2021年5月13日(木) 参議院 経済産業委員会
「特許法等改正案」
特許法等改正案が14日の参院本会議で全会一致で可決、成立しました。日本共産党の岩渕友議員は13日の参院経済産業委員会で、秘密特許制度の導入について政府内での検討を中止するよう求めました。いわゆる秘密特許制度は、公開されるべき特許技術を非公開とする制度です。
岩渕氏は、1948年6月18日の衆院鉱工業委員会の政府説明を紹介し、「戦争放棄規定、憲法9条に抵触・矛盾するという理由で(秘密特許が)廃止された」と述べるとともに、現在、日米秘密特許協定による秘密指定で、公開原則に穴が空いていると指摘。特許公開の意義について、「公開により技術を利用する機会を図り、新技術を人類共通の財産としていく」「これにより技術進歩を促進し産業の発展に寄与するもので、非常に重要だ」と強調しました。
また岩渕氏は、自民党が次期通常国会に提出を狙う新国際秩序創造戦略本部による秘密特許制度導入の提言を示し、政府の姿勢を質問。梶山弘志経産相は、イノベーション促進と技術流出防止の両立が図られるよう議論していると答弁。岩渕氏は「科学技術、学術、産業活動の在り方にも関わる重大な問題であり、検討はやめるべきだ」と強調しました。
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質問資料1 日米欧中韓における特許審査官数(2003年~2019年)【PDF版】【画像版】
質問資料2 日米欧特許庁の審査官ひとりあたりの一次処理件数(2013年~2019年)【PDF版】【画像版】
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2021年5月13日(木) 参議院 経済産業委員会
「特許法等改正案」
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
特許法等の改正案について質問をいたします。
前回、二〇一九年の改正時に、日本は欧米と比べて特許審査官一人当たりの処理件数が圧倒的に多いんだという実態や、それにもかかわらず審査官数の推移が横ばいだという実態を示して、審査官を増やすべきだという質問を行いました。
当時の世耕大臣からは、負担が重いというのは現実だと、こうした答弁もあったんですけれども、その後、審査官数がどうなっているでしょうか。直近三年間の審査官数についてお答えください。
○政府参考人(糟谷敏秀君) 平成三十年度からの三年間についてお答え申し上げます。
審査官全体の定員はそれぞれ千八百七十四人、千八百七十人、千八百七十七人ということでございますが、うち特許審査官の定員は千六百九十人、千六百八十二人、千六百六十六人となってございます。
○岩渕友君 資料の一を御覧ください。
今御答弁いただいたとおりなんですけれども、これを見ていただくと、任期付きの審査官、これが若干増えてはいるんですけれども、全体としてはそれ以上に減っているというのが実態になるわけですよね。
それで、資料の二も御覧をいただきたいんですけれども、審査官の数が少ないということもあって、一人当たりの処理件数、圧倒的に多くなっているという実態は今も変わっていないんですね。米国と比べて二倍以上、欧州と比べても三倍以上というふうになっています。
こうした実態に加えて、中国の特許文献の急増などに伴って審査負担の増大が指摘をされています。グローバル化の進展とともに海外への出願が重視をされているということもあって、更に審査官の負担が増えるということが考えられます。こうした実態考えれば、審査官を増やすべきではないでしょうか、大臣。
○国務大臣(梶山弘志君) 国家公務員である特許審査官の定員は、政府全体の定員合理化計画の制約があるものの、必要な定員要求を行うとともに、任期付審査官や特許文献調査の外注なども活用して必要な審査能力を確保したいと考えております。これ、任期付審査官というのは、制限は二期十年ということで、一期が五年ということでありますから、特にいわゆる専門性の持つ方たちをこういった任期付きの審査官として採用していくということであります。
また、特許庁は、平成二十九年から特許審査へのAI技術活用を進めておりまして、現在、外国特許文献への特許分類付与や、発明内容を入力すると関連する過去の特許を類似度の高い順に検索表示する機能等にAI技術を活用し、更なる精度向上、これ内製化をしている、このシステムについては内製化をしているわけでありますけれども、こういったことも取り組んでいるということであります。
