テーマ:経済・財政/金融・雇用/労働
(議事録は後日更新いたします)
年金額の最低保障を/東大名誉教授大沢真理さんが指摘/参院予算委公聴会開く
参院予算委員会は12日、公聴会を開き、公述人から意見を聞きました。日本共産党からは岩渕友、紙智子、山添拓の各議員が質問しました。
大沢真理東京大学名誉教授は年金額の最低保障が必要だとし、全労働者に同一価値労働・同一賃金を実現するよう求めました。
岩渕議員は物価高を上回る大幅な賃上げや、同一価値労働・同一賃金、非正規公務員の時給引き上げなど非正規労働者の待遇改善が必要だと指摘。大沢氏は「非正規公務員、会計年度任用職員の待遇をいかに上げていくかを真剣に考えるべきだ」と述べました。
岩渕氏は男女賃金格差を招くコース別人事などをなくすべきだと主張。大沢氏は「女性は働き方も生き方も男性に合わせることを強いられる。日本企業の多様性のなさだ」と指摘しました。
岩渕氏は選択的夫婦別姓制度をすぐ導入すべきだと指摘。首藤若菜立教大教授は「旧姓の『通称使用』をしているが、さまざまな不利益・不便を感じている」「強くお願いしたい」と強調しました。
作山巧明大教授は、円安などで食料価格が急騰する一方、飼料や肥料など輸入に依存している生産資材が高騰し、農業の収益性は60年ぶりの低水準で、生産者への所得補償など直接支払いが農産物の生産費用の増加に対応できるとし、2010~12年に米農家への戸別所得補償で生産者の所得が増加し消費者価格が低下したとの統計を提示。「消費者は食料価格が低下し、特に低所得者が利益を受ける。生産者は農業所得が上昇し、農業の収益性が改善する」として、農業支援額に占める生産者の直接支払いの割合は米国91%、欧州連合(EU)84%に対し、日本は22%にすぎず、日本も農業支援の形態を直接支払いに転換する余地は大きく、食料・農業・農村基本法改定案には、生産者や消費者への即効性のある対策がないと批判しました。
紙議員は農村振興に向け全国町村会が提唱する「農村価値創生交付金(仮称)」を挙げ、地域レベルで独自性をもつ農村を担う「人」に着目した新たな交付金について質問。作山氏は「農村の多様性を考えると、予算として交付金を拡充していくのが正しい方向だ」と述べました。
山添議員は安倍政権下の14年の防衛装備移転3原則決定の際、政府は5類型(救難、輸送、警戒、監視及び掃海)に殺傷兵器の輸出が含まれるとはしていなかったのではと質問。髙見澤将林東京大院客員教授は「与党協議でも慎重に議論していたので、殺傷性を含むことをことさら強調する議論はなかった」と答えました。
山添氏は、昨年4月21日の衆院安保委員会で当時の防衛装備庁長官が直接殺傷することが目的の装備の移転が5類型に該当するとは「基本的には想定されていない」と答弁したと強調。「少なくとも昨年4月まで殺傷兵器の輸出はできないという前提で臨んできたことを確認できた」と述べました。
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2024年3月12日(火) 参議院 予算委員会
「経済・財政/金融・雇用/労働」
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
首藤公述人、大沢公述人、本日はありがとうございます。
まずは、お二人にお伺いをしたいんですけれども、先ほども議論がありました日経平均株価が史上最高値を更新したわけですけれども、実質賃金が連続して前年同月を下回る下で、世論調査でも8割の方が景気が良くなった実感がないというふうに回答をしています。中小企業への支援をやっぱり強めて、物価高を上回る大幅な賃上げが必要だというふうに考えています。
日本が賃金が上がらない国になったその原因に、低賃金で不安定な非正規雇用で働く人を労働者の四割にまで広げてきたということがあると思うんですね。今や公務職場でも会計年度任用職員など非正規雇用が増えていますけれども、その非正規雇用に不当な雇い止めであるとか差別をなくすこと、先ほど大沢公述人から同一価値労働同一賃金の話もありましたけれども、こうしたことを実現していくことだったり、国や自治体が非正規公務員の時給引き上げるとか非正規ワーカーの待遇を改善をしていくということが必要だと思うんですけれども、お二人の御意見伺えればと思います。
○公述人(首藤若菜君) 日本で賃金が下がってきた、上がらなくなった理由としましては、当然、非正規で働く人たちが増大しているということは非常に大きな要素としてあります。ただ、非正規で働く人の増大というのは日本のみならず世界的にも見られていて、その中でもやっぱり賃金上がっている国もあります。結局、その非正規で働いている人たちが増大していっても、例えば最賃が上がっていくとか、非正規の働いている人たちの格差の是正に取り組んでいるというようなことをやっていくことによってやっぱり賃金上げていくしかないんだと私は思っています。
