2021年5月26日(水) 参議院 本会議
「産業競争力強化法等改正案」対政府質疑
日本共産党の岩渕友議員は26日の参院本会議で、産業競争力強化法等改定案について、「大企業のリストラ・事業再編と中小企業の淘汰(とうた)を促進するために今回の改定案を打ち出した」と批判しました。1990年代以降、歴代政権が行ってきた規制緩和や構造改革が格差と貧困の拡大をもたらしたとして、「こんな方向を続けていては国内経済も国民の暮らしも良くならない」と強調しました。
岩渕氏は、改定案が「グリーン社会への転換」の名の下に原発を強力に推進しようとしていると指摘。「原発事故は終わったと言わんばかりに、国民世論に反して原発に固執し、『脱炭素』を口実に再稼働・推進に突き進むなど許されない」と批判しました。
そのうえで、菅義偉首相が温室効果ガスを2030年度までに13年度比で46%削減する目標を表明したことについて「パリ協定の気温上昇1・5度抑制を実現するにはあまりに不十分だ」として見直すよう主張。石炭火力の輸出、国内発電とも全廃すべきだと述べました。
また、改定案が「中小企業の足腰の強化」と言いながら、淘汰・整理を進めようとしていると指摘。「生産性をあげると言うなら、まずは立場の弱い中小企業がきちんと価格転嫁できるよう下請け関係法制などの規制を強化すべきだ」と主張しました。
梶山弘志経済産業相は「安定かつ安価な電力供給や気候変動問題への対応を考えれば、安全確保を大前提とした脱炭素電源である原子力の活用は欠かせない」などと強弁しました。
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2021年5月26日(水) 参議院 本会議
「産業競争力強化法等改正案」
○議長(山東昭子君) 岩渕友さん。
〔岩渕友君登壇、拍手〕
○岩渕友君 私は、日本共産党を代表し、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案について質問します。
法案に入る前に、コロナ禍で苦境にあえぐ中小企業、個人事業主への支援策について聞きます。
現場からの最も強い要望は、持続化給付金、家賃支援給付金の再支給です。菅政権は、コロナ禍の真っただ中にもかかわらず、昨年末で持続化給付金を打ち切ってしまいました。事業者からは、政府はうちの店なんてなくなってもいいんでしょうねという怒りが寄せられています。継続してほしいという切実な声が上がっていたにもかかわらず、なぜ打ち切ってしまったのですか。
感染の再拡大に、経産省は慌てて一時支援金という制度をつくりましたが、額も少なく、対象も限定的です。それを引き継ぐ月次支援金も月ごとの細切れの支援で、とても足りないと既に悲鳴が上がっています。せめて持続化給付金と同様の内容にすぐに改善し、さらに規模別の支援に拡充していくべきです。
以上、経済産業大臣の答弁を求めます。
日本商工会議所を始め、多くの中小企業団体が強く求めているのが、二〇二三年十月に予定されている消費税のインボイス制度導入の延期、凍結です。中小企業が新型コロナウイルスへの対応に追われる下で導入への準備を強要するなど、余りに冷た過ぎます。そもそも、インボイスは、中小企業に重い事務負担を課すだけでなく、対応できない小規模事業者は取引から除外される危険性があります。我が党はインボイス制度の導入そのものに反対ですが、全国の中小企業団体の声に耳を傾けるなら、少なくとも延期、凍結の決断を直ちにすべきではありませんか。
今や、世界で五十八もの国・地域がコロナ対策として消費税、付加価値税の減税に踏み出しています。菅政権は一貫して消費税の減税を拒否してきましたが、コロナ禍が長引く中、いよいよ日本も決断をするべきではありませんか。
以上、財務大臣の答弁を求めます。
産業競争力強化法は、二〇一三年十二月、アベノミクスの第三の矢である成長戦略の目玉として成立しました。日本経済が抱える過小投資、過剰規制、過当競争という三つのゆがみを打破するとして、大企業のための規制緩和や優遇税制を進めるためのものでした。二〇一八年には、産業の新陳代謝の活性化を掲げ、中小企業の廃業を促し、淘汰を進めるための改悪も行われました。安倍政権を引き継いだ菅政権は、更に大企業のリストラ、事業再編と中小企業の淘汰を促進するために今回の改正案を打ち出しました。
九〇年代以降、歴代政権が行ってきた規制緩和や構造改革は一体何をもたらしたでしょうか。
