2019年6月13日(木) 参議院 経済産業委員会 独占禁止法改正案 参考人質疑
(議事録は後日更新いたします)
カルテルや入札談合への課徴金などを拡充する独占禁止法改正案に関する参考人質疑が13日、参院経済産業委員会で行われました。
全国消費者団体連絡会の浦郷由季事務局長は消費者の利益を保護する観点から課徴金の拡充は適切だと述べました。企業が弁護士に相談した場合の秘密を保護する「秘匿特権」的な制度の導入については「乱用されて証拠を得にくくなれば消費者利益が損なわれる」と懸念を示しました。
早稲田大学法学学術院の土田和博教授は「不当利得がはっきりしないときは課徴金を科さないことにしているが、EU(欧州連合)は重い制裁金を科している。今後の課題だ」と指摘しました。
日本共産党の岩渕友議員は、調査への企業の協力度合いで課徴金を減算する制度について、実績を公開し検証する必要があるのではないかと質問。浦郷氏は「事業者が事業を改善するかどうか消費者はよくみている。事業者名も含めて公表してほしい」と述べました。
市場支配的地位を乱用して競合他社の事業を妨げるグーグルなどに欧州委員会が巨額の制裁金を科していることについて、「日本でも同じように対応できるのでは」と岩渕氏。土田氏は「市場支配的地位に相当する日本の独禁法の規定は私的独占だ。他の事業者を支配、排除することがあれば適用する可能性がある」と答えました。
(ボタンをクリックやタップすると議事録が開きます)
(JXTGホールディングス株式会社 取締役副社長執行役員 川田順一参考人)
○参考人(川田順一君) 私、経団連で競争法部会長を務めておりますJXTGホールディングス副社長の川田でございます。本日はこのような意見陳述の機会を設けていただき、誠にありがとうございます。
私から、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案につきまして、本法案に賛成の立場から経団連の考え方を御説明申し上げたいと存じます。
初めに、本法案に対する意見を申し上げます前に、経団連といたしまして、法令遵守に対する基本的なスタンスを御説明申し上げたいと存じます。
経団連では、一九九一年に企業行動憲章を定めまして、その前段におきまして、企業は、公正かつ自由な競争の下、社会に有用な付加価値及び雇用の創出と自律的な責任ある行動を通じて持続可能な社会の実現を牽引する役割を担うとしており、その実現のための原則といたしまして、公正かつ自由な競争並びに適正な取引、責任ある調達を行う、また、経営トップは、実効あるガバナンスを構築して、社内、グループ企業に本憲章の精神の実現を周知徹底を図る、そして、万一、本憲章の精神に反し社会からの信頼を失うような事態が発生したときには、経営トップが率先して問題解決、原因究明、再発防止等に努め、その責任を果たすと宣言しております。
以上の経団連のスタンスを御理解いただきました上で、本法案に関する私どもの考え方を御説明申し上げます。
まず、本法案におきましては、事業者と公正取引委員会による協力型の事件処理の実現が図られております。独占禁止法違反被疑事件に関しましては、早期に実態解明を行い、速やかに事案の解決を図ることが公正取引委員会、事業者双方にとって有益であると存じます。
そのためには、従前のような、調査をする公正取引委員会と調査を受ける事業者とが相対立して、また時間を掛けて解明を行うのではなく、事業者自らが責任を持って調査あるいは証拠収集等を行い、公正取引委員会と協力して早期に解決を図る、このようなスキームを創設することが必要であると考えております。
この観点から、経団連といたしましては、公正取引委員会との議論の中で、事業者にとって調査に協力するインセンティブがより付与されるような制度設計を要望していたところでございますが、本法案はこのような我々の考えに即したものとなっており、その内容に賛同いたしたいと存じます。
また、協力型の事件処理を有効に機能させるものとしまして、弁護士・依頼者間秘匿特権制度が導入される予定でございます。同制度に関しましても、従来から私どもが要望していたものでございまして、その創設を歓迎いたしたいと存じます。
以上、本法案賛成を申し上げました上で、本日は、課徴金制度の見直し及び弁護士・依頼者間秘匿特権につきまして、要望も含めまして若干の補足の意見を申し上げたいと存じます。
まず、課徴金制度についてでございますが、先ほど申し上げましたとおり、協力型の課徴金減免制度の導入は私どもからも具体的に提言したところでございまして、積極的に評価させていただいております。単に申請順位だけでなく、申請後の調査への協力度合いに応じた課徴金の減免が受けられることによりまして、減免申請後の調査に対する事業者の協力が促進されると考えております。
