テーマ:5年間で3割減の特許審査官、増員必要
特許審査官ら増員を
岩渕氏 5年で3割削減を批判
日本共産党の岩渕友議員は6日の参院経済産業委員会で、特許庁で発明の特許出願を審査する特許審査官が今後5年間で3割削減される問題を取り上げ、審査官の増員を求めました。
岩渕氏は特許審査官の役割の重要性について質問。西村康稔経産相は特許権、意匠権、商標権など産業財産権を審査する審査官は高い専門性を有し、「国内外の産業財産権の活用や促進に非常に重要な役割を果たしている」と答えました。
岩渕氏の質問で、特許審査官1人当たりの審査件数(2020年度)は欧州57件、米国72件、中国91件に対し、日本は164件にも上ると判明。一方、04年度以降採用された任期付き審査官は今後毎年約100人ずつ減り、28年度には0人となり、特許審査官全体で現状の約3割減となります。
岩渕氏は、政府が掲げる審査の速度や質の実現は「現場の審査官の負担によって支えられている」と強調。「審査官の負担をこれ以上増やすのか」とただし、特許審査官などの増員を迫りました。
西村経産相は「経産省としての役割全体をみながら、政府全体の中で必要なことは言っていきたい」とし、「必要な能力をどう確保するか検討をすすめていく」と答弁しました。
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2023年6月6日(火) 参議院 経済産業委員会
「不正競争防止法等改正案」
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
初めに、特許法の改正について質問をします。
法案では、中小・小規模事業者等の特許に関する手数料の減免について、一部件数制限を設けるとしています。
資料の1を御覧ください。右側なんですけれども、手数料の減免申請件数が一番多い企業は一者で年間3000件を超えているんですけれども、この企業を含めて1000件を超える企業が4件となっています。平均件数が一者当たり3.1件とあるので、申請が一部の企業に偏っているということがこの表を見れば分かります。
今回の改正では、資力等の制約がある事業者の発明を奨励し産業発達を促進するという制度の趣旨を踏まえて、件数制限を設けるとしています。
そこで伺うんですけれども、この一部の企業が法の趣旨とは違う形で減免申請を行ってきたということが、特許庁の収支や剰余金にも影響を与えたのではないでしょうか。
○政府参考人(清水幹治君) お答え申し上げます。
特許法では、高い潜在能力を有するが資金、人材面の制約で十全な知財活動を実施できない者による発明を奨励する等の目的の下で、中小企業等に対して審査請求料の減免制度を設けております。委員御指摘のとおり、一方、一部の者におきましては平均的な大企業をも大きく超えるような件数の審査請求を行い減免の適用を受けるという、必ずしも制度趣旨にそぐわない制度利用が見られているところでございます。こうした実態を踏まえて、減免制度の本来的趣旨にのっとった制度運用を行うため、審査請求料の減免を受けられる件数に一定の上限を今回設けたいというものでございます。
なお、今般の措置はあくまで制度趣旨にそぐわないと考えられる一部の利用についての適正化を図るものでありますが、減免の適用件数に一定の上限を設け、これを超える審査請求については手数料を満額納付いただくこととなりますので、他の条件が同じであれば、特許特別会計に入る手数料収入を増加させる方向に働く、財政の好転につながるものと考えてございます。
○岩渕友君 いずれにせよ、今回の措置は必要なものだというふうに考えています。
それで、ここからは知的財産制度の要である特許庁審査官の体制について質問をしていきたいと思います。
初めに、大臣に伺いますけれども、この特許庁審査官が果たしている役割の重要性について、大臣の認識を伺います。
○国務大臣(西村康稔君) 特許権、意匠権、商標権といった産業財産権、これは権利者がつくった発明等について独占的な権利を与えることで事業化などに活用するものであり、まさに我が国のイノベーション促進にとって非常に重要であるという認識であります。
御指摘のように、特許庁では、特許、意匠、商標の産業財産権の付与のための審査という重要な業務をそれぞれの専門性を持つ審査官が日々審査に従事してくれております。
