2019年5月17日(金) 参議院 本会議 中小企業等経営強化法等改正案
中小企業強靱(きょうじん)化法案が17日、参院本会議で審議入りし、日本共産党の岩渕友議員が質問に立ちました。岩渕氏は内閣府が景気動向指数の基調判断を「悪化」に下方修正したことなどをあげ、「今回増税することになれば、政府の統計が『景気悪化』の可能性を認めるなかでのものとなり極めて無謀であり、中小企業の営業を壊すものだ」として消費税10%への増税を中止するよう求めました。
岩渕氏は、2014年の消費税8%への増税以降、実質家計消費も実質賃金も落ち込み、頼みの綱だった外需も米中貿易摩擦や中国経済の悪化の影響で落ち込みがあらわになっていることを指摘。安倍晋三首相は「中小企業の倒産が政権交代前から3割減った」としているが、東京商工リサーチの集計によれば、安倍政権のもとで倒産・休廃業は2割も増加していると厳しく批判しました。
さらに、岩渕氏は、消費税が小規模事業者ほど価格に転嫁できず、経営に重くのしかかることを指摘。加えて、売上1000万円以下の免税事業者は、取引ごとに発行する消費税に関する適格請求書(インボイス)を発行できず、仕入れ税額控除ができなくなり、取引から排除される可能性があり、廃業に追い込まれる危険があるとして「インボイスは廃業促進税制だ」と批判し、導入をやめるべきだと迫りました。
世耕弘成経産相は「消費税率の引き上げは中小企業・小規模事業者に少なからず影響を与えると想定している」などとして、ポイント還元などで支援すると言い訳を繰り返しました。
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○議長(伊達忠一君) 岩渕友君。
〔岩渕友君登壇、拍手〕
○岩渕友君 私は、日本共産党を代表し、中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律案について質問します。
まず、現下の経済情勢と中小企業を苦境に追い込む消費税増税について質問します。
二〇一四年の消費税八%への増税以降、実質家計消費も実質賃金も落ち込み、加えて、頼みの綱だった外需も、米中貿易摩擦や中国経済悪化の影響で落ち込みがあらわになっています。内閣府発表の景気動向指数で、国内景気の基調判断を六年二か月ぶりに悪化と下方修正しました。
そこで、経済財政担当大臣にお聞きします。米中貿易摩擦が国際経済、日本経済にどのような影響をもたらすのか。また、国内景気はこれ以上悪化しないという認識なのですか。
アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが日本版社説で、安倍首相は十月の消費税率引上げで、景気を悪化させようと固く心に決めているように見えると評しています。前回二回の増税は景気回復基調の下で行われましたが、消費不況の引き金を引く結果となりました。今回増税することになれば、政府の統計が景気悪化の可能性を示す中でのものとなり、極めて無謀なものです。
アベノミクスによって、大企業と超富裕層がますます富み、格差と貧困が一層拡大してきました。この下で消費税が八%に増税され、消費と国内景気が更に落ち込んできたという認識はありますか。経産大臣にお聞きします。
中小企業が置かれている状況はどうでしょう。
中小企業の廃業は年々進み、十七年間で百二十六万者が減少、直近で三百五十八万者となっています。安倍首相は、中小企業の倒産が政権交代前から三割減ったと言いますが、東京商工リサーチの集計によれば、二〇一三年は休廃業が倒産の三倍、二〇一八年は四倍と増えており、安倍政権の下で倒産、休廃業は二割も増加しています。負債一千万円未満の小規模事業者の倒産件数は、リーマン・ショック直後に並ぶ深刻な状態となっています。
それに追い打ちを掛けるのが消費税増税とインボイスの導入です。
今でも、消費税は小規模事業者ほど価格転嫁できず、自腹を切ってまで納税することを強いられています。この上、消費税増税を強行すれば、景気が更に悪化し、ポイント還元など何の効果もなく、中小企業の経営を更に困難に陥れるのは明らかではありませんか。経産大臣にお聞きします。