他方、この協力型の課徴金減免制度に関しましては、協力度合いをどう評価するのかという課題が残されております。これに関しまして、経団連といたしましては、かねてより、予見可能性、透明性、公平性の確保が重要と申し上げてまいりました。
どのようなものを証拠として提出し、どのように調査協力を行えば、どの程度の減免が受けられるのか、これらが明らかになることによりまして、事業者として行うべき調査の手法や対象が明確となり、事業者が積極的かつ早期に効率的に調査、実態解明に乗り出しやすくなると考えております。
本法案が成立した後、事業者の協力度合いの具体的な評価方法等につきましてガイドラインが制定されると承知しておりますが、事業者がより積極的に調査に協力できるように、課徴金制度の制度設計、特に証拠の評価やそれに基づく減算率の決定に関しましては、衆議院の附帯決議にもありますとおり、是非とも分かりやすく、事業者の予測可能性の確保に資する内容としていただきますようお願い申し上げます。
次に、秘匿特権につきまして申し上げます。
協力型の課徴金減免制度が導入されますと、事業者が調査協力を効果的に行うために、事業者から弁護士に相談するニーズは今以上に高まるものと考えております。その際、弁護士との間の相談の内容の秘密が保障されていなければ、事業者が弁護士に相談することをためらい、結果として調査への協力が進まない可能性がございます。秘匿特権制度は、事業者が法律専門家の助言を得ながら主体的に公正取引委員会と協力して実態解明を行い、早期の事件解決を行うのための制度でございまして、協力型の事件処理に不可欠な仕組みと申せます。
また、国際的なカルテル事案等におきまして、他国で秘匿特権の対象となっている事項が日本ではその対象ではないとされますと、国際的な日本の競争法制の信頼を損ねる結果となる懸念がございます。
これらのことから、経団連は、秘匿特権の導入を重要な課題と位置付け、実態の伴った秘匿特権制度、諸外国から見て日本に秘匿特権があると評価され得る制度の創設を強く要請してまいりました。
この度の案につきましては、事業者の目線から見させていただいて、大きな違和感のない制度であると評価しております。制度の詳細につきましては、今後、規則、指針等で決定されると承知しておりますが、ここでは、企業実務の観点から、特に次の三点につきまして意見をお伝えしたいと思います。
まず一点目は、判別手続に対しての訴訟救済でございます。
秘匿特権該当性に関しまして、諸外国では最終的に司法裁判所の判断を仰げる制度となっており、司法審査が受けられるかどうかは諸外国から見た制度の信頼性に大きく影響いたします。
これに関しましては、公正取引委員会より、判別官の判断に対しては司法救済はない、しかしながら、秘匿特権該当性がないと判断され審査官に移送された物件に対しまして、公正取引委員会が秘匿特権に該当すると主張する事業者の還付請求を拒否する旨の決定を行った際には、事業者は、その決定につき、行政事件訴訟法の規定による取消し訴訟を提起できるとの見解をお示しいただきました。是非この見解を海外当局や実務家に分かりやすい形で明確化していただきたいと存じます。
二点目は、秘匿特権の対象物件の範囲でございます。
今回、相談・回答文書に含まれる事実が唯一の証拠となる場合であっても、弁護士の評価、整理が介在するものは制度の対象となる旨の整理をいただきました。これは諸外国の制度と比較して遜色のない水準であると理解しておりますが、このような整理は必ずしも現在の公正取引委員会の資料からは読み取ることができませんので、こちらにつきましても、今後何らかの形で対外的に明確化いただきたいと存じます。
三点目は、電子メールの取扱いについてでございます。
現在、弁護士とのやり取りの大半は電子メールでございますが、公正取引委員会の資料には電子メールの取扱いに関する記載がございません。実務の観点からは、紙の文書や報告書、メモと同様に、電子メールも弁護士と事業者との間の通信内容、記録でございますので、今後、この取扱いについても具体的な検討をお願いしたいと存じます。
その際には、膨大な量などの電子メールの特殊性を踏まえまして、プリビレッジログ、すなわち秘匿特権の対象物であることを示す文書の提出時期や記載内容につきまして、実務上対応可能となるよう調整いただければ幸いでございます。
以上、今後整備される予定の課徴金減免制度と秘匿特権の細部事項につきまして意見を申し上げましたが、冒頭申し上げましたとおり、繰り返しになりますが、経済界としては本法案の内容に賛成でございます。我が国の産業競争力の強化とより豊かな国民生活の実現のためには、公正かつ自由な競争環境を整備し、事業者間での競争を促すことが不可欠でございます。
他方、グローバル化、デジタル化が加速する中で、競争政策の在り方をめぐっても様々な変化や新しい課題が生じております。国際基準に劣らない競争制度を整え、グローバル化、デジタル化に対応しつつ、公正、自由な競争を一層促進する観点からも、法案の早期の成立をお願いいたしたいと存じます。
