2020年2月12日(水) 参議院 国民生活・経済に関する調査 参考人質疑「困難を抱える人々の現状(子どもをめぐる諸問題)」
参院国民生活・経済に関する調査会は2月12日、「困難を抱える人々の現状(子どもをめぐる諸課題)」について参考人質疑を行い、日本共産党の岩渕友議員が質疑に立ちました。
岩渕氏は、学校で必修となっている高額なスキー研修費用が家庭の負担になっている北海道の例や、福島県で起こっている学校給食費無償化運動の例を紹介。「家庭の経済状況が子どもたちへの不利益につながる」と指摘し、国の経済的支援の必要性をただしました。
参考人の北海道大学大学院教育学研究院の松本伊智朗教授は「学校での費用徴収をなくしたらいい」とし「無償化することはそんなに大きな財政負担ではないだろう」と述べました。
岩渕氏は、日本の教育予算について「日本は経済協力開発機構(OECD)で毎年最下位争いをしているような状況で、文部科学省の予算を2倍にしても世界平均並みに届かない」と指摘した同参考人の資料を取り上げ、「貧困を自己責任にしないことが非常に重要だ」と主張しました。
特定非営利活動法人キッズドアの渡辺由美子理事長は「税の再分配を、もう少し子ども、若者に増やすことがすごく重要」とし、「少しでも家庭の経済的負担が少なくなることをやるのが最優先」と応じました。
松本伊智朗参考人 意見陳述
周燕飛参考人 意見陳述
渡辺由美子参考人 意見陳述
参考人質疑
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北海道大学大学院教育学研究院教授・附属子ども発達臨床研究センター長 松本伊智朗参考人
○参考人(松本伊智朗君) どうも、北海道大学の松本と申します。
本日は、このような貴重な機会を頂戴して、本当にありがとうございます。
私に与えられた題というのは、子どもをめぐる諸問題についてということで、特に子供の貧困の問題について話せという御下命でございます。子供及びその家族の貧困の現状についてということで、二十分の時間を頂戴をしてまずお話をしたいというふうに思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。(資料映写)
スライドがございますので、お手元のものも見ていただきながらですけれども、これ、私のプロフィールでございます。特に付け加えることはございませんけれども、主に貧困の研究、あるいは子供、家族、福祉の研究をしております。
本日の報告の構成でございますけれども、まずは大きく四つですね、貧困率をめぐる動向ということと、続いて、子供、家族の貧困の現状、最後に子供虐待の問題と貧困の問題を重ねて考えるというふうな構成で進めたいと思っております。特に、二のところに時間を少し費やしたいと思います。一のところは全体の動向でございますので、皆さん御承知おきのことが多かろうと思いますので、余り時間を使わないというふうにしたいと思います。
まず、一の貧困率をめぐる動向でございますけれども、これは大きく三つの点を主に申し上げたいというふうに思います。一つは、貧困率、子供の貧困率の推移でございます。二点目は、世帯構成と子供の貧困の関係でございます、貧困率から見たということでございますけれども。三つ目は、税と社会保障による貧困率の削減効果ということでございます。
このときの貧困率と言われているものの定義でございますけれども、これ、国民生活基礎調査において相対的貧困率を推計をして厚生労働省で報告されております。その資料を使っております。等価可処分所得の中央値の二分の一というのを貧困線というふうに用います。貧困率そのものあるいは貧困線の引き方については幾つかのやり方がございますけれども、OECDあるいは日本政府はこれを採用しておりますので、一旦これに準ずるということにいたします。
これはもう既に何回も見られておられる資料だと思いますけれども、相対的貧困率の推移でございます。二〇〇九年から厚生労働省は報告しておりますので、一九八五年からの数字というのは後追いでの計算ということになります。
大きく言いますと、全体的には貧困率あるいは子供の貧困率そのものは上昇傾向であるということ。近年の動向でいいますと、直近のデータでは若干低下があるということ。これはもう少し、この三年後のデータについてはもうすぐ公表になると思いますけれども、経過の観察が必要かと思います。
続いて、世帯単位でございますけれども、詳しいことは申し上げませんが、やはり一人親世帯と未婚子のみというグループに貧困リスクが高いと。これは主に母子世帯でございますけれども、母子世帯の貧困リスクが高いということはまず確認をしておきたいと思います。
しかしながらでございますけれども、これは子供の側から見たときに、貧困線以下の世帯に暮らす子供の比率というのは、貧困の子供から見たときの世帯タイプとありますと、これは左側のブルーのところを見ていただきたいんですけれども、半分ぐらいが夫婦世帯でございます。夫婦と子供の世帯ということでございますので、世帯類型で見ると、一人親世帯に貧困リスクが高い、ただ、子供の側から見たときには一人親世帯ばかりではないと、むしろ半分は夫婦世帯だということになります。
したがって、政策的なインプリケーションとしては、一人親世帯に対するターゲットを絞った施策と同時に、全ての子供を対象にしていくような普遍的な施策の組合せということが重要になるということでございます。
三つ目でございますけれども、これは首都大学東京の阿部彩さんが、これまでの資料も阿部さんの資料をお借りしておりますけれども、が計算された再分配前後の貧困率でございます。これは、再分配後というのは、当初所得と税と社会保障による家計への介入後の所得です。つまり、税金を支払って、社会保障給付を受けた後の可処分所得の貧困率。一般的に貧困率というのはこの後者の方で出すことが多いですけれども、その前後でどういうふうに変動しているかということであります。
これを見ますと、どの年齢層でも、年齢層によって違いは若干あるんですけれども、そう大きく変動していないと。小さいところでは若干貧困率そのものは増えているということになります。これはどういうことかというと、日本の税制と社会保障というのは、子供の貧困率ということに関して言うと、その削減効果は薄いということでございます。これは、例えば高齢者のところですと、かなり貧困率が削減されるというふうになります、ここではデータございませんけれども。ですので、子育て世帯のところに対する所得の再分配機能が弱いということになります。
こちらは、ちょっとお手元に別紙で資料を配っております、細かいものですから。これはユニセフの資料で、各国ではそういうふうなものがどういうふうに再分配効果があるかということでございます。
見ていただきますと、これは薄いブルーのところが再分配前で、濃いブルーが再分配後であります。例えば、一番上はアイルランドですかね、次はハンガリー、UK、フィンランドとありますけれども、どこの国も最初のところから最後のところに貧困率が下がっているわけですけれども、幾つかの国が余り変わらないグループがございます、その再分配前後で。つまり、こうした国は家族に対する所得の再分配機能が弱い国でありまして、その中に日本も含まれているということになります。
これは大変悲観的な数字ではありますけれども、逆に言うと、取るべき政策を取れば貧困率は減らせるというふうなことも示唆されているかというふうに思います。ですので、今ここでお話ししたようなことは、確認されたことと政策上の示唆というふうにしてここでまとめておりますので、御確認いただければというふうに思います。
続いて進みます。
続いて、これは北海道における子どもの生活実態調査というものから、子供の家族の現状についてお話を申し上げたいと思います。約十分ぐらいの時間を使いたいと思います。
調査の概要はここにあるとおりでございます。かなり大規模な調査でございまして、二歳、五歳、小二、小五、中二、高二の子供とその保護者でございます。もちろん子供は小五以上ですけれども、合計約三万人に対する北海道内の調査でございます。大体北海道のこの該当する年齢層を、この年齢の子供を育てる世帯の十世帯に一世帯ぐらいが受け取っているような大規模なものだというふうにお考えいただければと思います。
北海道というのはある種の特殊な地域じゃないかと思われるかもしれませんけれども、むしろ、都市部と過疎地を両方含んでいるという点で、あるいは全国の人口の大体二十人に一人ぐらいは北海道民でございますので、そうした意味では、むしろ東京、大阪というふうなところの都市部集中型ということでなくて、全体の状況を一定示しているのではないかというふうには考えております。
これで見ますと、世帯年収でございますけれども、上が調査世帯で下が全国でございますけれども、見ると、一つは、これは年収二百万から三百万、四百万というふうにグループしておりますけれども、一人親世帯のところで、やっぱり三百万以下のところで半数を超える、六割を超えるということになります。全国のところでよりも低所得の方にやや偏っております。ただ、全体的には所得階層の格差の中で子育てが行われているということになります。
以後の分析でございますけれども、先ほど貧困率の方で申し上げた貧困線の、等価可処分所得の中央値の五〇%を基準にしまして、それの一・〇倍未満、あるいは一・四倍、一・八倍、二・五倍というふうにして区分をいたしました。それを基に、低所得層Ⅰから上位所得層までの五区分で分析を行います。
これは分析の区分の分布でございます。貧困線以下と推定されるところが一二・六%でございますので、大体全国の貧困率と近似をしているということと、母子世帯に高いということになります。