昨年十一月、政府は、「消費税率の引上げに伴う価格改定について」と題するガイドラインを出しました。税率引上げ前の価格引上げを奨励し、前回増税時に禁止した消費税還元セールも、消費税の表示がなければ容認しています。大手スーパーの還元セールに中小は太刀打ちできず、中小企業を苦境に追い込むことになるのではありませんか。中小事業者が不利にならないよう大手スーパーなどの消費税還元セール及び消費税相当分のポイント付与の禁止などを定めた二〇一三年策定の消費税転嫁法第八条の趣旨に反するものではありませんか。経産大臣にお聞きします。
この上、さらにインボイス制度が導入されれば、中小・小規模事業者は廃業に追い込まれる危険性があります。売上げ一千万円以下の免税事業者は、インボイス、すなわち取引ごとに発行する消費税に関する適格請求書を発行できず、仕入税額控除ができなくなるからです。免税事業者が取引から排除されることになるのではありませんか。経産大臣にお聞きします。
取引から排除されれば、中小・小規模事業者の倒産、廃業を加速させることになります。日本商工会議所の調査では、インボイス導入で、免税事業者の九・二%が廃業を検討すると回答しています。インボイスは廃業促進税制です。消費税増税もインボイスも、地域の業者を潰して地域を死なせるもの、これでどうやって地域を活性化させることができるのかという怒りの声が上がっています。経産大臣、こうした声をどう受け止めますか。
財務大臣、インボイスの導入をやめるべきではありませんか。消費税の一〇%への増税はきっぱり中止すべきです。お答えください。
法案に関連して、三問お聞きします。
第一に、中小企業等経営強化法の一部改正です。これによって、防災の事前対策として事業継続計画、BCPを策定し、経済産業大臣によって認定を受けた中小企業は様々な支援措置を受けることができるようになります。法案の説明では、主にサプライチェーンの中小企業や地域の中核的な中小企業を想定していますが、事業者をBCPで選別し、サプライチェーンや基幹産業を担う中小企業に支援を限定するのですか。防災・減災の事前対策は、全ての中小・小規模事業者を対象に柔軟に運用できるようにするべきではありませんか。経産大臣にお聞きします。
第二に、中小企業事業承継法の改正です。これによって、個人事業主の贈与税、相続税を一〇〇%猶予する個人版事業承継税制が創設されます。中小企業団体は、納税猶予ではなく、免除へと税制の拡大を求めていますが、経産大臣の見解をお聞きします。
第三に、防災対策に関連してグループ補助金についてお聞きします。
衆議院の参考人質疑で、東日本大震災の被災者である参考人は経験をこう語っています。地元業者は震災直後からライフラインの復旧などに奮闘した、行方不明になった家族を捜索しながら避難所での運営に携わった事業者、家や工場を失いながら消防団員として寝ずの番に出勤した事業者もいる、こうした中で、地元業者復旧の決定的な支援になったのがグループ補助金だったといいます。先日、同様の話を岩手県宮古市でもお聞きしました。
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故以降創設されたグループ補助金は、二〇一六年に発生した熊本地震では熊本県と大分県、二〇一八年に発生した西日本豪雨では岡山県、広島県、愛媛県で活用されてきました。
ところが、中小企業庁の研究会は、グループ補助金を広範に実施することがモラルハザードとなるなどと、被災者の実態を無視した制度改悪の方向で議論を行ってきました。また、西日本豪雨では実際に補助金が減額されました。しかし、今求められているのは制度の充実と改善ではありませんか。経産大臣にお聞きします。
被災地の復興は、なりわいの再生抜きにはあり得ません。財務大臣、被災事業者を支援する財政措置を削減するようなことがあってはならないのではありませんか。
最後に、二〇一五年に策定された小規模企業振興基本法の附帯決議は、政府に社会保険料の負担軽減のためにより効果的な支援策の実現を図ることを求めています。どのように実行されているでしょうか。経産大臣にお聞きします。
小規模事業者が多数加入している国民健康保険料の値上げなど、とんでもないことです。全国知事会などが求める公費一兆円の投入を行うべきです。
中小・小規模事業者は、日本企業の九九・七%、雇用の七割を占め、地域に根差した重要な役割を果たしています。中小企業が元気になってこそ、日本経済再生の道が開かれます。中小企業憲章と小規模企業振興基本法を生かして、中小企業を日本経済の根幹に位置付け、それにふさわしい政策転換、振興策を進めることを求めて、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣世耕弘成君登壇、拍手〕