私からは以上でございます。
(一般社団法人 全国消費者団体連絡会 事務局長 浦郷由季参考人)
○参考人(浦郷由季君) 一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局長の浦郷由季でございます。
本日は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案の御審議に際し、意見を申し述べる機会をいただきましたことを御礼申し上げます。
この意見を申し述べるに当たりまして、まずは、私たち全国消費者団体連絡会、全国消団連について御説明させていただきます。
全国消団連は、一九五六年に設立された消費者団体の全国的な連絡組織です。二〇一三年に一般社団法人に移行し、消費者の権利の実現と暮らしの向上、消費者団体の活動の活性化と消費者運動の発展に寄与することを目的として活動しています。この活動の一環としまして、消費者問題、食の安全、表示、環境、エネルギー等、暮らしに関わる様々なテーマについて、国の審議会への参加やパブリックコメントでの意見の提出などを通して、消費者の立場からの意見発信を進めています。
今回の独占禁止法改正法案について言えば、一昨年、二〇一七年四月に公表された独占禁止法研究会報告書の提言を受けて検討が進められたものと承知しております。そして、この報告書の公表に際して実施された意見募集において、全国消団連として独占禁止法の強化を求める意見を提出しております。また、本年三月、今回の独占禁止法改正法案が閣議決定された際にも、独占禁止法改正を求める意見を提出しております。
このように、今回の独占禁止法改正法案について、消費者の利益の確保を求める立場から私たちの意見を申し述べてきたところです。
本日は、今申し述べました意見の内容に沿ってお話をさせていただきます。
まず、独占禁止法に対する基本的な認識を申し上げます。
独占禁止法とは、市場における公正で自由な競争を促進することにより、一般消費者の利益の確保と経済の健全な発達を促進することを目的とする法律です。現に、独占禁止法違反行為によって生じる価格の引上げやサービスの低下等によって被害を受けるのは消費者、国民です。そのため、独占禁止法は消費者の利益を守る重要な法律であると考えています。
次に、今回の独占禁止法改正法案に対する意見を申し述べます。
まず、改正法案では、課徴金の算定期間の上限を三年から十年に延長したり、現行法では課徴金を課すことができない、いわゆる談合金など違反行為により生じた不当利得について算定基礎に追加するなど、違反行為を行った事業者が相応の課徴金を支払うことになるよう、課徴金制度の見直しが行われています。
独占禁止法違反行為とは、日本の経済、市場に悪影響を与えるのみならず、消費者の利益を損なうものです。そのような行為によって事業者によるやり得を許してしまうような制度のままであると違反行為の抑止効果が発揮されないことにもなります。そのような観点からすれば、改正法案による課徴金制度の見直しは適切なものであると評価いたします。
他方で、日本に売上額のない海外の事業者に対して課徴金を課せるようにするなど、独占禁止法研究会報告書において提言があったものの、改正法案では実現に至らなかった点もあると承知しております。より適切な課徴金制度のために改善すべき点があるとすれば、その改善に向けた対応が今後も必要と考えます。
また、改正法案では、課徴金減免制度の機能を拡充することとしています。
カルテル、談合といった事件は基本的に密室において行われており、違反事実の発見や真相解明が容易でないと思われます。そこで、違反事実を自ら報告してきた事業者に対する措置を免除、あるいは課徴金を減額することによって実態解明を促進し、違反行為の防止を図るという観点から、課徴金減免制度が導入されたと承知しております。
しかしながら、現行の課徴金減免制度では、調査への協力度合いが課徴金の算定に反映されないため、事業者の調査協力インセンティブが不十分であり、事業者から事実の報告や資料の提出を十分に受けられていないとの問題が生じているとも承知しています。
改正法案が実現すれば、公正取引委員会による調査への協力度合いに応じて事業者に課される課徴金の減算率が算定されることとなります。この新たな課徴金減免制度によって、しっかりと調査に協力した事業者ほど課徴金が減額されるような仕組みとなれば、調査協力インセンティブが高まることになります。これにより、事件の真相解明や違反状態の解消が迅速的、効率的に行われることが期待されますので、結果として消費者の被害回復や利益確保につながるものであると評価しております。
次に、改正法案とともに議論されていた、いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権への対応について申し述べます。