ここからですけれども、これは注意していただきたいんですけれども、これは働き方ということに関して、特にお母さんの働き、時間でございます。所得の問題から時間の問題に移りますけれども、これを見ていただくと、ブルーの方が母子世帯、祖父母は両方同居しておりません。オレンジの方が二人親世帯のお母さん、仕事がある人。母子世帯のお母さんは八割ぐらいが就労しておりますけれども、その中での働き方を見ると、どの年齢層でも母子世帯のお母さんの方が夜勤がある人が多いんですね。これはどういうことかということです。
そういうふうな、つまり労働市場への参入障壁が低いところに恐らく仕事を得られることが多いかと思いますけれども、ケア労働あるいはサービス労働の中で長時間勤務あるいは夜勤の勤務があると。そうすると、これは子供を世話するということとどんな関係にあるかということになります。
一つは、やっぱりそういうふうな仕事、夜勤の仕事をしなくてもよいような仕組みと、もう一つは、やはり夜の時間帯の子供のケアをどうするのかという問題がこれ両方含まれるということになります。つまり、貧困の問題と時間の問題を重ねて考えなきゃいけないということです。
もう一つは、ゆとりのなさということでいいますと、これ、赤のところが赤字で、家計の収支の状況でございますけれども、赤字で借金をしていると。右側の青の方が黒字でということになります。そうすると、明らかに所得が低い方が赤字ということになります。これは、貯蓄の方を見ても貯蓄がないということも多うございます。つまり、何か不意の出費あるいは病気というふうなことに関して大変対応がしにくい家計構造にあるということであります。つまり、硬直化していて、単に日々の収支が難しいだけじゃなくて、いろんな出来事があったときにそれに対応しにくいような構造にあるということであります。
そのことを別の側面から見ます。
これは未払、滞納についてということで、過去一年に以下のような公共的な支払について経済的理由で支払できなかったことがあるかということがあります。これで、あったとお答えいただいているものが幾つあるかという累計を見ております。
これを見ますと、上の方の低所得層Ⅰの方が、これは赤が三つ以上その累計があったということであります。一つ以上あったというところでも半分ぐらいなんですけど、低所得Ⅰを見ていただくと。ただ、幾つかのものが累積しているということがあります。つまり、あの支払をしながらこちらの支払をして、こちらに借金をしてあれをするというふうなハンドリング、ジャグリングが行われているということですので、大変気持ち的にも追い詰められてくるような、あるいは何か一つ病気だとか事故だとかあったときに大変もろいというふうな構造だということがここからも分かるかと思います。
ここでもありますけれども、特に滞納問題に対する対応というのは、単に取立てをするというよりも、こうした生活の困難に関する支援の入口というふうに捉えるということが大変大事かというふうに考えております。
これは、もう一つは、そうしたゆとりのない中で心身の健康でございます。
これを見ますと明らかなように、これはほかの調査でも大体同じような結果が出ますけれども、所得の低い階層の方が健康ではないと。つまり、疾病リスクを抱えておられる方が多いということが分かります。つまり、低所得あるいは貧困の暮らしというのは、余裕のなさというだけではなくて、健康問題を抱えやすいということであります。あるいは、それはどちらが原因でどちらが結果というふうな両方の方向があるかと思いますけれども。
これは、必要な受診を控えたことがあるかと、過去一年で病院に行こうと、行く必要があると思ったけれども、それを控えたことがあるかということであります。
上が保護者で下が子供であります。子供にしても保護者にしても、やはり所得が低い方が控えたことがあるという人が多うございます。ブルーとオレンジは、ブルーの方が健康である人であります。疾病状態にある人ほど受診を控えるということになりますので、これはアクセスの問題があります。もう一つは、時間の問題があります。もう一つは、見ていただきたいのは、全体的に保護者の方が子供よりも高いですね。つまり、子供は何とか行かせて自分が我慢しているというふうなことがこうした大きな数字からも確認できるということであります。そうすると、保護者の方にかなりの負担が掛かっているというふうな状況の中で子育てが行われているということになります。
続いて、これは、うつ状態の一種のスクリーニングするような尺度でございますけど、うつ尺度得点の分布ということであります。
これを見ると、やはり低所得層の方にうつ尺度得点の、まあ十以上というのは、ここでこれはK6という注意書きがありますけれども、心理的ストレスを測定するための指標で、国民生活基礎調査でも使われているものです。九点以上になると、これは気分障害や不安障害の危険度が高まるというふうな一種のカットオフのラインでございます。したがって、カットオフのラインをここでは十点としますと、その十点以上の割合が明らかに高い。全体的に数%の人がいるということと、特に低所得層のところでやっぱり五人に一人の人がそうした不安定な状態にあるというふうなことが推察されるということであります。
つまり、健康ということは心身の健康ということでございますので、やっぱりそれはいろんな物事に対応していくような一種の余裕とかゆとりというものを奪っているということになります。
こちらの方は、こういうデータは、これはなかなかないんですけれども、障害のある子供のいる家族であります。データでは、兄弟も含めて、例えば言葉の遅れだとか発達の遅れというふうなことも含んで障害のある、つまり一般的にケアニーズの高い子供がいる、含まれている世帯です。全体で八・一%ですので、これだけでも、まあクラスでいうと一人か二人、二人ぐらいはいるということですけれども、特に低所得層に高いですね。
これは恐らく、子供さんの面倒を見なきゃいけないので、家族の方の就労が制限されると。例えば、時間的に短くするだとか、あるいは仕事をしないという選択をするということも含めて、稼得の機会が制限されるということと大きな関係があるだろうと思います。所得の低いところに好んで障害児が生まれるというようなことではないかもしれません。ただ、健康を害するリスクはあるかもしれません。両方が原因かもしれません。
こちらは大人の方のケアであります。家族を必要とする大人のいる世帯。おじいちゃん、おばあちゃんの介護であるとか、あるいは家族の中に病気の人がいるというふうなことであります。
これも全体から見ると、低所得層の方にそうしたことが、人が含まれるということになります。そうすると、これも先ほどと同じように、例えばケアをする時間を割かなきゃいけないので、稼得の方が低くなるというふうなことがあるかもしれない。
このように考えますと、単に金銭的なゆとりがないということと家族のケアをしていく負担そのものが低所得層にはむしろ大きい。ただ、時間的な制約、時間資源の制約がある、あるいは経済的資源の制約があるというふうなことになりますので、例えば貧困の問題を考えるときは、所得を安定させることを通してケアのための時間的資源をきちっと確保する、あるいはケア負担そのものを減らすような代替的措置を別にとるということがセットで行われるということが重要であるということがここから分かります。
あとは、孤立的な度合いが大きいということはこのデータから知れます。
特にこれ見ていただきたいのは、これ二歳のところでありますけれども、二歳児を見ますと、これは、一番右側が二歳の低所得Ⅰですけれども、左側が二歳です。二歳のところに特に立ち話をする人がいないの回答割合が高い。これはどういうことかというと、例えば三歳ぐらいになると、保育所、幼稚園に行っている率が高いんですね。二歳のところが政策的には穴になって、孤立的になっていくということが示されます。逆に言うと、いろんな、通うような手だて、あるいは保育の手当てがあれば、こうした孤立は防げるということも示していると思います。
こちらの方は、その中で、制度の利用なり認知ということについて、やっぱり所得の低い層が排除されやすい傾向があるということと。詳しい数字は時間の関係で申し上げませんけれども。
過去一年で親子そろって旅行やキャンプに行ったというふうなところでいうと、やはり、そういうの行かなかったという、子供のアクティビティーの制限ということにつながっています。これは、例えば持ち物とかということですと余り差が出ないんですけれども、例えばこういうアクティビティーというのは、親の方が時間を確保しなきゃいけないということがありますので、余計にハードルが高いのでこういう階層差が鮮明になるということになります。
こちらの方は高校二年生の子供が答えております、進学希望でございますけれども、これを見ると分かりますが、一つは、全体的に右肩上がりでございますので、大学、大学院まで行きたいというふうに答えている子供は、やっぱり階層差があると。ただ、線が三本ございまして、一番上の線が札幌でございます。真ん中のオレンジが道内の大学、短大のある市町村です。下がない市町村です。そうすると、地元に大学がある、ないということが大変大きな進路希望の格差を生んでいます。やはり下宿をして遠くに行くというのはそれだけお金が掛かりますので、そうした意味では、進学機会の問題を考えるときは、所得階層格差と地域格差の両方の問題がとても重要だという、そこを緩和するというふうな観点が重要だということになります。
これは進学資金の準備状況ですけれども、所得の低いところの方がめどが立っていない、あるいは借金をすると、奨学金とかで借金をするということであります。
ちょっと二、三分オーバーしていますけれども、最後まで。
これは生活保護世帯の子供の進路希望でございますけれども、生活保護世帯も非世帯の子供も結構大学、まあ短大が多いんですけれども、希望があるということです。