産競法の前身である産業活力再生特措法は、自動車を始めとする大企業の生産拠点の海外移転を促進しました。その結果、海外生産比率は九九年度の二三%から一八年度には三八・二%に拡大しました。一握りの大企業が空前の利益を上げる一方で、国内では産業の空洞化、地方の疲弊、雇用破壊がもたらされ、それが消費を冷やし、国内経済の長期にわたる低迷が続いてきました。
実際、大企業の内部留保の中心である利益剰余金はこの二十年で八十五兆円から二百三十七兆円と三倍近くに増えていますが、従業員給与、賞与は四十一兆円から四十四兆円と一・〇六倍、ほとんど横ばいです。OECDによれば、この二十年間、主な先進国で時間賃金がマイナスないしは横ばいなのは日本だけです。結局、日本経済が良くなるどころか、格差と貧困が拡大しただけではありませんか。経産大臣の認識を伺います。
こんな方向を続けていては国内経済も国民の暮らしも良くならないことを強く指摘しておきます。
本法案の第一の問題点は、グリーン社会への転換の名の下に原発を強力に推進しようとしていることです。
昨年十二月に決定されたグリーン成長戦略では、カーボンニュートラルへの挑戦を経済と環境の好循環につなげるための産業政策として位置付け、原子力を確立した脱炭素技術として最大限活用するとしています。法案でも、グリーン社会への転換のために活用する非化石エネルギー源から原発を排除していません。
東京電力福島第一原発事故から十年がたっても、県の発表でも三万人を超える方々が避難生活を強いられ、原子力緊急事態宣言は発令されたまま、事故収束の見通しも立っていません。ところが、原発事故は終わったと言わんばかりに国民世論に反して原発に固執し、脱炭素を口実に原発の再稼働、推進に突き進むなど許されません。
一方、ドイツでは、脱原発を決断し、来年には全原発が稼働を停止、全廃となる見込みです。世界全体でも、再エネの発電量が原発を上回りました。原発を温存することが再生可能エネルギーの導入を妨げています。原発ゼロを決断し、省エネ、再エネ中心のエネルギー政策へ転換するべきではありませんか。経産大臣の認識を伺います。
菅総理は、温室効果ガスを二〇三〇年度までに一三年度比で四六%削減するという目標を表明しました。しかし、パリ協定の気温上昇一・五度抑制を実現するためには余りに不十分です。目標を見直すべきではありませんか。環境大臣に伺います。
先日のG7気候・環境相会合では、石炭火力発電の全廃の提案に反対し、固執する日本の姿が浮き彫りになりました。石炭火力の輸出、国内発電とも全廃するべきではありませんか。経産大臣にお聞きします。
第二の問題点は、中小企業の足腰の強化といいながら、淘汰、整理を進めようとしていることです。
本法案は、コロナ禍を奇貨とし、産業の新陳代謝を掲げていますが、事業再構築を通じてリストラや中小企業の切捨てが促進されることも懸念されます。法案の基になった実行計画を取りまとめた成長戦略会議は菅総理の肝煎りで設置されました。菅総理から委員に任命されたデービッド・アトキンソン氏は、日本は中小企業が多過ぎる、半減すべきと主張、菅総理は、三月の参議院予算委員会でこの主張に共感したと明言していますが、梶山大臣も同じ認識か伺います。
しかも、中小企業の生産性が低いのは規模が小さいからだとし、規模の拡大を強調しています。本法案も中小企業から中堅企業への発展を促進しようというものですが、考え方が根本から間違っています。日本の中小企業は、小さくてもきらりと光る技術で海外でも認められてきました。大きくなればいいというものではありません。
二〇二〇年の中小企業白書も示しているとおり、中小企業の生産性向上を阻害しているのは、大企業に比べ中小企業は価格転嫁力が弱い、つまり、元請やお客さんから値引きを求められ、利益が確保できないことに一番の原因があります。だから、一人当たりの労働生産性が低く抑えられているのです。生産性を上げるというなら、まずは立場の弱い中小企業がきちんと価格転嫁できるよう、下請関係法制などの規制を強化すべきではありませんか。経産大臣の答弁を求めます。
このことなしに規模の拡大だけを求めるなら、大事な技術を持っている中小・小規模事業者を切り捨てることになり、日本経済にとっても大きなマイナスになることを指摘し、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣梶山弘志君登壇、拍手〕
○国務大臣(梶山弘志君) 岩渕議員からの質問にお答えをいたします。
持続化給付金の再給付や支援金の改善、規模別支援についてのお尋ねがありました。