今回、公正取引委員会は、新たな課徴金減免制度をより機能させるといった観点から、カルテル、談合といった不当な取引制限の行政調査手続を対象に、事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容を記載した文書に審査官がアクセスしないものとする制度、つまり、いわゆる秘匿特権、これを導入することとしています。
私たちとしては、改正法案に併せてこのような制度を導入することには慎重であるべきとの立場ですが、仮に導入されるとしても、その範囲がカルテル、談合の不当な取引制限以外に拡大することについては懸念があります。
例えば、独占禁止法の違反行為類型の一つには、自社の商品が実際の商品よりも良いものであると相手に誤解させて契約を結ばせようとする行為がありますが、独占禁止法以外にも、様々な消費者関連法、これは景品表示法や特定商取引法などになりますが、これらにおいても似た規制があります。そのような消費者関連法に基づく調査を行政が行う際、顧客勧誘マニュアルなど違反行為を立証するために重要な証拠となり得る文書について、事業者が、当該文書は独占禁止法に関する弁護士との相談文書であり、独占禁止法では秘匿特権で保護されているという旨を主張して開示を拒むおそれがあります。
このように秘匿特権が濫用され、事業者が調査に協力しない、また事業者から証拠を得られにくくなるといったことがあれば、消費者庁などによる調査実務に支障が生じ、消費者利益が損なわれてしまうことが懸念されます。消費者団体としては、景品表示法や特定商取引法の執行はまだまだ不十分と捉えており、更なる執行力の強化を求めております。そのため、制度の拡大を検討する際には、他法令の執行に影響を及ぼすことがないよう慎重な検討が必要と考えております。
これまでの改正法案の議論においては、ややもすると秘匿特権が論点になりがちでしたが、消費者団体としては、今回の独占禁止法改正の眼目は課徴金制度の見直しであると認識しています。この秘匿特権に関する議論によって昨年の通常国会において改正法案提出が見送られていますが、この間も大きなカルテル、談合事件などが続いております。消費者利益の保護を図るためにも、是非この国会の場で十分な御審議をいただきまして、一日も早い成立を消費者団体として心から願っております。
最後に、重ねて今国会での成立をお願いいたしまして、私からの意見表明とさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
(早稲田大学法学学術院教授 土田和博参考人)
○参考人(土田和博君) おはようございます。早稲田大学で経済法、独占禁止法を担当しております土田と申します。
本日は、独占禁止法改正案につきまして意見を述べる機会をいただきまして、誠にありがとうございます。お礼申し上げます。時間が限られておりますので、早速ですけれども、管見を述べさせていただきたいと思います。
今回の独占禁止法改正案は、課徴金制度導入から四十年以上、不当な取引制限に対する課徴金の算定率を引き上げ課徴金減免制度を導入した二〇〇五年の改正から数えますと十四年が経過して、現れてきました様々な問題に対処しようという重要な改正であると考えております。
結論を先に申しますと、このような改正案は、多少積み残しとなる課題もありますけれども、現れてきた種々の問題に対応して独禁法の違反抑止力を強化しようとするものでありまして、基本的に賛成いたします。
以下三点、その理由を述べたいと思います。
まず第一に、二〇一七年四月に公表されました独占禁止法研究会報告書は、課徴金制度や課徴金減免制度をめぐる問題を洗い出しまして対応を必要とするものを指摘したわけですけれども、そのうちかなりの項目が今回の改正案に盛り込まれているということであります。
改正案は、不当な経済的利得さえ徴収できていない場合に対応するため、課徴金の算定期間を十年に延長するとともに、業種別算定率を廃止したり、談合金ですとか下請として仕事をする形で不当に得た協力金を算定の基礎に含めたりしております。
また、改正案は、調査協力度合いに応じて課徴金を減額する一方、他の事業者に対して資料を隠蔽させるなどした場合に課徴金を増額することとして、調査協力へのインセンティブを高め、あるいは調査妨害を行わないよう動機付けることとしております。
さらに、企業グループ単位での事業活動が増えているということから、グループ単位で違反の繰り返しを認定したり、不当な取引制限の禁止に違反した親会社に売上げがない場合でも、完全子会社が親会社からの指示を受けて販売していた場合等に親会社に課徴金を賦課できるようにしたりしています。
これらはいずれも、二〇一七年の報告書が求めていた事項に改正案が対応しているものでございます。
