テーマ:FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の交渉開始への取組と課題
(議事録は後日更新いたします)
核燃料再処理やめて/岩渕氏が参考人質疑/参院調査会
参院外交・安全保障調査会は21日、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始への取り組みと課題について参考人質疑を行い、日本共産党からは岩渕友議員が質問しました。
FMCTは、核兵器の原料となる高濃縮ウランやプルトニウムなどの生産を禁止するものですが、1993年の国連総会で同条約制定の多国間交渉開始が議決されたものの、現在でも交渉開始のめどはたっていません。
岩渕氏は、核兵器禁止条約が発効し、核兵器の禁止が世界の流れとなるもとでのFMCTの意義について質問しました。
非政府組織(NGO)ピースボートの川崎哲共同代表は、核兵器廃絶を目指すうえでの重要な各論の一つだと答えました。
また岩渕氏は、日本政府がFMCTの早期発効に貢献するとしながら、「核の平和利用」だとして使用済み核燃料の再処理に固執しているのは矛盾していると指摘しました。
川崎氏は「日本政府は2018年にこれ以上プルトニウムを増やさないことを明確にした。青森県六ケ所村での再処理事業は中止するしかない」とし、「これ以上増やさないということが、世界に対する姿勢としても重要だ」と主張しました。
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2024年2月21日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の交渉開始への取組と課題」
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
参考人の皆様、本日はありがとうございます。
初めに、三人の参考人に伺うんですけれども、先ほど来話があるように、FMCTが提案をされてから30年経過をしても今も交渉開始に至らないままだという、その一方で、同じように90年代に案が示された核兵器禁止条約は採択されて発効をされて、今世界の大きな流れになってきているんだというふうに思うんです。
そうした下で、このFMCTの意義について先ほど来いろいろお話があって、その組合せであるとかあるんですけれども、ちょっとその意義について改めてそれぞれのお考えをお聞かせください。
○参考人(秋山信将君) ありがとうございます。
FMCTの意義、これはやはりそれぞれの条約、目的が異なっていると思います。例えば、核兵器禁止条約は、ある意味では幾つか非常に重要な禁止事項が定められていますけれども、それぞれの条文についてやはり今後更に精緻化していく必要がある。また、NPTも同様だと思います。
そうした幾つかの条約にまたがるような案件ですね、共通しているものについて、やはりそれとはまた別個により細かい、しっかりとした詳細まで定めるような条約というのはあってしかるべきというふうに思っていて、とりわけ、先ほど私申し上げさせていただきましたけれども、核分裂性物質の取得、獲得というものが核兵器の保有にとって非常に大きなポイントになってくるということであれば、そこをどのように絞り込んでいくかということについてしっかりと、どのような物質を規制するのか、どのように規制していくのか、どうやって監視していくのかということを詳細に定めていく必要があって、というのは、核兵器がなくなる世界というのは、一発と、ゼロと1のギャップ、格差というのは非常に大きいわけですから、このゼロトレランスというものをこの核の検証の分野で確立していくのは極めて厳しいと思います。
ですから、これについて合意をしていくということでいうと、しっかりとこの分野、FMCTがどういう条約になるか分かりませんけれども、国際的な合意をつくっていく必要があるし、それに向けて議論していくプロセスそのものが核軍縮の重要なステップであるというふうに見るべきなのかなというふうに思っております。
○参考人(阿部達也君) 御質問ありがとうございます。
私の回答は、多分回答にならない回答だと思います。FMCTの意義は、恐らく各国によって取りようがあるんだろうなということです。
つまり、ざっくりとその二つの立場があるというふうに申しましたけれども、ストックを入れるか入れないかというところだけで焦点を当てますと、入れることに意義を見出す国は、それがFMCT、まあそうするとFMCTじゃなくてFMTになるんですけれども、逆に、もう将来の生産だけに焦点を当てる国からするとそれがFMCTの意義だということになるんだと思います。その意味では、鶏が先なのか卵が先なのかという形になるかもしれませんが、恐らくそこの部分も含めてコンセンサスが得られないと先に進んでいかないのかなということです。
ちょっとお時間取ってしまいますけれども、私としては、恐らく国際社会で合意されているのは唯一シャノン報告書だと思います。シャノン報告書で、シャノン報告書のマンデートです。ただ、そのシャノン報告書のマンデートすら、またシャノン報告書ですら二つ又は三つくらいにもしかしたら解釈できる可能性があるということで、そこが曖昧なので二つの立場に分かれる可能性があるということなんだと思いますが、もしかしたら出発点はシャノン・マンデートの解釈を共通理解を得るところからというところに、まあ原理原則に立ち返ってしまうとですけれども、そこが出発点になるのかなということもちょっと感じているところです。もし条約方式を追求するのであればですけれども。
以上です。
○参考人(川崎哲君) ありがとうございます。
今おっしゃったように、この30年でFMCTは全くできないけれども核兵器禁止条約ができてしまったというこの現状において、じゃ、FMCTの意義は何だろうかといった場合には、重要な各論の一つになるんだろうというふうに思うんですよね。総論としての核兵器廃絶の必要性だとか、それに対して核兵器保有国も取り組む必要性があるというふうなことについては、最新のものでいえば核禁条約、そしてずっとあるものでいえばNPTにおいて繰り返し示されておりますけれども、例えば核兵器禁止条約が開発も実験も保有も使用も威嚇も禁止するというときに、一つ一つにどういう意味なのかということを詰めていかなければいけないんですね。
実験ということでいえば、CTBTが禁止しているものとそれ以外のものもあり得ると。あるいは、使用や威嚇や配備の禁止となれば、それは様々な軍事戦略との関係で詰めなきゃいけないことがあるわけですね。今回の場合は生産との関係になると思いますね。核兵器の生産とは何なのかということを詰めていく、その重要な各論の一つをこのFMCTの議論が付加してくれるということにあるんだろうと思います。
○岩渕友君 ありがとうございます。
次に、川崎参考人に伺うんですけれども、このFMCTを広島や長崎の被爆者の皆さんはどんなふうに見ていらっしゃるのかということと、その被爆者の方々にとってこのFMCTというのはどういう意義があるのかということについて、お考えがあれば教えてください。
