日本共産党の岩渕友議員は22日の参院経済産業委員会で、「GX(グリーントランスフォーメーション)」推進法改定案では二酸化炭素(CO2)排出削減が進まないと告発しました。同法案はCO2排出量が10万トン以上の事業者に、排出上限を定め、その過不足を売買できる排出量取引制度への参加を義務づけます。
岩渕氏は、同制度でCO2排出削減を進めるためには総排出量(キャップ)を定めることが必要で、欧州連合(EU)など各国では定められているのに同法案は定めていないと追及。武藤容治経済産業相は同制度の目的を脱炭素と経済成長の両立だとし、キャップを定めれば「国民生活や産業に大きな影響を与える懸念がある」などと正当化する一方、同制度でどの程度排出削減できるかは答えられませんでした。
岩渕氏は、各国の例を見てもキャップを定めなければ炭素価格が低迷し排出削減が進まないと指摘。パリ協定の温暖化抑制目標の「1・5度目標」と整合する目標を国として定め、それに基づく制度にすべきだと主張しました。
EUの同制度が「危険な気候変動を回避する」「温室効果ガスの排出削減量を増加させる」と目的を明確にし、英国では1990年比で2030年までに68%、35年までに81%以上削減を目標にして同制度をその重要な推進力にしていると指摘。日本の同制度の目的は、排出削減よりも「脱炭素」の名のもとに原発や化石燃料の延命のための事業への投資を促進するGX経済移行債(20兆円)の財源づくりだと批判しました。
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217-参-経済産業委員会-010号 2025年05月22日
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
気候危機が深刻になっていることを受けて、各国は、パリ協定の一・五度目標達成のためにCO2の排出削減目標を引き上げる、で、対策を拡充し、前倒しで取組を加速、強化しています。こうした下で、日本でもカーボンプライシングの具体化が始まります。
EUでは、二〇〇五年、今から二十年前にもう制度をスタートさせているんですよね。日本はただでさえ国際的な取組が遅れています。しかも、排出量取引制度は二〇二六年度開始、化石燃料賦課金の徴収は二〇二八年度開始ということで、二〇三〇年までに思い切ったCO2の排出削減が求められていることから見ても余りにも遅過ぎるんですよね。それだけに、排出削減に実効性のある制度設計が問われています。
本法案では、CO2排出量が十万トン以上の事業者に排出量取引制度への参加を義務付けるということです。排出量取引制度の肝は、キャップ、総排出量を決めることです。先行するEUを始め各国の排出量取引制度は、このキャップを決めてCO2の削減目標達成のための制度設計を行っているんですよね。ところが、本法案ではこのキャップ決めていないんですよ。
これ、なぜ決めていないのでしょうか。キャップを決めずにどの程度の削減量を見込んでいるのでしょうか。
○国務大臣(武藤容治君) 排出量取引制度の導入は、企業のGX投資を促進をし、脱炭素と経済成長が両立する環境を整えていくためのものであります。中長期的に炭素価格を徐々に引き上げる必要はありますが、短期的な炭素価格の高騰というものは国民生活や産業に大きな影響を与える懸念があるので、回避するこれは必要があるというふうに思っているところです。
排出量の総量を厳格に管理した場合、排出枠の需給の状況次第で炭素価格の大幅な高騰が生じ得るところと思っています。一方で、排出枠を追加的に割り当てることができないため、高騰を確実に今度は鎮静化することができないだろうと。このため、今回の法案では排出枠の総量を制限することはしておりません。むしろ、炭素価格に上限を設けることで高騰を防止することとしているところです。
その上でですが、成長志向型カーボンプライシング構想の下で先行投資支援と一体的に排出削減を進めることとしており、他の制度や支援策も組み合わせ、政策を総動員しながらGXを進めていくものであることから、今回の排出量取引制度のみの削減効果を切り出してお答えすることは困難でありますが、いずれにしましても、二十兆円の規模の支援と組み合わせ、事業者の精力的な取組を引き出す制度となるように詳細を検討してまいりたいというふうに思っています。
○岩渕友君 先行している国々を見ると、国々の排出量取引制度を見ると、このキャップを決めていないということで炭素価格が低迷をして排出削減が進まないということは明らかなんですね。オーストラリアでは当初、制度全体の排出上限を設定していませんでしたけれども、二〇二三年の改正で国の削減目標とリンクをする排出上限が設定をされました。
で、この国の排出削減目標とリンクをしないと。先ほど、どの程度の削減量を見込んでいるかということについては具体的な答弁ありませんでしたけれども、排出削減にどの程度貢献するかということも示せないということでは、これ、深刻化する気候変動への危機感がないというふうに言わざるを得ないんですね。一・五度目標を達成するための排出削減目標、そしてこの目標と整合する排出総量を決めて、それに基づく制度にするべきです。