例えば、特許審査官は、優れた特許技術によるグローバルな事業展開を促し我が国のイノベーションの促進に寄与するため、世界最高品質、最高速度の目標を掲げて、特許審査の質及びスピードを担保するために審査請求から権利化まで14か月という審査期間に関する政府目標を掲げて、それに向けて迅速、的確な審査に取り組んでいるところであります。また、意匠、商標の審査官も、デザインを基点としたイノベーションの創出及びイノベーションの創出に応じた新たなビジネスモデルに係るブランドの保護に貢献しているものというふうに認識をしております。
さらに、特許庁の知的財産制度については国際的な評価も高く、WIPOやJICAとも連携して、審査官はまだ知財制度が発展途上である途上国、新興国への制度構築の支援なども行ってもらっております。この中で、特許庁の審査官が専門家として派遣され、セミナーやワークショップの開催、人材育成においても大きな役割を果たしているものと承知をしております。
このように、特許庁の審査官は国内外での産業財産権の活用やその促進に非常に重要な役割を果たしてくれているものというふうに認識をしております。
○岩渕友君 今答弁にあったように、非常に高い専門性を持って重要な役割を果たしているということですよね。さらに、大臣は、衆議院の議論の中では、懸命な努力を重ねていると、敬意と感謝を申し上げたいというふうにも答弁されているので、そのとおりかなというふうにも思います。
そういう重要な役割を果たしている審査官ですけれども、衆議院で我が党の笠井亮議員の質疑で、2021年の審査官一人当たりの年間処理件数が欧米と比較をすると約2.5倍だということが確認をされています。
そこで、日本と世界の状況を比較してみたいと思います。
日本、米国、欧州、中国について、特許審査官の直近の人数は何人でしょうか。そして、一人当たりの審査件数は何件になりますか。
○政府参考人(濱野幸一君) お答え申し上げます。
日米欧中の4つの知財庁におけます特許審査官の人数は、全ての庁について統計データを取得できる2020年の報告書に基づけば、日本国特許庁が1666人、米国知財庁は8230人、欧州知財庁は4099人、中国知財庁は1万3704人となっております。
また、各庁における特許審査官一人当たりの審査件数につきましては、一概には比較は難しいものの、同様に各日米欧中の4つの統計データに基づき、国内出願の審査件数と国際出願の審査件数の合計をそれぞれの知財庁の特許審査官の数で割ることで一人当たりの審査件数を試算をいたしましたところ、2020年におきまして、日本国特許庁は年間164件であるのに対しまして、米国知財庁は年間72件、欧州知財庁は年間57件、中国知財庁は年間91件となってございます。
○岩渕友君 2021年の最新のデータのところも出ている部分もあると思うんですけれども、欧州と比較をすれば約3倍、米国と比較をすると2倍以上、中国と比べると2倍近くになっていると。政府が掲げるその特許審査期間の迅速化や世界最高品質の特許の実現というのは現場の審査官の負担によって支えられているというのが実態です。
同じように、意匠審査官について、日本、米国、欧州、中国について、直近の人数は何人でしょうか。
○政府参考人(濱野幸一君) お答え申し上げます。
日米欧中の4つの知財庁におけます意匠審査官の人数につきましては、全ての庁についてデータを取得できる2020年の報告書に基づけば、日本国特許庁が50人であるのに対し、米国知財庁が193人、欧州知財庁が26人、中国知財庁が276人となってございます。
○岩渕友君 中国が特許出願も意匠の登録出願も増えているわけなんですけど、その中国が特許審査官も意匠審査官も増やしているわけですよね。体制の点では、日本は世界から遅れているという状況になるんだと思います。
この日本の特許庁審査官は10年以上減らされてきているんですね。特許・実用新案部門では、恒常審査官の人員不足を補うために、2004年以降、任期付審査官、任期5年で最長10年という任期で第一期、第二期と採用をし対応をしてきました。ところが、2024年度以降、任期の期限を迎えて、毎年100人ずつ減っていくということになります。2028年度には、特許審査官数は何人になっているでしょうか。
○政府参考人(濱野幸一君) お答え申し上げます。
任期付審査官につきましては、特許審査の質の向上と迅速化を目的といたしまして、2004年度から時限定員による増員を認めていただいてございますが、今年度末から毎年約100名分ずつ時限定員の期限が到来することとなってございます。その前提で、全ての時限定員の期限が到来する2028年度の定員数につきまして、産業構造審議会第18回知的財産分科会にお示しした試算に基づけば、1030名という数字を提示させていただいております。