○国務大臣(世耕弘成君) 岩渕議員にお答えいたします。
所得格差や貧困と消費税率引上げ後の消費や景気との関係についてお尋ねがありました。
ジニ係数の動向を見ると、税や社会保障による再配分後の世帯ごとの所得格差は、平成十一年以来おおむね横ばいで推移しています。相対的貧困率の動向を見ると、過去長期的に上昇傾向にありましたが、アベノミクスの下、低下に転じています。したがって、所得格差と貧困の拡大との指摘は当たりません。
また、前回の消費税率引上げの際には、駆け込み需要と反動減といった大きな需要変動が生じました。こうした中、個人消費が力強さを欠き、景気回復力が弱まることとなったと理解しています。所得格差や貧困が原因であるとは考えていません。
消費税率引上げの影響と対策についてお尋ねがありました。
消費税率については、法律で定められたとおり、今年十月に一〇%に引き上げられる予定です。
消費税率の引上げは、中小企業・小規模事業者に少なからず影響を与えると想定しています。そのため、中小企業・小規模事業者が税率引上げ分を転嫁できるよう、転嫁拒否等に対する監視、取締りを行います。また、中小・小規模事業者に限って、キャッシュレス決済で支払った消費者へのポイント還元に対する支援を行います。需要平準化対策にとどまらない様々な効果が期待されることから、強力な支援になると考えています。さらに、身近な支援機関を通じたきめ細かい経営指導に取り組んでまいります。
消費税率の引上げに伴う価格設定のガイドラインによる中小企業への影響と消費税転嫁対策特別措置法の関係についてお尋ねがありました。
ガイドラインは、消費税率引上げ前後で事業者がそれぞれの判断で柔軟な価格設定が行えるよう、整備、公表したものです。その上で、体力が弱く、自ら価格の引下げができない場合もある中小・小規模事業者に限って消費者へのポイント還元を支援することにより、強力に応援をいたします。
また、転嫁対策特措法は消費税と直接関係しない形での宣伝、広告を規制しておらず、事業者が消費税と直接関係しない柔軟な価格設定を行えるようにするガイドラインは、転嫁対策特措法に反するものではありません。
インボイス制度についてお尋ねがありました。
インボイス制度を導入すれば、免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができないこととなるため、取引から排除され、廃業せざるを得なくなるなどの懸念の声があることは承知しています。
政府としては、御懸念に対応するため、免税事業者が課税事業者への転換の要否を見極めながら対応を決めていただけるよう、導入まで四年間の準備期間を設けるとともに、そこから更に六年間、免税事業者への仕入れについて一定の仕入税額控除を認めることとしています。こうした経過措置により、個々の事業者への影響を極力緩和することができると考えています。
今回の法案による支援対象の範囲についてお尋ねがありました。
サプライチェーンを支える事業者や地域で多くの雇用を抱える中核的事業者が事業停止などになった場合、被災事業者だけではなく広範に影響が及ぶおそれがあるため、こうした事業者への災害への備えは極めて重要です。
一方で、例えば単独の小規模事業者であっても、地域の経済や雇用を支える重要な存在であることは十分認識しており、今回の法案においても計画認定の対象となります。
個人版事業承継税制についてお尋ねがありました。
個人事業者の事業承継を促進するため、平成三十一年度税制改正では、その土地、建物等の承継に係る贈与税、相続税を一〇〇%納税猶予する制度を創設しました。
この制度を免除制度にすべきという声がありますが、事業用資産を持たない個人との公平性の観点や事業承継を支援するとの税制の趣旨を踏まえれば、事業を承継し継続する限りにおいて納税を猶予するという今回の制度が、事業承継を後押しする税制として適切と考えています。
グループ補助金などの災害支援の在り方についてお尋ねがありました。
御指摘の平成二十九年度実施の研究会においては、一定規模を超える災害に限ってグループ補助金を措置すべきであり、災害の規模に応じたこれまでの支援の在り方について大きな変更を加える必要はないとの結論が出たものと承知をしています。