○参考人(川崎哲君) 御存じない方が本当に多いと思います。多くの方々は、とにかく核兵器をなくしてほしいというふうに思っていて、それで、私の身近なところでも、核兵器禁止条約ができたのに核兵器なくなっていないのはどういうことというふうに怒られたことがありまして、それは恐らく、広島や長崎の方も含め、多くの人たちの正直なところだと思うんですよね。2017年、条約できたと喜んで、本当に核兵器がなくなると思ったら、全然それがそうもいかないということなわけですので。
そこで、実際には一個一個、先ほど各論と言いましたけれども、一個一個の各論において突破しなければいけない壁があるわけでありますけれども、ですから、しかし、それを、大きなうねりをつくって、とにかく核兵器というものはいけないものだし、なくさなければいけないという大きな国際的な方向性ができているんだから、そのうちの一つとして、かなり今日の議論もそうでしたけど、専門的な議論も多いですけれども、そこを詰めて進めていこうと、こういうことに取り組むのが、政治家の皆さんもそうでしょうし、専門的な知見を持っている人たちの役割でもあるだろうというふうに思います。
○岩渕友君 ありがとうございます。
続けて川崎参考人にお伺いをしたいんですけれども、日本がFMCTを進めるといいながら、お話があったように、非軍事用のプルトニウムの保有がどんどん増えてきているということで、これ非常に矛盾をしているんだというふうに思うんですね。
それで、六ケ所村の再処理工場の完成、めどは立っていないわけですけれども、先ほど参考人からは中止してはどうかというようなお話もあって、それは私もそうだというふうに思うんです。
先ほどの議論の中で、日本はイニシアチブを取れるというお話あったかと思うんですけど、その問題についてちょっともう少し詳しく教えてください。
○参考人(川崎哲君) 私、イランの外交官とも話をしたことがありますけれども、イランという国は核兵器を開発しているんじゃないかという疑惑が持たれている国でありますけれども、そのイランの外交官が、自分たちは日本のようになりたいのであると、日本は非常に先進的な核技術を持っていて、使用済燃料を再処理する技術もあるじゃないかと、日本がそれを持っていて、なぜ我々は許されないんだと、こういうような言い方をすることがあるわけですね。
そこに見て取れるように、ある種、日本が、日本政府の言い分としては模範的にやっていたとしても、口実に使われていくと、そのことによって潜在的な核兵器格差に口実を与えてしまう可能性があるということですね。ですから、きちんとイニシアチブを取るべきだろうというふうに思います。
2018年の時点で、日本政府は、これ以上はプルトニウムを増やさないんだという、そういうことを明確にしました。しましたが、もしかすると、これから減らしていった分また増やしていいんじゃないかという議論が起きる可能性がありまして、それではいけませんよというのが私今日申し上げた、六ケ所の施設についてはこれ中止するしかないんじゃないかというふうに申し上げたのは、減らした分増やしたらまた同じことであります。やはり、きちっと減らしていくというためには、今あるものは何らかのその処分方法を見出していかなければいけないわけですし、これ以上増やさないという部分が日本の世界に対する姿勢としても重要なんじゃないかというふうに思います。
○岩渕友君 参考人の皆様、ありがとうございました。以上で終わります。
2024年2月21日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の交渉開始への取組と課題」
一橋大学大学院 法学研究科 教授 秋山信将参考人
○参考人(秋山信将君) ただいま御紹介いただきました一橋大学法学研究科の秋山と申します。
本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
このFMCTは、総理も御尽力されているということと、あと猪口先生も軍代大使のときに大変に御尽力をされたということで、むしろ先生の前でお話をしなければいけないということで緊張しているところでございます。
本日私がお話しさせていただきたいのは、このFMCT、あるいはより広く、核兵器用の核分裂性物質の規制に伴う様々な、その政治的な環境であるとか、あるいはそのために日本が何をすべき、この核分裂性物質の削減に向け何をすべきなのかということについてお話をさせていただきたいと思います。
お手元にレジュメとそれから私の原稿が配付されておりますので、そちらに沿ってお話をさせていただければというふうに思います。
まず、この核兵器を保有する過程において最も技術的に重大な課題は、核兵器用の核分裂性物質の獲得であります。もちろん、核物質を格納し起爆させることが可能な弾頭の設計や製造、さらには運搬手段であるミサイルの開発にも高い技術力を必要とすることは言うまでもありません。やはり、とはいえ、核兵器用の核分裂性物質の獲得というのが最大の鍵を握っていると言っても過言ではございません。
それでは、この兵器用の核分裂性物質の取得をどこでどのように規制したらよいのでしょうか。また、そのような規制が導入されることはどのような意味を持つのでしょうか。
核分裂性物質の獲得を禁止する政策を考える上では、幾つかの視点があると思います。第一に、核兵器なき世界を目指すという軍縮の視点です。
兵器用の核分裂性物質の取得及び製造を規制することは、核兵器の拡散を防止するという観点から効果的な措置であると言えます。また、核軍縮の観点から見れば、少なくとも現状から核兵器を増加させない、すなわち核軍縮のベースラインを確立するという意味で、また、核兵器が削減され核軍縮に進展が見られた場合、軍縮の不可逆性を担保するという視点から有効な措置であると考えます。
ただ、国際政治の現実を考えると、この視点だけでは十分とは言えません。核兵器を削減していくことに国際社会のコンセンサスが形成されるために、あるいはコンセンサスが形成されるまでにどのような取組が核分裂性物質の管理において必要か、そしてリスクをどのように管理し削減していくのかを考えていく必要があります。
核分裂性物質の獲得とそれに応じた規制の措置というのは様々なアプローチがございます。特に核の場合には、これは究極の両用技術でありまして、民生用の物質と兵器用の物質というのを技術的には厳格に区別して捉えることは不可能でありますので、様々な場合分けをこの二ポツのところでしてございますけれども、本日は時間の都合でここは省略させていただければというふうに思います。
ここを飛ばしまして、3ポツのFMCTの交渉における論点というところをお話をさせていただきます。
FMCTの交渉については、1993年の国連決議48/75において、適切な国際機関において、差別的でなく、多国間で、国際的かつ効果的に検証可能な兵器用核分裂性物質の削減を交渉するように勧告がなされ、1995年にカナダのシャノン大使の下で合意されたいわゆるシャノン・マンデートが交渉の在り方について大枠を規定し、多くの国がFMCT交渉の基本方針として位置付けてきました。
FMCTの交渉において争点となっているのは、主として、規制の対象の範囲、スコープ、それから禁止すべき物質を含め用語の定義、ディフィニション、それから検証、ベリフィケーションの在り方です。
