「核軍縮・核不拡散」参考人質疑
(議事録は後日更新いたします)
参院外交・安全保障に関する調査会は15日、「核軍縮・不拡散」について参考人質疑を行いました。日本共産党の岩渕友議員は、核兵器使用のリスクが世界的に高まる中で、核兵器廃絶実現のために日本が果たすべき役割について質問しました。
長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)の鈴木達治郎副センター長は、北東アジアでの非核兵器地帯設置などによる地域の緊張緩和が重要だと述べた上で、「日本政府は今、『抑止力強化』に偏りすぎているのではないか」と指摘。非政府機関を交えた対話の場を設けることや、市民外交を生かした政策の必要性を説きました。
また鈴木氏は、原発の使用済み核燃料から取り出され、核兵器に転用可能なプルトニウムの在庫量が世界的に増加傾向にあり、将来の核リスクを下げるためには減らしていく必要があると指摘。岩渕氏は、政府がプルトニウムの在庫を大量に抱えながら「原発回帰」政策を示したことについて質問しました。
鈴木氏は、「プルトニウムを減らしていくことは国際的合意だ」と指摘した上で、政府が核燃料サイクル政策を推進していることについて、「この政策を続けていてはプルトニウムは減らない」と強調。「原発の是非にかかわらず、核燃料サイクルをどうするかの議論は必要だ」と訴えました。
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2023年2月15日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「核軍縮・核不拡散」
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
3人の参考人の皆様、本日は本当にありがとうございました。
まず初めに、お三方にお伺いをしたいんですけれども、被爆の実相を世界に知らせるということで、広島、長崎で被爆をされた方々が非常に重要な役割を果たしてこられたというふうに思うんですね。その果たしてこられた役割についてどのように見ていらっしゃるかということを教えてください。
○会長(猪口邦子君) どなたに。
○岩渕友君 佐野先生から。
○参考人(佐野利男君) ありがとうございました。
大変重要な御質問だと思います。被爆の実相について、広島、長崎の被爆者だけではなくてNGOも含めて大変な努力をしてこられましたですね。日本政府も、私もう離れていますけども、日本政府も、例えばジュネーブに来る高校生の平和大使といいましたですかね、そういう方々をなるべくジュネーブの外交官に会ってもらって、それで生の声を聞いてもらうとか、あるいは軍縮会議でスピーチをやってもらうとかという形で被爆の実相を伝える努力をしてきました。
それから、先ほど申し上げました日本の核廃絶決議の中にも実際に広島、長崎、被爆地を訪問してくださいというパラグラフも入っています。私は、核兵器の持っている絶大な威力、これを世界の指導者だけじゃなくて世界の人々に知ってもらうということは極めて重要だ、長期的には極めて重要な努力だと。そのために果たしてこられた人々の努力というのは高く評価されるべきだと思います。それが1点。
他方、アイロニカルなんですが、被爆の実相を知らせる、知ってもらうということは核廃絶にとっても重要ですけども、核抑止論者にとっても使えてしまうんですね。使えてしまうというのは、これだけの威力を持っているんだと、それを持っているんだと、そういうものなんだよということを意図せずといいますかね、そういうことを知らせていることにもなるということを我々は注意する必要があろうと思います。
いずれにせよ、唯一の戦争被爆国としての使命があるわけですから、それは引き続き大いに盛り上げていってもらいたいというふうに考えております。
○参考人(戸崎洋史君) ありがとうございます。
研究者としてではありますけれども、私は国レベルでその核の問題を見る癖といいますか、習慣といいますか、そうした時間が長いわけですけれども、まさにこの被爆の実相、資料館であったり被爆の方の証言であったりということをお聞きすると、それが国ではなくて人のレベルにその核の問題ということを改めて思い起こさせてくださるということ、それは非常に重要な、個人的にも非常に重要なことだというふうに思っていますし、広島、長崎に行くたびに、そういう機会を捉えて足を運んだりしているというところであります。
もちろん、その実相等々の中で若い方々が一生懸命今活動をされていて、その中で一生懸命やっているけどなかなか進まないということに対する、核軍縮が進まないことに対するフラストレーションもためておられるというところも話を聞いたりしていますけれども、そうしたその活動の中ですぐ目に見える成果というのがないかもしれないけれども、1人でも多くの人がこの核の問題ということを知ってもらうと、知ってくれるという機会をこういう若い方々も含めて行っていくということが、やはり国の世論、それから支持というものがなければ核軍縮というものを国として進めるということも難しくなってくるかもしれませんし、世界としてより重要な問題として取り上げていくことも難しくなってくると思いますので、そうした活動を通じてより1人でも多くの人にこの問題を知ってもらうと、重要性を知ってもらうということ、それも大事なことなんだろうというふうに思います。
○参考人(鈴木達治郎君) 大体お2人の意見と同じなんですが、私から2点、じゃ、一つ付け加えさせていただきます。
一つは、被爆者の年齢がもう85歳、平均年齢超していまして、被爆者のいない時代がもう近づいているということを考えますと、次世代の方々、被爆二世も含めて、あるいは今の若者も含めて核兵器の問題は過去の問題ではなくて現代の問題、今ここにある危機だという、そういう我々の問題であると、要するに、という方向に、今の被爆の実相を伝えるときに、過去起きたことを伝えるということだけではなくて、今核兵器が使われたらどうなるかということを考えてもらうための被爆の実相を伝えるということがまず第1、大事かなと。
2番目は、もちろん広島、長崎の被害者、被爆者の方々の貢献すごい大きいんですけども、被爆者の方々、実は世界中に、核実験のグローバルヒバクシャと呼ばれていますけども、核実験の被害者の方々もいらっしゃるので、これが実は先ほど申しましたTPNWの中にも入っておりまして、それの支援も考えると、日本政府の役割は非常に大きいんではないかと思います。
だから、被爆の実相を伝えるという意味では、その二つですね、現代のものとして考えることとグローバルな被爆者との協力関係と支援、これが大事かなと思っています。
○岩渕友君 ありがとうございます。
次に、鈴木参考人にお伺いするんですけれども、冒頭のお話の中で、プルトニウムのことについてもお話ありました。それで、原発との関係で、日本のプルトニウム保有ということについて諸外国から懸念が出ています。そうした下で、今、原発回帰の方針というのが示されているわけなんですけれども、この方針について参考人がどのように考えるのか、教えてください。
○参考人(鈴木達治郎君) まず、プルトニウムの問題なんですが、これはとにかく原発の是非にかかわらず減らしていかなきゃいけないと、これは国際的な合意がもう現実にはあると思うんですね。で、佐野大使が原子力委員会で既に日本も在庫量を減らしていくというコミット、基本的考え方を出されたということは非常に大きな政策だと思います。高く評価している、しております。