引き続き、審査負担の増加に適切に対応できるように、既存の手法にとらわれることなく、外部リソースや先端技術も柔軟に活用し、審査のスピード、質を確保してまいりたいと考えております。
○岩渕友君 一人当たりの処理件数、これだけ多いということなので、やっぱりその審査官の奮闘に現場は支えられているというのが実態だと思うんですね。
今答弁にあったように、その審査業務の効率化を含めて状況改善するということは当然必要だというふうに思うんです。同時に、今少し答弁にもあったんですけど、審査官には高い知識であるとか経験が求められているので、審査官を育てていくということがやっぱり必要だということから考えても、増員が必要だということをもう大臣に強く求めておきたいというふうに思います。
次に、前回の改正時にも質問をした秘密特許に関わって質問をしていきたいと思います。
この間、秘密特許の導入めぐって幾つかの報道が行われているんですけれども、まずは歴史的な事実について確認をしたいと思うんです。
戦前、日本には秘密特許制度があったんですけれども、戦後廃止をされています。一九四八年六月十八日、当時の衆議院の鉱工業委員会の中で、この特許法等の改正案の審議が行われています。政府の提案者は、この改正の提案理由の要点について四つ説明をしているんですけれども、そのうち第一の要点について紹介をしてください。
○政府参考人(糟谷敏秀君) 一九四八年六月十八日の衆議院鉱工業委員会において、当時の正木商工政務次官が行いました特許法等の一部を改正する法律案の提案理由説明について、議事録の関係部分を読み上げさせていただきます。
「第一は、日本国憲法の戦争放棄の規定との関係上、いわゆる秘密特許制度を廃止したことであります。すなわち軍事上秘密を要する発明または軍事上必要な発明に関する特別扱いの規程をすべて削除いたしました。」。
以上でございます。
○岩渕友君 一九四七年の五月三日に新しい憲法が施行されるわけなんですけれども、新憲法の戦争放棄に関する規定に伴って、特許法等に関わる部分について必要な改正を行うということで説明をされたわけなんですよね。これ極めて重要な改正理由だということです。いわゆる秘密特許制度は憲法の戦争放棄の規定、憲法九条の規定に抵触する、矛盾をするんだという理由で廃止したということです。
戦前秘密特許とされたものが解除をされて、一般の特許などと同様に扱われることになって公表をされています。これが何件あったでしょうか。
○政府参考人(糟谷敏秀君) 昭和六十年、一九八五年に特許庁が編さんをいたしました工業所有権制度百年史によりますと、戦前に存在した秘密特許については、昭和二十三年十月一日、昭和二十三年十一月一日、昭和三十一年三月一日の三度に分けまして、計千五百七十一件が公表されたというふうにされているところでございます。
○岩渕友君 今長官に御答弁いただいたように、千五百件以上もの特許が軍事上秘密にされていたということなんですね。これが戦後公表されたということなんです。
それで、更に長官にお伺いをしたいんですけれども、日本の特許制度は公開するということを基本としています。その意義についてお答えください。説明をお願いします。
○政府参考人(糟谷敏秀君) 特許出願公開制度でございますが、これは我が国だけではなく、広く諸外国にもある制度でございますが、この制度の趣旨については、第三者に新技術の存在を知らせることで重複した研究開発を防止するとともに、当該発明を利用した発明を積み重ねることの促進を意図しているという旨を従来から御説明をしてきているところでございます。
○岩渕友君 今のことに加えて、発明を公開してそれを利用する、そういう機会を図るということによって新しい技術を人類共通の財産としていくということを定めていて、これによって技術の進歩を、利用技術の進歩を促進して産業の発展に寄与しようということで公開をしているということなんですよね。だから、そこの技術の進歩を促進し、産業の発展に寄与するものだということが、これ非常に重要な中身だというふうに思うんですね。
ところが、日米の防衛特許協定によって、アメリカから防衛目的で日本に提供された技術に関する特許出願が米国で秘密指定をされていれば日本でも秘密に扱うという秘密特許が存在をしているんです。で、秘密解除が行われて公表された件数が一体何件あるのかということを実は前回の質疑のときに確認をしたところ、一九八八年から九五年の出願が九十九件あったということが明らかになりました。
