「戦争防止のための要件」参考人質疑
(議事録は後日更新いたします)
参院外交・安全保障に関する調査会は8日、「戦争防止のための要件」について参考人質疑を行いました。日本共産党の岩渕友議員は、空前の大軍拡のための43兆円もの軍事費への受け止めや日本が今後果たすべき外交努力について質問しました。
香田洋二元海上自衛隊自衛艦隊司令官は、問題の軍事費は「経済力、技術力、それから高齢化社会を迎える日本の社会構造を考えると、ちょっと度を超えている」と批判。「社会の体力を逆に奪ってしまうのではないか」と指摘しました。
香田氏はまた、立憲民主党の三上えり議員の質問に対し、軍事費に対する政府の説明は不十分だと強調。“こう決めたからこれをやります”という今の政府のやり方は、情報を封鎖し、“いうことを聞け”というロシア・中国とどこが違うのかと厳しく批判しました。
岩渕氏は、対話・交渉など戦争に至らないようにする外交努力の重要性を指摘した上で、日本の果たすべき役割を質問。植田隆子香川大法学部客員教授はロシアのウクライナ侵略にふれ、「『ルールに基づく国際秩序』が破壊される瀬戸際になっている」と指摘。国際秩序をいかに維持していくかが日本が直面する切迫した課題だと強調しました。
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2023年2月8日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「戦争防止のための要件」
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
3人の参考人の皆様、今日は本当にありがとうございました。
まず、香田参考人に伺うんですけれども、安保3文書の閣議決定を受けて、先ほど来話があるように、メディアでもいろいろ御発言をされていらっしゃるんですけれども、その中で、5年間で43兆円ということについて、その身の丈を超えていると思えてならないというふうに述べられているんですけれども、この身の丈を超えているというふうにおっしゃっている理由について教えていただきたいんですが。
○参考人(香田洋二君) 非常にいろいろ臆測を呼ぶような言い方をしまして申し訳ありません。
端的に言いますと、誤解されやすいのは、43兆円が身の丈を超えているということではないんですね。これは、きちっと積み上げて国民の理解を得られれば、40兆円でもいいし45兆円でも必要なときはこれは国としてやるべきだということなんですが、問題は、やろうとしていることが、いわゆる老齢化社会を迎える日本の中で、日本の経済力、技術力、それから社会構造を考えたときに、やはりちょっと度を超えているんじゃないかということなんですね。
例えばですけど、今防衛省がやろうとしている、これはまだ研究で開発までいっていないんですが、あるミサイルは3000キロの射程、3000キロって、ここでしゃべれば3000キロですよね。宗谷海峡、宗谷岬から与那国までなんですよ。私は、防衛上必要かもしれません。しかし同時に、弾道弾であれば飛ばせるんですが、普通のこの飛んでいくような、宗谷岬から与那国までというのを本当に日本で開発できますかということですよね。
それなら、別の手段があっていいんじゃないですか。そういう比較もされて、日本の社会に一番フィットする、そういう選択というのが実は個々のものに全部本当はなされなければ無責任なんですよ。
ところが、余りにもその事前の、まああの2%論議というのが去年出てきたわけで、普通だったら恐らく4、5年掛けて検討するものを一か月で、あっ、一年間で詰め込んだという同情はします。しかし、これは同情されて、はい、ようございましたの話じゃなくて、まさに国民の皆さんに税金をお願いするわけですから、可能な限りのそのベストですということについてのその説明が足りない。その中で、ある意味、羅列的に、まあ必要性は理解はできるけれども、最適性が説明されていない、あるいはその税金の最効率性が余り説明されていないものが並び過ぎているという意味で、身の丈、要するに、社会の体力を逆に、国を守ろうとして社会の体力を奪ってしまうんじゃないかということです。
○岩渕友君 ありがとうございます。
次に、浅田参考人に伺いたいんですけれども、そのロシアによるウクライナへの侵略というのは国際法から見ても明確に侵略だということだというお話あったんですけれども、参考人が紹介していただいた資料の中にも、国連総会の中で、そのロシアに対して即時無条件撤退を求める決議ということでそれが採択をされたという御紹介あったんですけれども、140か国を超える国々が賛成をしていると。こうした非難決議の中で最も多くの国が賛成したということなんですけれども、侵略許さないだとか、その平和を求める声というのが世界に本当に広がってきているなというふうに感じるんですね。
参考人がこうしたその変化についてどのように見ていらっしゃるか教えてください。
○参考人(浅田正彦君) ありがとうございます。
変化といいますか、私からすると当然のことだと思うんですね。これだけ明らかな侵略行為が行われて、それに対して反対する国というのはどういう発想なのかと逆に思ってしまうんですけれども。
141が賛成したということの意味は、例えば2014年のクリミアの際の同様の決議と比較してもかなり大きいんですね。クリミアのときには賛成が100、ちょうど100なんですね。で、今回は141ということで、いかに今回のロシアの行為というものがあからさまな侵略行為であるかということを国際社会の多くの国が認識したということでございますね。
これがなぜ重要かといいますと、ちょっと冒頭にも申し上げましたけれども、国際社会が侵略というふうに認識しているということになると、例えば冒頭申し上げました中立義務に反する行為も認められるし、限定中立という形で公平な扱いをしなくてもいいし、それからいろんなところでそれが根拠として援用できるわけですね。国際社会の140を超える国が侵略だと言っているじゃないかと、だからこれは許されるという形ですね。
だから、そういう意味で、総会というのは基本的に安保理と比べてやや劣った地位だというふうに見る人が多いわけですね。というのも、安全保障理事会の決定、決議というのは法的な拘束力があると、総会にはないということで、確かに現場に行ってみると総会と安保理とでは全く空気が違って、安保理ではもう本当に空気が張り詰めているんですけれども、総会に行くと演説を聞いていない人がほとんどだということで、そういう違いもあるんですけれども、こういうふうな事態になると、いかに多くの国がロシアの行為をどう見ているかというのは物すごく重要だと思いますので、そういう意味で、そういった決議の賛成国が多いというのは重要だと思いますけれども、問題は、その数がだんだん減ってきているんですね。