それを実現しなきゃいけないのが第1だと思うんですが、その実現するため日本がプルトニウムの在庫量を減らすときには、実はこれは原子力政策と関係してくるんですが、核燃料サイクルという、その再処理を前提にしている、使用済燃料の再処理を前提にしている政策を続けていきますとなかなか減らない。したがって、今、原子力そのもののもちろん是非もあるんですが、核燃料サイクルをどうするか、使用済燃料を本当に再処理するのがいいのかどうかという議論が必要ではないかと考えております。
○岩渕友君 もう一問、鈴木参考人にお伺いをするんですが、ロシアがその核兵器使用で威嚇を繰り返すという下で、核抑止に、依存をしないということ、核なき世界に向けた提言していただきましたけれども、非常に大事だなというふうに思いました。
それで、先ほどもちょっとやり取りがあったんですけど、北東アジアの非核化ということも重要ですし、それだけにとどまらず、その前段のやり取りの中で、東アジアでの緊張緩和とかその対話の外交というお話もありました。これも非常に重要だというふうに思ったんですね。こうした下で日本が果たすべき役割ということでお考えのことがあれば教えてください。
○参考人(鈴木達治郎君) 日本が、日本政府が公にお話されている、核兵器廃絶が究極の目標であり、それから、そのために日本はリーダーシップを取る、これを実現するためには、その核兵器の役割をやっぱり減らしていく方向でなきゃいけない、ただ単に核弾頭の数を減らすだけではなくてですね。そのための政策を日本政府も考える必要があるということ。それから、先ほどお話ししましたように、もう茂木外務大臣もおっしゃっているということなので、これをじゃどう実現していくかということについて具体的な政策議論をして、始めてほしい。拡大核抑止依存だけではそういう方向には行かない。
それから2番目に、これ、この地域の緊張緩和をやらない限りは日本の拡大核抑止の役割減らしていくわけ、できませんので、そのための政策も同時に考えていただきたい。これが2番目ですね。
今の政策を見ている限りは、抑止力の強化に偏り過ぎているのではないかというふうに感じております。
最後は、今度、賢人会議また新しくつくられましたが、そこでもお話されてはいると思うんですが、やはり市民社会を使った、よく言われるトラック1.5、トラック2とかですね、政府、非政府機関も交えた対話の場をどんどんつくっていただいて、それに我々が貢献するという、それの市民外交の役割も重視していただきたい、この三つですね。
○岩渕友君 ありがとうございました。
以上で終わります。
2023年2月15日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「核軍縮・核不拡散」
内閣府原子力委員会委員長代理・元軍縮会議日本政府代表部特命全権大使 佐野利男参考人
○参考人(佐野利男君) 紹介していただきました佐野でございます。
今日いただきましたお題目は、NPT、CTBT、FMCT、INF、新STARTなど、2国間、多国間を始め、多様な枠組みで進められている核軍縮・核不拡散の現状、成果、課題及び核軍縮・不拡散の推進に向けた意見、提言ということで、先生方には釈迦に説法になってしまうかも分かりませんけれども、一応確認の意味を含めてお話しさせていただきたいと思います。
なお、本日の意見の陳述は、私の今の職である内閣府原子力委員あるいはいかなる組織を代表した、組織の意見を代表したものではございません。私の個人の見解でございます。御承知おきください。
まず、多様な枠組みの現状で、このレジュメを用意いたしましたけれども、これを丁寧に説明していただきますと40分掛かるということが分かっていますので、若干省略しながら、要点のみをお話ししたいと思います。
NPT、核不拡散条約でございますけれども、70年に発効して今年52年、3年ですか、191か国が加盟している戦後の核秩序の根幹を成すものであって、国際安全保障の礎石であるという認識でございます。
5か国のみに核保有を認めている言わば不平等条約です。これは、1967年1月以前に核実験をした五か国ですね、これに核保有を認めて、当時、1960年代の課題というのは核兵器をいかに拡散しないかということであったわけで、この拡散を望まない米ソにより主導された、まあ言わば主権平等を犠牲にした条約であって、当時の知恵であったというふうに私は考えております。そのうち、西独、そして日本が入ることによって、この当時の国際政治における敗戦国の主な国ですね、西独、日本が入ることによって、一定の目的を達成した条約であると思います。
ただ、不平等なんですが、その条約の中にグランドバーゲン、大きな取引と書きましたけれども、つまり、将来にわたってこの不平等性を解消していこうと、つまり核兵器国が核を廃絶していく方向のベクトルを明記しておる。これは六条、有名な六条でございますけれども、同時に、非核兵器国の原子力の平和利用、この権利を認めていこうと、こういう条約でございます。
25年たった95年、これが重要な年なんでございますけれども、無期限の延長に国際社会が合意しました。つまり、不平等条約が糊塗されたわけですね。ただ、その見返りに非核兵器国が得たものがあると。それは、その下のちょっと太字で書いてありますが、CTBT、包括的核実験禁止条約、これの早期採択、これはもう交渉が内々続いていたわけですが、それから、二番目にFMCT、兵器用核分裂性物質の生産禁止条約、三番目に、一番最後の行ですが、中東の非大量破壊兵器地帯の実現、で、次のページの一番上ですが、消極的安全保証、大体この四つぐらいが非核兵器国が無期限延長の代わりに勝ち取ったといいますか、そういう項目でございます。
まず、CTBTからいきますと、これは端的に申し上げますと、地下核実験を禁止したものです。地下核実験を禁止することによって、以前からあった部分的核実験禁止条約、つまり海中、大気圏、宇宙も入れて、全てのところ、場所における核実験を禁止しております。ただ問題は、発効要件が敷居が高かったわけですね。そこに書いてあります八か国が現在も締結しておりません。米、中、インド、パキスタン、エジプト、イスラエル、イラン、北朝鮮、この8か国です。署名数は百八十五ともう非常に多いんですけれども、いずれにせよ発効していないと。
この現状がこういうことですが、問題としては、やっぱり国際政治の現実から見て、この8か国が批准していくのは非常に難しいと。つまり、米は御存じのように共和党と民主党立場が違います。上院で3分の2以上を取らなければ批准できません。中国はアメリカを見ている、インドは中国を見ている、パキスタンはインドを見ている。それから、エジプト、イスラエルは相互に見合っているわけですね。イランもイスラエルを見ている。北朝鮮は御存じのような開発をしてしまっていると。この8か国が批准してCTBTが発効するというのは非常に難しいと思います。
ただ、2か国を除いて、今この国際社会の中に核実験できるか、国際的な世論に抗してできるかと、私はできないと。2か国というのはロシアと北朝鮮のことを言っているんですが、この国以外に核実験はできないという規範が各国の指導者の中にあると思います。そういう意味では、CTBTの8割方のその条約の精神というものは尊敬、尊重されているというふうに言えると思います。
これを発効するために、例えばもう一度外交会議を招集するとか、あるいは条約の暫定適用という手はあるかも分かりませんけれども、しても同じですね、この8か国が入ってこないわけですから。つまり、国際政治の問題であって、条約を発効させる云々というのは二次的な問題じゃないかというふうに考えております。