こちらを見ていただきたいです。これは、上の方を見ると、大学等、専門学校も含むと、生活保護世帯の子供とそうでない子供でも余り進路志望に差がない。ところが、全体的には、実際は生活保護世帯のところでかなりの格差があるということは、これだけのところが諦めているということですので、やはり世帯分離、生活保護の世帯分離というふうなことを制度的にされていることが大変大きな障壁になっているんではないかというふうに考えます。
最後でございます。ここはまとめでございますので、見ていただければと思います。
児童虐待のところでございますけれども、そうした中で、ここに飛びます。
これは厚生労働省の方でまとめている死亡事例のものの所得分布であります。これは心中と心中以外がございまして、心中以外のところです。これは一般の所得分布に比べて、死亡事例のところを見ると明らかに低所得層の方に偏っている。所得が、一般的な所得のところも含みながら、明らかに偏っている。一方で、これ、左のところが、一八・九%とあるのが生活保護を受給している世帯です。ここから二点のことが言えます。
一つは、やっぱり貧困対策というのは、虐待の予防、特に死亡、あるいは死亡じゃなくても、虐待の予防という観点から見て大変重要な意味があると、有効であるということが一点。もう一つは、生活保護を受給している世帯が多いということは、逆に言うと、生活保護の中でのソーシャルワーク的な支援でできることがあるだろうということでございます。
以上、次の資料は時間の関係で飛ばしますけれども、結論的には似たようなことでございます。
以上でございます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 周燕飛参考人
○参考人(周燕飛君) 労働政策研究・研修機構の研究員をしております周燕飛と申します。
先ほど松本先生は子供をめぐる諸問題を幅広く御説明していただいたので、私は、ピンポイントでシングルマザーの就業と養育費問題についてお話をさせていただきます。(資料映写)
話の順番としては、まず背景、それから問題提起、次は、その就業問題と養育費問題についてそれぞれ詳しく御説明をします。で、最後に示唆をまとめたいと思います。
まず、背景としてですが、二〇〇三年以降の動きを御説明したいと思います。
ここで、なぜ二〇〇三年という話になるんですけど、実は日本の母子政策は、二〇〇二年の母子寡婦福祉法の改正は一つの転換点ですね。それまでは金銭給付が中心だった政策が就業支援へと重心を移るというような政策の大きな変化が見られまして、なので、その二〇〇三年以降の動きについてちょっと、それ以降どうなっているのかを先に説明したいと思います。
まず、総じて言えば、一部改善の動きが見られたと思います。一番大きな指標、重要な指標は貧困率なんですが、一人親世帯の貧困率はやや低下しています。二〇〇三年は五八・七%だったのが、直近の二〇一五年は五〇・八%になっております。
それから、シングルマザーの就業状況についても改善が見られています。ここに挙げているのは、就業率、平均就業年収と正社員比率なんですけど、就業率はほぼ余り変わらなくて依然として八割以上と、OECDの中でも非常に日本は高い就業率を見せているところはあります。
ただ、これは、素直にこれを拍手して喜ぶような状態かというと、ちょっとそうとも言えないんですね。なぜならば、やっぱりそこには幾つかのラッキーな要素が実は重なっています。
一つ目のラッキーな要素としては、二〇一二年以降に日本の景気拡大がずっと続いているんですね。景気拡大することによって労働市場が改善して、シングルマザーもやはりそれの恩恵を受けている部分があるんですね。もう一つのラッキーな要素は、一九九〇年代から二〇〇〇年前後までは母子世帯の数が非常に増えていたんですね。しかしながら、二〇〇二年をピークにして日本の離婚率は実は落ち着いてきたんですよ。それによって、二〇〇三年以降は、実はそれ以前のように見せたすごい勢いの母子世帯の人数の増加はなくなったんですね。なので、この二つの要素がちょっと重なったことによって、こういった改善の動きが見られたんではないかなというような部分もあるんですね。
そこにどういう課題が残っているかというと、一つ目の課題は、依然として母子世帯の貧困率は五〇%を超えています。これはほかの先進国に比べても高い水準であることは変わりないんですね。それから、働いているのに貧困という問題は解消されない。ほかの先進国では、働いていれば基本的に母子世帯でも余り貧困にならないんですけど、日本ではそうではない、むしろ逆転現象が起きているということもOECDの国際比較で報告されています。それから、元々二〇〇三年の福祉改革では福祉給付の削減が一つの目標だったんですけど、実際はその削減が余り進んでいないんですね。
なぜ働いても貧困なのかという問題提起なんですけど、ここに図表が、国民生活基礎調査で母子世帯の所得の種類別の割合を示しているんですけど、大きく三つのパーツに分かれています。稼働所得、社会保障とその他なんですね。一番大きなウエートを示しているのは稼働所得、およそ八割は稼働所得によって構成されています。それから、遺族年金とか児童手当、児童扶養手当といった社会保障給付も約二割、その他は僅か二%なんですね。なので、母子世帯のその貧困のもと、原因になるもとは、この三つのソースに全部理由があります。
一つ目は、やっぱりその八割も占めている稼働所得は余り高くないんですね。もう一つは、財産所得、養育費など補填的な収入が少ない。これは後でちょっと詳しく説明します。三つ目は、松本先生の御発表でも御指摘あったように、日本の所得再分配機能がそれほど働いていないということもあって、少子高齢化、低成長時代においては、社会保障の給付を本当だったらもっと貧困世帯に対して与えるべきなんですけど、思ったようにここは進んでいない。そういったことによって貧困の問題がなかなか解消されていないということがあります。
では、続きましては就業問題、ちょっと話に移りたいと思うんですけど、二〇〇三年以降は母子世帯に対する就業支援は非常に拡充されていたんですね。皆さん、もしいろいろ母子世帯に関する統計、政府のまとめた資料を御覧になる機会あれば、就業支援メニューが多岐にわたって非常に充実していることが分かるんですね。その就業支援メニューをちょっと大きく三種類に分けることができます。
一つ目は、就業機会の拡大。
それから、ジョブサーチ支援。ジョブサーチ支援というのは、やっぱりその人の持っている能力や職歴を生かしてベストマッチングの仕事につなげるような支援を指しています。その代表的なのは、例えば母子・父子自立支援プログラム策定事業という事業があって、就業支援部門と福祉部門が連携して、きめ細かな就職指導を行ったり職業紹介をしたりする、そういうようなサービスがあります。
それから、実は一番目玉になっているのは職業能力開発なんですね。職業能力開発でもいろいろチャンネルがありますが、大きく三つあります。
一つは、補助金を受けた民間企業によるOJTの訓練なんですね。日本では、これにぴったりするプログラム、今のところはないんです。一番近いのはこのキャリアアップ助成金なんですが。二番目は、国や自治体がじかにある特定の分野で職業訓練を行う。例えば、ハローワークにある公共職業訓練や、母子家庭等就業・自立支援センターでは無料パソコン講習会を行ったりとか、それはこれに当たります。ただ、国がじかに提供する職業訓練は、やっぱりメニューが少なかったりとか、余り母親のニーズにマッチできにくいという部分もあって、一番の重要なのは、やっぱり多いのがこの給付金付き民間訓練コースの使用なんですね。指定されているいろいろ訓練コースの中で、提供者は民間なんですが、国がいろいろ資金援助をして、多様のメニューから自分の好きな、あるいは一番自分にぴったりのものを受けるというのは一番多いんですね。
その代表的なのは、高等職業訓練促進給付金制度という制度なんですけど、この制度も二〇〇三年以降に一人親家庭に導入された制度なんですが、幾つか例えば指定している資格、専門資格を取得するために二年以上専門機関に在籍している母親に対して、その勉強している期間中の生活費をサポートするような制度なんですね。これは一番実は金額が高くて、金額は幾度か修正されてはいるんですけど、二〇一九年現在では、最大四年間受給できて、最大五百二十八万円が支給される非常においしい制度があるんですね。
ここにあるのは、いろいろ星印が付いているのは、二〇〇三年以降に導入された一人親に限定するものであります。
では、こういった職業能力開発策にどういうような効果が期待されていることなんですが、そこに、背後にいろいろ政策設定者の思惑があるんですね。おおむねこういうようなロジックです。職業能力開発すれば、その人の専門資格が保有できたり、それから今まで非正社員で働いていた人がこれのおかげで正社員で働けるようになったり、それによって世帯の収入がアップして、最終的には貧困率が引き下げるというような効果が期待されているんですね。
実際、正社員就業、もしその比率が上昇すればどのぐらい貧困削減効果があるかということなんですけど、厚生労働省の調査によりますと、正社員のシングルマザーの平均就業年収は非正社員の二・三倍に当たります。それから、仮に有業のシングルマザーの一六%が非正社員から正社員になった場合、今の正社員の割合は四四%なんですけど、それが六〇%になった場合は母子世帯全体の貧困率どのぐらい下がるかということなんですけど、簡単に計算すると約五ポイントが下がります。
では、国が行ったいろいろ母子世帯、シングルマザーへの就業支援制度に効果があったのかということなんですけど、これは私たち研究者が一番気になるものなんですね。
今、EBPMといって、やっぱりいろいろエビデンスに基づいた政策設定をしなければいけないんですが、そこについて、私の早期の研究によりますと、例えば先ほど申し上げた金額の高い高等職業訓練促進給付金制度なんですけど、この制度を利用するシングルマザーは非正社員から正社員への就業移動が確認されているんですね。