他方、国際市場分割協定に対する課徴金、外国の競争当局が制裁金等の算定の基礎とした売上額は控除する旨の規定の導入、あるいは、入札談合は具体的な競争制限効果が発生することを要件としないで課徴金を課せることとするといったようなことは、報告書が求めていたものでありますけれども、今回の改正案には盛り込まれていないわけでございます。
このように、二〇一七年の報告書が指摘していた項目で改正案に取り入れられたものとそうでないものとがあるわけですけれども、報告書が指摘しました相当多数の項目が改正案に取り入れられており、また、積み残しとなった事項の中には改正の必要性ですとか緊急性が他の事項に比べますと必ずしも大きいとは言えないものも含まれていましたので、そういったことを考えますと、全体としては、重要な事項はおおむね改正案に盛り込まれているものと言うことができると思います。
これが改正案に基本的に賛成する第一の理由でございます。
第二に、改正案は、密室の犯罪と言われるカルテルを早期に発見し、その立証を容易にして、違反が認められた場合には厳正に対処しようという方向、すなわち、独禁法の違反抑止力を強化する方向で一段ギアを引き上げるというものだと思います。
違反抑止のためには不当な経済的利得を上回る課徴金を課すことが理論的には必要になりますけれども、先ほど申しましたように、これまで不当な経済的利得さえ徴収できていない場合があったわけであります。その典型例は、五年、十年と続いたカルテルであっても三年分の売上額をベースにしてしか課徴金を課せないというものでありますけれども、改正案は課徴金の算定期間を十年に延長いたしまして、その間の売上額に基づいて算定することによりまして違反抑止に必要な課徴金を課すことができるようにしております。
また、現行の小売業の算定率三%、卸売業の算定率二%というのは通常の事業活動によって得られる売上高営業利益率を基に定められたものですので、通常の事業活動ではないカルテルという違法行為の利益率とは無関係であります。したがいまして、これを廃止するということにも合理性があると考えます。
さらに、カルテルの一種であります入札談合の場合、現行法では、談合によって受注予定者に決まった事業者が発注者と契約をして売上げが生じたときに、課徴金はその事業者に課されるだけでございますけれども、改正案は、入札談合に参加しまして受注予定者が受注できるように協力をした事業者が談合金を受け取っていたり、落札者の下請として仕事をすることで不当に協力金を得たりした場合には、課徴金の算定対象とすることとしております。それによりまして、課徴金が賦課される事業者の範囲を拡大しているということでございます。これらは、いずれも違反抑止力を改善し強化する方向の改正でございます。
もっとも、課徴金を課すためには、当然のことですけれども、違反行為が発見されなければなりません。この点、今回の改正案は、調査協力度合いに応じた課徴金の減算を可能とすることによりまして、違反行為の発見、立証をより容易にしようとしています。
現在は公取委への申請順位だけでほぼ自動的に課徴金の減算率が一〇〇%、五〇%、三〇%と決まるわけでありますけれども、これは私の理解では、日本の風土には必ずしもなじまないのではないかというふうに言われていた課徴金減免制度を定着させるために、あえて自動的、機械的に申請の順位だけで免除や減額を決定してきたものでございます。
しかし、リニエンシー制度の導入から十四年がたち、この制度が相当によく利用され、ほぼ定着をしたと考えられます現在、提出する証拠の価値にかかわらず、基本的に公取委への申告の早さだけで課徴金の減算率が決まってしまうということになってしまっております。あるいは、一定の順位を確保すればあとは調査に協力しないという事業者も現れるようになってきたため、調査協力の度合いによる減算ができることといたしまして、公取委の実態解明への協力を促そうとしているものであります。
繰り返しますけれども、これらはカルテルの発見、立証を容易にし、違反行為が存在する場合にはより広い範囲でより重い課徴金を賦課しようという重要な改正案であると考えております。
第三に、弁護士・依頼者間通信秘密保護制度の取扱いについてでございます。
これは、弁護士・依頼者間秘匿特権あるいは長いので単に秘匿特権とも申しますけれども、この言葉はややミスリーディングであります。実は、弁護士ではなく依頼者の利益を保護する制度的保障であります。
これにつきましては、二年前の報告書では、秘匿特権は、課徴金減免制度の利用を促す観点から、公取委の運用で、新たな課徴金減免制度の利用に関する依頼者と弁護士のコミュニケーションに限定して配慮することが適当であるとされていたわけでございます。
これに対しまして、今回の改正案が成立した場合には、公取委の運用ではなく、公取委を拘束する規則に明記することとし、またリニエンシー制度を利用するという観点だけではなくて、適正手続を確保するという観点も加えることによりまして、課徴金の減免を申請しない事業者についても通信の秘密を保障することとしたわけで、報告書よりは手厚い手続保障になっていると思います。