実施指針でこのキャップを設定すること、キャップをNDCの削減目標に整合するように段階的に強化していくこと、これを明示的に定めるべきだということを求めておきたいと思います。
次に、カーボンプライシングについて確認をしていきます。
先行する諸外国のカーボンプライシングは、国の排出削減目標と整合性を持つように、目的に排出削減が位置付けられているんですね。一方、日本のカーボンプライシングの目的、これはどうなっているでしょうか。
○政府参考人(畠山陽二郎君) お答え申し上げます。
排出量取引制度を始めとしたカーボンプライシングにつきましては、排出削減と経済成長の同時達成を目的とした我が国のGX政策の中核的措置として導入をいたしております。したがって、排出削減のみならず経済成長に資する形で導入するということが、二年前に成立させていただいたGX推進法においても明確になっているところでございます。
○岩渕友君 EUの排出量取引制度ではその目的をこんなふうに決めていて、危険な気候変動を回避するため科学的に必要と考えられる削減レベルに貢献するよう、温室効果ガスの排出削減量を増加させる、こういうふうに明確に位置付けているんですよね。そして、二〇三〇年の温室効果ガス排出量を二〇〇五年比で六二%に削減をするために割当て総量の削減係数も引き上げているんです。イギリスでは、二〇三〇年までに一九九〇年比で六八%削減、二〇三五年までに八一%削減を目標として排出量取引制度をその重要な推進力というふうに位置付けています。
でも、一方、日本の制度は、先ほども答弁ありましたけれども、脱炭素と経済成長を両立させるというんだけれども、排出削減よりもGX経済移行債の償還財源という位置付けになっているんですね。炭素価格について、排出削減目標の達成に必要な価格水準に設定をするということが求められています。低過ぎる場合は必要な排出削減は起こりません。
この二十兆円のGX経済移行債の償還財源として設定されることが想定されますけれども、どのくらいの価格を想定しているのでしょうか。
○政府参考人(畠山陽二郎君) お答え申し上げます。
排出量取引制度におきます排出枠価格の水準については、官民でのGX投資の進捗、世界経済などの国際的な動向、技術開発の動向などに大きく左右されるところでございます。また、我が国のカーボンプライシング制度は、足下の競争力などとの関係から、中長期的なエネルギーに係る負担の総額が減少する範囲内で導入することに加えまして、御指摘のように二十兆円規模の先行投資支援の償還財源としての位置付けもございます。
こうした制度設計や不確実性の中で、そういう中でも、民間のシンクタンクでは一定の仮定を置いた上で価格水準の分析を行っております。この分析におきましては、制度対象者の排出削減経路ですとか排出量取引制度におけるオークションの有償比率などについて一定の仮定を置いた上で、例えば二〇四〇年における排出量取引制度のオークション単価につきましては、CO2一トン当たり約七千円から一万円と試算をしているところでございます。こうした分析も参考にしながら政府として検討を進めてまいりたいと、このように考えております。
○岩渕友君 今の試算は、日本エネルギー経済研究所の試算なのかな。あっ、済みません、答弁はいいんですけど。その試算を見ると、二〇三三年は、今二〇四〇年お答えいただいたんですけど、発電事業者の有償オークションにおける炭素価格というのは一トン当たり三千三百円から三千五百円というふうにしているんですね。
一方で、IPCCは、二〇二二年、一・五度目標に整合する二〇三三年の限界削減費用を一トン当たり二百二十六から三百八十五USドルというふうに推計しているんです。これ、比較をすると、日本の想定炭素価格というのは十分の一程度になっちゃうんですよね。これでは国際的に必要な排出削減にならないということです。
これ、排出枠の割当てに当たって、先行するEUETSの教訓を学ぶべきだというふうに思うんですね。EUでは、二〇一七年頃までは、排出枠が実際の排出量に比べて過剰で、炭素価格が低迷をして排出削減も十分に進まなかったと。排出枠の割当ては非常に重要だということです。具体的な排出枠の設定について、業務特殊性、製造拠点の国外移転、カーボンリーケージのリスク、GX関連研究開発の実施状況等を勘案した政府指針に基づいて定めるというふうにしていますけれども、それぞれ過剰な追加排出枠が認められるんじゃないかということで懸念をしています。
例えば、GX関連研究開発というふうに言いますけれども、このGX分野に貢献しそうな分野、研究、技術開発を行っている分野ということになると、もう重要産業分野のほとんどが対象に入ることになるんじゃないかというふうに思うんですね。研究及び技術開発をこれ公平に指標化できるのでしょうか。