本年一月以降、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響を受けた事業者に対しては、飲食店に対する協力金、一時支援金、イベントのキャンセル費用に対する支援など、支援策を講じております。また、このほかにも、新たに創設する月次支援金や百貨店等の大規模施設支援などを講じてまいります。
なお、一時支援金及び月次支援金の給付額は、事業規模が比較的大きい法人、比較的小さい法人のそれぞれについて、前年又は前々年同月の売上げから減少分に応じて変動をいたします。このため、支援金の上限額の範囲内で事業規模に応じた支援をするものとなっております。
加えて、現在実施している支援策は、全国全業種一律のものではなく、時短要請などの地域や業種ごとに様々に講じられている措置の内容に応じてきめ細かく支援を行うものであります。また、地方創生臨時交付金を活用し、自治体が地域の実情に応じた独自の支援策を講じることを応援をしております。
国が全国一律に対応した持続化給付金及び家賃支援給付金は、新型コロナの経済に与える影響が未知である中で一刻も早い支援が必要であったため講じた政策であり、その再給付は現在考えておりません。
今後とも、自治体とも連携しつつ、影響を受ける事業者にターゲットを絞り、きめ細かく事業者支援を講じてまいります。
産業競争力強化法による措置の格差や貧困の拡大に係る影響についてのお尋ねがありました。
競争環境や需要構造の変化等に伴い、企業の事業に栄枯盛衰を生じることは避けられないものであり、必要な構造改革を先送りし、不振の事業を放置し続ければ、そうした事業に係る資金や人材といった経営資源の価値が毀損し、経済全体に悪影響を及ぼすと認識をしております。
産業競争力強化法や産業活力再生特別措置法は、企業が成長の期待できる事業分野に資金や人材といった経営資源を円滑に振り向けていくことを支援することで、産業構造や就業構造に転換を円滑化するものであり、これらの法律により格差や貧困が拡大したとの御指摘は当たらないと考えております。
連合の調査によれば、二〇一四年から六年連続で今世紀に入って最も高い水準の賃上げが実現をし、最低賃金も政権交代後の七年間で百五十二円の引上げを実現をしております。今後も、成長と分配の好循環を実現していくことに全力を傾けていきたいと考えております。
エネルギー政策の転換についてお尋ねがありました。
エネルギーは全ての社会経済活動を支える土台です。我が国の国際競争力維持と雇用の確保のためには、事業者が安定的に事業を行うことが重要です。そのためにも3EプラスSのバランスを取りながら安価なエネルギーの安定供給を確保することは、いつの時代、いかなる状況下においても最重要課題と認識をしております。
3EプラスSの全てを満たす完璧なエネルギー源が存在せず、今後の革新的技術の進展や社会の変容などの不確実要素があることを踏まえれば、徹底した省エネと再エネの最大限導入に加えて、原子力、火力、水素、アンモニアなどあらゆる選択肢を追求し、カーボンニュートラルの実現を目指すことが重要と考えております。
その上で、安定かつ安価な電力供給や気候変動問題への対応などを考えれば、安全確保を大前提とした確立した脱炭素電源である原子力の活用は欠かせないものと考えております。エネルギー基本計画の見直しに向けては、こうした観点を踏まえて集中的に議論し、結論を出してまいります。
G7気候・環境大臣会合を踏まえた石炭火力政策についてお尋ねがありました。
今回のG7閣僚声明では、石炭火力輸出支援の厳格化という我が国の方針を説明し、各国から一定の理解を得たところであります。世界でカーボンニュートラルを目指していく中、全ての国が一足飛びにネットゼロを達成できるとは限りません。途上国の実効的な脱炭素化を促すためにどのような対応が必要なのか、引き続き検討してまいります。
また、エネルギーをめぐる状況は各国千差万別です。資源が乏しく、周囲を海で囲まれた我が国では、多様なエネルギー源をバランスよく活用することが重要であると考えております。
このため、国内石炭火力については、全てを廃止するのではなく、安定供給を前提にその比率をできる限り引き下げていくことが基本となると考えております。このため、二〇三〇年に向けて非効率石炭のフェードアウトを着実に進めるとともに、二〇五〇年に向けては水素、アンモニア等を活用した脱炭素型の火力に置き換えていく取組を促進をしてまいります。
中小企業が多過ぎるとの主張についてお尋ねがありました。