しかし、秘匿特権は規則ではなくて法律に書くべきだという御議論もあるかと思います。
この点につきましては、仮に法律に規定するとしましたならば、いろんなことを書き込む必要が出てくるように思います。例えば、そもそも依頼者とは正確には誰のことか、対象物件の範囲はどのようなものか、弁護士には社内弁護士を含むのか等々、細かな点を詰める必要があると思います。
また、仮に法律に規定を設けるとしますと、単に依頼者が弁護士との交信の一部を国などに対して秘匿できるということだけではなくて、どのような場合に依頼者が秘匿特権を放棄したと認められるか、あるいはいかなる場合に秘匿特権が認められない例外に当たるかということも書き込まざるを得ないかと思います。そのことを強調しておきたいと思います。
この秘匿特権と言われるものは、主に英米等の判例法国で、判例の積み重ねでルールが形成されてきたものであります。したがいまして、国によりましてその内容は完全に同じではありませんけれども、今も申しましたように、秘匿特権の放棄ですとか秘匿特権が認められない例外も秘匿特権に関するルールを構成しているわけでございます。
多少具体的に申しますと、秘匿特権をどのような場合に放棄したと考えられるかにつきましては、依頼者が対象物件を開示することに同意した場合だけではなく、依頼者が故意又は自発的に対象物件を開示するなど秘匿と矛盾した行動を取った場合には秘匿特権を放棄したものとされるのが一般的でございます。
また、秘匿特権の例外ないし限界につきましては、犯罪・詐欺例外、お手元に資料が行っているかと思いますけれども、クライム・フロード・イグゼンプションというふうに書いてしまいましたけれども、これは、クライム・フロード・イクセプション、イグゼンプションではなくてイクセプションの間違いでございます。失礼しました。犯罪・詐欺例外というものがございます。
これは、過去に行われた被疑行為に関する交信は秘匿特権の対象になりますけれども、現在行われている違反行為あるいは将来行われる可能性のある違反に対する通信は秘匿特権の対象にならないというものでございます。要するに、現在違反行為が行われているならば弁護士さんはそれをやめさせなければならないわけで、それにもかかわらず違反行為を継続させるというような助言をした場合には、それは秘匿特権の対象とならないわけでございます。
以上言いました点、今申しました点は、言い換えますと、事業者の手続保障と公正取引委員会の実態解明機能の確保は互いにバランスの取れたものでなければならないと言えるわけで、そのような観点からいたしますと、具体的に何をどのように規定すべきか、改正に至るまでのプロセスにおいては表立っては議論されることはほとんどなかったと承知しております。
そのようなわけですので、法律に書くということにするためには議論が残念ながら不十分なのではないか、そのように考えております。したがいまして、今回提案されておりますように、公正取引委員会の規則に必要最小限の規定を設けるというやり方には一定の合理性があると思います。
まとめますと、第一に、この改正の出発点ともいうべき二〇一七年の報告書が求めていた事項の相当多くのものが改正案に反映されているということ、第二に、独禁法の違反抑止力を一層強化する方向の改正案であるということ、第三に、現状では提案される秘匿特権の取扱いに合理性が認められるということから、私は、この改正案に賛成するものでございます。
以上でございます。
(ボタンをクリックやタップすると議事録が開きます)
○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
三人の参考人の皆様、今日は本当にありがとうございます。貴重な御意見をいただいております。
まず、川田参考人にお伺いしたいんですけれども、陳述の冒頭に、経団連の法令遵守についてのスタンスということでお話があったかと思うんですけれども、ただ一方で、経団連の役員企業によるカルテルであるとか談合が後を絶たないという残念な事態が続いているという実態もあります。
独占禁止法違反を繰り返さないということで、経済界を挙げてカルテルや談合を根絶させる、なくす、そのために経団連が果たす役割というのは非常に大きいと、重いというふうに考えているんですね。それで、自浄能力を発揮して是非とも防止していただきたいという思いでいるんですけれども、参考人、いかがでしょうか。
○参考人(川田順一君) ありがとうございます。
残念ながら、経団連会員企業における独禁法違反事件というのがあるのは事実でございまして、非常に残念に思っておりますが、経団連といたしましては、まずは、その独禁法を遵守するという独禁法の教育であるとか、あるいは独禁法改正になったときのその解説を、公正取引委員会の係員に出席いただいて、それを会員企業に知らせるであるとか、そのような活動をしておりますし、また、先ほど、冒頭申し上げました経団連の憲章でございますけれども、これを会員各社に対しまして遵守しようという呼びかけ、これを毎年行っているという状況でございます。