これは、支援疲れということだけではなくて、途上国が若干離れていっているという、そういう要素がありまして、それは何かといいますと、ウクライナ支援が物すごい額になっていますよね。お金は幾らでもあるわけではなくて、本来であれば途上国に行くべき援助がウクライナに行っているんですね。そうすると、途上国というのは、自分たちが本来もらっているはずのものがウクライナに行ってもらえなくなっているというので、余り支持したくないなという雰囲気が既に出てきているんですね。
だから、そういうのをいかにして抑えるかというのも重要だと思いますし、今私なんかも先ほど来申し上げていますように、この戦争というのは、民主主義、自由、そういったものの勝利か、それとも秩序を破壊かということの分かれ目だと思いますので、いかに支援を続けていくかというのは大事だと思っています。
○岩渕友君 ありがとうございます。
次に、植田参考人に伺うんですけれども、先ほどの冒頭のお話にもあった、外交とは接触することだというお話ありました。その戦争をさせないということで、対話であるとか交渉であるとか、外交非常に大事だというふうに思うんですけれども、その外交努力ということで、日本がどういう役割を果たすことが今求められているかということで、参考人のお考えあれば教えてください。
○参考人(植田隆子君) それは、特に何についてでございましょうかね。どういう案件についてというのはございますでしょうか。
○岩渕友君 まあやっぱりロシアのウクライナ侵略などがあって、今、日本もその安保3文書を閣議決定するようなこともあって、こういう状況の中で日本の果たすべき外交という点での役割ということで、何かお考えがあれば教えてください。
○参考人(植田隆子君) 御質問ありがとうございます。
今年はG7の議長国でありますから余計に、まあ日本が、余計にというかいつもよりもですね、従来よりも任務が重く、注目をほかの国々からされる年であると。そういうときにウクライナでの戦争が世界中の大きな国際平和の問題として関心事になっているという事態だと思うのですね。
ですから、本来ヨーロッパのロシアと地続きの、例えばバルト方面の国であるとか、あるいはノルウェーも上、真北のところにロシアとの共通国境があったと思いますけれども、そういう、すぐに軍隊が攻めてきてウクライナでの戦争が拡大してくるのかというような直接的な懸念は、場所が離れているので、近代の戦争では飛び道具が使われるとはいえ、そこのところは若干脅威度が違うと。ただ、今までの議論でたくさん出てまいりましたように、国際秩序のルールに基づく、国際秩序が破壊されるかどうなのかという、ここのところは瀬戸際になっているというような、日本から見れば立ち位置だと思うんですね。
ですから、ウクライナに対する直接的な支援という側面はありますが、もう一つは、やはりG7というような場との関係からも、ルールに基づく国際秩序をいかに維持していくのかと、それが日本の直面している非常に大きな切迫した課題であり、先ほどの議論でも出てきましたように、南の国ですね、グローバルサウスという言葉が使われているようですが、それらの国々に対してどのような議論が説得力を持つのか。これも、日本は元々西洋の国ではないので、ヨーロッパの国あるいはアメリカとは若干異なる立ち位置から説得力がある議論ができないものかと思っている次第でございます。
○岩渕友君 ありがとうございました。
時間なので終わるんですけれども、やっぱりあらゆる紛争を平和的に解決をさせる、話合いで解決をさせるということのために日本がもっと努力するべきだということを述べて、終わりたいと思います。
ありがとうございました。
2023年2月8日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「戦争防止のための要件」
同志社大学法学部教授 浅田正彦参考人
○参考人(浅田正彦君) 浅田正彦と申します。
本日は、お招きいただきまして、どうもありがとうございました。時間の関係ありますので、早速冒頭発言をさせていただきます。
レジュメ1枚とそれから若干の資料を付けたものを配付させていただいております。
昨年の2月24日に始まりましたロシアによるウクライナ侵攻は、疑いもなく国際法上の武力行使禁止原則の違反であり、侵略行為であります。しかし、プーチン大統領は、侵攻当日に行った演説で、自らの行為を法的に正当化する論を展開しております。それは、第一に個別的自衛権、第二に集団的自衛権、第三に在外自国民の保護、第四に人道的干渉、第五に要請による武力行使。まあ可能な全ての正当化事由を網羅したかのようでありますけれども、事実に照らすと、そのいずれも正当化は不可能ないし困難であります。その理由については、レジュメの方の一、①から⑤まで掲げてありますので、御参照いただければと思います。
ロシアによるいずれの正当化も困難であるとしますと、問題は、国際法のルールにあるのではなくて、主としてロシア、プーチン大統領の遵法意思あるいは国際政治的な要素にあったというふうに言えます。
国際法の観点からは、国際法が違法な武力行使、侵略に対して何ができるかという、こういった点についてお話ししたいと思います。その観点から、国連と、それから国連外の対応を見ることにしたいと思います。
まず、国連についていいますと、武力侵攻に対応する第一義的な責任というのは安保理にあります。しかし、ロシアの拒否権のために安保理は機能しなかったわけであります。大体の概要は資料の一のところに年表の形で出してあります。
拒否権による安保理の機能不全の場合には、問題を国連総会の方に移して総会が集団的な措置を勧告できるというふうなメカニズムがあります。これは1950年の平和のための結集決議という決議に示されております。今回も、その平和のための結集決議を用いて緊急特別総会というものが開かれまして、安保理で拒否権のために否決されたものとほぼ同内容の決議がそこで採択されております。その中で、ロシアによる侵略というものが認定されています。これは、資料の二の方の決議のES111というのがありますけれども、この11というのは第11回の緊急特別総会の決議一という意味ですけれども、この中で侵略という文字がパラグラフの二のところに書かれていますけれども、こういった形の認定がなされています。
総会はロシアに対して制裁を決議することも当然可能であったわけですけれども、制裁は含まれていません。したがって、今回のロシアの侵略について、拒否権を有する国による侵略なので国連集団安全保障が機能しなかったというよりも、むしろ国際社会が国連による制裁を希望しなかったということではないかと思います。やろうと思えばできたものをしていないということですから。というのも、ロシアに対する制裁というものが国連の外において独自制裁の形で行われているからであります。
そこで、こういった独自制裁というものが国際法上どのように考えるべきかということを次にお話ししたいと思います。
独自制裁、制裁というのは多義的な用語ですけれども、そもそも国際法上適法な措置であれば問題にする必要はありません。したがって、本来は違法であるけれども制裁として行うということ、いう場合ですね、これが問題となります。こういった、本来は違法な行為であるけれども、その違法性が阻却されるというふうなルールとして、国際法上、対抗措置というふうな概念があります。
