(会議録は後日更新いたします)
生産性向上特別措置法案と産業競争力強化法等改定案が18日の参院本会議で審議入りし、日本共産党の岩渕友議員が質問に立ちました。同法案は、日本の産業と就業構造を人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの進展に対応させるとして、大企業の競争力強化、生産性向上と異次元の規制緩和を推進するものです。
岩渕氏は、この20年間進められてきた大企業中心の構造改革・規制緩和路線が「貧困と格差」を拡大してきたと批判しました。
現行法のあらゆる規制を一時凍結して新技術等の社会実験を行う「日本版サンドボックス」について、総理が任命権を持つ革新的事業活動評価委員会をつくることで「総理主導の国家戦略特区に加え、ますます総理に権限が集中することになる」と指摘しました。
認定事業者が国や独立法人等に対して産業データの提供を要請できる新たな仕組みをつくることについては、「個人データの提供をなぜ明確に除外しないのか」と追及。世耕弘成経産相は「除外せずとも、個人の権利、利益は保護される」と強弁しました。
岩渕氏は「新たなIT技術は、人類の平和と進歩、労働時間の短縮と人間の自由獲得にこそ生かされるべきだ」と主張しました。
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○岩渕友君 日本共産党を代表して、ただいま議題となりました生産性向上特別措置法案及び産業競争力強化法等改正案について質問します。
本法案のベースは、安倍内閣が昨年閣議決定した未来投資戦略と新しい経済政策パッケージです。政策パッケージは、労働生産性について、実質GDPを就業者の総労働時間で割ったものと定義しています。ならば、生産性向上には、GDPの七割を占める国民の消費購買力の向上が必要不可欠ではありませんか。
二〇一五年版労働経済白書は、過去二十年間、労働生産性は日米欧とも上昇したのに、日本だけは実質賃金の上昇に結び付かず、マイナスだと指摘しています。さらに、その要因を、企業利潤が配当と内部留保に回ってしまい、また、非正規雇用が増えて賃金が押し下げられたからだと分析しています。労働生産性が向上しても、実質賃金が連続してマイナスなのはなぜですか。経産大臣、厚労大臣にお聞きします。
経済と生産性を考える上で、二つの点からの総括と検証が必要です。
第一の問題は、本法案の前身である一九九九年の産活法以来、首相官邸で総理が財界の要望のままに、大企業中心の成長戦略、構造改革と規制緩和路線を推進してきたことです。
産業競争力強化法は、株主価値を最優先する情報・電機大企業などのリストラ、人減らしを応援するため、減税や企業再編の特例を講じてきました。安倍政権は、それを更に、企業が世界で一番活躍しやすい国を目指すとして、拡充強化してきました。
その結果、この二十年間で自動車など世界的な多国籍企業に成長した大企業は、史上空前の利益を上げ、株主配当は五倍の十六兆円、内部留保はついに四百兆円を超えました。非正規雇用は二割台から四割近くにも増え、賃金は押し下げられてきました。経済の好循環は富裕層だけで、国民多数は格差と貧困が拡大しただけではありませんか。その検証と反省もなく、この道を更に突き進むのですか。経産大臣に答弁を求めます。
第二の問題は、消費税増税をどう見るかです。
この間、実質賃金が連続してマイナスにもかかわらず、消費税増税が一九九七年に五%、二〇一四年に八%へと二度強行されました。これが国民の消費支出を押し下げたことは明らかではありませんか。政府の定義によれば、この上更に消費税の引上げを行えば、消費購買力を抑え付けることになり、労働生産性を低下させることになるのではありませんか。
消費税大増税を強行し、複数税率、インボイス制度が導入されれば、中小零細企業に大打撃を与え、事業承継どころか、廃業を激増させるのは明らかではありませんか。消費税増税はきっぱりやめるべきです。以上、経産大臣、お答えください。
法案は、我が国の産業と就業構造を、AI、IoT、ロボットやシェアリングエコノミーなどの進展に対応させるとして、企業の競争力強化、生産性向上と異次元の規制緩和を推進するものです。
以下、質問いたします。
第一に、現行法の規制を一時凍結して新技術等の実証実験を行う、世界初のいわゆる規制のサンドボックス制度についてです。
本法案の日本版サンドボックスは、従来の個社、地域、全国レベルという三層構造の規制緩和制度に加え、窓口が内閣官房に一元化されます。総理主導の国家戦略特区において首相案件とされる加計疑惑が生じ、その真相解明、検証が不可欠です。その下で同じく総理が任命権を持つ革新的事業活動評価委員会をつくることは、ますます総理に権限が集中することになるのではありませんか。官房長官、経産大臣、お答えください。