ただ、先ほど申し上げたように、会員企業はそれをかみ砕いて今度は社内に展開するわけでございますけれども、経団連というよりも、各企業が責任持ってそのESG、CSRの観点から社内で起こさないという運動を起こすということが私どもは重要かなと思っております。
以上でございます。
○岩渕友君 ありがとうございます。
次に、浦郷参考人にお伺いしたいんですけれども、課徴金制度は違反行為を抑止するために導入をされたもので、先ほど来もあるように、そうはいっても基本算定率が原則一〇%ということになっていて、現行の制度では平均的な不当利得さえも徴収することができないと、こういう実態もあります。
今回の改正について、先ほど参考人が一歩前進だというふうにおっしゃられて、そういう側面もあると思うんですけれども、今後の課題として算定率を引き上げるということもあり得るのかなというふうに思うんですね。先ほど、土田参考人からも、算定率もうちょっと上げてもよかったんじゃないのかなという御意見もあったんですけれども、この算定率を引き上げる必要ということについて、参考人、お考えがあればお聞かせいただければなと思います。
○参考人(浦郷由季君) 今回の改正で随分課徴金の水準は高まったとは思っておりますけれども、やはり海外での課徴金が大分多額なものがあるというのも聞いております。
ですから、この一〇%が十分であるとは思っておりません。今回新たな制度になりましたら、その制度の運用状況を見てやはり引き続き検討していっていただきたいと思います。
○岩渕友君 ありがとうございます。
海外の話もありましたけれども、本当にちょっと大きな差があるのかなというふうに思います。
もう一問、浦郷参考人にお聞きするんですけれども、課徴金減免制度が適用をされた事業者について、制度がスタートした当初は申請者が公表してくれと言ったときにだけ名前の公表をしていたんですけれども、法の運用の透明性を確保するという観点で、免除事実等、減額率などを一律に公表するということになりました。その透明性を持った制度にするという観点から、調査協力減算制度の運用実績についても、事業者の同意があるかないかにかかわらず公開をして、実績を評価して検証に生かす必要があると思うんですけれども、参考人がどのようにお考えか、お聞かせください。
○参考人(浦郷由季君) そこの透明性ということで公表ということですよね。
できるならば公表すべきと思います。大事なのは、その違反を認めて協力して実態解明する、その後、やはりそこの事業者が自分たちの事業をどのように改善していくかというところだと思います。その後の事業者の姿勢かなというところも消費者はきちんと見ていると思いますので、そういう部分で、事業者名も含めて明らかにできるところは公表していただきたいと考えております。
○岩渕友君 この調査協力減算制度に関わる規定については、公正取引委員会がパブリックコメントを経てガイドラインを整備するというふうに聞いているので、国民の皆さんの意見をしっかり聞いて、やっぱり国民から見て透明性が確保されるということが重要だなというふうに、今の意見も聞いて改めて思います。
次に、土田参考人にお伺いするんですけれども、先ほど来出ているいわゆるGAFAと呼ばれる巨大なデジタルプラットフォーマーのデータ独占に関わってお伺いしたいんですけれども、欧州委員会がグーグルに対して、二〇一七年の八月には、検索エンジンによって市場支配的地位を濫用することで、自社の比較ショッピングサービスを違法に有利にしたということで、二十四・二億ユーロの制裁金の支払命令を行うと。そして、二〇一八年七月には、スマホメーカーに対してアンドロイドOSと自社検索アプリやブラウザアプリの違法な抱き合わせを要求をして、市場支配的地位を濫用したということで、四十三・四億ユーロの制裁金の支払命令を行うと。そして、二〇一九年の三月には、市場支配的地位を濫用して、競合他社が第三者のウエブサイトに検索連動型広告を掲載することを妨げたということで、十四・九億ユーロの制裁金支払命令が行われています。
これを受けて、五月十四日付けの日本経済新聞の中で、京都大学の川浜昇教授が、これらは支配的地位をてこに隣接市場での競争を制限して、排他契約や抱き合わせを通じて参入などを阻止する行為であり、市場支配的地位の濫用の排除型に属すると、日本の独占禁止法上も規制されているというふうに書かれておりました。EUで起きていることは日本でも同じことが起きているし、EUと同じように対応することができるんじゃないかなというふうに考えるんですね。