国際社会というのは主権国家が併存していますので、相手国の違法な行為をやめさせるためには被害国の側が対抗措置として違法な行為をするのを認めると、そういった制度があるわけですね。そういった対抗措置、これが言わば制裁になるわけですけれども、そういった対抗措置、制裁を行うことができるのは、基本的には当初の違法行為の被害国だというふうにされています。
もっとも、侵略とかあるいはジェノサイドといった国際社会全体の利益に関わるような義務の違反の場合には、被害国に限らず国際社会の全ての国が対抗措置、制裁をとるということもできるという考え方があります。その場合には、直接の被害国以外の言わば第三国も違反国に対して対抗措置、制裁をとれるというふうなことになります。これが第三者対抗措置、まあちょっと難しいですけれども、第三者対抗措置というふうに言われるものであります。
で、直接の被害国でない国が行う独自制裁、今回でいいますと、ウクライナ以外の例えばG7とかですね、そういった国が行う制裁を法的に正当化する唯一の論理というのがこの第三者対抗措置であります。この第三者対抗措置というものが適法かどうかということについては争いがあります。国連国際法委員会が2001年と2011年に作成した条文の中でも玉虫色のよく分からない規定になっているというのが現状であります。
しかし、国際社会で第三者対抗措置の実践がますます増加しておりまして、とりわけ今回のロシアによるウクライナ侵攻に対して行われた第三国、ウクライナ以外の国による独自制裁に対しては、これを国際法で違法だというふうな主張はほとんど聞かれません。ロシアによるあからさまな侵略行為に対する措置として批判しにくかったという点はあるかと思いますけれども、第三者対抗措置というものが合法であるという方向へ、一つの重要な先例になるというふうに思っています。
こういった傾向が続くと、有志国による協調的な独自制裁で侵略に対しては対抗するというふうなことが、今後、違法な武力行使への一つの在り方として期待されると、そうした体制づくりというのが重要ではないかというふうに思います。第二の安保理をつくるというわけじゃありませんけれども、そういった協調的な体制というものをつくるということは重要であるというふうに考えます。
それから、侵略に対するもう一つの措置は、戦後における賠償であります。戦争賠償は伝統的には平和条約において行われてきていますけれども、平和条約以外にも、裁判の判決によって侵略に対する賠償というのが命ぜられる、これは昨年行われたICJの判決がありますけれども、そういったものがありますし、あるいは、安保理決議によって侵略への賠償のメカニズムというのがつくられることもあります。これは湾岸戦争の際のイラクに対するものでありまして、安保理決議で国連補償委員会というものを設置して、設置した例があります。
今回のウクライナ戦争についても、昨年の11月に採択された緊急特別総会の決議五というのがありますけれども、これは資料の④に付けてありますが、ここで、侵略、人道法違反を含むあらゆる国際違法行為について賠償のための国際制度を構築するという必要が言及されております。
これが賠償実現への第一歩でありまして、今後、いかなる範囲でこういった賠償というのを認めるかという詰めの作業と、それから具体的なそういった賠償メカニズムをどうするかと、その創設の問題というものが出てきますけれども、6000億ユーロ、86兆円というふうに言われています損害、これはまだ数字としては古いものですからどんどん増えておりますけれども、そういったものについて賠償が行われるとなると、将来の侵略行為への一定の歯止めといいますか、抑制効果はあるかというふうに思います。
その際の問題は、賠償資金をいかに確保するかということであります。先ほど言いました湾岸戦争のときの国連補償委員会の場合には、イラクの石油輸出の代金を割り当てるというふうなメカニズムが創設されていましたけれども、ロシアの場合にどうするのかという点が問題であります。ロシア中央銀行の凍結資産というのが現在二千億ユーロありますけれども、これを充てるという提案もありますけれども、そういったことが国際法で許されるかという点が問題としてあります。
中央銀行の資産を凍結するということは、基本的に、国際法上は、国家の資産に与えられています免除ですね、に反するというふうに考えられますけれども、これも、先ほども申し上げました対抗措置という観点からしますと、違法であるけれども違法性が阻却されると、先行する違法行為があると、それをやめさせるために違法行為を行うという対抗措置の概念も用いますと違法性が阻却されるということが言えるわけですけれども、しかし、それで終わるわけではなくて若干問題が残りまして、対抗措置というのは、その目的は先行する違法行為をやめさせるということにありますので、相手国が違法行為をやめれば対抗措置もやめなければならないというふうな制度ですね。
したがって、一時的な措置であれば、つまり、凍結というふうな一時的な措置であれば問題ないんですけれども、没収というふうになりますと、これは一時的ではないですよね。没収してしまうと、相手国が違法行為をやめても、こちらとしては違法行為がもうやめれないと。ですから、没収というのは対抗措置として認められないというふうな考え方もあるわけで、こういった辺りは少し問題があるかと思います。
ただ、立法論的に言いますと、国際刑事裁判所、ICC、まあ最近少しよく知られていますけれども、ICCにおいては、単なる戦争犯罪者の処罰だけではなくて、戦争犯罪の被害者に対する賠償を命ずるというふうな制度もあります。そういうことを想起すれば、国家のレベルにおいても同様に賠償という制度を少し制度化するということが考えられるかと思いますけれども、ただ、国際社会の構造からしますと、こういった制度をつくるにしても、条約かあるいは安保理決議か、あるいは国際司法裁判所の判決、こういったものが必要になってくるわけで、いずれもロシアとの関係でいいますとなかなか想定しづらいというふうに思っています。
侵略国への制裁の対極にある措置としまして、侵略の犠牲国への支援というのがあります。ウクライナ戦争でも、アメリカを始めとして、NATO諸国の軍事支援というのがその帰趨に大きな影響を与えておるところですけれども、こういった、たとえ侵略を行われても外からの支援で反転攻勢できるというふうな体制があれば、侵略の抑止にもなるというふうに思います。これが、本来であれば集団安全保障というのはそういう制度であったわけですけれども、そういった反転攻勢ができる体制というものが必要だろうと思います。
したがって、有志国が協調して支援を行うという事実上の体制というものをどのようにつくるかということが重要になるわけですけれども、こういった軍事支援についても国際法上問題がないかといいますと、ないわけではないということをお話ししたいと思います。