○岩渕友君 資料の2を御覧いただきたいと思うんですけれども、今答弁いただいたとおり、2028年度は、恒常審査官は1030人になる予定だと。ところが、任期付審査官はゼロになっちゃう、ゼロ人になっちゃうんですよね。これが2023年度から比較をすると、全体として約3割減ということになってしまうんですよね。3割減て、これもうすごく大きい減少ということになると思うんです。
それで、この2013年に閣議決定をされた知的財産政策に関する基本方針では、今後10年間、知的財産制度の基盤となる特許庁の審査体制について、任期付審査官の確保など、必要な整備、強化を図る、このことを明記しています。このままでは、2028年には3割減だということです。この審査の速度や質を維持するためにも、更に向上させていくためにも、審査官の体制強化、これもうどうしても必要だと思うんですね。
そこで、大臣、この人員の拡充を検討するべきではないでしょうか。
○国務大臣(西村康稔君) お答え申し上げます。
国家公務員であります特許審査官の定員につきましては、政府全体の定員合理化計画を踏まえるというのが前提であります。そうした中ではありますが、特許庁としては審査業務に対して必要な定員について精査を行って、関係部署との調整などを行っていくことにしております。また、審査業務の一層の効率化を図りながら、いずれにしても必要な審査能力はしっかりと確保したいというふうに考えております。
例えば、特許庁では、これまでも特許文献調査の外注なども活用し、業務の効率化を図ってきておりますし、また、平成29年、2017年からは、特許審査における外国特許文献への特許分類付与や、発明内容を入力すると関連する過去の特許を類似度の高い順に検索表示する機能などにAI技術、人工知能も活用しておりまして、現在更なる精度向上を図っているところであります。引き続き、審査に適切に対応できるよう、こうした外部リソース、あるいは先端技術も柔軟に活用しながら審査のスピード、質、必要な審査能力は確保していきたいというふうに考えております。
○岩渕友君 私も効率化を図ったり外注したりするということは駄目だって言っているわけじゃないんですよ。そういうことは活用すればいいと思うんですけれども、3割も減るということなので、せめて任期付の審査官を増やすことを検討するとか、私たちは恒常審査官増やすべきだと思っていますけど、せめて任期付も含めて検討するぐらいのことは大臣あってもいいと思うんですよ。大臣、いかがですか。
○国務大臣(西村康稔君) これなかなか苦慮しているところでありまして、政府全体の、やはり行政全体の効率化ということもあります。定員の合理化というものがあります。
他方、今後、グローバル化、あるいは先端技術どんどん出てくる中でこの知的財産、特許というものもしっかりと対応していかなきゃいけないという、そうした中で非常に苦慮しておりますけれども、まずはこの外部リソース、そして先端的なAIの技術なども活用して、何とか必要な審査能力は確保していきたいというふうに考えているところであります。
○岩渕友君 先ほど来議論しているように、一人当たりの審査官の負担もすごく重いわけですよね。非常に重要な役割果たしていると、専門性を持っているというふうに大臣もおっしゃったとおりで、重要だっていうんであれば、せめて検討ぐらいは必要だと思うんですよ。それが大臣の役割だと思うんですけど、大臣、もう一度いかがですか。
○国務大臣(西村康稔君) 一般論で申し上げれば、政府全体の役割、これは各省を含めて、縦割りの中で一定の定員の確保、削減などやっていくのではなく、むしろ、政府全体の中でより重きを成してきている政策、そして必要な人員確保という観点があると思いますので、私どもとして、当然、経産省としての役割全体を見ながら、そして政府全体の中で私どもとして必要なことは言っていきたいというふうに思っております。これはもう一般論としてそういう考えで対応したいというふうに思っております。
その中で、この特許の審査というものについて必要な能力をどういうふうに確保していくのか、このことは常に検討は進めていきたいというふうに考えております。
○岩渕友君 人員も含めて検討をしていただくと、審査官を増やすということも、それは減るわけですから、3割もね。そのことも含めて検討をしていただきたいと強く求めておきたいと思います。
先ほどから話をしているように、世界の国々と比べても日本の審査官の負担、非常に大きいので、審査官の負担これ以上増やさないということでも、審査能力を確保するという点でも体制の強化、必要だということを述べて質問を終わります。