物価を上回る賃上げが必要というのはまさに本当にそのとおりでして、そのためにはやはり、賃上げの中でも、今、賃上げ、大幅賃上げというふうにいろいろ報道されていますけれども、特に重要なのはやはりベアだと思っています。賃金の改定分がどれくらいあるのかと。定期昇給分で上がっていてもやっぱり実質賃金分というのはプラスにならない可能性がありますので、ベアでどこまで上がっているのかということに注視すべきだというふうに思っています。
私も、今日の最後に述べさせていただきましたけれども、国や地方行政における待遇改善というものは、特に地方においての賃金水準の向上には非常に効果的だと思っておりますので、是非進めていただきたいというふうに考えている次第です。
○公述人(大沢真理君) その成り行きからいうと、私は会計年度任用職員のことを言わなきゃいけないのかなという気はするんですけれども、官製ワーキングプアと、官と民の官ですね、ということで指摘をされて長くなっているわけですし、それがゆえに、物件費ではなくて人件費になったところが会計年度任用職員というのは僅かな改善点なのかなというふうに思いますけれども、雇い止め問題等、解決の兆しを見せておりません。
やはり、国はもちろんですし、自治体ももっと賃上げができると、みんなが豊かさを実感できる社会になろうよということを呼びかけるのであれば、まずお膝元の非正規の公務員、会計年度任用職員の待遇をいかにして上げていくかということを真剣に考えるべきだというふうに思います。
ついでに言うと、自治体の非正規の職員、どんどんどんどん比率増えておりますが、約75%、4人に3人は女性なんですね。これは、男女賃金格差というか、男女格差の問題でもあります。そういう人たちはどういう職種に就いているかというと、人のケアをする仕事、相談の窓口であるとか、それから保育所でもそうですし、看護師さんなんかも非正規化されているという部分もあると。こういうことが進んでいきますと何が起こるかというのは、みんな災害が起こったときにはっとするわけですよね。ケアが必要な避難者、被災者がたくさんいるときに、それをケアをする人手がないということにそのときはっと気が付くわけですが、もうこの問題も既に中越地震の辺りから指摘をされていますので、人は削ればいいという態度はもう真っ先に改めていただきたいというふうに思っております。
以上です。
〔委員長退席、理事中西祐介君着席〕
○岩渕友君 ありがとうございます。
今、大沢公述人がお話しされたことがまさに能登半島地震でも問題になっているなというふうにも思います。
今お話があった男女の賃金格差ということについてもお二人にちょっとお伺いをしたいんですけれども、非正規で働く7割は女性だと、そうしたことが男女の賃金格差にもつながっています。そして、総合職と一般職といったコース別人事ですよね、が賃金格差を固定化する間接差別にもなっています。その大本に、女性は家計補助的な働き方でいいであるとか、総合職は残業も単身赴任もこなすのが当たり前だから女性は難しいといった性別役割分担の考えがあるんだと思います。
国連の女性差別撤廃委員会が雇用における間接差別の認識不足が日本政府にあるんだということを繰り返し指摘をしている下で、この間接差別をなくしていくということを政治の課題にするべきだというふうに思うんですけれども、お二人のお考えをお聞かせください。
○公述人(首藤若菜君) 男女間の賃金格差、日本はすごく大きいわけですけれども、例えば人的資本の情報開示が始まって各企業が企業内の賃金格差を開示しています。そこの中で、説明を見てみますと、皆さんどこも管理職に女性が少ないためとか、こういった職業に女性が少ないためこの賃金格差がありますということで、現状では格差にある程度合理的な理由があるというふうなことが示されているんだと思います。私は、問題なのは、この合理的な理由が含んでいる不合理性をやはり指摘していくことだし、明らかにしていき、そこの不合理性を縮小していくことなんだと思っています。
その話は多分間接差別の話と全く同じ話でして、その一見合理的に見える理由で、そこで管理職に例えば女性が少ないためこの賃金格差があるといったときに、なぜ管理職に女性が少ないのかというところをやっぱり考えていき、そこを是正させていくというような取組が求められているんだろうというふうに考えています。
〔理事中西祐介君退席、委員長着席〕
○公述人(大沢真理君) 間接差別を解消する方法としては、繰り返しになりますが、同一価値労働同一賃金、価値が入っているところが大事なのです。政府の方の御発言や政府の文書、往々にして価値が抜けておりまして、その価値はいかがなものかというふうに私はいつも思っているんですけれども。