その上で、平成三十年七月豪雨への対応では、措置されたグループ補助金は初めて水害に際して措置されたもので、水害は地震に比べ保険加入割合が高いことなどを踏まえ、事業者が受け取る保険金相当分を被害額から控除して補助金を交付することにしました。制度を改悪しているということは当たりません。
社会保険料の負担軽減のための支援策についてお尋ねがありました。
社会保険制度の具体的在り方については厚労省において検討が進められるものと考えますが、経産省としては、まずは生産性の向上で付加価値を生み出し、取引条件の改善などで付加価値がしっかりと小規模事業者に残る環境を整備をしていくことが重要と考えます。
このため、補正予算を通じた設備投資やIT導入支援によって生産性向上を後押しするとともに、下請法の運用強化、産業界への自主行動計画の策定と着実な取組の要請、下請Gメンによる取引実態の把握などに取り組み、取引条件の改善を進めてまいります。
引き続き、中小・小規模事業者が無理なく社会保険料を支払うことができるよう環境整備を進めてまいります。(拍手)
〔国務大臣茂木敏充君登壇、拍手〕
○国務大臣(茂木敏充君) 岩渕議員から、米中貿易摩擦の日本経済への影響について御質問いただきました。
米中双方における追加関税のエスカレーションは、米中両国のみならず、世界経済全体にとっても決して望ましいことではないと考えております。今後の両国間の協議の進展を期待したいと思いますが、同時に、我が国経済に与える影響について、マーケットの変動を通じた影響や世界経済への影響も含め、今後の動向をしっかり注視をしてまいります。
現在、我が国経済は、中国経済の減速などから輸出の伸びが鈍化し、製造業を中心とした生産活動に弱さが続いていますが、雇用・所得環境の改善、高水準にある企業収益など、内需を支えるファンダメンタルズはこれまで同様しっかりしていると認識をいたしております。また、今国会で成立した昨年度補正予算や今年度予算の執行による公共投資の増加も期待をされます。
通商問題の動向が世界経済に与える影響や金融資本市場の変動の影響等を十分注視しつつ、今後も経済運営に万全を期してまいります。(拍手)
〔国務大臣麻生太郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(麻生太郎君) 岩渕議員からは、インボイス制度及び消費税率の引上げ、グループ補助金等、被災地の事業者支援について、計二問お尋ねがあっております。
まず、インボイス制度及び消費税率の引上げについてお尋ねがありました。
インボイス制度は、御存じのように、売手が買手に対し正確な適用税率、税額を伝える仕組みとして導入するものでありまして、欧州諸国を始め諸外国の付加価値税制度の中で幅広く採用されておりますのは御存じのとおりであります。また、複数税率の下におきましては、例えば、売手が軽減税率で申告し、買手は標準税率で仕入税額控除をするといった食い違いを防ぐことができる仕組みであると考えております。
政府といたしましては、インボイス制度の周知、さらには広報に努め、万全の対応を行ってまいりたいと考えております。
また、消費税率の引上げにつきましては、これは、急速な高齢化等々を背景として社会保障給付費が大きく今後増加してまいります。したがいまして、全世代型社会保障の構築に向け、少子化対策や社会保障に対する安定財源を確保するためにどうしても必要なものだと考えております。
したがいまして、リーマン・ショック級の出来事が起こらない限り、法律で定められておりますとおり、本年十月に消費税率を引き上げることを予定をいたしております。
最後に、グループ補助金等、被災地の事業者支援についてのお尋ねがありました。
グループ補助金は、東日本大震災の復旧復興に当たり、サプライチェーンの毀損等に対応するために創設されたものであります。その後も、自然災害が発生した地域において活用してきたところであります。その内容につきましては、被災地の状況等を踏まえ、制度の見直しを行ってきたものと承知をいたしております。
今後も、自然災害による被災地の復旧復興に際しましては、被災の状況や支援の効果などを勘案しつつ、グループ補助金も含めた各種の事業者支援により適切に対応してまいりたいと考えております。(拍手)