①のスコープについては、幾つかのポイントがあります。第一に、規制すべき対象は新たな製造に限るべきなのか、あるいは既存の貯蔵分、ストックパイルも含めるのかという点です。
既存のストックパイルを含めることに対して核保有国は積極的ではなく、FMCTの交渉を支持する核保有国でも将来の生産のみを対象にすべきという意見が有力です。しかし、ストックパイルを含めなければ核兵器の削減への明確な方向付けにはならないという議論もあります。他方で、既存のストックパイルを含め削減を方向付けることになれば、生産禁止だけではなく、民生用からの転用などについても規制の範囲に含まれるべきでしょう。
なお、日本政府は、核兵器の製造、使用、研究のための核分裂性物質の生産禁止、生産援助の禁止のほか、生産施設の閉鎖や民生用への転換の禁止、閉鎖施設や民生転換された施設の軍事用に再転用することの禁止、余剰と指定された物質のストックを再び核兵器用に戻すことの禁止、非核兵器用の核分裂性物質の軍事転用の禁止、兵器用核分裂性物質の他国からの受容あるいは他国への移転の禁止なども条約上の義務として想定されると指摘しています。
次に、条約で使用される用語の定義についてですが、そもそも兵器用核分裂性物質とはどのような核分裂性物質を指すのか、どう定義するのかというのは、この条約のスコープの目的を大きく左右するものであります。
核兵器に使用される核分裂性物質は、プルトニウム239、ウラン235若しくは233が主たるもので、IAEAでは特殊核分裂性物質という用語が使用されています。他方で、兵器級という言葉も使われていますけれども、ウエポングレードとなると、例えばウラン235の濃縮度は90%程度あった方がよいというふうに言われておりますし、それからプルトニウム239も純度95%程度とされています。
しかし、これよりも濃度が低いからといって核兵器が製造できないわけではありません。広島に投下されたリトルボーイに使われたウラン235の濃縮度は80%程度と言われています。また、現在核開発の瀬戸際外交を展開しているイランは濃縮度60%のウランの貯蔵量を増やしています。このレベルまで濃縮されれば、兵器級に濃縮されるまでそれほど遠くありません。ただし、そこから追加的な処置が、処理が必要となります。ですから、そのまま核兵器に使用できる直接利用物質と間接利用物質という分類の方法もあります。
いずれにしても、兵器用核分裂性物質を広く定義すればするほど実効性は上がりますが、今度は交渉で合意を得ること、そして条約の履行を担保する検証の手続も複雑かつ広範になってしまいます。
その他、生産施設を規制すると一言で言っても、核分裂性物質の製造過程は何段階にも分かれており、しかもそれらの手順は民生用核分裂性物質の製造とほぼ同一であり、どの施設を対象にすべきなのか、どのように対象施設を指定するのか、すなわち、民生用と軍事用に区別し、その区別の実効性を担保するのかなどが課題になるでしょう。
そして、その検証ですが、多くの国は検証付きの条約を支持しますが、何を検証すべきなのかという検証の範囲や検証の正確性と完全性のレベル、その担保についての議論が分かれそうです。
さらに、核兵器国に対する検証については、IAEAに規定された保障措置と同様の問題が発生します。核兵器国あるいは核兵器保有国に対しては、ボランタリー・オファー型の保障措置協定ないしはINFCIRC六六タイプの保障措置協定が適用され、追加議定書においても非核兵器国と同様な内容の保障措置が適用されているわけではありません。
したがって、FMCTの目的をより高い信頼性を持って達成するためには、条約が発効し、これに加盟した核兵器国及び核兵器保有国に対して、非核兵器国並みの保障措置の実施が必須となりますが、果たしてこれらを核保有国が受け入れるのかという疑問があります。
では、なぜこのFMCTの交渉が困難に直面しているのか。
これまでFMCTの交渉に当たり考慮すべきテクニカルなイシューについてお話をしてきましたけれども、実際の交渉はどのような状況にあるのでしょうか。現実に目を向けると、ジュネーブ軍縮会議の様子を仄聞するに、交渉開始の見通しがなかなか立っていないというのが現状のようです。
シャノン・マンデートでは、CDに、軍縮会議にですね、FMCT交渉のための特別委員会を設立することが含まれていますけれども、CDは作業計画に合意することができておらず、機能が長い間停滞しております。こうした状況でFMCTについても交渉に入れていない状態が続いております。
CDで、じゃ、交渉の開始に合意することが困難であれば、国連などコンセンサスでの決定を必要としない他のフォーラムに交渉のアリーナを移すことを検討すべきというのは幾つかの国が主張しているところで、日本政府もこの立場を取っています。しかし、当然のことながら、交渉の進展を望まない国は、CDに特別委員会を設置すべきというシャノン・マンデートを盾にしてこのアイデアをブロックしております。
FMCTの特別委員会が設置できない原因の一つは、パキスタンの反対にあります。CDでは、議題の設定から文書の採択に至るまで基本的にコンセンサスによることが習慣となっております。パキスタンは、核分裂性物質の生産が禁止されることになれば、現状の核の不均衡が固定化されることになるとの論理で反対をしております。インドとの競争において核の不均衡が永続する可能性があるとの思惑からです。そして、パキスタンの姿勢の背後には中国がいるとの声も聞かれます。中国もFMCTの交渉については消極的です。
また、我が国の安全保障という視点から核軍縮及び核分裂性物質の規制という問題を見た場合、北朝鮮と並び中国の姿勢というのは極めて重要な要素となっております。
中国は、NPT上認められた核兵器国N5の中で唯一核戦力を増強しており、その核関連の活動は最も透明性が低く、今後拡大していく可能性は高いと見ております。米国の国防総省の見積りでは、2030年までに1000発、2035年までに1500発程度の核弾頭を保有するとされています。
この数字がどの程度信頼できるものかについては議論の余地はあります。ただし、中国は現在CFR600という型式の高速増殖炉二基の建設プロジェクトを進行させておりまして、そのうちの一基は既に完成し、運転が開始されている兆候、建屋から、建屋の排気塔から蒸気が噴出しているといった映像が、画像が確認されています。中国は、これらの高速増殖炉は民生用であるとしていますけれども、高速炉が二基とも完成し、フル稼働し、使用済燃料が再処理されるようになって、抽出されたプルトニウムが軍事転用されると想定すると、国防総省の見積りは計算が合うということになります。
中国の民生用プルトニウムの保有量ですけれども、これは2016年の時点で40.9キロとされていましたが、高速増殖炉の建設が開始された2017年以降、民生用のプルトニウム管理についてIAEAに報告することをやめております。IAEAのIAEAにおけるプルトニウム管理に関する指針という文書、INFCIRC549という文書ですけれども、これは民生用のプルトニウムを保有する九か国がその管理状況をIAEAに報告することを求めています。これは法的な義務はありませんけれども、透明性を担保し、信頼を醸成するために重要な措置であります。しかし、中国がIAEAに対して報告をやめていることは、民生用プログラムの軍事転用が疑われても仕方がないという状況証拠と言えるかもしれません。