同一労働同一賃金と同一価値労働同一賃金というのは、言葉は似てますが、かなり日本では違った実態がございます。というのは、さっき四要素でもって採点をして、それを加点としてというふうに申しましたけれども、同一労働同一賃金の場合にはこの四要素がそろっていない場合もございますし、なぜか何とか係数というのを掛けて0.8にしてしまうという、要するに同一賃金じゃないということを正当化するような仕組みになっていて、そのところが問題ですので、繰り返しになりますが、SDGの8.5が加盟国に要求しているのは同一価値労働同一賃金の原則ですので、是非これを実施をしていっていただきたいというふうに思っております。
管理職の女性割合の低さということについては先ほども答弁の中で申したとおりですけれども、何かこう、こういう図がぱっと浮かんだんですよね、私、リクルートワークス研究所の報告書とか、それ以外の研究論文なんか読んでいて。昇進のはしごというのがあるとすると、それはかなり日本では長いはしごになっているんだけど、そこには延々と相似形の男性たちが連なっていると。このはしごに足を掛けようとすると、女性は自分の働き方も生き方も男性に合わせるというようなことを往々にして強いられる、これが日本の企業における多様性のなさ、それは、ひいてはイノベーションが不活発であること、そして経済成長力がそがれていることにつながっているというのをもう一度認識し直していただければと思っているところでございます。
以上です。
○岩渕友君 ありがとうございます。
続けて、お二方にお伺いをするんですけれども、冒頭、首藤公述人からも選択的夫婦別姓のお話がありました。先日、3月8日は国際女性デーということで、国会内でも様々な催しあったんですけれども、経済団体が主催をするこの選択的夫婦別姓の制度の導入を求める集会が行われたり、総理への要請なんかも行われました。世論調査でも七割以上が導入に賛成をしていると。もう圧倒的多数の声になっているわけですね。
姓を変えているのはほぼ女性だと。契約書にサインできないといった仕事や社会生活での様々な不利益があって個人の尊厳を脅かすということで、制度を導入しないことがあらゆる分野での損失になっていると思います。
すぐにでも導入をする必要があるというふうに思うんですけれども、公述人の御意見をお聞かせください。
○公述人(首藤若菜君) 選択的夫婦別姓は、私自身も個人的な経験から非常に切実に願っていることです。私自身、今は通称使用で旧姓を使用しておりますけれども、様々なやっぱり不利益、不便を感じています。
特に、やはり最も困っているのは、やっぱり海外で例えば国際学会に参加をするときに、学会のエントリーは自分の名前でやりたいです、当然。自分の名前で発表します。でも、そうすると、今パッケージになっていまして、エントリーするとその学会会場のホテルをそのまま予約をするような形になります。それで予約をしてうっかりそれで行ってしまったら、ホテルのフロントでパスポート見せてくださいと、名前が違うじゃないかと、あなたは泊まれませんみたいな話になります。それをまた別で取ると高くなったりして、実質的なコストも払わなくちゃいけないと。
もう本当に不便を感じて日々生きて、いら立ちを持って過ごしているというのが実態で、私、今日、自民党の推薦でここに来ていて本当に申し訳ないんですけど、本当に強くお願いしたいと思っております。
○委員長(櫻井充君) 時間が来ております。簡潔にお願いします。
○公述人(大沢真理君) はい。
私は結婚したことがないので首藤さんのような苦労は知らないできておりますけれども、日本の社会政策の流れを思い返しますと、例えば保育所の制度の改革あるいは介護保険制度の導入、こういうときに政府は何を言ってきたか。選択できるようにすると。選択できることはいいことであると、しかし、その選択の結果は選んだ人が引き受けるんですよと。選択と自己責任というのが、過去、少なくとも30年くらいの政策の流れだったと思います。
選択的夫婦別姓で別姓を選択した方々は、それはそれで不都合や御苦労もあるかもしれないけれども、それは自分で引き受ける覚悟をなさって選ばれるのであろうから、なぜそれに反対する人がいるのかということは私には理解し難いと申し上げて、お答えにさせていただきます。
○岩渕友君 ありがとうございました。
以上で終わります。
2024年3月12日(火) 参議院 予算委員会
「経済・財政/金融・雇用/労働」
立教大学 経済学部 経済政策学科 教授 首藤若菜公述人
○公述人(首藤若菜君) 立教大学、首藤若菜と申します。本日は、このような場でお話しする機会をいただき、大変光栄に感じております。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、労使関係を専門に研究しておりまして、その観点から本日二点お話をさせていただきたいと思います。
一つ目が物流の2024年問題、もう一つが持続的な賃上げについてです。
では、まず物流の2024年問題からお話しさせていただきます。