巨大なライドシェア企業、ウーバー社のCEOが二月に安倍首相に面会し、日本での配車仲介サービスに関心を示しています。同社は、世界中で事件、事故を多発させていますが、世耕大臣は、十一日、サンドボックスはライドシェアの実証も可能だという趣旨の答弁を行っています。
日本では、道路運送法上、有償の相乗りマッチングサービスはいわゆる白タクとして禁止されています。サンドボックスで認めることがあってはなりません。経産大臣、国交大臣、明確な答弁を求めます。
第二に、ビッグデータの利活用と個人情報の問題です。
インターネット検索やSNS利用などあらゆる個人データが、市場を独占するグーグルなど米IT企業の下に吸い上げられ、フェイスブックの個人情報不正利用事件が世界に衝撃を与えています。
EUでは、人間の尊厳の観点から、プライバシー権や個人情報の自己コントロール権を保障する一般データ保護規則が来月施行されます。この背景には、IBMの協力の下ナチスが収集した個人情報が濫用され、アウシュビッツの悲劇をもたらした痛苦の反省と教訓が刻まれています。
ところが、日本では、新産業の創出を優先し、官民データ基本法や行政機関等個人情報保護法で、公権力で強制的に徴収した個人データを、非識別加工を条件に行政目的外の営利事業に利用できる法制度がつくられました。世界にはない異例の制度です。大量の情報のひも付けにより、個人の特定につながりかねません。総務大臣に認識を伺います。
その上に、本法案は、認定事業者が国や独法等に対して産業データの提供を要請できる新たな仕組みまでつくろうとするものです。地図データなど公共の産業データを想定するものなら、個人データの提供をなぜ明確に除外しないのですか。プライバシー保護を任務とする個人情報保護委員会との密接な連絡、協議など、法案の規定は委員会の独立性を脅かすことになるのではありませんか。官房長官、経産大臣に明確な答弁を求めます。
第三に、新たなIT技術は、人類の平和と進歩、労働時間の短縮と人間の自由獲得にこそ生かされるべきです。第四次産業革命の語源となったドイツのインダストリー四・〇は、良質の雇用を生む労働四・〇と車の両輪となっています。ドイツ金属労組は、賃下げなしの週二十八時間労働を実現しました。
ところが、日本では、AI、ロボット導入を口実に、メガバンクは三万人もの大リストラを計画しています。新たな技術を大資本のもうけの道具にしてはなりません。
また、政府が雇用関係によらない働き方を推奨していることも重大です。この下で、ライドシェアのように、企業の下で働く個人を雇用関係にないフリーランスや請負にし、労働時間や最低賃金、残業代、有給休暇など、労働者保護の対象から外すことは断じて許されません。経産大臣、厚労大臣に答弁を求めます。
最後に、安倍政権の行政私物化と強権政治の下、森友、加計、日報問題など、公文書の改ざん、隠蔽、捏造などによって、行政への信頼と民主主義の土台が壊されています。このような安倍政権に日本経済と国民の暮らし、権利の保障を委ねることはできません。
安倍政権の退陣こそ国民の声であることを強調し、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣世耕弘成君登壇、拍手〕
○国務大臣(世耕弘成君) 岩渕議員にお答えいたします。
労働生産性と実質賃金の関係についてお尋ねがありました。
平成二十七年版労働経済の分析においては、労働生産性の上昇が賃金上昇に結び付いてこなかったことにつき、企業の利益処分が変化し、人件費への配分が抑制された可能性、交易条件の悪化に伴う海外への所得流出によって賃金が押し下げられた可能性、非正規雇用の増加によって一人当たり賃金が押し下げられた可能性、組合組織率低下など、賃金決定プロセスや労使の交渉力に変化が生じた可能性が仮説として示されています。
一方、安倍政権発足から二〇一五年半ばまでの間の実質賃金の減少については、アベノミクスによる景気の回復の過程で、雇用が拡大し、物価が上昇基調に転じたことも背景にあるものと考えられます。
このように、労働生産性と賃金上昇の関係については、複合的な要因が影響するものと認識しています。
産業競争力強化法の検証についてお尋ねがありました。
産業競争力強化法では、従業員の地位を不当に害するものでないことを事業再編計画の認定要件とするなどの規定を置き、雇用の安定に配慮することになっています。
また、実際にも、長期的に上昇傾向にあった相対的貧困率は、安倍政権発足後、経済が好転する中で低下に転じていることから、産業競争力強化法が格差と貧困を拡大したとの御指摘は当たらないと考えております。
中長期的に見れば、創業や事業再編などにより産業の新陳代謝が進むことが新しいビジネスや質の高い雇用の創出につながると考えており、引き続き、雇用の安定に配慮しつつ、産業の新陳代謝の促進に向け取り組んでまいります。
消費税増税についてお尋ねがありました。
消費税率については、二〇一九年十月から一〇%に引き上げることに併せて、低所得者に配慮する観点から軽減税率制度を導入し、また、複数税率の下で中小・小規模事業者が適正な転嫁を実現できるよう、インボイス制度を導入することとしています。