それから、母子家庭等就業・自立支援センターは無料のパソコン講習会とかを行っているんですけど、そういったパソコンスキルを習得しているシングルマザーの方は、再就職活動を活発に行っていたり、中長期的にそれによって良い職業キャリアに導く可能性あることも示されています。
直近で、去年、私は行った研究によりますと、高等職業訓練促進給付金制度を利用したシングルマザーは専門資格の取得確率が高いということが分かっているし、この制度を利用していた修了者に限ってみれば、訓練受給が正社員になる確率が高くなっていることは分かっています。
これはその一部の結果なんですけど、この給付金を受けた人と受けられなかった人の専門資格の取得割合なんですけど、目立っているのは、やっぱり大きな差が出ているのが医療・福祉関連資格なんですね。特に、看護師、准看護師の割合、その資格を持っている人の割合が高いということが分かりました。
ただ、例えば訓練を受けた人と受けなかった人の賃金を比較しますと、その肝腎の賃金への効果は実は統計から確認はできなかったんですね。いろんな推定手法をトライしてみたんですけど、どのモデルもやっぱりプラスの効果を捉えることができなかったんです。
何でそういうことになったかということなんですけど、三つの理由は考えられまして、一つは訓練コースにおける脱落者が発生しているんではないかなと。つまり、訓練は受給したんですけど、専門資格の取得に至らなかったケースも一定数起きている。それから、低収益の訓練コースを選択している人は少なからずいる。何が低収益の訓練コースかということなんですけど、例えば看護師とか保育士とか、取得はしやすいんですけど、取得しても余り賃金が上がらないというような資格は一部あるんですね。それから、キャリア漂流者の存在。キャリアの方向性がまだ定まらないうちにその訓練を受けて、せっかく資格を取得したんですけど、資格とは無関係の仕事に就いている人も一部いるということなんですね。
なので、その就業支援を講じる際の留意点をちょっとここでまとめているんですけど、例えば脱落者を減らすための仕組みの強化。いろいろインセンティブを付けてあげたりとかすることも考えられます。それから、高収益の訓練コースへの誘導。もうちょっと労働市場の需要と供給を研究して、より高収入につながるようなコースがもっとつくれるように工夫する余地があるかなと思います。それから、訓練前のキャリアカウンセリングの実施とかインターンシップの体験とか、そういうのも考えられるかなと思います。
次に、養育費の話に移りたいんですけど、就業収入を増やすほかに、養育費に実は大きな期待も掛かっています。なぜならば、一つ、日本は、諸外国に比べて養育費の受給割合はまだ低いんですね。それから、可処分所得に占める割合も高くないです。さらに、支払能力があるにもかかわらず、養育費を踏み倒している父親が多いと。それから、実は外国と違って、外国は未婚シングルマザーが多いのに対して、日本は離婚シングルマザーは約八割を占めているので、養育費の支払責任者というか、支払うべき相手を特定しやすいという利点もありますので、養育費の徴収に大きな余地が残っていると。
千葉大学の大石先生の試算によりますと、仮に日本はアメリカのウィスコンシン州の養育費ガイドラインに従って完全に一〇〇%徴収できれば、最大、養育費の徴収によって貧困率が一四・五ポイント下がるというような試算結果もあります。先ほどの正社員より、こっちの方がはるかに効果が大きいように見られます。
先ほどの申し上げたバックグラウンドのデータなんですけど、これは養育費の受給率と取決め率の推移なんですね。おおむね実は一九八三年以降は、ゆっくりではあるんですけど、養育費の受給率は改善傾向にあります。特に、二〇一一年以降は比較的大きな改善が見られます。一つ考えられるのは、二〇一一年に民法が改正されて、離婚届のところに養育費の取決めとかについてちょっと記入する欄を設けたというのが一つ大きいかなと考えられます。だけど、二〇一六年の現在の状況でも、諸外国に比べれば養育費の受給率は決して高くないんですね。
これは養育費が可処分所得に占める割合なんですけど、諸外国のデータは二〇〇四年、ちょっと古いんですけど、日本のデータを、私は、二〇一六年のその厚労省の調査と国民生活基礎調査のデータを総合して計算しますと、離婚母子世帯の可処分所得の七・七%は養育費によって占められています。これは、外国に比べればちょっと低い数字ではあります。
では、養育費の取決めにおける日米の比較なんですけど、日本とアメリカは、日本に比べてアメリカの方が取決め率は高いんですけど、それだけではなくて、取決めをしていない理由も大きな違いが見られます。
日本は、一位の理由は相手と関わりたくないということになっているんですね、二位は相手に支払う能力がないと思った。アメリカは、一位は相手はできるだけのことをしました、二位は相手に支払う能力がない、三位は必要がないというような順位になっていますので、まあ相手に関わりたくないというのは非常に難しい問題なんですけど、いろいろやれるところはあるかなと。
支払能力がないと思った人は、本当、これは約二割いるんですけど、実際はどうなんですかねということなんですけど、私の研究所が行った子育て世帯全国調査の二〇一八年のデータによりますと、離別父親の年収をちょっと分布を見てみますと、確かに二百万円未満と回答したのは一八%いますので、約二割ぐらいですね、二割ぐらいは本当に払う能力がない。しかしながら、五百万円以上の人も一七%いますので、逆に、比較的に所得があって支払う能力が非常に高い父親も少なからずいる、同じぐらいの割合でいるということなんですね。だから、支払能力が完全にない人は二割程度で、残りの八割は、ある程度の支払能力を持っているということなんですね。
問題は、支払能力があれば払っているかというと、そうでもないんですね。年収五百万円以上の離別父親でも払っている割合は三七%にすぎないので、まあ三人に二人は踏み倒しているということになっています。
養育費不払等への対応なんですけど、日本ではまだ導入されていないんですが、諸外国ではその養育費確保の施策は様々に行われていて、大きく二種類に分けることができます。一つは立替え型で、国は養育費の一部あるいは全部を立て替えるという制度の国、例えばスウェーデンとかドイツがあるんですね。それから、取立て型で、取立て機関は非同居親からその養育費を取り立てるというような制度を取っている国も多いんです。どっちかというと、立替え型よりも取立て型の国が多いのかなと。二〇〇七年のOECDの資料によりますと、OECD三十一か国中に十二か国、三八・七%の国はそういう二番目の取立て型を使っています。
日本は、一応、そこまでの制度がなくて、養育費の受取はやっぱり父親と母親の間の事情として取り扱われて、細かなその修正、制度改善はあるんですけど、根本的には大きな変化はないんですね。日本の養育費確保施策をここに二〇〇二年以降にまとめているんですけど、私は、大きな影響があるのは、二〇一一年の民法改正と今度の二〇一九年の養育費算定表の十六年ぶりの改定、それから二〇一九年の民法の改正で養育費の強制執行はよりしやすくなったという二つ、ここは大きく何か変わるのかなと期待はしています。
示唆なんですけど、総じて言えば、就業支援と養育費の確保策は母子世帯の貧困を減らす有効な手段だと考えてもいいと思います。特に、養育費の徴収にはまだまだ工夫の余地が大きいんではないかなと思います。
ただ、その就業支援と養育費だけでは救えないシングルマザーも相当数いることをやっぱりどこか念頭に置いていただきたいと思います。先ほど言ったように、国も財政難なので、どこまで財政出動できるかということはちょっと何とも言えないんですけど、やっぱり許容する範囲内でこれらの家庭への社会保障給付を増やすことも検討すべきではないかなと思います。
特に、二〇一八年に行った調査によりますと、特に貧困の層、私は、アメリカで使われている言葉、ディープ・プアというような言葉を使っているんですけど、つまり、その世帯の所得は貧困線の五〇%を満たない、およそ十万円以下で四人家族暮らしている、シングルマザーの世帯は一三・三%もいるので、こういった世帯に対する早急の手当てが必要だというふうに考えております。
以上をもちまして私のプレゼンを終わらせていただきます。御清聴どうもありがとうございました。
特定非営利活動法人キッズドア理事長 渡辺由美子
○参考人(渡辺由美子君) ありがとうございます。NPO法人キッズドアの渡辺です。
私は、松本先生、周先生と違って、現場で学習支援ということで、日々、子供たちとかお母様、お父様とも接しているので、そのような声を代弁できればというふうに思っております。(資料映写)
私の方からは、学習支援の現状とこれからということで、お話としては、学習支援の現状が一つ、また、子供の貧困の一因となっている教育格差がなぜ生じるのかとか、どうすればいいのかというふうなことの観点が二つ目、それから三つ目が、これから学習支援をどんどん進めていく中でどうすればいいのかと、そういうふうなことをお話しさせていただければと思っております。
まず、こちらの前提条件として、なぜ学習支援が必要なのかということでは、教育格差のグラフ、非常に有名なものですけれども、親の所得に日本の子供の学力がくっついているという非常に特徴的なものです。親を選んで子供は生まれるわけではないので、お金持ちの生まれに生まれるか貧困なおうちに生まれるかは子供は決められないんですけれども、本来的には、要は、どんなおうちに生まれても自分が努力をすれば頑張れるという社会がいいと思うんですけれども、今現状としては、このように親の所得が高い家に生まれると学力が高くなるということがあります。