FMCT、これは兵器用核分裂性物質生産禁止条約です。端的に申し上げますと、核兵器の原料となる高濃縮ウランとプルトニウム、これの生産を禁止していこうという、ある意味で画期的な条約ですね。これができましたら、ある意味では核軍縮、核廃絶の道が大きく開かれるという条約ですけれども、これが残念ながらジュネーブの軍縮会議において、20数年にわたって交渉がなされてきませんでした。その理由は、本音ベースで言うとこのFMCTを望まない国があるということだと思いますが、表面的には、ほかにプライオリティーがある、ほかのイシューにプライオリティーがあるということでですね、例えば宇宙の問題とか、ことをいうわけですが、たまたまこのジュネーブの軍縮会議はコンセンサスがルールですから、1か国でも反対すると交渉が始まりません。そういう状況がずるずると今日まで及んでおります。ですから、成果が出てないということです。課題は山積です。
ただ、条約の草案を作っている国もあるし、それから条約が始まった場合に即交渉が開始できるように様々な準備がなされてきている。日本政府も相当努力をしてきております。この軍縮会議のルールを、コンセンサスルールを変えるのはどうかというのがよく議論されますけれども、それも一つの方法かと思われます。
中東の非大量破壊兵器地帯、大量破壊兵器といっても、特に非核地帯をつくろうと。その心は、イスラエルの核を放棄させようということですね。当時、アラブ諸国が無期限延長に合意したのは、もしイスラエルの核が放棄されれば非常に望ましい状況ができるという、言わば冷戦後のユーフォリアの中にいたんだと思いますけれども、ただ、これも全く進展しておりません。いろんな会議を開いておりますけれども、まさに会議は踊るで、実際は全く進展しておりません。
現実世界に目をやりますと、かなり難しいですよね。今の中東和平の状況を見て、イスラエルが核を手放すか。つまり、イスラエルは、自分たちは中東における最初の核兵器国にはなりませんという形で曖昧政策を取っているわけですが、まあほとんどのアラブ諸国は持っていると思っているわけですから、この実現は見通しは困難であると。
四番目に、消極的安全保証ですけれども、これは実は、そのNPTが無期限延長される前に安保理の九八四によって五核兵器国が供与したもの、つまり、核兵器国は非核兵器国に対して核の使用及び核の威嚇をしないという約束をしたものですが、これは皆様既に御存じのように、クリミア併合あるいは今回のウクライナの侵略時におけるロシアの態度を見ても明らかに違反されている。したがって、これは宣言なんですね。条約でもなければ、公的拘束力がある文書じゃありません。ただ、これを条約にするかという動きはあります。ただ、核兵器国がどれだけ譲歩するかということだと思います。
この四項目を今から見ると、必ずしも現実的とは考えられないような約束の見返りとして無期限の延長をしたというのが現実であります。
それ以降のNPTの動きを見てみますと、注目されるのは、2000年の会議という、運用検討会議ですが、これで全面的核廃絶の明確な約束というのを核兵器国がしております。そのための、実現するための13の具体的な措置についても約束しております。これは2010年の最終文書でも引き継がれ、これが最後のNPTの合意になっているわけです。昨年行われました、2022年の最終文書は、ロシア1か国の反対によってほごにされました。
現在の状況ですが、やっぱりNPTの運用検討会議で合意文書ができないという状況で、NPTに対する求心力が弱まっているということが言えると思います。対立が表面化している。つまり、非核兵器国対核兵器国、ロシア対加盟国、米英仏対ロ中、それから核兵器禁止条約派と核兵器国あるいは同盟国、こういった対立が明確になってきております。特に核兵器国間の対立、米中の対立ですね、が今後のNPTのマネジメントに深刻な影響を与えると思います。今までは、善しきにつけあしきにつけ、五か国が固まって合意形成に参加していたわけですが、今後実のある合意は困難だと言わざるを得ないと。
しかしながら、そのNPT運用検討会議の失敗、NPTの求心力が失われているということに過度に悲観的になる必要はないと私は考えております。なぜならば、実際の核兵器の削減というのは、米ソあるいは米ロですね、の2国間、そして英仏の一方的な宣言で行われてきていたわけで、NPTの合意によって削減されてきたわけじゃないんですね。したがって、今後何よりも重要なのは国際安全保障環境の改善ですけれども、大国間競争の中でも同時並行的に米ロのこのSTARTに加えて中国を交渉に参加させる、あるいは米中でもいいと思うんですけれども、そういった軍備管理交渉を始めることが重要だと思います。
次に、INFですけれども、これは皆様御存じのように、79年の核戦争の危機の後、NATOが二重決定をした。つまり、ソ連、当時のソ連が中距離核戦力、SS20が主ですが、配備するのに対して、NATO側は同時にパーシングⅡという中距離を配備する決定をして、同時に交渉をしましょうと、つまり抑止と同時に交渉をしましょうと、そういう結果できた条約です。
発効が遅れるわけですけれども、これは米、英仏のミサイルを入れるかどうかということで遅れてきたんですが、結局発効して、米ロともこれを全廃します。それを2019年にトランプ政権が破棄したわけですね。これは後で述べますけれども、この三十年の間に、米ロが手を縛られている間にそのほかの国、特に中国がミサイル開発に乗り出してきたというのに対して取った私は勇断だと思いますが、現在は破棄の状態にあります。
次に、新STARTですけれども、米ロ、先ほど申し上げましたように、米ソ、米ロはこのSTART条約を中心に核兵器を削減してきたわけですね。往時は7万発ありました。現在は大体1万2000から1万3000発、総数が、なっていますが、このSTARTで合意しているのは展開されている戦略核のみなんですね、1550発。これは、おおむね両方とも約束を守っています。というのは、検証を、しっかりした検証機能を持っているわけです。衛星あるいは現地査察、それによって約束は守られていると。
他方、最近の動きとして、ウクライナ戦争の影響を受けてロシアが二国間査察を拒否しているとか、あるいはリャブコフの発言とかいろいろございますけれども、いずれにせよ条約は生きてはいます。これは2026年までです。
問題は、この2026年に期限が来るわけですが、これをどうするかという問題ですね。一番いいのは、新START条約に中国を加えて、かつ交渉対象を戦略核のみならず戦術核も含めた全ての核兵器国、核兵器、これはアメリカが提案していたんですが、そういう土俵ができればよろしいわけですけれども、ヨーロッパ正面において圧倒的に戦術核に優位に立っているロシアが戦術核を交渉のまないたにのせるというのはなかなか考えにくい。そうすると、少なくとも、私が思うに、単純延長でもいいから2026年からもう一度五年間延長してほしいと、そのための交渉をアメリカが始めるべきだというふうに思っております。
その次の核兵器禁止条約と核セキュリティーについては、ここでは省略しておきます。後ほどの議論で出てくると思います。
次に、核軍縮、核不拡散の推進に向けた意見、提言ですけれども、国際情勢は冷戦後の国際協調の時代ははるか遠くに遠のいてしまって、現在は大国間競争の時代、抑止の時代に入っている、軍拡の時代ですね、入っていると思います。しかし、少なくともこのSTART条約の単純延長でもいいからやってほしいというふうに考えております。合意できなかったNPTの最終文書に実はパラグラフ十七というのがあって、ここでは両国とも後継条約に実質的に合意しているわけですね。だから、そういう意思はあったと。