伝統的な国際法の下では、戦争が発生した場合には交戦国以外の国には二つの選択肢があります。一つは一方の側に立って共同交戦国になるということで、もう一つは中立の立場に立つということ、いずれかを選択することになります。
中立国になった場合には本当に中立義務を負うことになりますけれども、中立義務の中に公平義務というのがあります。中立国は両交戦国を公平に扱うということが求められまして、一方の交戦国に対して武器弾薬等を提供するということは禁止されているというのがこの中立義務の一部であります。
ただ、この中立義務、伝統的な中立義務は、特に戦争が違法化されて以降は動揺することになります。侵略国と侵略の犠牲国を公平に扱うということは、基本的に戦争を違法化するということとは両立しないと。そして、もっと言えば、侵略国を利するということになる。したがって、侵略の犠牲国に対する支援は許されるというふうな考え方が出てきております。これが限定中立と言われる考え方であります。
こうした考え方を明示的に採用している国としましてアメリカがあります。アメリカは、軍事マニュアルにおいて、限定中立というものを採用しているということを明記しております。
ただ、侵略国の、侵略の犠牲国に対する支援といっても、誰が侵略国かということが認定されないとそういったメカニズムは働かないわけでありまして、侵略の認定というのが必ず行われるとは限らないと、むしろ行われるのが例外的だというふうなのが現実であります。
こういった限定中立の立場の採用において、国連による侵略国の認定が必要なのかということについては、これもまた争いがあるのが現実でありまして、ただ、今回のウクライナとの関係でいいますと、少なくとも、冒頭言いましたように、緊急特別総会の決議においてロシアの侵略が明確に認定されていますから、この点に問題はなく、軍事支援というのは限定中立として正当化できるというふうに思います。
今後も、安保理の常任理事国による侵略において、安保理が拒否権において、拒否権によって機能しない場合には速やかに緊急特別総会を開催して侵略国の認定を行うということが犠牲国に対する支援としては極めて重要ではないかというふうに思います。
残りの時間で、核兵器に関連する問題と、それから、昨年の12月に発表されました日本の国家安全保障戦略について一言ずつ申し上げたいと思います。
国連体制の下で常任理事国、安保理の常任理事国が武力行使を行ったということはこれまでもなかったわけではありません。が、ウクライナ戦争において注目すべきは、核保有国が核の使用をほのめかしつつ侵略を完遂しようとしている点であります。ロシアが核の使用を何度もちらつかせているということは周知のとおりですけれども、これが現在のNATO諸国によるウクライナ戦支援に対して大きな足かせとなっております。
これはある意味では、核抑止が実際に機能することを示しております。しかし、逆に、そのことは将来における核保有国による同様の核の脅しを助長するということもありますし、あるいは、核保有国が核兵器放棄の可能性、五大国といいますか、P5の、NPT上のものは別にしまして、それ以外の国ですね、そういった国が核兵器を放棄するという可能性が更に遠のくということもありますし、さらには、核拡散の危険というのも高まるというふうに思います。
ですから、今後は核不拡散の取組とそれから核兵器不使用の取組がますます重要になってくるのではないかというふうに思います。この不使用については、日本の安全保障上の核抑止に頼るというところとどう整合させるかということはかなり難しい問題と思いますけれども、こういった問題も議論する必要があると思います。
それから、もう一つの国家安全保障戦略との関係ですけれども、日本は侵略の犠牲にならないために何をすべきかという観点からしますと、国家安全保障戦略において表明された反撃能力の保有というのが重要であるというふうに思います。
北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上、昨年、物すごい数の実験、発射を行っていますけれども、それから、中国も千基を超える、千から二千の中距離、準中距離ミサイルを保有しております。これに対して日本の迎撃態勢というのは、イージス・アショアの頓挫を始めとしまして心もとない限りでありますし、今回のウクライナ戦争を見ますと、100%の迎撃の保証がない限り、いかに悲惨な結果が待ち受けているかということを如実に示しているというふうに思います。
そういった現実を前提にしますと、いかに弾道ミサイル攻撃そのものの発生を回避するかということを考えるべきだというふうに思います。もちろんそのためには外交も重要でありますけれども、究極的には、相手方に対して、もし対日攻撃を行えば大変なことになるというふうなことをあらかじめ知らしめるということが重要だと思います。その一つが反撃能力であります。
反撃能力の保有というのは、現に反撃を行うということも、まあ望ましくはないですけれども、そういう可能性を示すと。それから、それを示すことによって攻撃を抑止するというためにも必要でありますが、それだけではなくて、将来あり得べき東アジアにおけるミサイルの削減交渉というものを考えた場合に、そういったものとの関係でも重要であります。
1979年のNATOの二重決定に言及するまでもなく、削減交渉の対象となるべき兵器を持たない国が、私は持っていませんけれども、あなたの国のミサイルを廃棄してくれませんかと言って分かりましたと言う国はないと思います。したがって、そういった将来の削減交渉を考えた場合にもこういった反撃能力の保有というのは重要であるかというふうに思っております。
最後に、ウクライナ戦争の推移に関連してもう一言だけ申し上げますと、侵略を受けた国が世界から支持と支援を得るには、その国が必死に抵抗しているということを示す、それに加えて、その国のトップの政治家がそういった気概を明確に示すということは極めて重要であるというふうに感じております。
この点を申し上げまして、私の冒頭の発言を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
2023年2月8日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「戦争防止のための要件」
香川大学法学部客員教授・上智大学大学院講師植田隆子 参考人
○参考人(植田隆子君) 御紹介にあずかりました植田隆子でございます。
今日は、非常に大きなテーマをいただいておりますが、その中でリスクリダクション、危機低減というところに中心を置いてお話しできたらと考えております。
どうしてこういうテーマを選ぶのか、それから、既に事前にお配りしたものであるとか、今日の五枚の報告の、この順番でお話をするということの中身でございますが、地域的にヨーロッパのお話が出てくると。これは、自分の経歴の中で8年ぐらい時期を置いてヨーロッパに、研究所にいたりとか、それから3年ずつですね、90年代の始めに日本のベルギー大使館でヨーロッパの安全保障、これは物すごい激動の時期で、ソ連がなくなったりとかですね、行ってすぐ湾岸戦争になったんですが、ソ連が崩壊したりとかいう激動の時期で、そこからしばらく置いて、今から10年ぐらい前ですね、今度は同じブラッセルのEU代表部で3年ぐらい勤務をしておりました。よくこれだけ大学を休めたということもあるんですけれども。
