に、政府として積極的な産業政策を後退させたことはその要因の一つであったと考えております。
○岩渕友君 今、大臣も契機になったと、そういうふうに認めるのであれば、どうするのかということが問われるということだと思います。
この間、DRAMを専業とする米国のマイクロンはよみがえって、現在では世界トップメーカーの一つになっています。韓国も、半導体協定前のシェアというのはほとんどなかったんですけれども、この半導体協定によって、海外製半導体を増やす目的でDRAM技術を韓国に移転をしたということで、一九九二年には、資料にもあるんですけれども、あのサムスンがDRAMでトップシェアとなっています。
一方、日本は政府が主導をして、NEC、日立製作所のDRAM部門が統合して、そこに三菱電機の事業も加わったエルピーダメモリがDRAMの国内唯一の専業メーカーとなりました。ところが、経済危機に伴う業績悪化に伴って、二〇〇九年に産業活力再生法の改定によって四百億円の公的資金が投入をされました。けれども、結局は、韓国メーカーとの競争力の格差も広がっていた、こうしたことなどから、たった三年で経営破綻をしてしまうんですよね。このエルピーダメモリはマイクロンに買収をされるということになりました。
そこで経産省に伺うんですが、このエルピーダメモリの負債総額、あと国民負担となった額が幾らか、お答えください。
○政府参考人(門松貴君) 御指摘のエルピーダにつきましては、二〇一二年二月に会社更生法の適用申請があり、負債総額については約四千四百八十億円というふうに認識をしております。また、この関係で政府系金融機関が支払った補償金は約二百七十七億円と承知をしております。
○岩渕友君 今も答弁にあったとおり、負債総額は製造業としては過去最大ということで四千四百八十億円です。約三百億円もの国民負担も発生したということです。
電機、半導体企業は、一九九〇年代から二〇〇〇年代にかけて大規模なリストラを強行してきました。さらに、生産を海外に委託をして技術が流出する。これに拍車を掛けたのが、リストラすればするほど減税をされる産業活力再生法、産業競争力強化法でした。
ルネサスは、国内リストラで技術が流出をして、リストラで上がった収益で海外のMアンドAを推進してきました。歴代の自民党政権や経済産業省のやってきたことへの真剣な反省がないまま企業誘致を行うということになれば、同じ失敗繰り返すことになると思います。
世界最大の半導体受託生産会社である台湾のTSMCが日本で初めての工場をソニーグループと共同で熊本県に建設すると発表したニュースリリース、これを見ますと、日本政府から強力な支援を受ける前提で検討をしているというふうに書いてあるんです。さらに、大臣がTSMCの会長とオンラインで会談をしたということを明らかにしています。これ、強力な支援というんですけれども、じゃ、どんな交渉だったのかと、で、どんな約束をしたのかと、そのことは明らかにされていないんですね。
これ、前代未聞の支援が予定をされているという中で、交渉経過を明らかにするべきではないでしょうか。大臣にお聞きします。
○国務大臣(萩生田光一君) 経済産業省は、TSMCとは以前からポスト5Gに向けた次世代半導体の研究開発事業を通じて協力関係があり、また、今年六月に梶山前大臣が、十一月には私自らがそれぞれオンラインでマーク・リュー会長らと会談を行うなど、官僚レベルを含め様々な形で意見交換を行ってまいりました。ちなみに、文科大臣時代、東京大学を含めてこの台湾の半導体の皆さんとの交流というのもございましたので、今回特別な対応ではないと私は思っています。
先端半導体の製造拠点の整備を支援するに当たっては、国会で法案や予算案について御審議、御承認をいただいた上で、法案の枠組みに基づく所要の手続を経ることが大前提でありまして、TSMCにはこうしたことをきちんと伝えており、支援することを約束した事実はございません。
今後、支援対象となるかは、あくまでもTSMCが計画の認定申請を行い、その計画が我が国の先端半導体の安定供給体制の構築に資するものであるかどうかなど、認定基準に適合性しているか否かが重要だというふうに思っております。