それから、何よりも重要なのは、中国をこの軍備管理交渉に参加させることが重要であると。当時、NATOが79年に二重決定しましたけれども、それと同じように、抑止力を強化すると同時に、同時並行的に軍備管理交渉の、まあ準備交渉でもいいから始めていくと。で、交渉を始めて同じテーブルに着く限り、相互の脅威認識を把握せざるを得ないし、猜疑心の解消にもなるし、信頼醸成機能を持つわけですね。
じゃ、中国が果たして乗ってくるかという大きな疑問があるわけですが、私は、中国が関心を持つ分野、主にソフトな分野だと思いますが、NASAにある、アルテミス合意というのがありますけれども、宇宙の平和利用とか、宇宙の資源の利用とか、あるいはスペースデブリの対策、現在約18か国ぐらいが参加して、ウクライナも実は入っているんですが、そういった宇宙の平和利用、このソフトの面から始めていくことも一法じゃないかと。
中国が一番望むのはMDですね。ミサイルディフェンスの能力を制限したいと、圧倒的に優位に立つアメリカのMDの能力を制限したいということでしょうけれど、アメリカは恐らく乗ってこないと思いますね、自分の優位性を落とすわけないわけで。そういう力関係ある中で、ソフトの面から交渉を始めていくというのが一つの方法だろうと思います。それから、ですから、現在の東アジアの状況というのは、79年のヨーロッパの正面の状況と極めて類似しているというふうに考えます。
最後に、今後の核不拡散ですけれども、一番重要なのは、新たな核保有国の出現を阻止すると。プーチンが今回示した核の恫喝というのは、不用意にも核兵器の閾値を下げてしまったわけですね。同時に、核拡散の危険性というものを広げてしまった。そういう効果を持ってしまったわけで、潜在的な核保有国への手当てがどうしても必要になってくる。
それから、NPTの求心力が弱まる中で、NPTにとどまるメリットというのを途上国、メンバーに示していく必要があると。そのためには、例えばIAEAがやっている放射線を使ったがん治療、これアフリカ等々、途上国の首脳が非常に興味を持つわけですが、こういったものを示していく必要があると。
それから、核兵器禁止条約グループも含めて、対立状況を解消して、NPTを共に支えると、そういう姿勢を示していく必要があるかと思います。
また、新たな軍縮マシンを創設したり、あるいは既存の枠組みの改革に向けて国連がイニシアチブを取っていくというのも一法かと思われます。
若干走ってまいりましたけども、以上で私の御説明を終わりにしたいと思います。
ありがとうございました。
2023年2月15日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「核軍縮・核不拡散」
公益財団法人日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長 戸崎洋史参考人
○参考人(戸崎洋史君) ありがとうございます。
御紹介いただきました日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎でございます。
本日は、このような機会をいただきまして、本当にありがとうございます。
本日の私の報告それから発言ですけれども、全て個人の見解ということで、所属先などを代表するものではないということをあらかじめお断り申し上げたいと思います。
冒頭の報告でございますけれども、軍備管理といったものがどのように考えられて扱われてきたのか、それから更なる軍備管理、そして最終的な目標である核兵器のない世界に向けて進んでいくためにどういったことを考えなければならないか、考える必要があるのかといったようなところを中心にお話しさせていただきたいと思います。
まず、軍備管理ですけれども、最も基本的な定義は、軍事における敵対国間の協力でございます。
現在の国際システムの中では、自助、セルフヘルプ、それから自衛のために抑止力を持つということが必要になっておるわけですけれども、そうした抑止力の維持それから強化がもたらし得る安全保障ジレンマの緩和であったり、それから抑止バランスを安定化させたり、抑止を、関係にある中でも、敵対関係にある中でも、信頼醸成、それから透明性、そして将来の予見可能性、こうしたものを与えるというのが軍備管理の重要な役割だというふうに位置付けられてきました。核の秩序という言葉がありますけれども、それは抑止とこの軍備管理の二つの柱で成り立ってきたということが言われております。
その軍備管理でありますけれども、パワーであったり抑止力であったり、それをめぐる外交的手段によるせめぎ合いとしての側面というのも非常に強いというのがこれまでの歴史であったかと思います。
軍備管理は、最終的には、他方の抑止力に対する管理であったり制限であったり低減であったりと、そういったようなものを企図したもの、目標としたものであるということで、優位にある国、劣位にある国、それぞれがいかにこの自分の国に、自らに有利な合意をつくり上げていくか、そうしたゲームがその軍備管理交渉の中で行われてきたという側面も少なくなかったのではないかと思います。
最終的に合意が成立するためには様々な譲歩が必要になってきますけれども、譲歩ということは最終的には不完全なものあるいは不満足なもの、そうした合意が成立してしまう可能性もあるということで、あるいは合意したときには満足できたけれども、その先、将来、不満足な状況が生まれてしまうということもあるということで、そうした中で、敵対国が例えば欺瞞であったり違反であったり、そうしたことを行う可能性があり、それに対して効果的に対応できなければ自分たちの国が不利益を被ってしまうという、そうした側面も軍備管理には強かったということであります。
特に、マルチ、多国間の軍備管理について特有の難しさということも一言申し上げておきますと、当然その関係国が増加すればするだけ様々な中でのバランスを見出して維持していくということは難しくなってきますし、譲歩の幅も大きくならざるを得ないということで、そこに不満の種が出てくると。とりわけ、核兵器のように国家安全保障上重要な兵器だとみなされるものについては、そうした不満というものが蓄積してしまう可能性もあるということですね。
そして、核の問題ではコンセンサスで合意を図っていくということも少なからずあるわけですけれども、もちろんそのコンセンサスで合意することによって、全ての国が履行する、それを守るというようなことになる可能性はありますけれども、他方で、交渉の中では一つの国が拒否権を持ってしまうということもあってなかなか合意ができない、これは先ほど佐野大使の話にもあったことでございますけれども、そうした側面もあるということでございます。
続きまして、現在の核軍備管理の状況でありますけれども、2012年から13年、新START条約ができたのが2010年、発効が11年でありますけれども、その後、既に核軍備管理の停滞、そして現在の逆行というものは始まっていたのだろうというふうに思います。
最も重要な要因は、現在進行中の戦略的競争でありますけれども、その中で当然その競争には力というものが必要になってくると。その一つの要素として、核兵器というものが様々な国によって重視されている、核抑止力の重要性の高まりということが一つあると思います。