○政府参考人(畠山陽二郎君) お答え申し上げます。
本制度では、業種ごとに目指すべき水準を定めるベンチマーク方式と、それから、基準とする年度の排出量から毎年度一定率の削減を求めるグランドファザリングによる割当てを行うことを基本といたします。
これらの割当て基準につきまして、制度対象事業者の実態を踏まえつつ、適正な範囲内で徐々に強化をしていくことによりまして、事業者の脱炭素投資を着実に後押ししていくことを想定しておりまして、排出枠の割当てが過剰に行われるものとは考えておりません。
その上で、産業競争力、国内雇用の維持強化の観点から、カーボンリーケージの回避ですとか、中長期的な革新技術への投資に対するインセンティブが確保されるよう、製造拠点の国外移転リスクやGX分野の研究開発投資の実施状況等を勘案して割当て量を決定することとしてございます。
このうち、御指摘ありました研究開発投資についてでございますけれども、この追加割当てにつきましては、足下の排出削減に加えまして、カーボンニュートラルに不可欠な中長期の研究開発、これをしっかり引き出していくことが大事だと思っております。
一方で、研究開発は、投資が必要である一方で、排出削減の効果がすぐ出てくるわけではございません。このため、企業によってはこの研究開発の投資にちゅうちょする可能性もございます。そういうことになりますと、その必要な研究開発がなされず、全体としてカーボンニュートラルに向けた動きが鈍化をするということも考えられることから、一定水準以上のGXに関する研究開発投資を行う事業者に対しまして、排出枠が不足する場合に限って、足下での排出削減の促進を阻害しない範囲内で限定的に追加割当てを行うことを想定してございます。
この措置の対象となる研究開発投資の詳細につきましては、産業構造審議会における有識者等との議論を通じて決定する、検討することとなりますけれども、我が国のGXに関する研究開発の状況や関連する会計実務等を踏まえながら、客観的に把握可能な情報に基づいて割当て量の算定が可能となるよう、明確かつ公平な基準を定めていきたいと、このように考えております。
○岩渕友君 排出量の割当てが公平かを判断する上で、個別企業の排出割当て量の公表など情報開示必要だと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(畠山陽二郎君) 排出量取引制度につきましては、今後、公平性、実効性を高める観点から詳細を設計することとしてございまして、制度の点検や見直しの検討を適切に行う観点から、透明性の観点も考慮されることになります。
例えば、排出量取引制度の将来的な発展を見据えて制度の点検を行っていく観点からは、対象事業者の排出量についての見通しを把握することが重要だと考えておりまして、対象事業者に対しては、各社の中長期での直接、間接の排出削減目標等を記載した移行計画、この提出を求め、政府はこれを公表することを法定したところでございます。
御指摘の個別企業の割当て量の公表につきましても、諸外国の事例等も踏まえながら今後検討してまいりたいと、このように考えております。
○岩渕友君 この排出枠の割当ての問題で、追加排出枠について、武藤大臣は衆議院で、発電事業者がLNG火力発電所を増設した場合には、事業者の脱炭素化の努力を阻害しないよう、無償割当てを追加するなどの負担にならない工夫をしていく予定だというふうに答弁をしています。
大臣、これ無償割当ての追加は認められないんじゃないでしょうか。いかがですか。
○国務大臣(武藤容治君) 今回の法案で措置する排出量取引制度では、工場の新増設があった場合や生産量の一定程度の増減が生じた場合に割当て量の追加や縮小を行い、事業者の事業構造の変化を割当て量に配慮、割当て量に反映することとしています。
LNG、これ先般の委員会の御質問は多分LNG火力発電の増設についてだと思いますが、これはあくまで一例として説明したものでありますが、無償割当てが行われている他国の制度でも多排出設備に対して類似の措置が認められており、国際スタンダードの制度と認識しているところであります。
その上で、電源脱炭素化を進める上でLNG火力というものはトランジションの手段として重要な電源だと考えており、実際にLNG火力の新設等により足下の電源を低炭素化する動きも進んであるところですから、事業者の努力を阻害するべきではなく、このような割当て量の調整措置を導入することは適当と考えているところであります。
○岩渕友君 LNGは、ライフサイクル全体で見れば、CO2の排出量、必ずしも少ないとは言えないデータもあります。
産構審で透明性を持って議論していくと言うんですけど、結局は化石燃料を使い続ける政策の下での具体化ということになります。これでは、削減目標の全体緩和につながるだけじゃなくて、排出削減に貢献する制度にはならないということを述べて、続きは次回にしたいと思います。