○岩渕友君 支援約束したわけじゃないというんですけれども、相手の方はそれを前提にしているんだというふうに、支援が受ける前提で検討しているんだというふうに、こういうふうに言っているわけですよね。
じゃ、前提の中身って一体何なのかと。四千億円ものお金掛けるということなので、もしかしたらこれから支援額もっと膨らむかもしれないですし、この中身が分からないままでは国民の理解得られないということだと思うんですよ。だから、この交渉の経緯、明らかにするのは当然だと思うんですけど、大臣、もう一度、いかがでしょうか。
○国務大臣(萩生田光一君) TSMCに対して、我が国として、先端半導体の国内拠点整備のため他国並みの取組を行う構えがあること、同時に、支援を行うには予算や法的枠組みの整備が必要であり、これらの手続を踏む必要があることを伝えてまいりました。
誤解されていると思うんですけど、私、そこを慎重にちゃんと対応しています。そして、冒頭申し上げたように、これ、日本政府が半導体製造にコミットメントして、皆さんの税金を使わせていただいて全体を増やしていこうということを先ほどから各委員の皆さんの質問にお答えをしているので、今まではこういうオプションがなかったわけですよ。
したがって、欧米が誘致合戦を繰り広げている中で、うちは何にもメニューありませんけど、日本でもそういう先端半導体の技術が国内に根付いてくれたらいいですねなんて言っているだけではこれはもう一歩も前に進まないわけですから、今回、法律も含めてきちんとこういうメニューを作っているんですということをきちんとお伝えした、そのことに向こうがどういう反応したかは私は承知はしていません。
○岩渕友君 中身が分からないままでは、やっぱりこれだけのお金なので国民の皆さんの理解得られないんじゃないかということなんです。そういう意見も出ていることは確かなわけですよね。
一方、半導体素材、そして半導体装置については、日本は世界的にも非常に存在感発揮していると。二〇二〇年の半導体装置メーカーのランキングトップテンには、日本の企業四社も入っているんですね。この強みを生かして、半導体のグローバルサプライチェーンが平和で、互恵で、対等なものになるように、日本政府として積極的な役割を果たすことが重要ではないかと思うんです。
この半導体装置や素材を支えているのが多くの下請の中小企業、町工場の皆さんです。ここにこそ支援を行うことが必要だと思うんですけれども、大臣、いかがでしょうか。
○政府参考人(野原諭君) お答え申し上げます。
我が国の半導体製造装置メーカーや素材メーカーは、そのサプライチェーンに連なる下請企業も含めて高い競争力を有しております。今年度からは、こうした装置メーカーや素材メーカー等の半導体関連企業が海外の半導体トップメーカーと共同で次世代半導体の製造技術開発に取り組んでおりますけれども、今回の補正予算では、こうした取組を促進するための更なる支援策を盛り込ませていただいているところでございます。
ただ、これらの半導体装置メーカーや素材メーカーは、競争力はあるんですけれども、その顧客は既に海外が中心となっております。主要国は、先端半導体工場の誘致のみならず、いわゆるチョークポイントとなる半導体製造装置や材料についても国内にそういう企業を誘致するという政策を展開しておりまして、放っておくと我が国の強みである製造装置や素材産業も空洞化リスクにさらされておるということでございます。
先ほど申し上げました装置メーカーや材料メーカーへの先端技術開発への支援のみならず、需要家となる先端半導体製造拠点を国内に整備するということに取り組むことによって我が国の国内において半導体の関連産業の集積、エコシステムの形成を進めていくことが重要ではないかというふうに考えております。
○岩渕友君 ここが強みだということなので、とりわけやっぱり下請の中小企業、町工場を応援するということを経産省にやってほしいということなんですね。それが重要だってことを改めて述べておきます。