それで、EU代表部に行っておりましたときも、これは日本とEUとの今のEPAとかSPAをつくる前の時代で、そのためにEUを引っ張り出すと言ったらちょっと変な言い方ですが、日本の方が非常に熱心だったので一生懸命交流をしておりました時代でございます。ただ、やっぱりこのときも結構大きな国際的な出来事が起こっていて、着任してすぐ、ロシアの侵攻ですね、これはジョージアという小さい国に侵攻したと、それで非常に大きなインパクトがあった。
そういうところから始まった問題でございまして、ただ、別にその自分の研究対象がヨーロッパでも、大使館とかEU代表部に勤めているからには日本のことを、アジア情勢を説明すると。で、10年ぐらい前に起こっておりましたことというのは、EU、EUの今の対中政策と違っておりまして、天安門のときにEUは制裁をしていると。対中制裁をしていると。それは対中武器輸出禁輸であったわけですね。中国に対する武器輸出をしないと。それを、今から10年ぐらい前というのは今のEUの中国政策と違うので、武器を輸出したい国というのがEU圏の中にもございまして、それを解除しようとする動きがあったと、それを解除されないようにするというのも私の仕事の一つだったわけで。
このアジア情勢、日本を取り巻く安全保障情勢などもそのときは御説明をしており、その後も、EUやNATOや、もう一つ今日出てくるのがOSCEという組織でございまして、組織は後ろの方に、アジアを取り巻く組織というのが最後に付いておりまして、その後ろから2番目のページに、欧州の主要な枠組みということで、NATOとかEUとか、ちょっともう日本よりも、あるいはアジアよりも更に複雑に、しかも非常に固い組織がたくさんつくられておりますので、そういうことをやっておりました。
それで、日本の安全保障政策はどんどんいろんな議論が出て動いていると思いますが、対抗抑止という、特定の国から自分の国を守るために行っている措置、これは必要でございますが、これだけが非常に前面的に出てくると、日本の国の位置が米国と違って中国とかロシアという大国に非常に近い、それから北朝鮮もあるということで、もう一つ何か対立を緩和するような措置がつくれないものかと。こういう措置の緩和を一生懸命考えていた地域がたまたま私が専門にしているヨーロッパ方面だったので、そういうことも踏まえてお話ができればということで、この報告を組んでおります。
それで、一のところでございますが、二度の世界大戦は欧州で発火をしたということで、戦争をとにかく防止したいという意欲はヨーロッパに強いと。戦争の防止に成功しているのは欧州連合であると、EUであると、ですからEUの加盟国間では戦争は起こらないと断言できると私は考えております。
それで、それは統合による平和ということで、日本と同じ民主主義の価値に基づくと。で、石炭と鉄鋼、このような資源をめぐって争っていたと、それはもうやめようねということで、石炭鉄鋼共同体というのを設立したところから始まりまして、今では経済・通貨、外交安保、警察・刑事協力に協力分野を拡大していると。まあ経済統合のように、のレベルとは外交安保とか警察・刑事協力は違いますけれども、していると。で、入りたいという国もそこに書いてありますように結構多いというか、入っていない国から見れば経済的な繁栄の象徴のように映っているようでございます。
それで、次に欧州の紛争予防のための枠組みというところに参りたいと思いますけれども、これは、そのためにつくられた組織というのが、後ろの方のカラーの枠組みのところにある欧州安全保障協力機構という、OSCEと今名前がそうなっている組織でございます。これは、75年にヘルシンキ宣言、ヘルシンキの10原則というのを打ち立てて、これは冷戦のときのデタントの時代ですが、東西、それから中立国も集まって立ち上げた会議体でございました。しかし、それで、10原則についてはもうそこに書いてあるとおりで、これは国連憲章と並んで国が尊重すべき原則ということで、よく加盟国以外でも出てくる原則でございます。東西間あるいは中立国も入って合意したものでございますので、西側の原則ではないということでございます。
それで、この75年に発足した会議の連続体だったCSCEは、ヨーロッパの大きな激変に直面して常設機構になりました。ちょうどこの頃、私はブラッセルのベルギー大使館に勤務をしておりまして、それで、ブラッセルからこういう状態を見たり、1992年の7月、ちょっと下、次のところにあるんですが、ヘルシンキで首脳会合をOSCEのレベルで開いたんですね。それも応援出張に行ったりとか、この時期はそういうことをやっておりました。ソ連が崩壊した後のヨーロッパというのは一体どうなるんだろうかと、それから民族紛争がユーゴスラビア辺りで出てきていると、そういう、かなり混乱して、次の国際秩序をつくらなければいけないという時期で、そのときにCSCEというのを強化するという発想が出てきていたということでございます。
それで、そこに書いてありますように、75年から軍事情報の交換のような軍事的な信頼醸成措置というのは発足しておりましたんですが、それを更に精緻化していくと。基本的には大西洋からウラルまでの地区の、地区と言ったらいいのかどうか分かりませんが、非常に詳細な情報交換措置とか、相手の軍隊を視察したり査察したりできるというような、非常に精緻な制度が更に精緻化されてきて、現行のはウィーン文書2011という2011年にできたものを、多少ちょっと手は加えられておりますが、使っております。ただ、ここの軍事的なCSBMというのは陸上編成兵力です。それで、海軍力に対する規制というのは、これは香田様の御専門、米国が好むところではないというふうに理解をしておりますし、ヨーロッパの場合は陸上戦力との戦いに基本的には初めぶつかってなるんだろうということで、この軍事的信頼醸成措置は現在まで続いております。
それから、OSCEの決定はコンセンサスですから、まあコンセンサスビルディングなので、いきなり全会一致だ、議決するということではないんですけれど、コンセンサス方式でやってきていると。
それで、日本の場合は、先ほど少し申しましたけれども、大西洋からウラルまでの間のエリアで何らかの軍備管理措置ができてくると、90年代の初めに日本が心配しておりましたことは、ソ連ないしはロシアの兵器がウラル以東に移転されてくるのではないかと。ですから、そこのところは日本にとっては好ましい事態ではないので、ヨーロッパ方面の軍縮というのが日本にとって懸念事項になるということもあり、このCSCEに自分も何らかの形で関与したいという発想になりまして、92年の7月からオブザーバー的で発言権があるというので出始めているということになって、今日に至っております。
それで、ほかにもパートナー国というのは、域外のパートナー国というのをOSCEは持っております。