トラックドライバーの労働時間の短縮に向けては、ここ数年、国交省、経産省を中心にかつてないほど踏み込んだ対策が取られてきました。その結果、物流現場に変化の兆しが現れているというふうに感じております。大手の運送会社、荷主企業を中心に物流の負荷を軽減させる取組が始まっており、これが今後順調に進むかどうかということはまだ見極めが付かない部分もありますが、長い間ずっと改善してこなかった現場が変わり始めているという点は高く評価すべきだというふうに考えております。
ただ、こうした動きが中小の運送会社、荷主企業にまで広がっているのかというと、そうとは言い切れないと思っております。中小の運送会社のところで、今物流現場何が起きているのかといいますと、多くの運送会社の方々が二択を迫られているというふうに語っています。二択というのは、結局、4月から始まります労働基準の強化を遵守せずに荷物を運び続けるか、遵守するために荷物を諦めるかという二択です。どちらを選ぶにせよ、非常に苦しい思いを抱えながらこの4月を迎えようとしているというのが実態だと思っています。
トラックドライバーの労働時間と賃金は、手元にあります5ページの図表1に示しているとおりです。
いわゆる残業時間である超過労働時間数を見ていただきますと、男性平均の2.5倍から3倍の長さになっています。賃金水準は、決まって支給する現金給与額、これが残業込みの賃金額になっていますが、これは平均の、男性平均に近くなっておりますけれども、所定内給与額で見ますと、平均の八割ほどに下がります。つまり、長く働くことで平均並みの賃金を獲得しているということが分かります。現状のままですと、残業時間の規制強化によって収入が低下し、それにより離職者が増え、人手不足が深刻化するということが懸念されます。
賃金を上げるにはその原資である運賃の上昇が求められますが、次のページの図表2を御覧ください。
企業向けサービス価格指数を見ますと、赤い線で示してあるのが道路貨物運送業の指数になります。コロナ前までは上昇していましたが、コロナ以降ほぼ横ばいとなっているのが分かるかと思います。ドライバーの賃金は、実は2010年頃から若干上昇してきているんですけれども、近年は上昇幅が狭くなっておりまして、これは運賃の上昇幅の弱まりと整合的だというふうに考えております。
では、どのようにすればいいのかということについて、私の考えを5点述べさせていただきます。七ページから八ページにまとめてあります。
一つは、価格転嫁です。持続的な物流をつくっていくためには政府が呼びかけているように価格転嫁が必須だと思っております。
現在、公正取引委員会やトラックGメンが取組を強化しておりまして、それは非常に追い風になっていることは確かです。広島県等一部のGメンはかなり踏み込んだ取組もしておりまして、取引環境の改善に貢献していると見ています。しかし、中小企業庁の調査によりますと、トラック運送業の価格転嫁率は全業種の中でも最下位であり、平均45.7%の転嫁率に対してトラック業界では24.8%と、著しく低い状況です。
なぜ価格転嫁が進まないのかと。それは、従来の価格で若しくはもっと安い価格で荷物を運ぼうとする事業者が後を絶たないという実態があるためです。価格を上げようと交渉すれば転嫁しない事業者に仕事が奪われていくというふうに皆さんおっしゃいます。その安さが生産性の上昇によって実現されていればいいのですが、賃金を上げないことで若しくは賃金を引き下げることで安さを実現しているケースも多々あります。
価格転嫁を進めるには中小事業者は交渉力を持っていかなければなりませんが、しかし、構造的に交渉力が高めにくいというのが実態です。例えば、多層的な下請構造がトラック業界にはありますが、五次請け、六次請けといった下請業者は価格交渉をするすべすら持っていないというのが実態です。その中で幾ら適正価格をと呼びかけられても、その実現は困難だと思っております。
価格転嫁を進めるためには、それが可能となるような市場環境を整備するということこそが重要であり、例えば多層的な下請構造を是正するということが求められているというふうに考えております。これは海外でも行われておりまして、トラック運送業では例えば二次請け以下を禁止するといった制約を設けている国があるというふうに聞いております。取締りの強化、呼びかけの強化、これも重要ですけれども、価格が転嫁できる環境をつくっていただきたいというふうに考えております。
第二、第三は、運賃と賃金の底上げに法的拘束力を持たせるという点です。
国土交通省は、2018年に標準的な運賃を導入し、運賃交渉の目安とするように呼びかけています。しかし、9ページの図表3を見ていただくと分かりますけれども、標準的な運賃額若しくはそれ以上の運賃額を獲得できているのは僅か15%にすぎません。半数以上の荷物は標準運賃の7割以下の価格で運ばれていますし、2割の荷物は標準運賃の半額以下で運ばれているというのが実態です。