消費税率引上げによる個人消費への影響については、二〇一四年の消費税率引上げ時の経験も踏まえ、需要変動を平準化するための具体策の検討を内閣官房の下で始めたところです。
その上で、二法案を始めあらゆる施策を総動員することにより、人工知能、ロボット、IoTなど、生産性を劇的に押し上げるイノベーションを促進し、その成果を持続的な賃金上昇につなげることで、経済の好循環の拡大を図ります。
なお、複数税率とインボイス制度の導入については、中小・小規模事業者の複数税率に対応するために必要なレジ導入やシステム改修に対して資金面での支援を講じるなど、円滑な実施に取り組んでまいります。
消費税引上げを前提として、あらゆる政策を総動員し、中小・小規模事業者が円滑に対応できるよう万全を期してまいります。
革新的事業活動評価委員会に関してお尋ねがありました。
評価委員会は、新技術等の社会実装によるイノベーションの創出が経済全般に及ぼす効果について、省庁横断的に、専門的かつ客観的な観点から評価を行うものであり、評価委員会委員は内閣総理大臣が任命しますが、これは主管である内閣府の長として行うものです。
評価委員会は、主務大臣である事業所管大臣及び規制所管大臣に意見を述べ、必要に応じ勧告することなどをその権限としておりますが、個別実証計画の認定などはあくまでも主務大臣が行うこととなっております。
加えて、評価委員会の審議状況については、原則として会議又は議事録を速やかに公開することとしており、公正に手続が行われることを確保します。
ライドシェアとサンドボックスの関係についてお尋ねがありました。
新技術等実証制度は、対象となる事業分野をあらかじめ限定しているわけではなく、御指摘のライドシェアについても申請いただくことは可能です。
もっとも、実証に当たって生命や身体の安全が重要であることは言うまでもありません。新技術等実証制度では、事業者に対し、期間、場所、方法を限定し、参加者の同意を得ること、実証実験の管理監督を行うなど、実証を適切に実施するために必要となる措置を講ずることを求めています。
仮に御指摘のライドシェアについて申請があった場合、関係する規制を所管する主務大臣が、こうした措置が適切に講じられているかを含め、安全性や公益性を保護する規制法令に違反するものでないことを確認の上、実証計画を認定するかどうか判断することとなります。
このため、安全性や公益性が確保できない実証計画がやみくもに認定されることは想定されないと考えます。
認定事業者に対する公的データの提供についてお尋ねがありました。
生産性向上特別措置法案に基づく公的データ提供制度に基づき提供されるデータとしては、主に、地図データ、衛星データなど、個人情報以外の産業データを想定しています。
仮に個人情報に該当するデータの提供が求められた場合には、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする行政機関等個人情報保護法の規律に基づき、全ての個人情報について個別に本人同意を得ることや、特定の個人が識別できないよう加工した非識別加工情報の提供の仕組みに従うことなどが提供の前提となります。
そのため、今回の法案において個人データを明示的に除外せずとも、個人の権利利益は保護されるものと考えております。
フリーランスなど雇用関係によらない働き方についてお尋ねがありました。
人生百年時代においては、働き手のニーズや価値観に応じて、時間や場所にとらわれない多様で柔軟な働き方を実現することにより、働き手一人一人の能力を最大限に引き出すことが重要となってきます。
経産省では、一昨年から昨年にかけて、「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を開催し、実態の把握と課題の整理を行いましたが、これは、あくまでも働く個人一人一人のニーズに即した選択肢としての位置付けであって、企業に雇用されている人を無理に、無理やりフリーランスにするといった趣旨ではありません。
引き続き、厚労省など関係省庁とも連携し、多様で柔軟な働き方の環境整備に取り組んでまいります。(拍手)
〔国務大臣加藤勝信君登壇、拍手〕
○国務大臣(加藤勝信君) 岩渕友議員より、二問質問をいただきました。
労働生産性と実質賃金との関連性についてのお尋ねがありました。
平成二十七年版労働経済の分析では、労働生産性の上昇が一人当たり実質賃金の上昇に結び付かなかった要因を検証し、企業の利益処分について、特に大企業において労働分配率が低下していること、高齢者と女性の労働参加が進んだ結果、パートで働く方の比率が上昇したことにより賃金を押し下げている等といった分析結果を得たところであります。
他方、翌年の平成二十八年版労働経済の分析では、労働生産性と常勤換算後の一人当たり実質賃金との関係を分析し、我が国においても、マンアワーベースで見た労働生産性の上昇率と実質賃金の上昇率には一定の相関が見られるといった分析結果を得ているところであります。