コロナ禍の下で、金属製造情報通信労組のJMITUから、半導体装置を作るにもコネクターであるとか樹脂製品が不足をしていて、このことが中小製造業にとっても大問題になっているというふうに訴えが寄せられているんです。
これ、経済産業省として、実態を把握すること、資金繰りなどに影響が出ている事業者もいるので金融対策なども含めて対策を取る必要があるんじゃないかということで、大臣に最後にお聞きします。
○国務大臣(萩生田光一君) 前段の大きな新しい工場だけを応援するというんじゃなくて、半導体産業そのものをしっかり支えていくので、結果として、それに携わる前工程、後ろ工程、素材メーカー、中小企業の皆さんもしっかりサポートする体制を、この法律を機にしっかり体制を組んでいきたいと思っています。
製造業の現場において、昨年末から続く世界的な半導体不足を受けた自動車生産への影響や、足下で家庭用給湯器の構成部品であるコネクターの部素材など調達が困難になって給湯器の供給遅延といった問題が生じていることなどは承知しています。こうした部材不足によるサプライチェーンの影響を最小限にするため、不足をする部素材の増産要請や代替調達先の紹介など、必要な対策に取り組んでいるところです。
加えて、中小企業に対する対策として、政府系、民間金融機関に対しても、関係大臣とともに、部素材の不足による売上げ減少も含めた経営環境の変化などを踏まえ、事業者の業況を積極的に把握し、資金繰り相談に丁寧に対応する旨の要請を出しております。
さらに、事業者の売上げ減少が新型コロナの影響を受けることが認められる場合には、政府系金融機関によるゼロゼロ融資によって資金繰りを支えていくこととしておりまして、先般、経済対策において、その実施期限を来年三月まで延長したところです。
引き続き、事業者の資金繰り状況を注視しながら、柔軟な対応をしてまいりたいと思います。
○岩渕友君 以上で終わります。
○岩渕友君 私は、日本共産党を代表し、いわゆる5G促進法等改正案に反対の討論を行います。
反対の理由の第一は、特定の外資、半導体メーカーに前代未聞の巨額の税金をつぎ込むものだからです。
半導体の安定確保は、本来、半導体メーカーとユーザー企業が自らの責任で行うべきものです。コロナ危機の下でも、IT、電機、自動車の多国籍企業は内部留保を七十兆円にも膨らませており、十分な体力があります。本法案の支援第一号と目されているのが台湾の世界最大手の半導体製造会社TSMC熊本工場で、設備投資額の二分の一、四千億円もの補助が見込まれています。
この間の大臣答弁では、ユーザー企業に自助努力を要請したことはないとする一方で、同社が日本政府から強力な支援を受ける前提の中身や交渉経緯は全く不明なままです。これでは到底国民の理解は得られません。また、研究開発法人であるNEDO法の目的規定に反する施設整備の補助は認められません。
反対理由の第二は、岸田内閣が本法案を経済安保の目玉の一つとして位置付けながら、法的定義すら定かでないまま先出しして押し通そうとするものだからです。
米中間の技術覇権争いの中で、TSMC誘致への国費投入を台湾有事まで持ち出して推進することは、日米同盟に経済を一層従属させる危険なものであり、断じて容認できません。
第三は、我が国半導体産業の衰退をもたらした日米半導体協定の対米従属、エルピーダメモリへの公的資金投入の失敗や、産業空洞化と大リストラによる技術流出などの教訓を全く省みないものだからです。
日の丸半導体の凋落は、歴代自民党政権と経産省の長年の産業政策の失敗の結果ではありませんか。その真剣な反省もなく、TSMC頼みでは、破綻した過去の国家プロジェクトの二の舞になりかねません。
今必要なことは、日本の強みである半導体装置、素材産業を支える下請、町工場へのきめ細かな支援によって物づくり技術全体をしっかりと底上げするとともに、ユーザー企業等との連携による半導体産業政策を構築し直すことです。あわせて、事業復活支援金を二倍にするなど、コロナ禍で深刻な打撃を受けた中小・小規模事業者の暮らしとなりわいを支え抜くことです。
このことを強く求め、反対討論とします。