特許を出願するということは、販路が限られる純粋な軍事技術だけではなくて、対象の多くは軍民両用技術、いわゆるデュアルユース技術ということなんですよね。先ほど確認をしたように、特許制度は、公開することによって投資の重複を防止するということだけではなくて、科学技術や産業の発展を促進する役割を果たしています。秘密特許というのは、産業の発展とか事業の促進とは根本的に矛盾をするものになるし、産業の発展妨げるということにつながるということだと思うんですね。
この秘密特許の導入をめぐっては、この間、幾つかの報道が行われています。皆さんも御覧になっているかもしれないんですけれども、昨年の八月十二日、読売新聞は一面でこんなふうに紹介をしています。政府は、次世代兵器開発などに利用できる最先端技術の特許出願について、安全保障上の必要があれば情報公開を制限する方針を固めたということで、出願内容を一定期間非公開にする制度を二二年、来年ですよね、にも導入をするというふうに報じています。
さらに、今年三月三十一日の朝日新聞、ここでも同様の報道があって、自民党の新国際秩序創造戦略本部が来年の通常国会で経済安全保障一括推進法を成立させるようにということを提言をしていて、その一つの目玉が秘密特許の仕組みの導入だと、こういうふうに報道がなされているんです。
この秘密特許の導入について、どのような検討が行われているのでしょうか。
○政府参考人(藤井敏彦君) お答え申し上げます。
政府といたしましては、現下の国際情勢、厳しい国際情勢に鑑みまして、技術流出防止対策の取組を進めることが重要な課題であると、かように認識をいたしております。
昨年七月に閣議決定をされました統合イノベーション戦略二〇二〇におきまして、特許出願の公開制度については、イノベーションの促進と技術流出防止の観点との両立が図られるよう、制度面を含めた検討を行うこととしております。引き続き、関係省庁、関係府省庁において所要の検討を進めてまいりたいと、かように考えてございます。
○岩渕友君 今答弁にあったように、イノベーションの促進と技術流出防止の観点、両方から今検討を重ねているということなんですけれども、こうした秘密特許の導入が検討されているということに対して、まず特許庁長官はどんな立場なのか、お聞かせください。
○政府参考人(糟谷敏秀君) 先ほど御説明、御答弁がありましたように、特許出願の公開制度については関係省庁間で検討が進められているところでございます。
特許庁としては、検討の結果、政府としての方針が決まれば、その方針に従って必要な対応を行うことになると考えております。
○岩渕友君 じゃ、同じことを大臣にもお聞きしたいと思います。
○国務大臣(梶山弘志君) 国際的に技術流出管理の重要性が高まる中で、軍事転用可能な技術等の拡散を防止する観点から、外為法に基づく投資管理や輸出管理といった従来の施策のみならず、研究開発成果の管理を含めた総合的な技術流出防止策を進めることが重要であると考えております。特許出願の公開制度の見直しについては、イノベーションの促進と技術流出防止の両立が図られるよう、経済産業省としても、国家安全保障局を始め関係省庁と、関係府省とも議論を行ってまいりたいと考えております。
先ほど委員おっしゃったように、デュアルユース技術というのがあります。これは、先ほど委員の方からは軍事技術が産業の発展に資するというお話がありましたけれども、一方では、一般の技術がある特定の国の軍事技術につながる可能性もあるということでありますから、そういった面も含めて、大変難しい課題であると思っております。
○岩渕友君 先ほど、もう確認をしてきたように、憲法の要請から秘密特許が削除された、こうした経過から見ても、そして先ほども確認したように、公開原則が非常に重要だということで、そのことに反して、日本の科学技術、学術、産業活動の在り方にも関わる重大な問題だということから考えても、秘密特許制度の導入検討はやめるべきだというふうに思うんですね。既に公開の原則に穴があると、今度は公然と秘密特許を進めるということになると思うんです。
この秘密特許制度の導入検討はやめるべきだということを強く求めて、質問を終わります。
2021年5月13日(木) 参議院 経済産業委員会