また、現在、FMCTの交渉が開始されない中、中国を除くN5は兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言しておりますけれども、中国はモラトリアムの宣言は核軍縮に向け実効性がないと主張しており、実際のところ、米ロに対して一定程度までキャッチアップをするまでは核戦力の規模や今後の核戦力増強の傾向を知られたくない、そして活動を縛られたくないということだと考えております。
米ロは、新STARTの条約の下で、軍備管理の取決めの中、配備される核弾頭数の上限を1550発と定めています。そのほかに、貯蔵されたものや退役、解体待ちの弾頭もあり、合わせると、米国は約5400、ロシアは約6000発ほど保有しております。中国からすれば、核弾頭、ひいては核分裂性物質を大量に保有する米ロがまず削減すべきであるということではないかと思われます。
なお、北朝鮮に関しても、従来プルトニウムの製造に使用されてきた5メガワット級の黒鉛減速炉に加え、その近くに新たに軽水炉を建設し、最近運転を開始したとの報道もありました。軽水炉での使用済燃料は再処理をしてプルトニウムを抽出することが可能ですから、北朝鮮でも核兵器用の核分裂性物質の製造能力が向上しているということが言えると思います。
では、このような状況を踏まえ、日本としては兵器用核分裂性物質の規制にどのように取り組んでいけばよいのかという点について私見を述べさせていただきたいと思います。
まず、核兵器なき世界を目指す中で、核分裂性物質の生産を停止し、貯蔵量を削減していくことは必要なことですから、FMCTの推進は理にかなっていると思います。したがって、その交渉開始に向けて積極的に取り組む姿勢は、軍縮へのコミットメントを示すという観点から大いに意義があると言えます。
ただし、姿勢を示すというパブリックディプロマシー的な要素だけでは不十分です。CDではパキスタンが消極姿勢であり、また中国にも核分裂性物質生産を規制する意欲がないとすれば、当面FMCT交渉が開始され進展する可能性は低いと言わざるを得ませんが、その間に何をすべきかということを考えるべきであると思います。
一つは、兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムの普遍化、すなわち中国にもモラトリアムの宣言に参加するよう、他の核兵器国のみならず、非同盟諸国などとも協調して働きかけをしていくためのキャンペーンを継続していくべきです。
NPTの運用検討プロセスでは、中国はモラトリアムをNPTの合意文書に入れることに反対しています。多くの国は、ここが中国のレッドラインと理解し、合意形成のために妥協してまいりました。現在、NPT運用検討会議では、様々な案件において対立あるいは分断が深まって、コンセンサスを得ることが次第に難しくなってきています。こうした分断の深まりに隠れる形で中国は、核戦力の透明性の問題と並び、核分裂性物質の生産モラトリアムについても焦点が当てられるのを避けることに成功してきました。今後は、兵器用核分裂性物質の貯蔵量をこれ以上増やさないという国際規範の醸成のために、非同盟諸国あるいは核兵器禁止条約締約国との対話を強化し、モラトリアムが国際規範として確立され、それを受け入れない国に対しピアプレッシャーを与えられるようにしていくべきではないかと思います。
第二に、透明性の向上への取組です。こちらもN5の中で最も透明性が低いとされている中国がターゲットになってしまう感じもありますけれども、核弾頭、運搬手段の保有量、兵器用核分裂性物質の貯蔵量、核ドクトリンなどについて、国際社会に対して核保有国が積極的に情報を開示するよう求めていく必要があります。日本は、NPDIを通じてこのテーマに取り組んでいると理解しておりますけれども、核兵器使用の懸念が高まり、また核軍拡の再来が懸念される中で、信頼醸成措置として、あるいは核軍縮のベースラインを確立する取組として、透明性の確保は一層重要になってきていると思います。
第三に、核兵器国の責任ある行動の在り方についての議論を高めていくのも一案だと思います。つまり、核兵器国が国際の平和と安全に対して持つ特殊な責任に対して、可視化された形でその責任を果たすことを明確にする、示すことを求めるということです。例えば、核兵器や核分裂性物質を安全に管理していることをあるいは国際社会に見える形で証明することや、あるいは核ドクトリンが国際人道法に照らして整合的かどうかを説明する責任、あるいはもし核兵器が使用された場合の環境破壊や人的、社会的な二次被害などに対する責任などについて議論を深めていくことです。
そして最後に、中国との対話です。安全保障の論理では、関係国のどちらか一方が何かを主張し、あるいは行動することでは安定した関係を望むことは困難です。日本がどんなに一方的に主張しても、それが中国の受け入れるところとならなければ意味がありません。中国には中国の懸念があります。我々はそれに共感する必要はありませんが、理解し、お互いにとって何が懸念か、そしてそれを相互に解消していくためには何をすべきかについて率直に議論する戦略対話が必要であると思います。対立を抱えていても、対話を通じてリスク管理を行い脅威削減を行っていくことは、万が一に備えることと並行して進めていくべきだと思います。
以上、FMCTをめぐる幾つかの論点と日本の取組として望むことについて述べさせていただきました。
御清聴ありがとうございました。
2024年2月21日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の交渉開始への取組と課題」
青山学院大学 国際政治経済学部 教授 阿部達也参考人
○参考人(阿部達也君) 御出席の皆様、こんにちは。ただいま御紹介にあずかりました青山学院大学国際政治経済学部の阿部達也と申します。
本日は、このような場で意見を述べさせていただく機会をいただき、誠にありがとうございます。
早速レジュメに沿って進めさせていただきます。
スライド2枚目に目次を入れました。「はじめに」に当たる次のスライドでは、まず問題の所在を明らかにします。続く本論は、二つに分けて、前半でFMCT構想の意義について、後半ではFMCT構想の課題について、それぞれ議論していきます。最後の30枚目のスライドでは、地道な努力が必要なことを強調して、「おわりに」に代えることといたしたいと思います。
スライド3枚目。FMCTに関する問題は、端的には、条約の早期締結の必要性が国際社会において広く共有されているものの、依然として交渉さえ開始されていないという点に尽きると思います。交渉の開始を妨げている要因は何か、その要因を克服するためにどのような取組が考えられるのか、短期的に克服できない場合にはどのような代替的措置が考えられるのか、これらの論点を念頭に置きまして本論に入りたいと思います。
スライド4枚目。FMCTは、平たく申しますと、核兵器の原料となる物質の生産を禁止する条約です。核廃絶に向けた次の論理的なステップという表現がFMCT構想の意義をよく表していると思います。核兵器を造るためには原料が必要ですので、その原料の生産を止めて核兵器の増加を断ち切ろうという発想です。このステップが実現すれば、更に核兵器を減らしていくという道筋が見えてくるでしょう。