それで、ウクライナでございますが、このウクライナについて、OSCEも当然、ロシアもウクライナも含む組織でございますから、取り上げております。2014年の3月から22年の3月末まで、ロシアを含むコンセンサス方式の決定やりますから、57全参加国の合意でウクライナの要請によって非武装の特別監視団を置いていたのですが、ロシア一国の反対で継続できなかったです。
このSMMという、スペシャル・モニタリング・ミッションと言っていたと思いますが、日本も要員を派遣したりとか資金も支援をしておりました。しかしながら、ロシアも入れてずっと、ウィーンに本部がありますから、参加国は代表部も置いており、ずっとOSCEは活動を続けております。
次に、日本を含むアジア地域の枠組みの意義というふうに書いております。多国間の安全保障協力体というのは、この地域は何があるのかと。これは、5ページに参加国を分かるように資料を入れさせていただいておりますが、ASEAN、ASEAN地域フォーラムであるとかASEAN拡大国防大臣会議という枠組みがございます。
それから、安全保障に特化しておりませんけれども、日中韓の三国協力という枠組みがございます。この三国協力事務局、私も何回か行ったことありますけど、2011年の9月にソウルに発足をして、日本からも要員を派遣して活動をしております。
それから、直接的に結び付くかどうかということはありますけれども、過去に朴槿恵大統領が北東アジア平和協力構想というのを、2014年からというふうにお配りしたものに書いてありますが、2012年の11月に大統領選の候補だった時期にウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿してあるという記録もありまして、これを打ち出しており、日本とかアメリカも結構好意的に受け止めていたように記憶をしております。これは対象国は南北朝鮮と日米中ロ、モンゴルということで、北東アジアの国を対象にした構想でしたけれども、その後引き継がれなかったということでございます。
三番目は、CUESと呼ばれている海上衝突回避規範、これも信頼醸成措置でございまして、これも香田様の方がずっと詳しいので、私はちょっとだけお話ししますが、2014年の4月に合意して、米中ロを含む21か国が参加していて、海上衝突回避で、これは西太平洋ですよね、合意をしてずっと実施されてきているという枠組みで、重要な枠組みだと思います。
それから、四番目でございますけれども、日露海上事故防止協定、これは93年に発効したものがございまして、年次会合が開かれております。25回目の年次会合、これは日本と、まあ基本的には東京とモスクワだと思うんですが、交代交代に開催をされており、一番最近なのは2019年のモスクワでございます。20年に東京で開こうとしたんですが、ホームページに載っておりますような御説明だと、コロナで開催できず現在に至っているということのようでございます。
それから、次の五番目、日中防衛当局間の海空連絡メカニズム、これはもうまさに香田様がお詳しいんだと思いますが、18年の6月に運用が開始されまして、これは防衛省が中心になって外務省はオブザーバーで出ているというふうに聞いておりますけれども、第一回が18年の12月、二回が20年の1月、三回が21年の3月ということで開かれており、ホットラインを開設するという準備が、今は技術的細部の調整中というふうに聞いておりますが、一応その両者の間で決まっているというふうにお伺いをしております。
それで、ヨーロッパ方面でどういう戦争を防止するための努力がなされてきているのか、それからアジアの方ではどのような動きがあるのか、二国間とそれからマルチの枠組みでどのようなことがなされてきているのかというのを簡単に御紹介をしてまいりました。それで、提言と申しましたらちょっとおこがましいかもしれませんが、やはり外交的に解決すると、外交的にリスクを下げたいというのは接触することが必要であると。で、コンタクトというふうに言う信頼醸成措置になるんですけれども、アポイントメントを取ろうとしても相手が応じないと、だから会えないということに、何というんでしょうかね、制度が常設化されていないとなりがちであると。ただ、国際機構のようなものがつくられていて、小さい事務局があって、それで、国連はもう物すごく大きいんですが、組織体になっていると。EUにしろNATOにしろ、そのような組織体であると。
ですから、組織体、国際機関になってしまえば、総会であるとか専門委員会とかそういうのをつくるので、開催日程が決まるのでアポイントメントを取る必要がなくなってくると。その日の何時にそこに行けば、皆さんが今日お集まりになっているみたいに、集まれると。それで、何というんですかね、議題がなくて無理やり集まるというふうにはしない方がいいんですけれど、隔週ぐらいで対面でこのようにお話しできるような意見交換ですね、何かルールをそこで作るところまでいかなくても、単に接触をして、自分の国の安全保障政策について説明すると。
日本だったら12月に大きな文書が出たので、それを関係国に直接御説明して質疑応答するというような方式も一つのリスクリダクションになると思いますし、本当に何か、例えば今回の米中間で起こっているような問題が起こった場合に、危機状況が起こったときに緊急会合を招集すると。そういうことができれば、招集したからといってすぐに問題が解決しなくても、とにかくコンタクトができない、意思疎通ができないというよりははるかに危機低減がしやすいのではないかと。こういうことを、あらゆることが常設機構化されているヨーロッパを見ていて考えた次第でございます。
どうも御清聴ありがとうございました。
2023年2月8日(水) 参議院 外交・安全保障に関する調査会
「戦争防止のための要件」
元海上自衛隊自衛艦隊司令官香田洋二 参考人
○参考人(香田洋二君) 香田です。
今、浅田参考人、それから植田参考人から、それぞれ御専門の分野から戦争防止についてのお考えが紹介があったわけですけれども、私も、主として現場にいたといいますか、その観点でこれをどう考えるのかということについて、少し違った観点から考え方を御紹介させていただきたいと思います。
まず、今回御案内がありましたときに、戦争防止って、これ何だろうと。恐らく皆さんも同じだと思うんですけれども、もう私は冷戦時代で20年間やっていました。あのときって本当に戦争は怖かったです。アメリカとソ連が本当にやり出したら、大げさに言いますと、地球が消滅するなということですから。あのときの戦争防止と今の戦争防止とどう違うんだろうということですね、ということなんですが。
そこで、私なりに時代を区切ってみますと、冷戦時代というのはなったんですが、米ソを中心とした恐怖の、通常戦力、戦術核、戦略核の抑止、バランスが成立していたんですね。ということは、このバランスを崩したら駄目ぞという別の力学がありまして、怖いけど最後は何とか踏みとどまろうという、恐らく共通の相場観が我にも彼にもあった。そういう意味で、何とか回避できるだろうという見方が一つあったわけですね。