中小の運送事業者たちは、標準的な運賃のことを理想の運賃とか夢の運賃というふうに呼んでいます。実態的に標準運賃が標準にはなっていないというふうに考えています。標準的な運賃に実効性を持たせることが難しいのであれば、上限、下限の運賃額を定めたり、最低運賃額を定めるということも検討していただきたいというふうに思っております。
第三には、賃金の底上げについてです。
トラックドライバーの流出を防ぐには、ドライバーの賃金単価を上げていくということが不可欠だと思っております。それには、私は特定最賃を活用すべきだというふうに考えております。賃金の最低基準を設けることで、より安い運賃で仕事を獲得しようと、より安い賃金で仕事を獲得しようというような底辺への競争の歯止めにもなるというふうに考えております。
第四番目ですが、労働規制が強化されていく中で、現在、宅配の現場など一部の物流現場では、雇用労働者ではなくて個人事業主として働く、働かせる動きが広がっています。ギグワーカーに対する労働者保護を拡充していくことや、雇用されるかどうかで労働コストが大きく異なると、こういった状況を変えていくような労働法制や社会保障制度の見直しも急務だというふうに思っております。
最後に、人手不足の中で、外国人労働力の流入に期待が高まっています。しかし、より安い賃金で働いてもらうために外国人労働者に頼るという発想では再び労働力不足に陥る懸念があります。外国人労働力の受入れに当たっては、日本人であれ外国人であれ、賃金水準の上昇が必要だという強いメッセージを出していただきたいというふうに思っております。
続いて、持続的な賃上げについてお話をしたいと思います。
あしたは春闘の集中回答日でありまして、大手企業を中心に昨年を上回る大幅な賃上げが達成される見込みです。政府が繰り返し呼びかけ、政労使会議を開催するなど、賃上げを強く求めてきた効果は大きいというふうに考えております。
問題は、これが中小企業にまで広がるかどうかという点だと思っています。
まず、昨年の賃上げの結果を簡単に振り返りたいと思います。
昨年の春闘では3.6%という30年ぶりの大幅賃上げとなりました。しかし、12ページの図表4を御覧いただきたいのですが、昨年の一般労働者の現金給与総額の伸び率はプラス1.2%で、上昇はしましたが、際立って伸び率が高かったかと言われると、そういうわけではありませんでした。
また、次のページの図表5のとおり、昨年の春闘は分散係数がかつてないほど高かったことも分かっています。大企業が大幅に賃上げをしているということが数多く報道されていますが、さほど賃金を上げられなかった企業が存在しているというふうに予想されます。
その中で、持続的な賃上げを実現させ経済を循環させていくための考えを四点お話しさせていただきたいと思います。
第一には、労働生産性と労働分配率の向上です。
持続的な賃上げには生産性の向上が不可欠だと思っております。生産性向上に向けた中小企業への支援は既に数多く行われていますが、より多くの事業者が取り組めるよう後押しをお願いしたく存じます。
他方で、急激な賃上げが生産性の向上を伴わない形で進むことへの懸念の声も聞かれます。しかし、日本の問題は、過去20年以上にわたり労働生産性の上昇に賃金上昇が追い付いてこなかったことにあるというふうに私は考えております。その結果、日本の労働分配率も低下してきました。内需を拡大していくには幅広い人々の所得の向上が不可欠だと思っております。そのためには、労働分配率が上昇するような賃上げ、労働分配率にも着目した賃上げを目指すべきだと思っております。
第二には、価格転嫁の促進です。
価格転嫁率と賃上げ率には相関関係が確認されております。価格転嫁を進めるための方策は既に述べましたので割愛しますが、なかなか価格転嫁が進まない状況や多層的な下請構造はトラック業界だけの話ではありません。トラック業界で起きている実態は日本社会の縮図であるというふうに私は考えております。
第三に、持続的な賃上げには集団的な労使関係の再構築が必要だと考えています。
16ページの図表7を御覧ください。これは連合が発表した昨年の春闘結果になります。これを見ますと、労組がある企業では中小企業でも賃上げが行われていることが分かります。昨年の労働経済白書では、企業規模が小さいほど労組の有無が賃金改定率に影響している可能性を指摘しています。
また、非正規労働者の賃上げについても、今年ではイオングループが昨年同様に非常に高い賃上げを非正規含めて行うということが発表されていますが、連合の発表によっても、労組に加入している非正規労働者については賃金が上がっているというふうな実態があります。
賃金が上がるかどうかというのは、中小や大企業かどちらかということや正規か非正規かというような違いのみならず、労働組合にカバーされている労働者か否かということにも左右されるというふうに私は見ています。中小企業で賃金を順調に上げていくために、やはり中小企業の組合組織率が極めて低いというような実態を改善していくということも必要だと思っています。