なので、学習支援はなぜ行われるかといいますと、そのようなことが続くと、要は、親御さんの収入が低いおうちに生まれてしまうとなかなかいい学力が身に付かないので、やはり進学や就職に不利になってしまって結局お子さんたちも貧困になってしまうという、格差が固定してしまうので、これは貧困の連鎖につながるということで、これをなくすために教育支援ということで、十分な教育が受けられないというところを無料で担保をすることで子供たちがちゃんと高等教育、十分な教育を受けて自立をしていくと、自立をしてもらおうということが一番重要だと思っております。
これ、子供とか保護者にとっても非常にいいんですけれども、少し社会にとってもどうかという観点で見ると、非常に子供たち、学力が低い状況になってしまうので、高校に行けないとか、高校に行っても高校を中退してしまうというふうになると、その後、なかなか稼ぐとか自立をすることが難しいので、将来的に社会保障、受け手になる可能性が高いんですけれども、何らかの支援を子供のうちに受けることでしっかりと自立をしていくと。
例えば、学習会で大学生のボランティアに出会って、もちろん両親は大学出ていないですし、大学出ている人初めて会ったんだけれども、何か楽しそうだから行ってみようというふうなことで自分も大学に行って、正社員になったりとかすると、ちゃんと稼いでくれて税金も納めてくれるので、一人当たりにとってもプラスマイナスが非常に大きいのではないかと。
これ、私たちの手計算でも一億円ぐらいあるかねと言っているんですけれども、日本財団さんがちゃんとした試算をしても、十五歳の一学年だけを取っても、要は、経済的損失が二・九兆円ぐらいあって、さらに社会福祉の増加一・一兆円あるので、一学年だけでも四兆円分ぐらいの経済効果があるのでやった方がいいだろうと。なので、子供の貧困対策、内閣府さんの方でも、これは福祉ではなくて、将来への投資として捉えようというふうな考え方になっています。
子供の学習支援の現状でいきますと、生活困窮者自立支援法ですとか子どもの貧困対策法ができまして大分進んできました。生活困窮者自立支援法の学習支援の実施率でも五九%ということで、徐々に上がってきています。それ以外にも、一人親家庭の学習支援ですとか、文科省がやられている地域未来塾ですとか、民間による学習支援なども進んできています。
また、学習支援というと、勉強というと学力向上で、冒頭のテストの点みたいなことで考えられがちなんですけれども、実はそうではなくて、生活支援ですとか、非認知能力の向上ですとか、ソーシャルスキルの獲得とか、要は、貧困の状況の子供にはいろんなものが欠けているのでそういったものを補っていくと、そういう効果が非常に大きいというふうなことが分かってきました。また、食が実は不足しているんだとか家に安全な居場所がないんだというふうなところでは、食事の提供ですとか安全な居場所の機能というものもこの学習支援が兼ねているというふうなことになっています。
そういう中で、学習支援の形態自体も非常に多様化しています。集団授業型とか個別の指導塾型とか自習型とか家庭教師型とか居場所とか、様々な学習支援の形態が今は出てきていて、それが、地域特性、対象とか求める成果とか費用とかボランティアの有無だとか、そんなことで決まっているというふうな状況です。
また、もう一つ、学習支援事業では、今その成果をどう測っていくのかということで、テストの点ではないというふうなところでどうしていくのかですね。例えば、私どもではロジックモデルをつくって、最終的なアウトカムとしては子供が自立していくというところで、それに向かってどんな力が必要なのかということを測ってソーシャルインパクトマネジメントをやっているんですけれども、いわゆる学力向上や受験の合格率のみではなくて将来的にちゃんと自立につながっているかと、そういうふうなことをちゃんと見る仕組みが必要だなと思っております。
次が、子供の貧困の階層といいますか、私たち十年ぐらいやらせていただいているんですけれども、十年前は本当に日本で初めて子供の貧困というものがあるというふうなことが社会の認知が出てきたところで、実際どういう人がいてというふうなことも分からなかったんですけれども、十年間やっている中で、本当に一言で子供の貧困といってもいろんな状況の方々がいらっしゃるということが分かってきました。
やっぱり、一番大変な方々は、生活保護とか児童施設に入っていたりだとか、いろんな家庭の、まず経済的だけではなくて家庭機能がなかなか厳しいようなおうちというのがありまして、勉強以前に生活全般の立て直しが必要だと。だから、子供だけに勉強を教えようと思っても無理で、家庭の支援とか家族支援とか、そういったこと等も一緒にならないとなかなか難しいというふうなおうちがあります。
その先に、家庭では何とかやっているんだけれども、非常に収入が低いので、やっぱり勉強がどうしようもないというふうなところで学力が低くなるとかというふうなところがあります。貧困ラインでいくと多分これ以下ぐらいなところだと思うんですけれども。
じゃ、その上が楽かというと、実はそんなことは全くなくて、貧困ライン超えているおうちでも、例えば一人親家庭で子供が二、三人いるだとか、二人親だけど非正規みたいなおうちでは非常に苦しい生活をされていますし、中流というふうに自分たちが思っている方々でも、例えば大学に子供を行かせようと思ったら奨学金を借りないと子供を行かせられないというふうなところでは厳しい状況でございます。
続きまして、学習支援事業の類型というものも非常にたくさん出てきておりまして、一つがアウトリーチ型の学習支援とか家庭教師型ということです。これは、一つは地方ですね。非常に子供がいろんなところにいて、数も少なくて公共交通機関もないと、そもそもどこかに集まって勉強するということが難しかったりだとか、あとは不登校傾向、お金もなくて不登校みたいなお子さんたちで集団に入ることが難しいというふうな子供たちのためにおうちに出向いていって勉強を教えると、こういうふうな事業が一つあります。
それから、一般的に一番多いかなと思うのが塾型の学習支援ということで、週一回二時間、公共施設に集まってとか、そんなことで曜日や時間を決めて子供を集めて勉強を教えています。これも本当にいろいろあって、高校受験の対策というふうなことで受験勉強を一生懸命やるところもあれば、開いている時間に来ればそこに教えている人もいますよだとか、自習室として開けていますよだとか、勉強以前に居場所として利用してくれればいいですよと、そんなことも含めていろんな形が出てきています。
三つ目が居場所型の学習支援ということで、これは私たちがやっているものなんですけれども、非常に貧困率が高くて、貧困度が高くておうちも大変な子供たちは、週一回集めて勉強を教えてもなかなか良くはなっていかないので、毎日来させて勉強を教えると、いろんな面倒を見るというふうな学習会です。
そのほかに、クーポンとか塾代の補助をして民間の塾等を利用してもらうと、そういったものもございます。
いわゆる塾型の学習支援だとこんな感じですね。これはうちの様子なんですけれども、大学生とか社会人の方が勉強を教えるだとか、あとはもう本当に学力もいろいろなので、寄り添って分からないことを教えていくというふうな形です。
居場所の授業というのをちょっと御説明しますと、要は物件を借り上げて毎日子供たちが来られるような施設です。学習支援のほかに特徴的なのは食事の提供ですね。おうちで本当に御飯が用意されていないというふうな御家庭がかなりあるということが分かってきたので、毎日御飯を出してあげるということと、あと、松本先生のお話にもあったように、要は体験、キャンプに行くとかそういったものが一切おうちではできないようなこともあるので、様々な体験活動を実施するというふうなことです。あとは、家庭に安心して勉強できるスペースがないだとか、一人親家庭で親が仕事のために夜まで遅いから、家に一人でいるのでどうしても勉強に向かえないだとか、そういったことがあるとか、あとは本当に虐待等々のおうちもあるので、そういった子たちが安心していられる、本当に第二の家みたいなものなんですけれども、そういったものです。
なので、学習支援と食の支援と居場所の支援と体験活動が付いておりまして、例えば平日ですと、毎日放課後の三時から八時まで、私たちは中学生をやっているんですけれども、開けていて、夕食として簡単ですけれども毎日出して、六時から八時はちゃんと勉強しようねというふうなことをしていますし、夏休み、冬休みとか土日は、おうちでお昼も食べられないので、朝から開けて、昼夜出して、勉強も教えますし、夏休みも、本当にどこにも行かないので、そういった子たちを集めて、いろんな企業さんの職場体験に行ったりだとか、寄附を集めてキャンプに連れていったりだとか、そういったことをやっています。
様子としてはこんな感じで、おうちで料理を習うみたいなこともできないので、みんなで一緒に料理をしたり、ちょっとミニプランターで畑やってみたりとか、あとはいろんなところで体験活動をするだとか、そんな形です。
じゃ、これはどういう子たちが利用するのかというと、例えば、二つだけ例を持ってきたんですけれども、一人親家庭で生活保護も受給していらっしゃるので、なぜかというと、やっぱり、お母さんがうつ病で、足が悪くて長時間の歩行も困難なので働けないというふうなことですね。背景としては、もう本当に幼児期からDV環境にいて、離婚をされたんですけれども、異父の姉とか兄もいるけれども、御兄弟も状況良くないしというふうなことで、結局食事は弟が作っているとかですね。この子も部活も入っていないですし、中一から不登校みたいなことでおうちにいたんですけれども、私どもの居場所に来るようになって、学力も非常に低かったんですけれども、来て勉強を少しずつやっていく中で明るさが出て、一応定時制の高校に進学をしていくというふうなことです。
もう一人のおうちも、本当に、お母様が病気で、一人親家庭で生活保護で、この子が料理を作っていると。非常に家も不衛生でゴキブリがいたりだとか、そういう状況で、一応学校には行っていて、いじめられてはいないんだけれども無視はされているというふうな学校の居心地も良くない子で、この子もここに毎日来ることでちょっとずつ明るくなって、工業高校に進んでいくというふうなことですね。