今度、1990年。89年、90年、91年、ベルリンの壁崩壊。アメリカに言わせると、冷戦に勝利をしたと。西側諸国、NATOも我々もある意味そうは思ったわけですけれども、そのときに当時のブッシュ父が言った言葉、ニューワールドオーダーなんですね、新たな世界秩序、これはまさにパックス・アメリカーナといいますか。で、もうロシアは90年を境にしてがたがたと崩れていったと。中国はようやく経済が離陸をしたところということで、基本的に世界の秩序というのがアメリカのリードでできた。すなわち、アメリカにチャレンジする国がなかった。ということは、大国間の戦争が起こりようもなかったというのが1990年代の10年なんですね。で、今度、2000年代に入りますと、まさに9・11がそうなんですが、テロという新たな脅威が具現してきたと。
その中で、じゃ、世界各国はどうかというと、イデオロギー、かつての共産主義、民主主義、自由主義との対立ではなくて、テロとの戦いにどう組むかということで、実は、ソ連から変わったロシア、中国共にチェチェンとか、あれですね、ウイグル自治区、イスラムということで、それぞれ国内に、厳密にテロと言うのかどうかは別にして、異端分子を持っていましたので、非常に緩い格好でテロとの戦いということで一緒になれたんですね。
そして、さらにロシアと中国にとって都合のいいことは、テロとの戦いという看板を上げれば、人道問題をある程度カバーできたんです。アメリカでも文句を言えない。テロで、自分たちの国民を守るんだから、相当激しいことやっているんだけれども、そこはちょっと片目つぶってくださいという論理まで成立したわけで、やっぱりこの2000年代の10年というのにつきますと、米ロ、それから中のルーズな、何となく仲間意識ができまして、やはりこのときというのは大国間の戦争というのはほとんど心配する必要はなかったということですね。
それが、まさに2008年、9年に中国がGDPで日本を追い越し、ロシアも20年、冷戦後20年で相当核戦力、通常戦力が復活してきた。その中で、さらに、例えばNATO、18か国から30か国に増えた。国益の調整というのは非常に難しい。同盟国内でやや不協和音が起きてくる。
そういう中で、それぞれの国益の調整が難しい中で、特に米中とロの国益の対立というのが非常に先鋭になってきたということで、ざくっと言いますと、2010年以降というのは、新たに大国間の対立というのが極めて現実味を帯びてきた、更にその度合いが増している。で、恐らく、今、まさに今回提示された大きな勉強項目の中で平和をどうするかという問題が出てきたんだというふうに私は考えております。
といいますと、ここの第一項目のまとめとしましては、やはり2010年ぐらいを一つのスタートラインとして、現在から見通し得る将来について言いますと、ますます、特に米中に代表される大国間の武力衝突、あるいはロシアみたいに大国が核を使って非核保有国を力で押し潰していく、自分の意図を押し付けていくという構図がこの先ますます出るおそれが大きくなってきたということが、恐らく今回の命題のもの、バックグラウンドにあるんだろうというのがまず最初の私のまとめであります。
次、二つ目ですね。といいましても、やはり無視できないのは実際に起こっている戦争です。これ、ロシアは戦争と呼んでいませんけれども、ウクライナ戦争をどう見るかと。
ここで、軍事の専門家として申し上げますと、まず一番最初に申し上げたいのは、今教訓は導き出すことは非常に危険だということです。これ何かといいますと、戦争というのは非常にいろんな要素がありますので、ウクライナとロシアの戦いにおいて適用し得る教訓というのがあるわけですね。しかし、それは日本には関係ないかもしれない。同時に、普遍的に各国に共通するような教訓というのもあるわけです。これは我々しっかりと押さえなければならない。あるいは、その中で、インド、アジア、あるいはアジア、中国を中心とするアジア地域にある程度翻訳して適用すべき教訓というのもあるわけですね。
これは、今この時点で、まあマスコミでいろいろな方が、軍事専門家あるいは研究家の方が言われていますけれども、これは非常に私は時期早尚だと思います。やはりこれは、一番現場に近いEU、NATO、それと日本、こういう国が戦争が終わって一段落してからしっかりと事実関係を確認をして今の三つの観点から教訓というのを導かないと、例えばドローン、それは普遍的な話なんですけれども、やはり、例えば圧倒的な航空戦力を持っている、あるいはレーザーなんかももう既に実用化しているアメリカが入った戦いだと、全く違った様子になるかもしれませんね。
ただ、これはドローンがいいんだということで日本の政府が飛び付いてもらっちゃ、ひょっとしたら怖いかもしれないんですよ。そういうことはしっかりと、今、専門家のチームを、まあ、そのもう下準備は、私はEU、NATO、日本でやり始めてもいいのかなと、教訓導出チームをつくるということですね。というのが一つあると思いますので、まあ、余りマスコミに振られる必要はないのかなという感じがしています。
ということで、特に過早な教訓というのにつきましては非常に危険だということで、じっくり今何が起こっているのかということを、皆様の、一番重要なのが常識のフィルターで物を見ていただくということが重要だと思います。
そして、その前提で、ただし二つだけ、まあ、言っていいのかなというのが、今から申し上げる二点ですね。
それの二つ目の二の①ですけれども、要するに、ウクライナ、一つの特徴というのは、武力侵攻をクリミア2014年に続いてやるともう腹を決めた核保有国のロシアのプーチン大統領という人を外交で翻意はできなかったということです。で、プーチン大統領にとっては、もう国際法はもう関係ありません、条約も関係ありません、過去のいろんなミュンヘン合意とか、そういうものも関係ありません、やるんだと。こういう大国が出てきたときに我々はどう備えるのか。
で、もっと言えば、お隣の習近平さんも、例えばですけれども、ある意味、国際法の自分に都合のいい解釈で、南シナ海の埋立てをしたり、オバマ大統領との非武装の、南シナ海非武装化を完全にほごにしたり、香港返還のイギリスとの約束というのももう一晩でほごにしてしまったと。こういう傾向にある中国というのをどう見るのか。私は決め付けることは危険だと思いますけれども、兆候はあります。
そういう中国も含めて、外交努力は重要です、当然。戦争、外交の失敗が戦争ですから、簡単に言いますと。戦争に持っていっちゃいけないわけですから。しかし、腹を決めた一国のリーダー、それも専制国、権威諸国のリーダーを、翻意を、外交で翻意をするというのについては限界があるというのが今回の一つの教訓であろうというふうに考えます。
二つ目は、専守防衛です。