この間、組合の組織率が下がり、労働者の発言力や交渉力が低下してきたことにより、賃金が上がらず、内需が縮小し、経済が成長しないと、そんな社会がつくり出されてきたと思います。経済の再生のためにも集団的労使関係の再構築が必要だと考えています。
今、学校教育では学習指導要領で労働三権を学ぶ機会がありますが、労働者がワークルールを知らないまま法令が遵守されずに働くというふうな実態もありますので、労働法や労使関係を学べる機会をより拡充していただきたいというふうに思っております。同時に、中小の事業者への啓発活動、不当労働行為に対する厳正な処分もお願いしたいと思っています。
第四には、多層的な最低賃金の形成です。
中小企業や非正規労働者を含めて幅広く働く者の賃金の底上げを図るには、最低賃金というものが非常に効果的です。
岸田総理は、2030年半ばまでに地域別最賃を1500円に引き上げるという目標を掲げていらっしゃいます。私は中央最低賃金審議会の委員も務めておりますので、総理の目標も念頭に置きながら審議に参加したいというふうに考えております。
ただ、留意すべきは、地域別最賃は不熟練労働者を含めた全ての労働者に最低限支払われる賃金額です。例えば、今エッセンシャルワーカーの人手不足が深刻化していますが、これらの労働者の多くは免許や資格を取得して働くことが求められておりまして、決して不熟練労働者ではありません。こうした労働者たちの賃金の上昇は、地域別最賃の上昇だけでは必ずしも底支えにならないというふうに思っております。特定の産業や職業の最低賃金を特定最賃で定めることができます。さらに、民間企業の労使の中には、産業別最賃、企業内最賃を締結しているケースもあります。こうした多層的な最低賃金の形成が中小企業、正規労働者を含む幅広い労働者の賃金の底上げになるというふうに考えています。
現在、特定最低賃金の導入や改定は、労働側が再三要請しておりますが、使用者側が慎重な姿勢を示しており、協議が進まないという状況です。持続的な賃上げのために是非前向きに御検討いただけるように、政治の場からも呼びかけていただきたいというふうに考えております。
まだ少しだけ時間がありますので、最後に一言だけ男女間格差の是正についても触れたいというふうに思います。
今後、人口が減少していく中で、女性労働力の更なる増大が求められています。年収の壁の解消はそれを促す重要な施策だと思いますが、女性たちが労働時間を制限している理由は、税制、社会保障制度だけに起因するわけではありません。男女が共に働く社会がつくられていく中で、誰がケア労働を担うのかということが問われています。
男性の労働時間を短縮し、男女が共にケア労働を担えるようにしていただきたいと。同時に、正規、非正規間の格差の是正は女性の就業拡大には不可欠だと考えております。さらに、女性の働きやすさを実現するには、選択的夫婦別姓の導入も前向きに御検討いただきたいというふうに思います。
私の専門は労使関係ですが、労使関係とは、学問上、三者構成というふうに定義されています。労使の二者ではなくて、政府を含めた三者になります。政府は、法政策によって働く者の労働条件を改善させることができます。加えて、政府は、最大の使用者でもあります。国、地方自治体で働く者の賃金、労働条件の改善は各地域の労働条件に大きな影響を及ぼします。国や行政が率先して賃上げをし、労働環境の改善に取り組むことも極めて有効だというふうに考えております。
私からは以上となります。
御清聴どうもありがとうございました。
2024年3月12日(火) 参議院 予算委員会
「経済・財政/金融・雇用/労働」
東京大学 名誉教授 大沢真理公述人
○公述人(大沢真理君) 大沢でございます。
本日は、このような機会を頂戴し、関係の皆様に感謝申し上げる次第です。
私の資料を手に取っていただきますと、最初の二枚は備考となっておりまして、これからテクニカルターム、専門用語がたくさん出てまいりますので、最初にそこをまとめておいたというものでございます。
ただ、スライド2の一行目、OECD統計のURL書いてありますが、現在OECDはこのサイトの移動を進めておりまして、三月末にはここが使えなくなるということで、恐縮ではございますが、お知らせをいたします。
それから、スライドの二枚目ですね。日本の貧困の特徴として、所得再分配のビフォー、アフターの近似値を見ようとした場合に、日本ではアフターの方が貧困率が高いような人口区分が出てまいります。つまり、簡単に言うと、日本では政府の所得再分配が貧困をかえって深めていると。これは諸外国に例を見ない事態でございます。相対的貧困率という指標には限界の御指摘もございますけれども、一応、私の考え方はそこに書き留めておきました。
いよいよ本題に入らせていただきます。
今日のテーマは、ボトムアップこそが成長戦略でも要であるというポイントでございます。
