日本共産党の岩渕友議員は13日の参院経済産業委員会で、下請法の罰則強化など執行力の強化を求めました。
下請法に基づく親事業者への2024年の指導件数は8230件ですが勧告は21件にすぎません。しかも、同勧告に従わず独占禁止法に基づく優越的地位の乱用が適用された事案はゼロです。岩渕氏は「違反企業にとって痛みを感じない構図になっている」と指摘し、不公正な取引が割に合わないものにするため、▽下請法の対象業種の拡大▽下請法の禁止行為の刑事罰対象化▽罰金の大幅な増額―を求めました。
公正取引委員会の古谷一之委員長は「勧告は行政指導ではあるものの企業名を公表する重い位置づけ。簡易・迅速に原状回復をはかるもの」と、下請法の罰則強化には否定的な考えを示しました。
下請振興法では、親事業者と1次下請け事業者が作成する振興事業計画の承認により金融支援などの措置を受けることができます。岩渕氏は、改正案で適用対象を追加するとしているが、現行法に基づき承認された事業計画は1970年以降の55年間でわずか12件だと指摘。直近で承認された計画についてただすと、中小企業庁の山本和徳事業環境部長は、直近の承認日が32年前で、計画期間も27年前に終了していると初めて明らかにしました。
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217-参-経済産業委員会-007号 2025年05月13日
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
本法案は、我が国の雇用の七割を占める中小企業が賃上げの原資を確保できるようにするため、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるとしています。重要なのは実効性だと思うんですね。そこで、初めに執行力の強化について質問をいたします。
本法案では、親事業者が協議に応じず、一方的に代金の額を決定することが禁止をされるということです。
本会議の質疑で、古谷公取委員長からは、中小の受注者が価格交渉しやすくなり、賃上げをするための原資の確保につながることを期待するという答弁で、あくまで期待するということなんですよね。これで、本会議でも紹介をしましたけれども、二十五年間工賃上がっていないとか、交渉に応じないというふうに言われて値上げの要求さえできないという深刻な実態に対応できるのかということなんです。
下請法違反には、勧告、指導、そして五十万円以下の罰金を科すというふうになっています。けれども、罰金の対象となっているのは発注書面の交付義務違反などの場合なんですよね。
下請法に基づく直近の指導件数が何件になっているでしょうか。また、直近五年間の勧告件数、どうなっているでしょうか。
○政府参考人(向井康二君) お答えいたします。
令和六年度におけます下請法に基づきます指導件数、こちらにつきましては八千二百三十件でございます。そして、直近五年間の勧告件数は、令和二年度が四件、令和三年度が四件、令和四年度が六件、令和五年度が十三件、令和六年度が二十一件、合計四十八件でございます。
○岩渕友君 二十一件が最多だということで、これ勧告件数、余りにも少ないんじゃないかというふうに思うんですよね。
何でこんなに勧告が少ないんでしょうか。
○政府特別補佐人(古谷一之君) 下請法の勧告は行政指導でありますけれども、勧告を受けた事業者が従わない場合には、独占禁止法に基づく行政処分に移行するものであるという事情があります。また、違反した事業者名や違反行為の概要などを公表するものでありますところから、発注者側や受注者側に違反事実の確認を行った上で慎重な事実認定を行って措置をしております。そのため、調査には、勧告のための調査には一定の時間を要しているというのが事実でございます。
一方で、指導の方は、発注書面の記載不備や少額の減額など、比較的軽微な違反のおそれのある行為などについて、私どもが行っております定期調査などを踏まえて措置を行っております。
こうした勧告と指導の違いがありますので、指導件数に比べると勧告件数は少なくならざるを得ませんけれども、令和六年四月に取引適正化担当の審議官を新設するなど、執行体制の強化を図りまして、令和六年度においては過去最多となる二十一件の勧告、公表を行ったところでございます。
今後とも、簡易迅速に下請事業者の利益保護、原状回復を図るという下請法の趣旨にのっとりまして積極的な法執行を行っていきたいと思いますし、そのための公正取引委員会の体制強化、これも図っていきたいというふうに考えております。