現在の戦略的競争は、既存の国際秩序を修正したいと考える国と維持したいと考える国、そのせめぎ合いという側面があるわけですけれども、修正したいと考えている国は、今現在自分たちは力を伸ばしているんだと、で、この伸ばしているところで止められたくない、軍備管理のような措置によって力の増大、抑止力の強化というものを抑制されたくないと、そういったインセンティブといいますか、抑制要因が働くということになるかと思います。
他方、現状維持勢力、西側、日本も含めてですけれども、当然その抑制要因としては、そうした修正主義の国々が抑止力を高める中で自分たちも抑止を高めなければならない、対処力を必要とするというようなところが軍備管理に少し後ろ向きになってしまうところもありますけれども、他方で、そうしたその現状を修正しようとする国々の力の台頭というものをこの軍備管理によって少しマイルドにしていくと、抑えていくということができるのであれば、それは軍備管理の非常に、彼らにとっての重要な役割になるということになるということで、そこにインセンティブが働いているのだろうというふうに思います。
そして、現在最も懸念すべきは、戦略的競争の最前線にある地域、北東アジアもそうですし、ヨーロッパ、中東などもそうですけれども、そうした地域問題ですね、ここでの非核・核のエスカレーションの可能性が強く懸念されていて、実際に勃発してしまったのがウクライナであったわけですけれども、そうした中でその抑止力の強化のインセンティブが非常に高まってしまっており、これも軍備管理が進むことを妨げている要因になっているのだろうというふうに思います。
もう一つの要因は、国際システムと戦略関係、抑止関係が変容しているということで、抑止が非常に複雑になっているということなのだろうというふうに思います。
既存の核軍備管理、不拡散体制はおおむね冷戦期の二極構造に起源を持つものでありますけれども、これがまあ多極、世界は多極に向かっているという中で、その中でどのようにバランスを取ったらいいのか、協力を図ったらいいのかということがなかなか考えにくくなっていると、難しくなっているということ。
それから、これも冷戦期には基本的にはその戦略核というものが中心になって考えられていたわけですけれども、それが戦略核だけではなくて、それ以外の戦術核も含めた非戦略核、それから、核兵器だけではなくて核兵器と通常戦力の問題、とりわけ戦略的インプリケーションを持つような兵器、こうしたものが重要になってきているということで、これらを軍備管理の文脈の中に落とし込むにはどうしたらいいのかということ、これまで我々が経験したことのなかったことをやらなければならないということ。
そして、様々な国がある中で、能力であったり、利益、決意、そうしたものへの非対称性が大きいという中で、この辺りのバランスをどうするのかということですね。
既存の核軍備管理、不拡散体制ではなかなかカバーし切れない多くの課題があると、で、カバーするために核軍備管理、軍備管理の在り方について現状では合意がないと、あるいはその合意を図っていくことが難しい、あるいはどういったアイデアでこれを進めていったらいいのかというのがまだ国際社会には合意がないということなのだろうというふうに思います。
続いて、既存の軍備管理の現状については少し手短にお話ししたいと思いますけれども、NPTの第10回運用検討会議については、先ほど佐野大使がお話しされたとおりで、私もおおむね同じ考えを持っておりますけれども、一点だけ。
こうしたその核をめぐる非常に厳しい状況にある中で、最終文書の採択に向けて、締約国、マイナス1ですね、ロシア、の取組というのは、やはりそのNPT体制というものが重要でこれを堅持すべきだという意識に支えられたものだったのではないかというふうに思います。結果として文書は採択できませんでしたけれども、それまでの過程で各国が採択に向けて一生懸命取り組んだという現実、事実と、一応文書の形でドラフトはできたというところは一つ留意すべきなのかなというふうに思います。
もちろん、その会議の中で核兵器国間の亀裂がこれまで以上により目立ったということ、それから中国が非常にアグレッシブに対応したというところは今回の会議の特徴であったかというふうに思います。
続きまして、ポスト新START、新START後の核軍備管理をどうするかというところで、なかなかそのアメリカとロシアのそもそも折り合いが付いていないと。アメリカは全ての核兵器を対象にすべきだと言っているのに対して、ロシアは攻撃、核兵器だけではなくてミサイル防衛も含めるべきだと、それからアメリカがヨーロッパに配備している戦術核、これも軍備管理に含めていくべきだというところで、2012年、13年ぐらいからもうずっとこの議論が続いて、折り合いが付いていないという中で現在まで来ているということであります。
で、2026年の2月に新START条約が失効しますけれども、合意できなければ1972年以来続いてきた2国間の核軍備管理条約というのが全くなくなってしまうという状況になりますので、私もこれをどうにかして何らかの形で続けていくということは重要なのだろうというふうに思います。
ロシアのウクライナ侵略の話については、もう繰り返しになるかもしれませんけれども、もう様々な形で、核の恫喝であったり偽情報を乱発したりなどですね、そうしたそのロシアの行為というのが軍備管理、不拡散体制の根幹に関わる重大な挑戦なんだということは改めて強調しておきたいと思います。
そして、やはり今後鍵になっていくのが中国ということで、積極的な核戦力の近代化を図っていると、10年後までには少なくとも1000発の核弾頭を保有するのではないかという見方がアメリカの核態勢見直しでも示されていますけれども、その中国はNPT上の5核兵器国の中で唯一核兵器をこれまで削減したことがない国ということで、実質的な核軍備管理には非常に消極的な態度を取ってきた国でもある。こうした国をいかにして軍備管理の枠組みの中に取り込んでいくかということが重要な課題になってくるのだろうというふうに思います。
核兵器禁止条約につきましては、様々議論があるところですけれども、二点だけ課題と、を挙げさせていただくとしますと、一つは、禁止規範の受容度というものがなかなか広がっていかないというところですね。ここはやはり、その秩序あるいは安全保障が維持される程度の中でのみ規範であったり、禁止規範というものが国際社会に受容されていくという厳しい現実を示してしまっているのではないかというふうに思います。
もちろん、核兵器の廃絶が実現するためには、規範の要素というのはとても重要だというふうに私も思っておりますけれども、そのために、実現するために何をしなければならないかということを併せて考えなければならないのと、それとの関連では、ロシアの今回のウクライナ侵略と核恫喝に際して、この核兵器禁止条約の、まあ一部ではありますけれども、締約国が必ずしも十分に非難したわけではないということで、規範を主張している国、核についての規範を主張している国が、他方でその国益との関係で、そこにその相克というものが見られたというところも一つ留意しておく必要があるのかなというふうに思います。
そして、こうしたその核兵器をめぐる問題の、核兵器の使用可能性というのが高まる中で、核リスクの低減であったり、それから核兵器、役割の重要性が高まっているということは、繰り返しになるかもしれませんけれども、現在の国際安全保障環境確保をめぐる状況の、厳しい状況を逆に反映しているのかなというふうに思います。