現時点で核兵器を保有しているか、又は保有していると考えられている国は、このスライドの下に示した9か国でございます。これらがFMCTの直接利害関係国ということになります。
スライド5枚目。FMCTは、核廃絶に向けた様々な措置の中でも、条約という法的拘束力のある措置と位置付けられます。特に核軍拡の制限という文脈では、質的な制限を目的とする包括的核実験禁止条約、これとの対比において、量的な制限を目的とするものと捉えることができます。
スライド6枚目。FMCTの目的が核兵器の量的増加を止めるという点については各国の間で認識が共有されているものと思います。しかしながら、それでは条約が何をどこまで規制するのかという問題については従来から二つの立場が対立してきました。そして、この対立が交渉の開始を阻む大きな要因の一つとなっています。端的に申しますと、左側のように、条約の対象を、生産の禁止だけでなく、これまでに核兵器用に生産された在庫、ストックの規制も含めるという広義論と、右側のように、条約の対象を生産の禁止のみに限定する狭義論の二つの立場があります。この二つの立場は1950年代から主張されてきたもので、時代によって主張する国は変わってきました。
スライド7枚目。1950年代の核兵器用核分裂性物質の規制に関する議論の中で広義論を展開していたのは西側諸国でした。この主張は国連総会決議に反映されたのですが、東側諸国からは反対票が投じられました。
スライド8枚目。1960年代前半に、米ソ両国は狭義論の立場で足並みをそろえます。他方で日本は、当時のジュネーブの交渉枠組みである18か国軍縮委員会の場で広義論の立場を取っています。そして、1978年に開催された国連軍縮特別総会が最終文書の中で言及したのは狭義論でした。最終文書はコンセンサスで採択されていますので、参加国の受入れ可能な最低ラインが狭義論だったということになると思います。
スライド9枚目。FMCTの今日的な議論は、1993年9月のクリントン大統領国連総会演説を起源としています。FMCTの交渉開始を提案するもので、3か月後の国連総会決議につながり、当該決議はジュネーブの交渉枠組みである軍縮会議に対して交渉開始を勧告しました。ここで留意すべきは、クリントン大統領提案も国連総会決議も生産の禁止のみに言及していたということです。
議論の場はジュネーブの軍縮会議に移ります。当時のシャノン・カナダ大使が特別調査官として調整に当たり、特別調整官として調整に当たり、1995年3月にまとめられたのがシャノン報告書です。この報告書では、条約交渉のために新たに設置される特別委員会のマンデートとして生産の禁止に言及し、さらに、いかなる問題を提起することも排除しないことに合意したという補足の一文が加わりました。議論の対象は、マンデートそれ自体に着目すれば生産の禁止に限定されるのですが、補足の一文を含む報告書全体から見れば生産の禁止に限定されないという解釈が成り立ちます。
このいわゆるシャノン・マンデート又はシャノン報告書は、その後の多数国間の場で引用され、ある種の駆け引きが展開されることになります。具体例を示したのがスライド10枚目と11枚目でございますが、時間の関係で省略させていただきます。
スライド12枚目。ここまで、広義論と狭義論が1950年代から存在している考え方であることを確認し、1993年以降の今日的な議論においてもこの二つの立場が引き続き存在していることを明らかにしてきました。現在は、核兵器を保有する国の中でパキスタン1か国が孤立を恐れることなく強硬に広義論を唱え、これを中東圏、イスラム圏、中南米諸国が支持する一方で、パキスタン以外の核兵器保有国が狭義論に執着しているという対立の構造になっています。
スライド13枚目。ここから、本論の後半として、FMCT構想の課題について考察していきたいと思います。既に言及のとおり、FMCTの実質的な対象国は九か国です。FMCTによって生産が禁止されることになるであろう高濃縮ウランとプルトニウムの各国の推定保有量を表にまとめてみました。
NPTで核兵器の保有が認められた核兵器国5か国は、全て自発的な生産停止、いわゆる生産モラトリアムの状況にあると見られています。特に、米、ロ、英、仏の4か国は、自ら生産モラトリアムを宣言しています。これに対して、それ以外の4か国は生産モラトリアムとは無縁です。FMCTは、理想的にはこれら9か国全ての合意を得て成立させたいところです。
スライド14枚目。それでは、核軍縮・不拡散をめぐる現状はそのような合意を可能なものとするのでしょうか。ターニングポイントを1995年のNPT無期限延長決定に置き、冷戦終結後の核軍縮・不拡散について簡単に振り返ってみたいと思います。
スライド15枚目。客観的に見れば、1990年代前半は軍縮全般について様々な肯定的な進展がありました。冷戦終結直後だったからこそ政治的に可能だったという側面は否定できません。他方で、法的にはNPTの延長問題が大きく影響していたと考えます。1995年のNPT延長・運用検討会議において、無期限延長を確保するために様々な措置が繰り出される状況だったのです。1993年に国連総会でFMCTの交渉開始が勧告されたことは、この文脈において理解されるべきと思われます。
スライド16枚目。1995年以降、核軍縮・不拡散は、若干の進展は見られつつも全体的に見れば停滞し、さらに近年ではむしろ後退しているという状況です。多数国間条約であれ、米ロの二国間条約であれ、様々な条約が機能不全を起こしており、FMCTを含む新たな条約の作成はより困難になっています。
御承知のとおり、NPT運用検討会議は2010年を最後に2回続けて最終文書を採択できず、包括的核実験禁止条約の発効は全く見通せていません。中距離核戦力全廃条約は失効し、新START条約は運用停止に陥っています。
スライド17枚目は、核軍縮交渉を義務付ける条文を持つNPTに拘束されていてもいなくても核兵器保有量が増えている状況の生じていることを示すデータです。
スライド18枚目は、具体的な上限を設定した米ロ二国間条約が運用停止に追い込まれると、核兵器の現状が一気に不透明になってしまうことを示すグラフです。
このように、現状は少なくとも政治的に見れば新しい条約の作成という雰囲気ではなく、また、1990年代前半のように核軍縮・不拡散の進展を促す法的な要因も存在していないのです。
スライド19枚目。ここからは法的な文脈に焦点を当てて、FMCT構想に内在する課題を挙げてみたいと思います。
FMCTは法的拘束力のある条約です。それゆえ、条約法という条約に関するルールを規律する国際法の分野の一般的な又は特別の規則が適用されることになります。
条約とは、特に多数国間条約とは、多数国間の交渉によって成立し、発効要件を満たして初めて効力を発生し、拘束されることに同意した国のみを拘束するものです。その意味では、交渉の段階で何を優先させるのかが重要になると考えます。
スライド20枚目。FMCTの交渉開始を妨げている要因として必ず指摘されるのが、ジュネーブの交渉枠組みである軍縮会議におけるパキスタンの反対です。