これは、EUや国際機関での近年の問題意識でもございます。EUを見ますと、2013年に社会的投資パッケージを発表しておりますが、そこでは成長戦略と福祉国家の現代化戦略は一体のものとして推進されようとしております。よく社会的投資といいますと、旧来のような既に貧困に陥った人に対して救済をする、補償と言ったりします、よりも投資、将来に向けて人々をリスクに備えさせる、その力を付けさせると、そういうシフトなんだというふうに言われがちですけれども、EUの欧州委員会文書等を見る限り、一体になっております。同時に、ジェンダー平等の次元が非常に重視をされております。当然ながら貧困者の多数は女性ですので、そこを見逃してはいないということです。
こうした取組は2013年に始まったわけではもちろんなく、遡って97年のアムステル条約以来、EUの主要目標の一つでございます。
象徴的なのは、パッケージのうち子供への投資、これは勧告になっておりますが、その付録には貧困や社会的排除と闘い不平等を縮減するための32もの指標を掲げております。同時に、就労貧困、働いているのに貧困から逃れられないと、これが現役層の貧困者の三分の一を占めると注意喚起しております。
これらのパッケージでは子供、現役層が重視をされておりますが、それはヨーロッパの事情があるということを御理解いただきたいと思います。EU加盟諸国では、バルト三国を除きまして、高齢者の貧困はかなり低いレベルに抑えられております。その反面で、子供の貧困率は高い国が見られる、こういうところからこのパッケージが構成されております。
これらの戦略、パッケージからは、その背骨としてボトムアップの経済学が読み取れます。それをOECDやIMFも共有しております。この背骨がないと、成長戦略としても分配戦略としても成功を見込めない、そういう問題意識があるわけでございます。
次のスライドは、低所得層の置き去りが経済成長を損なうというOECDのパンフレットなんですけれども、そこにある印象的な図でございます。
所得分布のボトム40%の人々を底上げすれば人的資本投資が増進をする、それが成長に資するということで、逆に、この間のOECD諸国では、幾つかの国を例外としまして、オレンジ色の部分、下に突き出ております、これが、不平等が増大したあるいは固定化している結果として成長力がそがれている部分が下に突き出たオレンジの部分でございます。
格差といいましても、不平等といいましても、肝腎なのは低中所得層であると。それは、単に経済成長のためだけではなく、民主主義を擁護、発展させるためにも重要だと考えられております。
OECDは2019年に、アンダープレッシャーと、中間層が圧縮されている、圧迫されているという報告書を出しております。ここで中間層と呼ばれているのは中位可処分所得の75%から200%の層です。この層こそが包摂的な経済成長にとって重要であり、他者への信頼や、民主主義の制度、典型的には議会制度でありますが、司法やそういったものへの制度の信頼にとっても重要だということです。
この中間層が、所得シェアは低下し、それからトップ10%に置いていかれている。それから、中間層の生活費用というのは一般物価よりも早く上昇している。この公正を、これを是正し公正を進める主要な手段としては、税、公的給付、特に資産所得やキャピタルゲイン、相続に対する課税を強めることがこのレポートで推奨されております。
他方、IMFのワーキングペーパーやスタッフノートを見ますと、五分位の所得シェアは、トップ20%、一番豊かな20%で上昇しても成長率は下がる、利得はトリクルダウンしないという警告が書かれております。反面で、ボトム20%で所得シェアが上昇すると、成長率は上昇するという分析結果になっております。
そして、所得不平等の上昇、特にボトムが置いていかれる中では、他人への信頼が低下をすると。この他者への信頼のレベル、日本はOECD諸国の中でも低い方でございます。これが低下すると、取引費用が上昇してしまい、イノベーションが阻害されるため、信頼は経済成長にとっても重要な要素であると、IMFは指摘、OECDは指摘をしております。実は、この信頼というのは災害レジリエンスとも関連をしている、そういう研究がございます。
日本の状況でございますが、日本では、マクロでもミクロでも所得、賃金が伸びない。これは首藤公述人のお話にもるるございましたので、詳しくは説明をいたしません。左側が一人当たり実質GDP、右側が実質の平均年収の推移でございます。
次のグラフを見ていただきますと、これは、全人口の相対的貧困率の推移をG5プラススウェーデン、韓国で見たものでございます。
日本については二系列を取り上げておりますが、OECDに報告されているのは、日本1の方、国民生活基礎調査の方でございます。もう一つの系列、消費実態調査、これは国民生活基礎調査よりも低くなるわけでございますけれども、直近においてはこの二つの系列の指標ギャップが縮小してきております。