私としては、生産性の低い中小企業の数が多過ぎるために合併や淘汰を進めるべきとは考えておりません。中小企業の生産性を向上させ、足腰を強くしていくための施策を推進していくことが政府の役割であると考えております。この点について、菅総理大臣も、中小企業政策は中小企業を淘汰することが目的ではなく、海外で競争できるような企業を増やしていくことが重要であると国会で答弁をされております。
中小・小規模事業者は多種多様であり、業種、地域ごとに役割も在り方も違うため、それぞれの役割に応じて支援を行っていくことが重要であると考えております。引き続き中小企業のそれぞれの役割に応じてきめ細かく支援を行ってまいります。
下請関係法制等の規制強化についてお尋ねがありました。
御指摘のとおり、中小企業の生産性向上を実現するためには、下請中小事業者から親事業者への適正な価格転嫁等の取引適正化が重要であります。
そのため、今回の法改正において、規制法である下請代金法により、適用対象の広い下請振興、失礼しました、下請代金法よりも適用範囲の広い下請振興法の改正を行うことで、より広範な下請取引の実態について国が調査を行うことができる規定を新たに盛り込みました。この規定に基づき、全国百二十名の下請Gメンによる取引実態の把握を強力に進めるとともに、振興基準に照らして問題となる事例については、業所管大臣による指導、助言につなげていくなど、大企業と中小企業との適正な取引を促してまいります。
また、下請代金法については、引き続き、公正取引委員会と連携して、下請中小企業がしっかりと価格転嫁ができるよう厳格な運用に取り組んでまいります。(拍手)
〔国務大臣麻生太郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(麻生太郎君) 岩渕議員から、インボイス制度、消費税の減税について、二問お尋ねがあっております。
インボイス制度は、複数税率というのを行っております下では、適正な課税を行うためには必要なものであり、また、税額が明確になり、価格転嫁が行いやすくなることも期待をされております。制度の円滑な導入というものを図る観点から、事業者の準備などのために十分な期間を設けているところであり、延期や凍結といったことを考えているわけではありません。
今後とも、制度の円滑な導入に向けて、関係省庁間で連携し、周知、広報を始めとして必要な取組を進めてまいりたいと考えております。
もう一問、消費税の減税についてのお尋ねがありました。
消費税につきましては、急速な少子高齢化等を背景に、社会保障給付費が大きく増加していきます中、国民が広く受益をいたします社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合うという観点から、社会保障の財源として位置付けられておりますのは御存じのとおりです。
令和元年の消費税率の引上げは、全ての世代が安心できる全世代型社会保障制度へと大きく転換していくためにどうしても必要なものであり、消費税を引き下げるということは考えておりません。
政府として、令和三年度予算を着実に実行していく、執行していくということで、新型コロナ対策に万全を期してまいりますとともに、内需主導の経済成長を実現するなど、引き続き経済財政運営に万全を期してまいりたいと考えております。(拍手)
〔国務大臣小泉進次郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(小泉進次郎君) 岩渕友議員にお答えをします。
我が国の温室効果ガスの二〇三〇年度削減目標について、不十分であり見直すべきではないかとお尋ねがありましたが、不十分どころか、非常に意欲的な目標ではないでしょうか。
国連気候変動枠組条約のエスピノーザ事務局長も、世界が日本の事例に倣うことを期待するとコメントするなど、国際的にも高く評価されており、先週開催されたG7気候・環境大臣会合で採択されたコミュニケにおいても、全てのG7メンバーによって発表された二〇三〇年目標に反映された大幅に強化された野心を歓迎する旨が記載をされたところです。
今後重要なことは、目標の達成に向けた具体的な施策の実行です。環境省としても、地熱発電施設数の増加や、再エネとのセット導入による電動車の補助金倍増、自治体の再エネ導入の抜本強化などを進めています。
現在、地球温暖化対策計画等の見直しを行っており、今後更に施策を強化すべく検討を加速し、政府一丸となって削減目標の実現に全力を尽くしてまいります。(拍手)
○議長(山東昭子君) これにて質疑は終了いたしました。