パキスタンは、FMCTが核分裂性物質の在庫量の不均衡を固定化させるものであるとして、軍縮会議での交渉開始に反対してきました。孤立を全く恐れないその姿勢は従来から一貫しています。パキスタンの戦略が成功している背景には、交渉の場を軍縮会議とすることに幅広い支持があることと、軍縮会議の意思決定が手続事項を含めてコンセンサスにより行われることが挙げられます。
一般論として、コンセンサスで条約が成立すれば、多数の参加が得られて条約の普遍性が高まると思います。もっとも、事実上、どの国も拒否権を持つことになりますので、成立に至るまでに時間が掛かるでしょう。これに対して、多数決による意思決定を認める場合は、成立は相対的に容易になりますが、条約の普遍性を得るのは難しくなります。
これまで成立した軍縮に関係する条約を分類するとスライドのようになります。現状を打開する案があるとすれば、それは軍縮会議の手続規則を変更するか、交渉の場を軍縮会議以外に移すかのどちらかです。どちらも得るものと失うものがありますので、判断は非常に難しいものとなるでしょう。
スライド21枚目。実際に条約の交渉が開始された場合、既に取り上げた規制の対象にとどまらず、義務や検証制度など様々な論点について合意に至る必要があります。実際には、軍縮会議に提出された各国の作業文書、条約案、軍縮会議の非公式な会合における意見交換、2010年代に取りまとめられた政府専門家グループとハイレベル専門家準備グループの報告書などを通じて、FMCTに盛り込むべき要素はほぼ出し尽くされているという状況でもあります。
スライド22枚目は、条約の発効要件が厳し過ぎると、条約それ自体が発効しない可能性のあることを示したものです。時間の関係で詳細は割愛させていただきます。
スライド23枚目は、条約が成立したとしても、条約への参加は必ずしも保証されないことを示したものです。
スライド24枚目。以上のように、FMCTにはFMCTが条約であることに内在する様々な課題があることをお分かりいただけたかと思います。これらの課題を克服することは容易なことではありません。それでもやはり条約方式を追求する必要は認められると考えます。
その理由として、第一に、無差別、多数国間、国際的、実効的に検証可能な条約というシャノン・マンデートに明示されたコンセプトが広く受け入れられているということ、第二に、条約が法的拘束力を持つことの意味が各国の間でよく理解されているということ、第三に、複雑な対立点は交渉を通じて解決されていくものだということを挙げたいと思います。したがいまして、あくまでも条約方式を追求するのであれば、条約に後ろ向きな国の懸念を解消させるための努力が重要になると考えます。
スライド25枚目。残念ながら、現状においては、少なくとも短期的には条約方式の追求は難しいと言わざるを得ません。このような状況にあっては、暫定的に代替的なアプローチとして非拘束的な措置に活路を見出すべきではないでしょうか。
スライド26枚目。非拘束的な措置は、その柔軟性に大きな特徴があります。法的義務を課すものではございませんので、核兵器を保有している国に受け入れられやすいだろうという希望的観測が働きます。実際に、NPT運用検討会議や国連総会決議によって履行の求められている措置は全て非拘束的措置です。措置の履行を通じた国家間の信頼醸成の向上や条約に後ろ向きな国の懸念の解消が期待されます。
スライド27枚目。具体的には、核兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムに関して、既に宣言している国にはその継続を求め、まだ宣言していない国には宣言を求めます。また、核兵器用核分裂性物質の生産施設の廃棄や転換を奨励します。さらに、核兵器用核分裂性物質の在庫に関する情報提供を要請します。これらの措置は、NPT運用検討会議の最終文書と国連総会決議のいずれか又は両方で既に設定されているものです。
スライド28枚目。問題は、これらの措置の履行を監視するメカニズムが制度化されていないことです。このようなメカニズムが導入されれば、さきのスライドに挙げたような措置の意義はより高まることでしょう。
スライド29枚目。非拘束的措置の留意点として二点を挙げておきたいと思います。
一点目は、拘束力がないので、履行に対する動機付けを欠くことです。特に、措置の導入に反対した国からは完全に無視される可能性があります。例えば、中国は従来からモラトリアム宣言に否定的で、NPT運用検討会議では最終文書にこの要素を含める提案に常に反対してきました。もっとも、非拘束的措置はそもそもそういうものだと思います。むしろ、未履行の状況が公になることで履行していない国に政治的な圧力が掛かる、そのことに意義を見出すべきではないでしょうか。
二つ目は、措置の暫定的な性格が恒久化する可能性のあることです。条約が成立しないのであれば、それもやむを得ません。それでも、措置が履行され、核兵器用核分裂性物質の生産が停止されている限り、条約に拘束されている場合と同じような状況が出現することになりますので、ここに肯定的な要素を見出すべきと考えます。
最後のスライド、30枚目です。最後のスライドでは、地道な努力が必要なことを強調して、「おわりに」に代えたいと思います。
FMCTは条約です。条約方式には大きな意義が読み取られますが、同時に乗り越えなければならないハードルが多いことも事実です。あくまでも条約の成立を目標に掲げるのであれば、交渉のための環境づくりを粘り強く進めていく必要があります。
これに関連して、軍縮会議における交渉を追求し続けて何の成果も得られなかった、何の進展もなかった空白の30年、これをどのように捉えるべきか。交渉の別の場を選ぶ政治的な決断に踏み出すべきなのか。これは、FMCTの内容を大きく左右し得る論点であるだけに、非常に難しい判断が迫られることになるかと思います。
このような状況の中で、少しでも何らかの進展を見出そうとすれば、暫定的な代替アプローチを真剣に模索すべきであり、既にその段階を迎えているのではないかと考えるところでございます。
以上で意見の陳述を終わらせていただきます。
御清聴、誠にありがとうございました。
2024年2月14日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の交渉開始への取組と課題」
NGO法人 ピースボート 共同代表 川崎哲参考人
○参考人(川崎哲君) 猪口会長、委員の皆様、本日、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
私も資料を用意してまいりましたので、このとじてある資料に沿ってお話をしていきたいというふうに思います。さきの秋山、阿部両参考人の話と重なるところもたくさんありますけれども、御容赦いただければというふうに思います。
私は、核兵器廃絶国際キャンペーン、ICANに集う世界中の仲間たちと、また、広島や長崎の被爆者の皆さんと協力をしながら、核兵器廃絶のための活動を続けてまいりました。