最後に、今後どのように核軍備管理を進めていくべきなのかというところ、なかなかその具体的な提案というのは難しい状況でありますけれども、考えなければならない課題ということで、時間軸に沿って少し挙げてみたいと思います。
まず、日本それから世界の最終的な目標が核兵器のない世界であるとすれば、これを実現するための安全保障環境であったり、ナラティブであったり、論理であったり、規範であったり、そうしたものを構築していく必要があると、現在はないということなので、それを構築していく必要があるということなのだろうと思います。現在の世界、マイナス核兵器が核兵器のない世界、安全な核兵器のない世界ではないということですので、その点。
そして、これは前回の核軍縮の実質的な進展のための賢人会議の議長レポートでも示された困難な問題ですね、核兵器の大幅削減であったり、核なき世界のために解決しなければならない、そして、現状では答えが出せない、出せていない問題に取り組まなければならないということで幾つか挙がっておりますけれども、これらの問題に答えを出していかなければ最終的な目標には到達し得ないということで、この部分しっかり考えていく必要があるということであります。
次に、短期的といいますか、より中期的な目標としては、核軍備管理のその新たな枠組みというものを模索していかなければならないのではないかということで、既存の枠組みももちろん活用しつつではありますけれども、今後の世界が直面する多極化、多様化、そして非対称性といったようなものを適切に織り込んでいくと、そして、その中にやはり中国をいかに取り込んでいくかということが最も重要で難しい課題になってくるというふうに私も考えております。
中国を核軍備管理に取り込んでいくためには、当然その中国が参加したいと思うようなインセンティブというものも与えなければならないのかもしれませんけれども、他方で、それが中国に対する融和、アピーズメントであってはならないというふうに思いますし、その中で、どこまでの、どのようなインセンティブを与えるのか、あるいは、逆に日本なりアメリカなりが抑止力をしっかり持つ中で、中国に対して、そのお互いの関係の中での安定性というものを日本あるいはアメリカなどとともに働きかけていくということが、なかなかこれも難しい問題ではありますけれども、進めていかなければならない課題なのだろうというふうに思います。
そして、最後に、短期的な目標でありますけれども、これ以上核軍縮、核軍備管理、核をめぐる状況が悪化するのを防ぐということが直近の目標になってくるのだろうというふうに思います。
核兵器不使用の歴史の継続というのは最も重要だと思いますし、それと並行して状況悪化の押さえ込みを行っていくと。大きなステップはなかなか取りづらいと思いますけれども、その小さなステップを一つずつ積み重ねていくことで、より先の目標へと近づいていくと。
それから、核兵器を、現在数の削減というのは難しい状況にありますけれども、その中では、まずその行動、核をめぐる行動というものに対する管理であったり制限であったりと、そうしたところを模索していく、あるいは各国が自制に基づいて行動するよう求めていくと、そういったことも考えられるのかなというふうに思いますし、核リスクの低減のところでは、やはり戦略対話ですね、話をする時間、機会がなかなか少なくなっているという中で、まずは対話を進めていく、そして、危機管理であったり危機コミュニケーション、信頼醸成、透明性というものを高めていってほしいというところであります。
最後に、この調査会の一つの柱といいますか、それがマルチラテラリズムということでありましたので、その問題を少しお話ししたいと思いますけれども、マルチというのは難しいところもあるということは先ほどお話ししたとおりでありますけれども、多極化なり多様化、それから非対称性という中で、やはり多層的な取組というものが必要で、その中にマルチラテラリズムの重要性というものもあるのだろうというふうに思います。
今後、新しい枠組み、あるいは核兵器のない世界を可能にするためには、国際社会、まさにマルチですね、そこでの合意というのが絶対的に必要でありますし、マルチで合意した、議論して合意したからこそ履行可能性というものは高まっていくわけですし、そうしたその議論、具体的な措置をマルチで着実に積み重ねていくということが将来的な確固とした国際規範の確立ということになってくるということで、もちろんマルチだけで全てがうまくいくわけではないと思いますけれども、単独、2国間、それから小規模の国家、そして地域、そしてマルチというような多層的な取組で軍備管理を進めていくということがますます重要になっているのではないかと思います。
最後に、マトリックス、この会合の事前にいただいたものがありましたので、それに、私が思い付く限りではありますけれども、少し当てはめてみたということで、完全ではございませんけれども、御参考までに付してみました。
ということで、私の御報告は以上でございます。御清聴ありがとうございました。
2023年2月15日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「核軍縮・核不拡散」
長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長・教授 鈴木達治郎参考人
○参考人(鈴木達治郎君) ありがとうございます。
このような機会を与えていただきましてありがとうございます。
マイク入っていますか。大丈夫ですね。
私の方は、パワーポイントの資料を手元に用意させていただきました。そこにタイトルが書いてありまして、私の今日のお話はこのタイトルを中心にお話ししたいと思います。
核抑止に依存しない安全保障政策への転換。そのために七つの提言を最後に出したいと思います。長崎を最後の被爆地にというメッセージですが、今まさに核兵器が使われるリスクが高くなっているという状況で、今こそこのメッセージを伝えたいということで今日お話をさせていただきたいと思います。
1ページ目、開けていただきますと、御存じの、よく御存じの終末時計ですね、今年の1月に、アメリカのブレティン・オブ・アトミック・サイエンティスト、原子力科学者会報というところが毎年出している終末まであと何分かというのが、今年は90秒になってしまいました。戦後最悪の状況でありまして、この最大の理由がロシアのウクライナ侵攻と核の威嚇、これも既にお二人からもありましたけども、今最も核使用のリスクが高くなっているということを警告しております。
この下に、そのほかにも、核軍縮、核不拡散の問題で重要な項目が書いてありますが、一つちょっとお二人から話がなかったものとしては、アメリカとロシアの近代化、核兵器の近代化計画、それから新兵器の配備、それから中国の核軍拡に加えて、イギリスが最も熱心であったんですけども、去年上限を、180だったのを260発に引き上げるという発表をいたしまして、まさに今お二人から話がありましたように、核軍拡の時代に戻ってしまったというのが現状ではないかと。北朝鮮問題、インド、パキスタン、いろいろ書いてありますけども、非常に今厳しい状況にあるというのが1ページ目です。
2ページ目は、私ども長崎大学核兵器廃絶研究センターが毎年発表している核弾頭のポスターなんですけども、一目で核弾頭の数が分かるようなポスターになっておりますが、右手のグラフがアメリカの全米科学者連盟が出しているデータの推移を写したものですけども、御存じのとおり、冷戦時代の7万発から確かに大きく減ってはいるんですが、今後は増加するかもしれない。先ほどのように、核軍拡の時代に入っていますので、また増加の時代に入っているかもしれないということであります。