今までは、要はこういうおうちの子は本当に支援がなかった、何もなかったんですけれども、こういった場所ができることで、ここにつながって自立をしていくというふうなことができています。
少し私どもの学習支援、どれぐらいやっているかといいますと、二〇一八年度、一昨年の事業でいって、居場所みたいなもののほかに週一回の学習会とか、そういうこともやっているので、一応拠点としては六十五か所ぐらいあって、千九百人の生徒さんが登録してくださって、非常に多くのボランティアさんが関わってくださっていると。これも、大学生だけではなくて、最近は本当に社会人の方ですね、現役の方もいらっしゃいますし、定年退職された方もいらっしゃいますし、いろんな方がいるんですけれども、ボランティアさんが非常に多く関わっているということが特徴です。
進学実績といいますか、そうはいっても学習支援で自立をしていくためにどうなのというところでは、やっぱりどんな子も高校は行った方がいいよねというふうに言っているので、進学実績としては九年間やっていて一〇〇%ですね。行く高校は本当にいろんな高校で、全日制の学校に入れたいと思っているんですけれども、なかなかそうはいかずに、定時制とか通信とかチャレンジに入る子もいますけれども、高校はちゃんと行っていますし、最近は本当にやっぱり大学進学する子が増えてきました。生活保護家庭の子でも、つながってくる中で、やっぱり大学行きたいんだといって進学したり、一人親家庭の子も進学しています。
いいのは、そうやって学習支援を受けて大学に進んだ子がボランティアとして戻ってくるというふうなところで、子供たちにとっては一番いいロールモデルで、ここで頑張って勉強して大学に行けばいいんだというふうなことがあるので、非常にいい事業になっているかなと思っています。
子供はどれぐらいやっているかというと、まずは最初の高校受験ということで中学生をメーンでやっていたんですけれども、それ出た後で、高校生というのは本当に大変だというふうなことで、最近は高校生の支援に非常に力を入れています。下は小学生から、あとは高校を中退しちゃった子だとか、そんなこともやっています。
では、続きまして、少し教育格差の背景といいますか、なぜ生じるのかということで、これは実は二〇一七年から二〇一八年にかけて、お茶の水女子大学、当時の、今、青山学院大学にいらっしゃる耳塚寛明先生と一緒に、私どもの学習支援に通っている親御さんとお子さんたち、なので、基本的には低所得の御家庭のお子さんたちの中で、どういった家庭の背景があるかとか状況があるかというふうなことを調べた調査を行いました。
本当に今日はお時間が短いので、すごく抜粋をしますけれども、一つ分かってきたのは、家庭状況としては非常に厳しいというふうなことが分かってきました。一人親世帯の比率というのはやはり非常に高くて、一般だったら七・六%のものが、うちの学習会だと六三・二%です。収入も非常に少なくて、年収の二百万円未満という方が三割いらっしゃって、三百万円未満までにすると約半分というふうなところですね。この文科省の調査と比べると、平均値でも半分以下ですし、非常に苦しいということです。
お母さんの就労状況を見ても、パート、アルバイトが四七%ということで、これ、収入が少ないということと、もう一つは非常に不安定であるということがあります。例えば、今の時期、風邪を引いたとかインフルエンザで一週間仕事を休まなければいけないとなると、来月の収入が要は四分の三になると。月十二万何とか稼いでいたのが要は九万になるとか、そういうふうなところで来月どうしようという不安が常にあると。先ほど病院に行かれないという話もありましたけれども、病院に行ってもし病気が見付かったらどうするんだみたいなところの不安をずっと抱えているので、非常に大変だと思います。
なので、現在の生活をどう感じているかということだと、苦しいと思っている方が四五%で、やや苦しいが三三%で、八割ぐらいの方が苦しいと。子供にとってみると、要は、もうずっと苦しい苦しいと思っているお母さんと狭いおうち、本当にアパートの狭いところで一緒にいるのでなかなか前向きになれないと、これが大変な状況なのかなというふうに思っております。
学習会の成果は、本当に簡単に申し上げますと、例えばキッズドアの学習会に通うようになったことで褒められる機会が増えると。逆に言うと、こういう環境の子たちは、親御さんも忙しいから子供のことを見れないので子供を褒めないですし、学校でもなかなか褒められる機会がないのでなかなか自己肯定感が上がらないんですけど、褒める機会が増えるだとか、あとは学校の授業で分かるようになると。これは感覚値なので、成績としてはこんなにできるようにはなっていないんですけれども、それまでは全く分からなかった、学校の授業で座っているだけで苦痛だったのが、学習支援でちょっとやったことがあると、あっ、これ聞いたことあるとか、これ分かるみたいなふうになって、ちょっと積極度が出るというか、学校で過ごすことが楽しくなると、こんなことが効果としてあるだろうと思われています。
もう一つ、すごく重要だなと思っているのが、この頑張れば報われるということで、これは非常に貧困バッシングともひも付いているかと思うんですけれども、要は、貧困層の方たち、基本的には努力をされないというか、非常にだらしないというふうなことを思われがちなんですけれども、なぜかというと、要は、この子たちは、頑張る機会というのがほとんど、頑張って何かしなさいとか、そういうことを言われたことがないので、本当に頑張らないんですね。テストもやってみて、最初、単語テスト十個やって零点だと、もうほら駄目じゃんと言って、もう無理無理、私ばかだからいいのいいのみたいになるんですけど、それを学習支援で横に付いて、いやいや、そんなことはないから、やっぱりこれやらなきゃ駄目だからと言って、嫌がるのを、でもちょっとやろうよと言って一生懸命やらせると。そうすると、やってみたら半分できるようになると、あっ、嫌だけどやらないと駄目なんだとか、本当に勉強するとテストの成績上がるんですねとか。だから、高校受験も本当はしないとか言っていたんだけれども、何とかやると受験受かるみたいな。やっぱりそうやって頑張ると、嫌なことでもやらないと駄目なんだなということが初めて学習支援に来て分かるみたいな子が結構いて、やっぱりそういうことがすごく重要だと思っています。
本当に、この調査のまとめとして耳塚先生がまとめてくださったのがまさしくこれで、要は、子供の貧困ということで、経済的に厳しいということなので、本当に、塾の代わりに学習支援だとか、おなかすいているんだったら御飯食べさせるみたいなことをやればいいのかと思っていたんですけれども、実はそうではなくて、欠けているものとして、一つは文化的資本。本当に、家に全く本がないだとか、やっぱりどこにも行ったことがないとかだと意欲、モチベーションが上がらないので、やっぱりそういったものを足していかなきゃいけないということと、あと重要なのが社会関係資本で、これは本当にボランティアさんたちなんですけれども、いい人的ネットワークにいかに触れさせるかですね。例えば、母子家庭のおうちだと大人の男性と話す機会とか触れる機会がほとんどないので、社会に触れることがないんですよね。それが、ボランティアに来てくださっているサラリーマンの人と話をすることで、会社ってこんな感じなのかとか、そういうことが初めて分かるというふうなことで、この三つをそろえていかないとなかなか難しいだろうというふうに思っております。
最後に、少し課題といいますか、お話しさせていただきますと、一つが、本当に今、高校生世代、高校生の支援というのがほとんどない状況です。なぜかというと、基礎自治体が中心にしてやっているので、どうしても自分たちが市立中学校であったり中学生までみたいなところで、高校生がぽっかりと空いてしまうんですけれども、ここが本当に苦しいところで、高校生になっても家庭の状況は全く変わらなくて、お金は余計に掛かるので非常に大変です。
私たちもやるまでは、高校中退しちゃうのは本人の努力でしようがないと思っていたんですけれども、決してそうではなくて、要は、その高校生活に掛かる費用というのをほぼ自分でやんないと、ぎりぎりの生活でやっているので、それこそ通学定期のお金も、バイトをするか、本当片道何十分も自転車こがないといけないとかですね。どうしてもバイトをしなきゃいけないんだけれども、要は、その子たちというのが、学力もないので非常に駄目なバイトをしてしまうということで、遅刻、欠席が増えるとか、そういうことです。なので、高校中退というのをどうにかしていかなきゃいけないなと思っております。
現状施策といたしましては、若者サポートステーションというのがあるんですけれども、これは基本的に就業なので、じゃ、その十五歳、十六歳でなかなか勉強もできない子たちが就業しましょうといっても難しいですし、本人の気持ちも付いていかないので、要は、ここで引きこもり状態というか、社会からすぽっと抜けてしまって、最初どうしようもないと八〇五〇問題みたいなところにつながっていくので、私たちとしては、なるべく早くつなげてもらって、高校のときに、高校中退しないようにとか、高校中退してもすぐオントラックに乗せるというふうな支援がすごい重要だと思っています。
これは私たちが自分たちでお金を集めてやっているんです、高校世代のユースセンターということで、学習支援も生活支援も相談支援もキャリア支援もやっているので、やっぱりこれは非常に成果が上がっていて、就職も進学もしますし、中退はしなくなります。