2017年7月に、核兵器を非人道兵器と断じ、その開発、保有、使用を全面的に禁止する核兵器禁止条約が採択されました。同条約が2021年1月に発効してから3年がたち、締約国又は署名国として加わっている国の数の総数は97か国に上っております。しかし、こちら、表1、世界の核弾頭数にありますように、いまだに世界では9か国が合計1万2000発以上の核兵器を保有しており、冷戦終結以後、核兵器の総数自体は減少し続けてきましたけれども、近年、現役の核弾頭数はむしろ増加の傾向を見せております。
提案されているFMCTは、核兵器の材料物質の生産を禁止し、核軍拡を止めるということがその最大の意義であります。FMCTをめぐる課題について、私自身がその成立に関わってきた核兵器禁止条約との関係に触れながら、意見を述べてまいりたいというふうに思います。
まず、FMCTとは何のための条約かということであります。
めくって表2を御覧いただきたいと思いますけれども、FMCTは、核兵器を規制、禁止する様々な国際的な取組の中の一つに位置付けられます。
今日、全世界的な規範を作るための多国間条約としては、NPT、核兵器不拡散条約、CTBT、包括的核実験禁止条約、そしてTPNWとも称される核兵器禁止条約が存在します。このうちNPTは、新たな核保有国の出現を防ぐ核不拡散については厳しく規定しておりますけれども、核保有国による核軍縮については一般的な甘い規定にとどまっております。
そこで、NPTが1995年に無期限延長される際に、具体的な核軍縮措置として、核実験を禁止するCTBTと核兵器の材料物質の生産を禁止するFMCTの二つが優先課題として合意をされました。そのうちCTBTは、ジュネーブ軍縮会議で交渉され、1996年に採択されました。一方のFMCTは、いまだ交渉開始に至っておらず、その見通しも立っておりません。
その一方で、核兵器禁止条約は、1997年にNGOによるモデル案が示され、2010年以降機運が高まり、2017年に交渉の上採択され、今日では世界の約半数の国が参加するに至っています。
表3を御覧いただきたいと思いますけれども、これらの多国間条約の基本的な対比をここで示しております。
めくっていただきまして、FMCTが規制しようとしておりますのは、核兵器の材料物質、すなわち高濃縮ウランとプルトニウムであります。これらの核分裂性物質を核兵器目的で生産することを禁止しようというものであります。
1995年にジュネーブ軍縮会議で、差別的でなく、多国間の検証可能なFMCTを交渉するという基本的な構想が示されました。これに対して、これら核分裂性物質の将来の生産のみを禁止するのか、それとも既存の核分裂性物質も規制の対象に含めるのかという論争が続いてきました。将来の生産だけ禁止し、既存の物質を対象にしなければ、当然、これまで多くの核分裂性物質を生産し貯蔵してきた核保有国に有利に働くことになります。こうしたことから、南アフリカなど非同盟諸国を中心に多くの国が既存の貯蔵分も対象に含めることが核軍縮にとっては不可欠であると主張しています。
実は、CTBTにも同じように、先に核保有国となった国と後進の核保有国の格差という問題があります。すなわち、米国のように、既に多くの核実験を行った国が他の国々が新たに核実験を行うことを止めるという性格があるわけです。つまり、CTBTやFMCTは核軍縮のための措置と言われますが、同時に、新たな核保有国の出現の防止という核不拡散の側面や後進の核保有国の活動を制限するという垂直拡散の防止という側面があるのです。
日本政府は、名指しこそしないものの、中国の核軍拡を封じるという観点を中心に置いてFMCTを促進しているように見えます。ヒロシマ・アクション・プランにおいても、昨年のG7広島サミットにおいても、中国を念頭に核戦力の透明性の必要性を強調し、その文脈の中でFMCTの交渉開始を呼びかけています。しかし、NPTが世界を5つの核兵器国とそれ以外の国に分けたように、FMCTが新たな差別構造を持ち込むような形で作られるならば、それは国際的な幅広い支持を得られません。
ジュネーブ軍縮会議においては、パキスタンが既存の貯蔵分を含めないFMCTは差別的だと主張して、ほぼ一か国のみで議論をブロックし続けてきました。そのパキスタンは核保有国であり、年々核兵器を増産し続けています。皮肉なことに、不平等なFMCTには反対だというパキスタンの主張は、その不平等を埋めんとばかりの同国の核軍拡を許す結果につながってきたのです。
中国も、最大の核保有国である米ロがまず核軍縮をして初めて他の核保有国も核軍縮プロセスに参加できるようになると主張しています。中国の核軍備増強は懸念されるところでありますけれども、それでも総数においては米ロとは一桁異なります。米ロにおける核軍縮の停滞は、結果的に中国の核軍拡を許すことにもつながっています。
したがって、FMCTを目指すのであれば、それが核保有国間の格差を固定するためではなく、核不拡散のためだけでもなく、あくまでその目的が核兵器のない世界を目指した核軍縮にあるということを明確にしなければなりません。そして、全ての国に対して普遍的に規制を掛けるものにしなければなりません。さもなくば、信頼を得られず、結局実効性も持ち得ないでしょう。
さて、次に、核兵器禁止条約とFMCTの関係についてです。
2017年の核兵器禁止条約によって、核兵器の開発や生産は全面的に禁止されました。核兵器の材料物質の生産は、同条約の下で既に禁止されているというふうに解釈することができます。したがって、核兵器禁止条約の締約国は、FMCTに入るまでもなく核兵器の材料物質の生産を禁止されているということになります。
それゆえ、日本は、まずもって核兵器禁止条約に加わり、他国に対してもそのことを促せばよいと考えられますけれども、政府はそのようにはしておりません。このことの妥当性については、国会議員の皆様にはよく考えて審議をしていただきたいと思います。
しかし、それはさておき、核兵器禁止条約が既に存在する上で、更にFMCTを作るとしたらどのような意義があるかということについて考えたいと思います。
一つは、核分裂性物質に焦点を当てて、技術的な検証を含む精緻な禁止と規制を行うというところに意義があります。もう一つは、核保有国が加わる可能性があるということです。核兵器禁止条約には、現在、核保有国は1か国も加わっておらず、近い将来加わる見通しも残念ながらありません。これに対して、新たにFMCTを作り、そこに核保有国が一定程度加わる見通しが立つのであれば、それには意義があると言えるでしょう。
ここで、核分裂性物質の禁止や規制の在り方について考えたいと思います。
FMCTについて、将来の生産禁止だけではなく既存の貯蔵分も規制対象に含めるかという論点があるということは、さきの参考人の皆様、また私も述べたとおりであります。真に核軍縮に資するFMCTにするためには、核保有国が既存の貯蔵分を核兵器の維持や近代化に使うことに対しても規制を掛けることが必要であります。
それに加えて、明示的に核兵器目的とされていなかったとしても核兵器に利用可能な物質であるならば規制対象にすべきではないかという論点があります。例えば、今日、中国が民生用として開発をしている再処理施設等が核兵器目的に使われる可能性が指摘をされています。
こうした懸念を背景に、G7サミットでの核軍縮広島ビジョンには、民生用プログラムを装った軍事用プログラムのためのプルトニウムの生産又は生産支援のいかなる試みにも反対すると記されました。民生用とされていても、高濃縮ウランやプルトニウムは本質的に核兵器に利用可能です。したがって、それらの生産や保有を適切に規制しない限り抜け穴となってしまいます。