○岩渕友君 本会議で罰則の強化ということについても質問をしたんです。そのときに、迅速に違反行為をやめさせて受注者の原状回復がされるように、罰則ではなく勧告などで対応しているんですと、勧告に従わない場合は独禁法で対応するんですというふうな答弁がありました。今も答弁あったかと思うんですけれども。
それで、勧告に従わずに独禁法に基づく優越的地位の濫用が適用された事案、これはあるんでしょうか。
○政府参考人(大胡勝君) お答え申し上げます。
親事業者が下請法に基づき勧告に従わない場合には独禁法違反事件の調査に入りまして、調査の結果、優越的地位の濫用行為が認められれば、独禁法に基づく排除措置命令等が行われることになります。
これまでの下請法で勧告を受けた親事業者が勧告に従わなかった事例はございませんので、独禁法違反に基づく排除措置命令等が行われた事案はございません。
○岩渕友君 今答弁あったように、ないということなんですよね。ただ、実態はやっぱり問題だらけなわけなんですよ。
それで、本会議でも紹介をしましたけれども、全商連という中小企業団体、中小事業者の団体が下請事業者への緊急アンケートを行ったと。そのときに、自ら親事業者に価格交渉を申し出るつもりがないという回答が六割に上って、その理由として、取引が停止されると困る、仕事量が減ると困る、交渉しても価格は上がらないと諦めているという回答が多くなったということなんですよね。そもそも協議さえ言い出せないというのが現場の実態なわけですよ。これ、実態に見合った対応が必要だというふうに思うんですね。
だからこそ、独禁法ではなくて下請法に厳しい罰則があるということがやっぱり抑止力になるんだと思うんですけれども、伊東大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(伊東良孝君) 下請法にも厳しい抑止力となる罰則が必要ではないかという岩渕委員の御質問でありますが、この法律は、簡易迅速に公正な取引を確保し、受注者の利益保護を図るため、独占禁止法の優越的地位の濫用規制を補完する法律として適用対象やあるいは禁止行為を外形的に明確な形で定め、迅速な対応を行うことを主眼としているものであります。
このため、書類作成義務などの手続に関する義務違反に対しては罰則が設けられておりますが、買いたたきや減額などの取引の内容に関する禁止行為に対しては、受注者の利益保護を重視して、罰則ではなく被害金額の返還などを勧告し公表するという行政指導で対処する規制になっているところであります。加えて、先ほど話がありましたように、この法律の勧告に従わない場合には、より強い執行力を有する独占禁止法で対応することが可能であります。
このように、この法律は簡易迅速な事件処理を行うという点で独占禁止法との役割分担がなされていることを踏まえ、この仕組みを維持していくことが適当であると、このように考えているところであります。
引き続き、改正後のこの法律の運用状況等を踏まえ、不断の見直しを行っていく所存でございます。
○岩渕友君 今答弁にもありましたけど、勧告というのはあくまで行政指導にしかすぎないわけですよね。違反企業にとって痛みを感じない構図に今なっているんだと思うんです。不公正な取引がもう割に合わないというふうなものにするために、下請法の対象となる業種を拡大する、刑事罰の対象に下請法の禁止行為を組み込むこと、罰金の大幅な増額など、これが必要だというふうに思うんですね。これ、強く求めたいというふうに思います。
本会議では、下請法の適用外となる中小企業同士の取引についても質問をしました。この間の衆議院も含めた議論を聞いていますと、下請法の対象外となる取引も含めて、取引上の地位の優越関係が認められれば、独占禁止法の優越的地位の濫用規制や、中小企業同士の取引も対象となり得る、下請振興法の振興基準などの活用を通じて取引適正化を定着させる、こうした答弁がされているんですね。
この下請振興法をめぐっては、先ほども議論ありましたけれども、親事業者と一次下請事業者が振興事業計画を作成して金融支援などの措置を受けることができるようになっています。けれども、法律が制定をされた一九七〇年以降五十五年間で十二件しか承認されていないわけですよね。これ、率直に言って少ないと言わざるを得ないと思うんですよ。
これ、最新の振興事業計画の承認はいつでしょうか。また、計画期間はどのくらいでしょうか。