3ページ目見ていただきますと、先ほどの終末時計の推移を見たものですが、いろんな過去の国際条約ができますと終末時計の時間が余裕が出てくると、核実験や国際関係が緊張すると悪くなっていくんですが、先ほどの核兵器、核弾頭の数のグラフがどんどん減っていっていますけど、冷戦時代から、しかし、必ずしもそれが終末時計の時計が増えているわけではなくて、逆にどんどん悪化しているというのが現状であります。最近、特にここ数年は戦後最悪の事態を更新していくと、悪い状況になっているということですね。
それから、危機、例えば53年、米ソ水爆実験、これ一番、2分で一番厳しかったんですけれども、その直後、キューバ危機があったときに、その後に部分的核実験禁止条約が結ばれて危機を回避したということで、非常に危ない、国際関係が緊張したときこそむしろ核軍縮の機会であるということもこのグラフは示しているんではないかと思います。
次のページ行っていただきますと、ウクライナ侵攻の話も今出ましたが、一番心配しているのは、ウクライナの侵攻によって、核兵器を持っていた方が自国の防衛に役立つんではないかということを示したというふうに考えられる国が出てきたということですね。最初の方は、核兵器をウクライナが放棄したことで、NPTに参加したことで逆に今回守られなかったんじゃないか、持っている国の方が安全ではないか、そういう言説が回ってしまったということではないかと思います。
次のページ行っていただきますと、同じように北朝鮮もどんどん核兵器を増やしているわけですが、私が一番心配しているのは、昨年の9月8日の新しい核兵器政策の法制化ですけれども、この中で、これまでの先制不使用の政策を変えて先制使用を示唆したと。ロシアと非常によく似た表現になっているんですけれども、核兵器だけではなくてほかの通常兵器でもほかの大量破壊兵器でも、相手からの攻撃や攻撃が差し迫ったと判断された場合には核兵器を使うという新しい法律を作ったということで、この北朝鮮の核の脅威も、いつ核兵器が使われるか分からない状況になったと。
次のページは、それに対して、まあ当然ながら、日韓米の同盟関係にある国が拡大抑止力を強化するということを明らかにしております。これは、今までお二人のお話からもありましたように、当然、核軍拡の時代にどうやって相手の核を止めるかというときに拡大核抑止力を強化するということになるわけですが、この声明の中には、実は前半には、朝鮮半島の完全な非核化に対するコミットメントを再確認する、それから対話をするということも一応入ってはいるんですけれども、ここもまあ重要なところですが、拡大核抑止の強化ということが基本的な方針として大々的に打ち出されているために、これがますますこの緊張を、この地域の緊張を増すおそれがあるということですね。問題は、拡大核抑止、核抑止そのものが効くか、本当に効くのかということですね。それを確保できるのかと。
次のページめくっていただきますと、核抑止が成立する条件として、まあこれ、私、4つ挙げてはいるんですけれども、例えば、核兵器システムが必ず確実に機能する、信頼性が確保されている、これがないと核抑止は効かないんですけれども、例えばサイバー攻撃で核兵器システムがやられてしまいますと、相手がサイバー攻撃してきて、されてしまいますと、撃つ方は、相手の方は、核兵器システムが相手はもう信頼、動かないと分かっていれば先制攻撃をしてくるかもしれない。それから、お互いに相手の意思をちゃんと確認できているかどうか、これができていないとやはり抑止は効かない。それから、限定核戦争でとどまるというふうに思っていれば先に核兵器を撃ってくるかもしれない、三番目はそうですね。それから四番目が、通常兵器と核兵器の区別が付かなくなってしまいますと、核兵器されれば必ず認識できるという前提がないと、これも核抑止が効かなくなる可能性があって、今、これら四つの状況がどんどん現状に近づいていると、現状はこうなってきているということで、核抑止が効かない場合はどうするんだということについての、この核抑止の神話ですね、核抑止に頼っていれば大丈夫だということは本当に大丈夫なのかということを考えなければいけない。
ということで、長崎大学の我々、核兵器廃絶研究センター、RECNAでは、次のページめくっていただきますと、アジア太平洋核軍縮・不拡散リーダーズネットワーク、APLNとノーチラス研究所と三者で共同研究を始めまして、もし北東アジアで核兵器使用されたらどうなるか、それを止めるにはどうしたらいいかという三年プロジェクトを始めました。
昨年の1月に、二十五の考えられ、十分に起こり得るケースというのを出しました。このときに、軍事、安全保障、あるいは朝鮮半島や核軍縮、危機管理の専門家に集まっていただいて、十分に起こり得るケースというのを考えて、25のケースを、事例を出しました。それから得られた示唆が次のページになるんですが、25の事例のうち約半分が誤解による先制使用、それから、ほかの問題に気を取られている間に発生してしまう、それからコミュニケーション不足でよって核兵器が使われてしまう。約半数の事例が意図せざる核兵器使用であったということですね。
それから、一旦核兵器が使われてしまうと、その後の展開を測るのが非常に難しい、予見が難しいと。制御不能な核戦争へと激化する可能性が十分にある。
それから、難しいのは、核兵器の種類も質も量も非常に多様化しているので、単純な核抑止論だけでは止まらないかもしれない。したがって、この核兵器をいつ使うか、使わざるかという意思決定も非常に難しくなっている。これも先ほどお話がありましたけれども、非常に抑止論が複雑化しているという先ほど表現でしたが、複雑化しているということは実際に核兵器の使用を止めることが難しくなっているということであります。
次のページめくっていただきますと、ということで、その安全保障の改善を待って核軍縮を始めるというのを待ってられない、このままだといつ核兵器が使われるか分からないという状況であるという認識から、これは国連の中満泉さんが「世界」に寄せられた原稿なんで、その論文なんですが、3つのことをおっしゃっておりまして、まずは、絶対に核兵器は使わないという規範を全員で確認することであると。それから、核兵器使用のリスクを低減するための具体的な議論を始めるべきだ。最後に、核不拡散条約の規範、これをきちんと守ることだと。核兵器は、始まってしまう、核戦争が始まってしまいますと人類を破滅させかねないという、こういう問題であるということを共通認識として取り組む必要があるということであります。
ということで、その次のページからは私の後半の7つの提言に入ります。次のページめくっていただきますと、まず、先ほど戸崎さんの方からもありましたが、外務省が主催された核軍縮の実質的な進展のための賢人会議の提言が出ておりまして、すばらしい提言が出ておりまして、その中の文章をちょっと読ませていただきますと、これは核兵器国も非核兵器国もみんな専門家が入って議論をした結果なんですが、核抑止についてこのように書かれています。ある環境下に、ある環境下においては安定を促進する場合もあるとはいえ、長期的かつグローバルな安全保障の基礎としては危険なものである、したがって、全ての国はより良い長期的な解決策を模索しなければならない、すなわち核抑止に依存しない安全保障政策を構築していくことであるということで、今日、その7つの下に書いてある提言を一つ一つ説明させていただきます。