過去を遡れば、1991年の朝鮮半島非核化共同宣言は、南北両国が核兵器を持たないとうたうに当たり、両国とも再処理施設とウラン濃縮施設を持たないと定めました。そうすることで非核化に実効性を持たせようとしたのです。また、2014年にハーグで開かれた核セキュリティ・サミットでは、高濃縮ウランの保有量を最小化し、分離プルトニウムの保有量を最小限のレベルに維持することがうたわれました。
核分裂性物質に関する国際パネルやカーネギー国際平和財団といった専門家グループからは、プルトニウムの分離は利用目的にかかわらず中止又は禁止する、また、高濃縮ウランについては使用を全面的にやめて低濃縮ウランに転換するといった提言も出されております。
今、世界には約1万2000発の核兵器がありますが、核兵器の材料として使われるおそれのある高濃縮ウランやプルトニウムの量は、資料の最後のページに付けてある別紙にありますように、表4、表5にありますように、核兵器11万発以上分にも上ります。これらに対する総合的な管理の視点が必要になります。プルトニウムについては、国際原子力機関、IAEAの下で管理指針、INFCIRC549が策定をされていますけれども、こうした透明性措置の強化が必要であります。
表五にありますように、中でも日本は今日約45トンのプルトニウムを保有しており、その量は核兵器7600発分にも相当します。非核保有国としては突出した量であります。もちろん、これはIAEAの保障措置下にありますので、即座に核兵器に転用できるというわけではありません。それでも計算誤差の問題は発生します。何といっても、日本の場合には量が格段に多いわけです。
2018年に政府は、当時の保有量約47トンを上限とし、保有プルトニウムを減らしていくと公約しました。確実に削減し、国際的疑念を持たれないようにするためには、青森県六ケ所村の再処理工場の本格稼働を中止することで、これ以上プルトニウムを増やさないようにすることが必要です。
このように、国際的に核分裂性物質への管理を強化する中では、日本が民生用として進めている核燃料政策も再検討を迫られていくことは必至です。自国の分は民生用だから大丈夫、しかし他国の分は民生用と言われても怪しいといった態度は通らないと思います。
次に、FMCTを条約として制定させるプロセスとそこへの核保有国の関与について考えたいと思います。どのような場で条約を交渉するかという問題であります。
これまでジュネーブ軍縮会議での交渉が呼びかけられてきましたけれども、軍縮会議は全会一致制を取っているので、全ての国が拒否権を持つのと同じことであります。今後、軍縮会議で条約交渉が開始できるとは思えません。
1997年の対人地雷禁止条約や2008年のクラスター弾禁止条約は、国連の枠組みを飛び越えて、有志国の外交会議を重ねて成立へとこぎ着けました。
核兵器禁止条約の場合は、第一段階として有志国が核兵器の非人道性に関する議論を重ね、第二段階として核兵器禁止を目指す有志国の誓約を集め、第三段階として国連総会決議を通じ、国連の下で交渉会議を行い、条約を成立させました。この過程では、対人地雷やクラスター弾と同様に、完全に有志国会議で進めるべきとの意見もありました。その方がスピードが速いからです。しかし、将来的に核保有国を巻き込むためには国連という枠組みの下で作るべきだという意見がそれに勝りました。私はこれが正しい選択だったというふうに考えております。
今後、FMCTを作る場合にどのような制定過程を取るかという問題は、核保有国をどのように巻き込んでいくかということと関係します。核兵器禁止条約の場合には、核保有国がすぐには参加しない条約でも早く成立させて、強い禁止規範を作ることを優先すべきだという考え方の下で今日の条約が作られました。その結果、確かに核保有国はいまだ入っておりませんけれども、核兵器の非人道性に関する認識は国際社会にあまねく広がりました。FMCTの場合に、保有国の参加を重視するのか、それとも規範形成を優先するのかということは重要な論点となります。これは条約の発効要件とも関係します。
改めて表3を御覧いただきますと、そこに主たる条約の発効要件、発効状況、現在の締約国数、そして核保有国9か国のうちどこまでをカバーできているかということがまとまっています。
このうちCTBTは、原子力活動を行っている44か国が批准して初めて発効するという厳格な定めをしました。その結果、今日に至っても未発効です。こうした状況を踏まえて、核兵器禁止条約の場合には、単純に五十か国が批准すれば発効すると定めました。一方、CTBTも未発効だから効力がないということではありません。既に圧倒的多数の国が締約国となっていること、そして全世界に核実験の監視システムを張り巡らせていることから、実質的に核実験を抑制する効果を発揮しております。
現実問題としては、核保有9か国全てが最初から参加する条約というものを作ることはほぼ不可能ですから、FMCTにおいて何を優先させるかを慎重に検討する必要があります。条約の交渉が始まっても、既存の貯蔵分を対象に含めるかどうかといった点で交渉が難航することは予想されます。どこまでの内容の条約にするかによって、どの国の参加が期待できるかということも変わってきます。
まとめに入りたいと思います。
核軍縮の世界では、表2や表3に記した様々な条約や制度が組み合わさって、アーキテクチャー、すなわち建造物が造られているという言い方がよくなされます。NPT、CTBT、そして核兵器禁止条約は相互補完的な関係にあり、そこにFMCTをどう組み合わせるのかが最も効果的であるかということを考える必要があります。FMCTを通じて核分裂性物質に対する国際的な管理を強化し、その検証制度をつくっていくことは、NPTに対しても核兵器禁止条約に対しても実効性を高めるために有益です。
いずれにせよ、大前提として、核兵器がいかなる国にとっても許されない非人道兵器であるという基本認識を確認することが絶えず求められます。そのためには、そのためにも日本は、核兵器禁止条約に加わるという政治的意思を示しつつ、同条約の締約国会議には積極的に参加して、核分裂性物質の生産禁止、管理強化、そしてその検証に向けた実質的な議論を牽引すべきであると考えます。
最後に一言申し上げます。
本日、私は他の参考人の先生方がどなたであるかということを知らされることのない状態でこの役割をお引き受けいたしましたが、その後になって3人とも男性であるということを知り、残念に思っております。
近年、核軍縮の世界においてもジェンダーの議論は盛んです。核兵器は女性に偏った被害をもたらす一方で、核兵器をめぐる議論や意思決定の場が男性に依然支配されているということは大きな問題であります。
2022年のNPT再検討会議において、日本は67か国によるジェンダーと多様性、包摂に関する共同声明に連名をしております。猪口会長及び委員の皆様におかれましては、今後の調査会での参考人の選定に当たりましてジェンダーの多様性を重視していただけますようお願いを申し上げまして、私の意見陳述を終えたいと思います。
御清聴ありがとうございました。