専守防衛という言葉は適切かどうか。私は、軍事の専門家としてはこれ非常に不適切な言葉と思っていますけれども、専守防衛、ここは、日本の場合もウクライナも自発的に相手の侵略国を攻撃しない、していないんですね。で、ウクライナの場合は、日本国憲法の制約ありませんので、彼らはできたんです。しかし、物理的に一つは能力がなかった。それから、西側諸国のあれだけの大きな軍事援助を受け入れる一つの暗黙の了解として、ロシアの本国を攻めたら核を使われるぞ、おそれがあるぞと、そのリスクは取りあえず最小にしようじゃないかという、これはもうまさに国家交渉も要らないぐらいのコモンセンスですよね。
ということは、ウクライナは、自分たちが一方的に撃たれながらも、自発的にロシア、まあ一部空軍基地とか攻撃はしましたけれども、あれはまあある意味でジャブでしょうけども、組織的に自国に対する侵略戦争を止めるための侵略国の攻撃というのはやっていない。
日本の場合、今までこの70年間、専守防衛という一つのイメージは会議室のイメージであって、自衛隊は侵略地域で戦う、そこには、事に臨んでは身の危険を顧みないという自衛隊の宣誓で自衛隊は頑張っている、頑張るんだろうというのは当たり前です。で、我々国民は、ひょっとしたら通常の生活ができるんじゃないかという、何の根拠もないイメージがあったのかもしれませんね。
ところが、実際こういう事態が起きてみると、前線で戦っている兵士以上に困苦欠乏に耐えなければならないのは国民である。ということは、専守防衛というものが本当に成り立つのかどうか。専守防衛を成り立たせるということは、国民にあれだけの困苦欠乏、困難、辛苦を耐えてくださいということを国、政治がお願いするということを、覚悟が要りますよということですよね。この論議が日本でできているかどうか。戦争防止の中では、この理解なくして、私は、戦争の防止ということについて言うと、やや舌足らずになるんじゃないかというふうに思います。
ということで、外交、専守防衛、私は無力だとは言いません。しかし、機能しない場合がある。危機管理とか防衛、安全保障というのは、機能しない場合に国民をどう守るかというのが危機管理なんですよ。機能しているときは、もう皆さんは枕を高くして寝ていてやって結構なんです。機能しないときに、皆さんが本当に汗をかいて動いてもらうというのが危機管理でしょうからということですね。
じゃ、次、次のページで、あとはそこで、もう申し上げたんですけれども、二人の参考人の方ももう言われましたけれども、去年の12月16日に安全保障の三文書が出ました。これは、私は出版物も出していますし、いろんなマスコミでも申し上げていますけれども、ある意味政府に同情的であり、極めて厳しく批判しています。両方持っています。何だ、あいつ、定まらないなとお思いかもしれませんが。
まず、2%という数字は別にして、防衛費を少なくとも1%というおもしを取ったということについて言うと、これは私は極めて、まあ私、徳島県出身で三木総理大臣の同郷なんですが、三木さんが定めた1%がやっとなくなったということですよね。尊敬していますよ。しかし、それでどれだけ自衛隊が苦しんだか。豆腐ですよね、豆腐一丁の中で、ショーウインドーから見える側は全部きちんとした四角の豆腐なんですよね、自衛隊というのは。しかし、1%という、広報とか教育訓練というのを削っているものだから、ウインドーを横から見ると、豆腐がこんなもうがたがたになって、後ろないんですよ。詐欺です。で、戦うことを求められているわけですよね。これは、私は、国民として本当に考えていただきたい、国民の皆様に。政治に考えていただきたい。2%に上げるということは、それを前から見ても、縦から見ても、横から見ても、きちっとした四角の豆腐になれる機会があるんじゃないかということですよね。
と同時に、新しい装備も必要です。当然、特に中国、すごいスピードで行っていますから。しかし、日本の技術力とか防衛産業基盤とかを考えたときに、本当に全て我が国でできるんですかということです。我が国でできるのはやらにゃいかぬのですけれども、それでそこに対して政府の非常に説明不足が、不足であると。
一つだけ申し上げますと、防衛省が防衛上に係ることだから言えないというのは、岡田さんの質問でトマホーク何発買うんだと。これは駄目ですよ。アメリカは最終的にこれは米国の武器を輸出ですから、最終的にアメリカの議会と、国務省は議会に了解を得ております。そのときに何発というのは出るんですよ。それなのに、今は国民に防衛上の理由で言わない。これはだましですよね。F35、140機買うと言っているんですよ。これは防衛上の秘密じゃないんですか。
私が言いたいことは、国民にこれだけの、2%のお金をいただく、税金をいただくのに、本当に理解をしてもらう、その覚悟と決意が私は欠けていると思います、元自衛官として。自衛隊、自衛隊員が現場で戦うというのは、最後、ウクライナと一緒です。国民が本当に支援をしてくれている、そこで戦えるんですから。いい装備だけじゃないんです。そこを政治が考えていただきたいんです。ということが、広く言いますと、我が国の平和、世界の平和に、軍事力というのを使わない方がいいんだけれども、最悪のときにどう機能させるかということですよね。
ということで、あと最後に、米中関係で台湾ということの見方なんですが、よく言われています、いろいろもうごまんとマスコミあるいは本。つい先々週ですね、1月の第2週、CSISがシミュレーションを出しました。
ただ、この手のシミュレーションというのを気を付けないけないのは、条件を変えると結論が反転することがあるということですよね。私も、部隊指揮官でテストされるんですよ。一生懸命日本を守るために海上作戦をやるときに、シミュレーションというのはここで止められるんですよね。止めて、ちょっと待てと。あんた、ここまで来たねと。じゃ、相手がここでこうしたとき、どう来ると来たときに、実は私が今までやってきたことが反転し得る。うまく、うまくここいってなかったですよねと、こういう考えがあったんじゃないですかということで、実は、最初からあなたこっちのBというプランを取っておけば日本防衛がもっと効率的にできたんだろうというようなことの比較ができるわけですね。
ということで、ああいうシミュレーションというのは、何も一つ日本を巻き込むとか、被害が幾らとか、特に被害なんかはミサイルの命中率を0.5%変えることによって戦闘機の落ちる数は5倍になります。あるいは5分の1になります。負傷人員も大きく変わります。そういうことじゃないんですよ。
例えばなんですけれども、あれを全て信用する、していただく必要はないんですが、あれは何を言いたかったかというと、CSISという一民間の研究機関がアメリカの政府に対して、将来、中国と本気で構えるときは、戦争をするしないは別ですよ、抑止も含めて、日本がいないと駄目だということを言いたかったんです。なんで、ちょっとその被害が大き過ぎるとか、日本が巻き込まれるとかいう、やや近視眼的な論議になり過ぎている。これはやはり、戦争というものをどう抑止するかと、あるいはとどめるかという意味では、こういう論議に偏ると、やや不健全というか目的を見失うということがあるんじゃないかということでニュースに接していただきたいということをお願い申し上げまして、私の発言を終わります。
以上です。ありがとうございました。