○政府参考人(山本和徳君) お答えいたします。
振興事業計画を承認いたしましたのは、直近では平成五年八月二十七日となってございまして、この承認した振興事業計画に係る計画期間は、平成五年八月から平成十年三月までとなってございます。
○岩渕友君 今答弁あったように、直近の承認って三十年以上前なんですよね。初めて承認されたのが一九七一年の十二月二十八日なんです。それ以降、直近の一九九三年八月二十七日までの間に僅か十二件しかないと。直近の承認がもう三十年以上前だというのがこれ実態なわけですよね。
今回の改正で、二次、三次といった多段階の事業者が加わることができるようになるわけですけれども、こうした実態で中小企業の振興進むと言えるのでしょうか。これ、言えないんじゃないでしょうか。武藤大臣、いかがですか。
○国務大臣(武藤容治君) 今般の下請振興法の改正におきまして、複数の取引段階にある事業者が、先ほど申しましたけれども、共同で効率化や投資等を行う事業に対して承認、支援できる旨を盛り込んだところであります。
この制度をつくることによって、経済界の一部にある、自らの取引先の更に先とは直接の接触や交渉を控えるとの意識や慣行というものがあったと思いますけれども、これを変えて、そして、先も含めたサプライチェーン全体での取組を後押しする狙いを込めさせていただいたところであります。
この改正踏まえて、振興基準にも直接の取引先の更に先の事業者との連携の重要性を盛り込み、振興事業計画のメリットと併せて経済界へしっかり周知をすることで計画の活用を促してまいりたいと思っています。
さらに、適切な価格転嫁を促進し、中小企業振興を図るため、下請法の執行強化に加えまして、年二回、これも、これまでもお話し申し上げていますけど、価格交渉促進月間を踏まえた価格転嫁状況の実名入りの公表ですとか、指導、助言、各業界全体へのハイレベルでの適正取引の要請など、もう本当に様々な施策を講じて、しっかりこれからも粘り強く対応していきたいというふうに思っています。
○岩渕友君 ここでもやっぱり実効性が問われるということをもう指摘せざるを得ないわけなんですよね。
それで、次に、多重下請構造に関わって質問をしていきたいと思います。
日本では、大企業の下に中小・小規模事業者がピラミッド状に連なる多重下請構造、今日も何度も出てきていますけれども、この多重下請構造によって、買いたたきなど親事業者が下請事業者に不公正な取引を押し付けるやり方が横行してします。
資料を見ていただきたいんですけれども、これは自動車関連産業サプライチェーンのイメージ図ということで、もうまさにピラミッド状のような構造になっているということを図で示したものなんです。このサプライチェーン全体で下請法対象の企業というのは何件あるんですかと、それは全体の何割に当たるんですかというふうに聞いたんですよ。でも、分からないというふうに言われたんです。けれども、大企業同士とか中小企業同士の取引には下請法を適用されないわけですよね。下請法の対象から外れている企業とか事業者も多いんじゃないかなというふうに思ったわけです。
自動車関連産業のこのピラミッド構造のうち、過去五年間の下請法による勧告の実績、また過去五年間の独禁法違反、優越的地位濫用の実績、それぞれ何件あるでしょうか。
○政府参考人(大胡勝君) お答え申し上げます。
まず、独禁法に関してでございますけれども、お尋ねの令和二年度から令和六年度までの五年間において、自動車産業における独禁法の優越的地位濫用の規定の適用事例については、広い意味での自動車産業になってしまいますけれども、自動車メーカーによるディーラーに対する優越的地位の濫用の行為について法的措置をとったような事案はございますけれども、自動車の製造分野における自動車メーカーによる自動車部品メーカーに対する優越的地位の濫用行為について法的措置をとった事例はございません。
○政府参考人(向井康二君) 下請法についてお答え申し上げます。
過去五年間、令和二年度から六年度の自動車産業、具体的には自動車部品の製造委託取引におきまして、違反行為があるといたしまして発注者に対して下請法に基づく勧告が行われた事例、これにつきましては十一件でございます。このうち、完成車メーカーに対するものは二件、自動車部品メーカーに対するものは九件でございます。類型といたしましては、金型等の型の無償保管の要請、減額、そして返品というものが違反行為類型でございます。
○岩渕友君 独禁法はゼロだということなわけですよね。