「特許法等改正案」
○委員長(有田芳生君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
特許法等の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕
○委員長(有田芳生君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
この際、礒崎さんから発言を求められておりますので、これを許します。礒崎哲史さん。
○礒崎哲史君 私は、ただいま可決されました特許法等の一部を改正する法律案に対し、自由民主党・国民の声、立憲民主・社民、公明党、日本維新の会、国民民主党・新緑風会及び碧水会の各派並びに各派に属しない議員安達澄君の共同提案による附帯決議案を提出いたします。
案文を朗読いたします。
特許法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
政府は、本法施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずべきである。
一 特許審判等におけるウェブ会議システム等を利用した口頭審理等の実施に当たっては、当事者の利便性向上を図りつつ、公開主義、直接主義の原則及び口頭によることの意義を維持し、審判の公正を担保するとともに、個人情報や企業秘密等が不当に漏えいすることのないよう、その運用上の課題や公開の在り方等について十分に検討を行い、適切な措置を講ずること。
二 特許権等の放棄や訂正審判の請求等における通常実施権者の承諾を不要とすることにより、いわゆる独占的通常実施権者に不測の損害が生じること等がないよう、権利関係の実情を踏まえ、制度の周知徹底等適切な措置を講ずること。
三 特許権侵害訴訟等における第三者意見募集制度の導入に当たっては、第三者から多様な意見が幅広く得られ、その意見を当事者が公平かつ有効に証拠に活用できることにより、裁判所の公正な判断に資する制度となるよう、必要に応じて適切な措置を検討すること。
四 海外からの模倣品の流入に対する規制の強化に当たっては、善意の個人に不測の損害を与えることがないよう留意しつつ、知的財産侵害貨物の小口化等を踏まえ、実効性ある水際での取締りの体制整備に努めること。
五 特許料等の料金体系の見直しに当たっては、利用者の意見も踏まえ適切な料金の設定を行うとともに、特許特別会計における歳出削減の取組を徹底しつつ、情報開示の拡充や第三者による財政検証の的確な実施により、透明性・客観性の高い財政運営を行うこと。また、中小企業等を対象とする減免制度の在り方についても、その実情等を踏まえて適正な運用がなされるよう努めること。
六 植物の新品種や地理的表示の保護に関する相談業務等を弁理士の業務として追加するに当たっては、利用者の利便性向上及び関係法令遵守の観点から、相談内容に応じて行政書士等他の専門家や各地方における農林水産関連事業者団体、農林水産関連研究機関等との連携を図るとともに、研修等の充実を通じ、弁理士の更なる資質向上を図ること。また、農林水産事業者と弁理士とのタイムリーな相談機会の確保・促進を図るため、関係省庁及びその地方機関等において、農林水産事業者のための相談窓口の設置を検討すること。
七 いわゆる懲罰的損害賠償制度等の知財紛争処理システムの在り方やAI等を活用した審査業務の効率化等の課題について、我が国の知的財産制度を取り巻く様々な環境変化に対応して、諸外国や裁判例の動向も注視しつつ引き続き検討を行うこと。
右決議する。
以上でございます。
何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
○委員長(有田芳生君) ただいま礒崎さんから提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕
○委員長(有田芳生君) 全会一致と認めます。よって、礒崎さん提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
ただいまの決議に対し、梶山経済産業大臣から発言を求められておりますので、この際、これを許します。梶山経済産業大臣。
○国務大臣(梶山弘志君) ただいま御決議のありました本法律案の附帯決議につきましては、その趣旨を尊重してまいりたいと考えております。