賃金については、足下の実質賃金を見ますと、二〇一六年に前年比プラス〇・七%の伸びとなった後、二〇一七年については、名目賃金が引き続きプラスとなった一方で、エネルギー価格の上昇などから、前年比マイナス〇・二%となっております。
他方で、名目賃金を見ますと、賃上げについて、本年の春季労使交渉においても多くの企業で五年連続となるベースアップが行われ、その水準も大半で昨年を上回っております。また、パートで働く方々の時給は、統計開始以来、最高の水準となっているなど、正規の方、非正規の方それぞれで所得環境の改善が進んでおります。
成長と分配の好循環の実現に向けて、今後とも、賃金の流れを確かなものにしてまいります。
雇用関係によらない働き方についてのお尋ねがありました。
厚生労働省としては、非雇用型テレワークを始めとする雇用類似の働き方が拡大している現状に鑑み、働き方改革実行計画に基づき、いわゆるフリーランスなどの雇用類似の働き方について、法的保護の必要性を含めて中長期的に検討していくこととしており、企業の下で働く個人を労働者保護の対象から外そうといった趣旨で検討を行っているわけではありません。
現行でも、契約形態にかかわらず、労働者としての実態があれば労働関係法令に基づき保護を行っており、引き続き適切に対応してまいります。(拍手)
〔国務大臣菅義偉君登壇、拍手〕
○国務大臣(菅義偉君) 国家戦略特区についてお尋ねがありました。
国家戦略特区のプロセスは、特区の指定、規制改革項目の追加、事業者の選定のいずれについても、民間有識者が主導する特区諮問会議やワーキンググループにおいて法令等にのっとって適正に行われるものであります。民間有識者も国家戦略特区のプロセスについて一点の曇りもないと述べられていると承知をしております。
いずれにしても、政府としては、国民の疑念を招くことがないよう、文書の正確性の確保に努め、丁寧に説明を尽くしてまいります。
革新的事業活動評価委員会についてのお尋ねがありました。
御指摘の革新的事業活動評価委員会は、主務大臣が事業者の実証計画を認定する際に、専門的で、また客観的な観点から、省庁横断的な評価を行うために内閣府に設置する機関であります。
評価委員会の委員は、内閣総理大臣が専門家のみ任命することになっており、公正で均衡の取れた構成となるようにするとともに、議事録を公開するなどにより透明性を確保します。このため、総理に権限が集中するとの御指摘は当たらないものと考えます。
個人情報保護委員会の独立性についてのお尋ねがございました。
革新的データ産業活用計画の認定における主務大臣から個人情報保護委員会への協議は、減税措置等の支援を講ずるに先立ち、その事業が万が一にも個人情報保護法の規律から逸脱することがないように、迅速に個人情報保護委員会に確認する手続であります。
この規定は、個人情報保護委員会の判断を法的に制約する内容は何らなく、同委員会は自らの権限を行使して判断することになります。したがって、その独立性を脅かすようになるとの御指摘は当たらないものと考えます。(拍手)
〔国務大臣石井啓一君登壇、拍手〕
○国務大臣(石井啓一君) ライドシェア及び白タク行為についてお尋ねがありました。
国土交通省といたしましては、自動車による旅客の運送において、安全、安心の確保が最重要の課題と認識をしております。
自家用車を用いたいわゆるライドシェアや白タク行為は、運行管理や車両整備等について責任を負う主体を置かないままに、自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態を前提としております。
国土交通省といたしましては、仮にこのような形態の旅客運送を有償で行うことを前提といたしました新技術等実証計画の申請があった場合には、安全の確保、利用者の保護等の観点から問題があり、極めて慎重な検討が必要と考えております。(拍手)
〔国務大臣野田聖子君登壇、拍手〕
○国務大臣(野田聖子君) 岩渕議員にお答えいたします。
行政機関等が保有する個人データについてお尋ねがありました。
行政機関等が保有する個人情報については、行政機関等個人情報保護法において、本来の利用目的以外での利用、提供の制限など、個人の権利利益を保護するための規律を設けています。官民データ活用推進基本法を踏まえた官民データ活用についても、これらの規律に服するものです。
昨年五月に施行された非識別加工情報の仕組みは、行政機関等の保有する個人情報について、新たな産業の創出などに資する場合に、特定の個人を識別することができないよう匿名加工を行って提供するものです。
その加工は個人情報保護委員会規則が定める基準に従うとともに、提供を受けた民間事業者は識別行為が禁止されるなど、個人情報の保護のための十分な規律が設けられており、御懸念は当たらないものと認識しています。(拍手)