公正取引委員会が、情報は財だと、そしてデジタルプラットフォーマーと消費者の間に取引が生じていると、独占禁止法の対象になり得るんじゃないかということで、今、その考え方の整理であるとか実態調査が行われています。杉本公正取引委員長も、この間の雑誌であるとか新聞のインタビュー記事なんかを読みますと、優越的地位の濫用に当たるんじゃないかというふうにおっしゃっているんですけれども。
この優越的地位の濫用という言葉が出てくるわけなんですけれども、もちろんケースによると思うんですが、これに限らず、私的独占とかいろんなケースが考えられると思うんですね。これについてちょっと参考人の御意見を、見解をお聞かせいただきたいんですけれども。
○参考人(土田和博君) ありがとうございます。
欧州委員会がグーグルに対しましては今先生おっしゃったとおり三件決定を出して、制裁金も科しております。これは、欧州運営条約の百二条の禁止に違反したということで、市場支配的地位濫用ということでございます。市場に一定の、まあ八〇%、九〇%ですね、一定の市場において支配的地位を占めるグーグルが、他のより競争的な市場においてその力を濫用する、地位を濫用するということで、抱き合わせ等の行為、濫用行為があったということで、違反を認定して制裁金を科した、こういうことだと承知しております。
同じことが日本でできないのかという御趣旨かと思いますけれども、まさに先生がおっしゃるとおりケース・バイ・ケースということになるかと思います。つまり、市場支配的地位濫用に相当する日本の独禁法の規定は私的独占というものでございます。これは、二条五項に定義がありますけれども、他の事業者の事業活動を支配する、あるいは他の事業者の事業活動を排除するという行為要件が入っております。ですので、対事業者に対してですね、そういうプラットフォーマーが対事業者に対して支配するとか排除するとかいうことがあれば適用する可能性はあるわけでございますけれども、消費者に対して、ユーザーに対して個人情報を不当に収集するということになりますと、これは、相手方が事業者ではありませんので、そこのところは私的独占では適用できなくて、そして優越的地位濫用でいくしかないんだと思います。優越的地位濫用の場合は取引の相手方ということですので、要件的にはいけるということだと思います。
ただ、公正取引委員会は今まで消費者に対する優越的地位の濫用というのはやってこられていない、そういう形では公正取引委員会は事件取り上げておられませんので、今回もしも消費者、ユーザーに対する個人情報の収集を優越的地位濫用ということでやるとすれば、これはかなり画期的なことになるんではないかというふうに思っております。
お答えになったかどうかちょっと分からないんですけれども、以上です。
○岩渕友君 ありがとうございます。
次に、浦郷参考人と土田参考人にお聞きするんですけれども、いわゆる弁護士、依頼者間の秘匿特権についてお聞きしたいんです。
これまでになかった制度だということで、今後、本制度の対象範囲の拡大について早急に検討するというふうになっているんですね。ただ、その今後の在り方として、先ほどお二人からも、運用を見てという御意見もありましたし、慎重にという御意見もあったかなというふうに思うんです。今後の在り方として、拡大ありきということではなくて、検証そして総括がまず必要なんじゃないかなというふうに思うんですけれども、どのようにお考えか、お聞かせください。
○参考人(浦郷由季君) 先ほども申し上げましたように、やはり欧米の方で秘匿特権が一般的な権利として法全体で認められているというところで、そのようになった場合、やはり悪質商法のところでそういうのが濫用されてしまって、消費者被害の回復が遅れたりとか、本当、私たちの生活に悪影響が出ると思います。
やはり欧米の方では、消費者の権利救済の仕組み、例えばクラスアクション制度とか三倍額訴訟制度というものが整備されているということを聞いております。その意味でバランスが取られているということですので、今後、拡大していくという場合には、やはり法全体のところでのバランスというのをきちんと見ていただくということが重要ではないかなと思います。
本当に消費者関連の法律の方にも影響が及ぶようなことになりますと、消費者の権利が損なわれることになりますので、そこら辺を慎重にということでお願いしたいと思います。
○参考人(土田和博君) ありがとうございます。
この不当な取引制限の行政調査に対してだけ秘匿特権が導入されると、予定だということだと承知しております。それを独禁法の中でも私的独占とか不公正な取引方法でというところまで広げていくのか、あるいはもう独禁法だけではない他の法令にも広げていくのか、いろいろどこまで広げるかという議論はないわけではないと思いますけれども、今先生おっしゃったとおり、私は、この不当な取引制限に導入されて、そしてどういう運用がなされるかということを慎重に見ていく、その上で判断するということが必要ではないかというふうに思っております。
○岩渕友君 ありがとうございました。
以上で終わります。