最初の3つまでは、あっ、4つかな、4つまではリスク低減の提言、リスク低減のための提言ですね。それから、5、6、7は、核抑止脱却を図って、いずれ核兵器廃絶に向かうための提言ということであります。
では、次のページめくっていただきます。
提言1と2は、先ほどからも何回か言われておりますが、核兵器は絶対使ってはならない国際規範を徹底するということであります。これもさっき引用がありましたが、去年の1月3日に五大核兵器国の首脳が共同声明を出した中に、核戦争に勝者はなく、核戦争は決して戦ってはならないという原則が入っております、表現が入っております。これを是非今回の広島サミットでも国際規範として打ち出していただきたい。
二番目は、これももう既にお二人から提言がありましたが、実際に核兵器を持っている国々の間で核兵器が利用されないためのリスク低減のための対話を始めること。ホットラインの確保はもちろんですが、政策の透明性確保や対話による核戦略の相互理解、それから、サイバー攻撃を禁止する、核兵器に対する、など、核リスク削減のための合意を図っていく、このために日本も、核の傘の国もそういう対話を進めるよう提言をすべきだと思います。
次のページお願いいたします。
三番目は、ここから安全保障における核兵器の役割低減ということですが、今これから始まる、核兵器のない世界に向けた国際賢人会議には是非これをテーマにしていただきたいと思います。
実はここで引用されているのは、もう二年前になりますか、衆議院の予算委員会で斉藤鉄夫議員の質問に答えた茂木外務大臣の国会答弁で、現実の安全保障上の脅威にどういう形で対応していくかということですが、安定的な形で核に頼らずそういうことができるというのが望ましいというふうに日本政府も考えているということでありますので、是非この政策を実現するために皆さんで検討していただきたいということであります。
そのうちの具体例として、一つ、次のページめくっていただきたいんですが、既にこれもお二人から御意見があったと思うんですけれども、先行不使用、いわゆるノー・ファースト・ユースと言われている政策ですね、あるいはアメリカでは唯一の目的政策とも呼ばれていますが、これが残念ながらまだ採用されていない。アメリカでは、前のオバマ政権、今回のバイデン政権で、この先行不使用政策あるいは唯一の目的政策を採用しようという議論があったんですが、残念ながら、主に同盟国、日本や韓国やNATOの国々の反対によって実現していないと。
これは、有識者の、アメリカの有識者の方々の提言なんですけれども、アメリカの通常戦力を考えれば、拡大核抑止というのは核兵器だけではなくて通常戦力も考えているわけですが、核以外の攻撃を抑止するのはもう十分に米国の通常戦力で通用すると。したがって、核兵器を先行する必要はない。それから、もしアメリカがこの核兵器先行不使用政策を導入していない今の状況だと、ほかの国がやはり、じゃアメリカよりも核兵器の数少ないわけですから、先に使うオプションを重要視してしまうと。ということは核兵器の使用リスクは高まるということで、是非、核兵器使用のリスクを下げるためにも、アメリカの核先行不使用政策を日本政府が支持すると、これが大事ではないかということをこのアメリカの有識者の方々が提言されております。特に日本が被爆国であると考えますと、先行不使用の政策を是非支持していただきたいというふうに思います。
次は、次のページめくっていただきますと、核兵器の材料である核物質、この量が相変わらず増えているということであります。
これは、これもRECNAで毎年発表している核物質の量を広島型原爆と長崎型原爆に換算したらどれぐらいになるかということを示したものでありますが、分離プルトニウムが544トン、高濃縮ウランが1254トンで、合計すると11万発分も核物質が存在していると。で、今年、昨年発表した数字で初めてこれ全体としては減少したんですが、この減少はほぼ全部高濃縮ウランの減少分で、残念ながら分離プルトニウムは依然増加しています。
次のページちょっとめくっていただきますと、分離プルトニウムの増加を見てみますと、この下の一番下の青い部分が軍事用のプルトニウムで、これはもう冷戦時代からほぼ増えてはいません。増えているのはグレーの部分ですね、民生用の原子力から出てくる分離プルトニウム、それから赤いところが日本の分離プルトニウムでありまして、この民生用、原子力発電所から出てくるプルトニウムを再処理して出てくるものですが、これを止める必要があると。これは、核セキュリティーの面からももちろん大事ですし、将来の核兵器のリスクを下げると、これ以上の核兵器を造らせないという意味でも、この民生用プルトニウムの増加を止める必要があると思います。
では、次のページお願いいたします。
それから、核抑止を乗り越える代替案として、先ほどもお話が出ました消極的安全保証についてお話ししたいんですが、消極的安全保証を国際法で決めている、取決めしているのは、この非核兵器地帯というものであります。非核兵器地帯には当然ながらその地域で核兵器は置かないということと、消極的安全保証を条約として保障する、核兵器国は非核兵器国を攻撃しないということですね。そのための遵守の検証をするという機関があります。この非核兵器地帯の現象をちょっと、現状を見ていただきますと、次のページ見ていただきますと、既に南半球はほぼ非核兵器地帯で覆われておりまして、世界で140か国を対象になっております。むしろ、核の傘の国は世界では少数派であるということであります。
次のページお願いいたします。
実際に北東アジアでこの非核兵器地帯を促進しようということで、これはパグウォッシュ会議が2021年、バイデン政権が誕生するときに提言をいろいろ出しているわけです。そのときの提言の趣旨なんですけれども、北朝鮮の段階的非核化を進めて、朝鮮半島をまず非核兵器地帯条約を目指し、日本も参加して北東アジア非核兵器地帯を設立するというのが提言になっております。当然ながら、地域の安全保障の枠組みをつくってやっていこうという提言をされています。で、既に実はこの北東アジア非核兵器地帯条約を推進する国際議員連盟が昨年8月8日に発足しておりますので、是非御関心のある方は参加していただきたいと思います。
次のページを見ますと、核軍縮と持続可能性の連携ということで、実は広島県が最近提言を出しておりまして、昨年末にG7サミットに向けた提言も首相に提出しております。この持続可能性との連携によって核問題の議論の場が広がる、ステークホルダーも広がるということで、大変重要な提言だと私は思っております。
次のページお願いいたします。
この橋渡しの役割を果たすのは、もう既にお二人からもかなりありましたので簡単にさせていただきます。特に、核兵器禁止条約への支持、支援、これを是非お願いしたいと思います。趣旨に賛同し、署名に努力するということをまず明言して、実際に署名、批准できなくても、被爆者支援や検証措置への貢献というTPNWへの貢献は日本でもできる、それから、もちろんオブザーバー参加もできるということで、これを是非橋渡し役としては実現していただきたい。
それで、最後のページめくっていただきますと、岸田首相が昨年、NPT会議で演説をされたのは非常に良かったと思います。その中で、この二点をおっしゃったことは非常に私は重要だと。核兵器不使用の継続の重要性と長崎を最後の被爆地にしなければならないということをおっしゃったことで、これを是非今日の私の提言に最後にしたいと思います。
どうもありがとうございました。