それから次に、事業評価ですね。これ本当に非常に重要なことだと思っておりまして、学力で測ってしまうと、とても一番大事な、本当に厳しい不登校の子とか、発達障害の子とか、勉強がとても苦手な子だとか、自立するのが一番難しい子が違うからといって抜かされちゃうという可能性があるんですね。なので、そうではなくて、要は、自立に向けてどうやっていくのかという評価軸、これ本当に今厚労省さんとかともいろいろやっていますが、そこをしっかり見ていかないと本当に間違った事業になってしまうので、これはすごく重要だなと思っております。
それから、福祉と教育の連携といいますか、やはり子供のことなので、学校現場とかといろんな情報交換ができればもっといいんだろうなと思っているんですけれども、非常にこれが難しいというのでずっとここが壁になっているんですけれども、これを何とかできればと思っております。
それからもう一つが、行政と受託事業者との関係といいますか、NPOが民間で頑張っているんですけれども、なかなかそこのところで受託、委託という関係の中でやりづらいと。例えば、プロポーザルがあって、一生懸命今までつながっていた子たちと事業側になって切れてしまうとか、そういうことがあるんですけれども、本当にやっぱり子供たちとつながっている、親御さんとつながるというのが一番の財産だと思うので、これをどう評価して、その事業者を選ぶかというふうな新しい軸が必要なのではないかなと思っております。
最後、第二ステージに向けてということで五つほどありますが、本当に学習支援も多様化している中で、より洗練されていかなければいけないですし、やっぱり学習支援というのが、子供の支援だけではなくて世帯の支援だとか、そういったことにもつながっているということで、つながり続けることが重要ということですね。あとは、やはりこれ重要だよということを、やっぱり世論形成をますますしていただかないといけないかなというふうには思っております。あとは、本当に切れ目のない支援をしていくとか、高校生の支援をしていくとか、そういったことをしていただければと思います。
済みません、長くなりましたが、以上です。どうもありがとうございました。
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
今日は、参考人の皆さんに貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。
まず、松本参考人にお伺いをするんですけれども、以前、北海道にお住まいの方からこんな相談を受けたことがあって、高校生のお子さんをお持ちだったんですけれども、スキー学習が必修になっているんだけれども三万円近い費用が掛かると、とても負担できないという御相談だったんですね。
この御家庭は生活保護を受けて、利用していらっしゃる家庭、世帯で、これまでは学習支援費を活用していたんだけれども、この学習支援費が廃止をされて、今後は申請があった者に対して支給をするということで、そのスキーの学習研修費という名目で請求、申請をしたら、今度は、その学習支援費は対象をクラブ活動費に要する費用に限定をすることになったということで、スキー学習は該当しないというふうに言われたんだけれどもどうしたらいいかという御相談だったんですね。これ、いろいろやり取りしたんですけれども、なかなかうまくいかなかったということがありました。
そして、先日、私、福島県の出身なんですけれども、福島県内で学校給食費の無償化を求めて運動されている方々からお話をお聞きする機会があったんです。
以前は、学校給食というと、自分で食べるものは自分で負担するのが当たり前だと、こういうふうに言われてきたんだけれども、今や福島県内の過半数の自治体がこの学校給食費無料にしていたり、一部補助、何らかの補助をしているんです。給食が教育活動の一環であることや、貧困と格差が広がる中で子供たちの育ちを平等に保障するための切実な要求になっているんだなというふうに感じましたし、住んでいる場所によって負担が違う状況が広がっていると、こういうことを解消するために国がどういう責任を果たすのかということが問われているのではないかというふうに思いました。
その家庭の経済的な状況が子供たちへの不利益につながると、そういう状況がある中で、貧困を解決、改善をして、その貧困の連鎖を断ち切るためにも、教育の分野で、そしてそれ以外の分野でもなんですけれども、国の経済的支援、社会的支援強めることが必要だというふうに考えるんです。
そこで、参考人の考えをお聞かせいただければと思います。
○参考人(松本伊智朗君) 御質問どうもありがとうございます。
今委員御指摘の例は、二例とも学校での費用の徴収ということでございますね。委員おっしゃるように、学校あるいは学校教育制度の枠内でできること、あるいはしなきゃいけないことというのはいっぱいあるというふうに考えています。その一つが、委員おっしゃるような学校での費用徴収の問題だというふうに思っております。
結論から言うと、私、学校での費用徴収はもうなくすという方向でいいんじゃないかと。例えば、スキーは、これ、スキー学習ですので授業の一環ですよね、授業で掛かるものなので、それはみんなで。特に、私も北海道分かりますけど、スキーのうまい下手というのは階層差すごい出るんです、リフトを使って行くのだって一日何千円か掛かりますから。連れていくのに時間も掛かりますので、もちろんお金も。そうすると、スキーなんてみんなで学校でそろえておけばいいというふうに思いますし、それぐらいのお金は、何ぼ国にお金ないって、あるだろうとか。学校の給食もそうです。どうせ食べるものなので、これ無償化したらいいと。
そうすると、学校の先生のいろんな負担とかトラブルも減るはずなんですね。全部のコストで見たら、結構ただにする方が逆に安いと、学校の先生の時間的コストも含めて考えたときに安いような気がいたします。
やっぱり、一番大事な観点は、学校で子供が惨めな思いをするということを防ぐ学校でありたいと。うちでしんどい思いをしていても、学校に来たら楽しいという学校をつくるというのは学校に関わるみんなが考えることであります。現状は、うちに金がないと学校でも惨めだということにしていると。これは学校の問題であります。学校の問題であります。
ですので、費用徴収というのはとても大きな問題で、それは無償化することで、そんなに大きな財政的負担ではないだろうし、むしろ、先ほど申し上げたメッセージという点でとても大事なメッセージ、国からのメッセージだと考えております。
お答えになったかどうかはあれですけれども、この二つのことについて、学校の費用徴収という観点からお答え申し上げました。
○岩渕友君 非常に励まされる御答弁だったというふうに思います。ありがとうございます。
次に、お三方にお聞きをしたいんですけれども、事前に配付された資料を見せていただいて、それで、松本参考人が企業収益の伸びと賃金の伸びの関係について書いてあるものが資料に入っていたんですね。日本は、一九八〇年代、九〇年代は右肩上がりで、会社がもうかれば給料も上がると。だけど、二〇〇〇年代以降というのは右肩下がりで、会社がもうかっても給料は下がると。じゃ、もうけどこ行ったかというと、内部留保と株主配当に回って、収益が賃金に反映しない構造になっているということが大きな変化だというふうに書かれていて、お金がない人は何でもっと働かないのかと個人に矛先が向かう話ばかりしていてはどこか間違うことになるんじゃないでしょうかということが述べられていました。
そして、渡辺参考人の資料の中にも、お金がなくても頑張れば夢はかなうと言う人いるんだけれども、例えば奨学金一つ借りるにしても、経済的な余裕がなければどうしても不利な選択しなくちゃいけないと、利子付きの確実にもらえる奨学金を申し込むしかないという実態であるとか、これびっくりしたんですけど、少ししか勉強しない高所得の家庭のお子さんの方が毎日長時間勉強する低所得者の家庭の子供よりもはるかに点数が高いと。これは何でかというと、家庭が持つその文化資本であるとか生活環境の違いが埋め難い差になって現れていると。これは本人の努力で格差は埋まらないんだということが書かれていました。
そして、さらに、教育格差が起きる原因の一つとして、日本の財政で教育予算が少な過ぎるという指摘をされていました。OECDの調査で毎年日本が最下位争いをしているような状況で、文部科学省の予算を二倍にしても世界平均並みに届かないという、これに本当にちょっとびっくりしたんですよね。
貧困を自己責任にしないということが非常に重要だと思いました。そのために、どこをどう変えていけばいいか、国がやるべきことは何なのかということで、お三方の考えをそれぞれお聞かせください。
○会長(白眞勲君) お三方ということですが、それでは、渡辺参考人から順番にというふうに思うんですが、ちょっと時間の関係で、大変恐縮でございますが、一分ずつぐらいでしか時間がないもので、申し訳ございませんが、おまとめいただければと思います。
○参考人(渡辺由美子君) ありがとうございます。
本当に、教育予算を増やしてやるとか、松本先生がおっしゃっていたのと全く同じ意見で、本当に給食なんかは無料にして、絶対子供の口に入るんだから完全無料にした方が、この少子化の時代、もう子供が九十万人を切るみたいな中では、本当にどんどんどんどん子供、若者に行くお金を増やすというのが必要だと思います。そういう意味では、本当にやっぱり税の再分配をもう少し子供、若者に増やすということがすごく重要で、私たちがやっていても、本当にあと一万円、二万円増えれば大分違うんだろうなというふうに思います。
私がよく言っているのは、今児童手当というのが十五歳で終わるんですね。月一万円出るというのが十五歳で終わるんですけれども、ほぼ九九%が高校進学して、その子たちは扶養されているので、稼げないわけですから、ほかの国見てもそうなんですけれども、親が見ている間は児童手当のような手当は出されるものなんですよ。なので、一万円だけれども十八歳まで延ばすということで、子供がそんなにアルバイトに頑張らなくてもいいとかということがあるので、そうやってやっぱり現金給付をどうしていくのかという、まあ給食費の無償もすごく家庭には助かります。