それで、この資料のように下請業者が更に下請業者に委託するような多重下請構造というのは、欧米では余り見られないということなんですね。それは、事業者が水平的に連携をしていて、互いに協力し合う関係が一般的になっているからだということなんですよね。
武藤大臣に質問しますけれども、この構造そのものにメスを入れなかったら、適正な取引になっていかないんじゃないでしょうか。
○国務大臣(武藤容治君) これも、これまで中小企業の調査結果等々を答弁させていただいていますけど、取引段階が深くなればなるほどこの価格転嫁の割合低くなるという傾向であります。サプライチェーンの先まで価格転嫁を浸透させることが課題でありますし、他方、取引の構造は確かに業種によって異なるかと思います。今自動車の話がありますけれども、複数の事業者による分業が行われる業界では、取引の各段階で業務内容ですとか技術力等のそのものに応じた適切な価格交渉が行われる、この環境整備が要するに必要だということだろうと思っております。
業界の実態を踏まえた対応が必要でありまして、今の委員のおっしゃられるような水平、まあ水平構造というんですかね、そういうものもあろうかと思いますけど、今回、下請法、下請振興法の改正を通じた全種一律の措置に加えて、事業各所管庁とも連携をしながら、業種ごとにしっかりと取組を進めてまいりたいというふうに思っているところです。
○岩渕友君 この多重下請構造の下では、大企業と中小・小規模事業者の力関係というのは変わらないと思うんですね。結局、いつまでも中小・小規模事業者が苦しむということになるわけですよね。だからこそ、ここにメスを入れるべきだということを指摘したいというふうに思うんです。
トランプ関税をめぐっても、この多重下請構造が下請事業者苦しめるんじゃないかということでやっぱり懸念されるんですよね。
衆議院の審議で武藤大臣が、取引適正化の取組に影響を与えないようにすることが重要だとして、自動車業界各社のトップに、雇用維持や賃上げの原資の確保のため、直接の取引先の更に先まで価格転嫁が可能となるような価格決定することなどを直接要請したというふうに答弁されたことを私も本会議でも紹介をしました。大臣が直接の取引先の更に先までというふうに言っていることが、これ非常に重要だというふうに思うんですね。
本会議で各社の取組がどう具体化されているんですかというふうに質問をしたら、各社から、適正な価格転嫁を通じて、成長、雇用、分配に積極的に取り組むと発言があったと。各社は積極的に価格転嫁を呼びかけているというふうに答弁がありました。
積極的に取り組んでいるということなんでしょうけれども、問題は実際にちゃんと適正な取引やられているかということなんですよ。これいかがなのかということと、フォローアップがやっぱり非常に必要だと思うし重要だと思うんですね。このフォローアップにどう取り組んでいくんでしょうか。
○国務大臣(武藤容治君) この前も本会議で申しましたとおりであります。
中小企業からは、これから関税の影響、これがどういう形で、原価低減ですとか発注量の減少の形で現れないかというような不安の声が刻々と、日によってあるのも承知をしているところです。米国による関税措置が取引適正化に影響を与えることがあってはならず、私自身も、今申していただいたように、トップと面会、自動車業界のトップと面会をしながら、関税措置の影響が中堅・中小メーカーに及ばないように適正取引の確保を要請したところでもあります。
関税措置だけでなく価格転嫁を阻害する、今回も商習慣というものに随分、一掃する具体的な取組も求めておりますけれども、そのフォローアップ、先生がおっしゃるとおりです、フォローアップを行うとともに、下請振興法の執行ですとか業界の自主行動計画への反映や徹底を通じて更なる取引の適正化を図っていかなくてはいけないと思っています。
今回、関税措置の影響も含めて取引適正化が進んでいるかにつきましては、今後とも約一千か所の、全国一千か所の相談窓口を使ったり、またプッシュ型での現状把握をやったり、さらには下請Gメン、価格交渉促進月間における三十万社へのアンケート調査等を通じながら、現場の状況を引き続いて把握していきたいというふうに思います。
この取引実態も踏まえながら、また改めて業界トップへの要請など、今後とも必要な対応をちゅうちょなく実行してまいりたいというふうに思っております。
○岩渕友君 しっかりフォローアップしていただくということを求めて、質問を終わります。