日本1では、最近微減はしておりますが、表示国で最悪になってしまった。見逃せないのは、年齢別で、日本の18歳から25歳の若年層、この貧困率がOECD全体で七番目に高いということです。若者の貧困は未婚率の上昇につながり、これが少子化、人口減少の主要な要因であるということは政府のるる白書等でも指摘をされております。
次に、貧困率だけ見ていても、その貧困者とされる人々の生活の実質は分からないという御意見あろうかと思いますので、この図の4を作成してみました。G5と韓国について、等価可処分所得の中央値、この中央値を挟んで75%から200%がOECDが注目をしている中間所得層でございます。これを名目値の購買力平価でドルに換算したのがこのグラフでございます。
日本では、中間所得、この半分が貧困基準ですので、ずり落ちている、表示国で最低になってございます。下がったのは日本だけですけれども、普通、貧困基準下がりますと貧困率は低下するんですけれども、日本での低下は僅かです。日本円で見ますと、九七年がピークでございまして、以降下がり続けてきたと。つまり、日本の貧困層の所得というのはこれらの諸国の中で最低であるということに御留意いただきたいと思います。
次のグラフは、所得階層、所得格差に関するグラフで、トップ10%とボトム10%の所得比の推移を見ております。一応貧富の格差を示す指数とお考えいただきたいと思います。G5とスウェーデンの中で、日本の所得格差はアメリカに次いで大きい。それから上昇ぎみであるところも懸念されます。
次は、これ最後に、どうしたらいいんだろうかと、この状況を。日本で貧困、格差をいかに削減するかという方法に関してでございます。
まず申し上げたいのは、年金額に最低保障が必要だという点でございます。この円グラフは、都立大学、東京都立大学の阿部彩さんの研究成果からお借りをしておりますけれども、年齢階層、性別で分けて貧困者は誰かというのを見ますと、オレンジの24.5%、これが女性65歳以上です。つまり、日本の貧困者の4分の1は高齢女性であると。高齢男性も13.4%ですから、なかなかの比率を占めております。もし年金額に最低保障があれば、このオレンジと濃い緑の部分は消えてなくなると。一気に日本の貧困率というのは下がるわけでございます。
先ほど申し上げましたように、高齢者の貧困率が現役世代より低い国はOECDの多数を占めます。年取ると年金暮らしになるので貧困になるのは仕方がないというのは全くの俗説であって、日本ではそうなっているかもしれないけれども、OECDの多数の国ではそうではないということでございます。
次に、現役層と子供の貧困に対してどうすべきかと。
御承知の持続可能な開発目標、SDGの目標8のうちターゲット番目、これはディーセントワークと同一価値労働同一賃金を加盟国に求めています。日本もこれに同意をしているわけでございます。それをですね、全ての老若男女、全ての労働者に対してディーセントワークと同一価値労働同一賃金を実現するようにということです。同一価値労働同一賃金というのは、正規、非正規を問わず、労働者全員の担当する仕事を構成する職務を分析いたします。職務の四つの面、知識・技能、責任、負担、労働環境でそれぞれ点を付けて合計し、仕事の価値を割り出します。そして、価値に見合う賃金を実現しようとする、これが同一価値労働同一賃金の原則でございます。
先ほど首藤公述人がおっしゃいました正規、非正規のあるいは雇用形態にある格差の解消について、この同一価値労働同一賃金こそが鍵と考えられているわけです。日本では、正社員は職能給で非正規は職務給なんだから、この格差の解消は非常に難しいと言われてきたんですけれども、最近の研究によれば、そうでもないということも分かっております。
三番目に、金融所得、相続への課税強化をする必要があります。これもOECDのレポートの中に入っている点でございます。日本では、所得税制の所得控除を税額控除に転換をする、できれば給付付きとする。給付付きでなくても、税額控除に転換するだけで税制全体としての累進度はかなり高めることができるという実証分析もございます。
最後に、住宅給付を導入し、児童手当や児童扶養手当を統合して拡充するといった施策が望まれます。
ヨーロッパのことばかり引き合いに出しましたけれども、韓国では非常に政策展開が急でございまして、ゼロから5歳児への無償保育は朴槿恵政権で、それから公的扶助を統合給付から個別給付に改正するという改革も行われました。そして、文在寅政権では失業扶助制度と。失業保険というのは、ある期間が来たら尽きてしまいます。それを超えて、その期間を超えて失業し続ける人に対して、一般の公的扶助ではなく失業扶助制度と。ヨーロッパではこの制度を持っている国が多いわけですが、そういうものが新設されておりまして、そういった改革が急ピッチでお隣の国では進んでいるということを申し上げまして、私からの報告といたします。
どうも御清聴ありがとうございました。