本当に三千円、四千円助かることがどれだけ楽になるかという家庭がいっぱいいるかということを考えていただければ、少しでも現金給付とか家庭の経済的負担が少なくなるということをやっていただくというのは最優先かなと思います。
○参考人(周燕飛君) 御指摘どうもありがとうございます。
私も賛成ですね。やっぱり、企業の内部留保がどんどん増えている中、それから、労働者の世界では高収入と低収入の二極分化がどんどん進んで、今まであった分厚い中間層がどんどん消えていくという、少なくなっていくというような社会的背景の中で、貧困を自己責任にしないというのは非常に政策目標として重要だと思います。
では、どうやってそのワーキングプアを減らすかということなんですけど、私はやっぱり、困っている人を助けると同時に、その人の就業インセンティブを損なわないという施策が一番重要だと思うんですね。ただ単にお金配ればいいというわけではなくて、お金を配るにはそれだけの財源が必要ですし、サステーナブルではないですね。だから、それを持続可能な制度にするためには、やっぱり働ける人はどんどん働いてもらって、だけど働いても貧困だという人は政策で助けましょうよというような制度を設計しなければいけないので、そういった中では、やっぱり日本も、将来的にはアメリカとかイギリスが既に導入している給付付き勤労所得税額控除という制度を入れるべきですね。
これはどういう制度かというと、一定以上の時間働いていても国が定めた基準の収入を満たさない場合は、それを国がむしろ税を返してあげる、負の所得税の形でその人の所得をそこまで引き上げていくというような制度を今後もっとやっぱり設計して、日本でも実行可能なものにしていくというのが今後の課題ではないかなと思います。
○参考人(松本伊智朗君) 国のなすべきことを一分でまとめよという大変難しい御質問をいただきました。
所得保障のことについてはもうお二人が述べられましたので、なぜそれが必要かというときに是非考えていただきたい、政策のときに考えていただきたい観点は、やっぱり時間の確保なんですね、時間的資源の確保という観点から所得と就労の問題を考えると。
やはり、人間が生きていく上で、所得は増やせますけれども、時間というのは二十四時間の配分なので、どこかを増やせばどこかが減る。そうすると、所得を増やすために子供のケアの時間が減る、あるいは自分の時間を削るということになります。これはなかなか見えにくいですので、時間的資源を確保するという観点からいろんな政策を考えるということが子供のケアあるいは虐待問題の予防という観点からしてもとても大事であるということを一点申し上げます。これは健康の問題とも関わります。これが一点です。
もう一つは、やっぱりケアの問題と、あと、費用調達を家族に任せないということです。家族に対する依存度が高くなればなるほど家族の金のあるなしが子供に利いてくるというのは当たり前の話ですので。所得保障で不平等度を緩和するということは一方ありますけど、それはなかなかすぐにならない。ただ、不平等でも子供のところに跳ね返らないというのは、家族の方に依存しないようなケアの仕組みをつくると、そのための教育の無償化であったり保育であったりというふうな観点をしっかり持つということだと思います。
この時間的資源の確保ということと家族への依存を和らげるというふうな観点ということで全体の政策を取りまとめるということが大事だと思っております。
○岩渕友君 ありがとうございました。
○岩渕友君 時間がないので一問だけちょっとお聞きしたいんですけど。
子供の貧困でとりわけ母子世帯が深刻だということで、働く方が無職よりも貧困率が高い逆転現象が起きているということも聞いています。その専門家の中で、今の日本社会では一人親はリスクだと、一人で子育てすることはまるで罰を受けているようなものだというふうに厳しく指摘している専門家の方もいらっしゃるんですよね。それで、男女による賃金の格差をどういうふうに解消するかとか、昇格の差をどういうふうに解消するかとか、出産や育休を取った女性が仕事を例えば失って、そこから非正規になって収入が更に低くなる、そういう実態からどうやって抜け出すのかということが大きな課題になっているんだと思います。
外国の事例なんかを見ると、賃金を男女が平等にとか、女性の貧困を撲滅するために国会の中に女性の地位委員会というのをつくるような国があったりだとか、全ての政府機関をジェンダー平等という視点で分析したりする国があるというふうに聞いていて、ジェンダー平等の実現に世界が力を尽くしていると。
こうした視点も子供の貧困を解決する上で重要だというふうに思っているので、できれば、松本参考人、周参考人、渡辺参考人に、お時間がないので申し訳ないのですが、一言ずつ、この点についてどんなふうにお考えかというのをお聞かせいただければと思います。
○参考人(松本伊智朗君) 分かりました。大変重要な点だと思います。
まず、貧困、子供の貧困だけではなくて、貧困対策そのものはやっぱりジェンダー平等の視点が必要だというふうに考えております。特に、子供というのは家族という単位が抜きにできませんので、労働市場だけではなくて、家族の中で見えにくい負担だとか制約というのがありますので、それはジェンダーの視点を入れて見ないと分からないということが一点。
それで、ジェンダー平等の視点を考えるときに、みんなが稼げるようになればいいというだけじゃなくて、男性も女性もみんながケアをして、それで生きていけると。つまり、人間が生きていくためには物が必要です。経済の物は必要です。もう一つは、誰かが誰かの世話になるというのは必ず必要なんですね。そうすると、世話をする立場になった人が不利を負わない、それは男性であろうが女性であろうが。そういう意味では、全員がケアテーカーであるとなっても世の中が回るというふうにしておかないとまずかろうというふうに思っております。
そういう意味では、全員がフルタイムでばりばり稼げるという構想だけではなくて、男性も女性もケアをしても不利を負わないという観点の施策がもう一方重要だというふうに考えております。
以上であります。
○参考人(周燕飛君) 私は、去年、新潮社より「貧困専業主婦」という本を出版させていただいているんですけど、その本の後書きで私もちょっと触れさせていただいたんですけど、シングルマザーの貧困はある意味で男女役割分業慣行の副産物と言っても過言ではありません。やっぱりそういう男性が中心で働く社会、女性はあくまでも、子育てや育児、家事を女性が担って、男性が外で働くというようなモデルの下では女性は非常に経済的リスクに弱い。一旦離婚してしまうと、一家の大黒柱がいなくなるので、子育てと同時に仕事もしなきゃいけないので、必然的に貧困になっていくというシナリオが日本にはあるんですね。
なので、実際国際比較しても共働きモデルが主流で、男女、ジェンダー格差の少ない社会、例えば北欧ではシングルマザーの貧困率はもう一桁台ぐらいなんですね。だから、そこをもし目指せるならば、日本は将来的に、何もしなくても、その支援をそんなにしなくても、自然と労働市場を変えていけば、シングルマザーの貧困問題は解消されていくものなんですね。
なので、一つ私は、日本社会はこれから、まあ昔のように、男性が働き、女性は家事、育児というような分業は、今の日本の人口構造や経済情勢、経済構造に関しては余りもうふさわしく、なっているんですね。そうした中で、やっぱり将来的には男性も女性もフル共働きモデルを目指して、この社会のいろいろ慣行を変えていかなきゃいけない。
その慣行はもう多岐にわたるんですけど、一番核心の部分はやっぱり働き方改革ですよね。女性でも男性と同じように仕事を継続できるように。今だと女性は男性よりも離職率が高い、二倍とか三倍とかの高さですと、もう企業はどうしても安心して女性に人的資本投資ができないんですね。その差は統計的差別となってなかなか男女の雇用格差は埋まっていかないんですよ。
そういった中で、やっぱり肝腎で、やっぱり働き方を改革して、女性も男性と同じように仕事を継続できるような社会をつくっていかなければいけないかなと思います。
○参考人(渡辺由美子君) 本当にジェンダーギャップをどう解消していくのか、すごく重要だと思っているんです。
もう先生方お二人が言ったように、就業の面でもそうですし、やっぱり意識の面で、例えばシングルマザーのおうちのお子さんが学校で何か問題があったときに、要は学校に何かを言いに行くんだけれども、明らかに不利益を受けているなと思うことがすごくあります。だから、お父さんと一緒に行けばまた対応が違ったのに、シングルマザーのおうちだから例えばうまくいかないだとかそんなことがあって、もう一緒に行こうかというふうに言うぐらいなんですけれども。やっぱり社会の中で女性というものが男性と伍したときに、なかなかちゃんと見ていただけないというふうなことがあります。
例えば、私たちが見ていても、例えば、一人親家庭でおうちが大変だと、女の子の方が優秀だけど女の子が進路を諦めて、男子、弟とかお兄ちゃんに大学行かせるとか、そういうふうなことがまだある中で、それは本当にその社会全体として見たときにどうなのかというのを見たときに、やっぱり、女子も男子もみんな同じ可能性があって同じ権利があるんだということをみんなで見ていかないとなかなかその最終的な解決はないと思うので、本当にその意欲の面でもやっぱりジェンダーギャップをどう縮めていくかですし、これだけ世界からすごく言われている中で、やっぱり国としての動きがないなというのはすごく感じるので、やっぱり国としてジェンダーの問題にしっかりと取り組むんだと。給付型奨学金の問題と同じで、やっぱりそこに動き出すということで気持ちが明るくなる女性とか女の子とかたくさんいると思うので、是非をそれをやっていただければと思います。
以上です。
○岩渕友君 ありがとうございました。